良心的だったはずの映画配給会社「アップリンク」の元従業員5人がパワハラ訴訟か‥。「志」の高い起業家ほど陥りやすいかもしれない。 近頃の現象[一二九六]
従業員に「残るか去るか」退職迫る
映画の配給や出版、映画館やレストランの経営などを行う「アップリンク」の元従業員5人が、代表の浅井隆氏(65)からハラスメントを受けたとして16日、東京地裁に同氏と同社に対して損害賠償などを請求する訴訟を起こしたことを明らかにした。原告は同日、都内で開いた会見で、浅井氏から「議論する余地はない。会社に残るか去るか」などと高圧的な言い方で退職を迫られたと主張。また、他の社員が浅井氏に逆らうことが出来ないような労働環境だと強調した。(日刊スポーツ)
【雑感】一応は映画ブログを書いている関係上、これは注目せざるを得ないか‥。
私自身の体験もあるが、良心的な起業家や上司ほど陥りやすい病理かもしれない。皆のため、公益のために火中の栗を拾う覚悟で嫌な嫌われ役を務めてきたのに心の底から悪者にされてしまうのだな、というのが浅井隆氏の気持ちではないか? 当たらずとも遠からずと思う。
以前にも新進の居酒屋チェーンや美容エステの起業家たちを取り上げて、彼ら彼女らが陥りやすい錯誤を指摘してきた。大きな錯誤として二つある。
・ 雇用主と雇用者の関係を忘れて同志だと錯覚する。
・ 起業家たちはたぶん人一倍に働いてきたために他者が怠け者に見える。
少なからず以上あげた二つの要素が絡んでいると思う。
だけど雇用主と雇用者の関係、経営者と従業員の関係はわきまえなければならない。契約の範疇を超える労働を要求することはできないし、契約の範疇を超える労働に従事する義理は無いのだ。
また経営者と従業員は会社のルールに従う服務規定はあるが、従わなければならないルールは社内の服務規定だけではない。自治体の条例もあれば、国家の法令もあれば、国際法やコンプライアンスもあり、そして最後に憲法がある。人権問題に明るいはずの会社風土であればなおさら、自分たちも含め先人達が苦難の闘いの末に勝ち得て制度化した「人権」に関するルールを蔑ろにするのは万死に値する。
告発に参加した鄭優希氏の気持ちはよく解る。実は鄭優希氏と同じ年頃に同様の問題に関わった。人権問題に明るいはずの某出版社で似たような問題が発生し、その出版社を嬉々として応援してきた私は出版社の理念(綺麗事)を守りたかったがために告発しようとした元従業員を支援した。
私は従業員ではなく、出版社の志に共鳴して出版社を応援するイベント等の実行責任者を務めた外野支援者だった。つまり部外者の立場の人間が出版社の理念に賛同し応援してきた責任から傍観者になってはいけないと思い、出版社の経営者に直談判したこともあった。(余談1)
出版社には著名なジャーナリストたちも関わっており、支援者グループの代表という事で顔見知りにもなった経緯から、元従業員に肩入れする事はせっかく知遇を得たジャーナリストたちとの人脈を失うリスクがあったが、当時の私はそんな卑怯な保身をしたくなかった。
だが、この行動は仲間内で不協和音を呼び、出版社の熱心な支援者たち(私から見れば腰巾着ども)から厳しい批判(私から見れば嘘と誤魔化しにまみれた誹謗中傷)を浴びて、虚しさを感じたものだ。
鄭優希氏ら告発者は様々な葛藤を抱え断腸の思いで提訴に踏み切ったと思う。
従業員を同志として扱い同志として無理を強いるのであれば、映画文化のためそれもよかろう。しかし、人というのは都合の良い時に仲間扱いして都合が悪くなると「君は従業員だろ」「あんた部外者だろ」といった類で冷たくあしらうものである。
厳しい業界である事は判っている。だからこそブラックの烙印を押されるようなことはあってはならない。それはささやかな態度だけでも変えれば防げる。
私は世間でいう目したの人間に「呼び捨て」や「君付け」はしたことが無い。全て「さん付け」で通し、自分に非があれば相手が年若い人でも深々と頭を下げる。たったこれだけでも現場の雰囲気は大きく変わるのだ。
(余談1)実際に友人から「お前が良いというからあの出版社から本を買ったが、この醜聞はなんや? 話が違うやんか」と批難された。
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