「ソラリス」
ソ連のSF映画金字塔をアメリカがリメイク。【原題】SOLARIS
【公開年】2002年
【制作国】亜米利加
【時間】99分
【監督】スティーヴン・ソダーバーグ 【原作】スタニスワフ・レム 【音楽】クリフ・マルティネス
【脚本】スティーヴン・ソダーバーグ【言語】イングランド語
【出演】ジョージ・クルーニー(クリス・ケルヴィン) ナターシャ・マケルホーン(レイア・ケルヴィン) ジェレミー・デイヴィス(スノー) ヴィオラ・デイヴィス(ヘレン・ゴードン) ウルリッヒ・トゥクール(ジバリアン)
【成分】ファンタジー 知的 切ない ラブストーリー SF
【特徴】ソ連のSF映画の金字塔にして「2001年宇宙の旅」と並び称される「惑星
ソラリス」のリメイク。宇宙軍拡競争のライバルであるアメリカがリメイク。
【効能】倦怠期の夫婦が観ると再び切ない恋愛感情を呼び起こしてくれるかもしれない。原版の訳が解らぬ睡眠導入剤的「
ソラリス」と違って琴線に触れて呑み込みやすい。
【副作用】原版ファンには冒涜に思え不快感。哲学的な魅力が無くなりライトな恋愛ファンタジーに見えて怒りが込み上げる。
下の【続きを読む】をクリックするとネタバレありの詳しいレビューが現れます。記事に直接アクセスした場合は、この行より下がネタばれになりますので注意してください。
ソラリスのアメリカン。 「2001年宇宙の旅」と並び称されるSF映画の金字塔「惑星
ソラリス」、公開後30年を経てアメリカでリメイクされた。
この話を聞いたとき、私はあまり観る気は起きなかった。どうせアメリカ人好みの解りやすいラブストーリーにしてしまうだろう。
ソラリス独特の神秘的雰囲気も生々しい肉感的に描写にされてしまうだろう。だから映画館で観る気は無かったし、実際に観なかった。
上映時間が不安にさせた。前作タルコフスキー監督版は165分と長い映画だったが、今回は100分も無い。これだけ短くされたら話の内容は予想がつく。アメリカ人が「
ソラリス」を観てリメイクを創る場合、取捨選択の基準は何か。クリスとハリーのラブストーリーになってしまうに決まっている。(余談1)
それが2009年1月に封切られた「チェ」2部作を見て、私はソダーバーグ監督を見直した。「チェ」のデキが非常に良く、しかも私好みだったからだ。チェとアレイダのラブシーンを撮りたがるところを、ソダーバーグ監督はよくぞ堪えてくれた。
やはり観てみよう。そう思ってDVDをレンタルした。ところが、やはりラブストーリーにされていた。
ひと言でいうと、前作をコクのあるモカとすれば、本作はインスタントコーヒーなどと酷評するつもりはないが、ブレンドコーヒーのアメリカンに練乳を加えたような感じだ。
ソラリスのアメリカンである。
前作に敬意を表しているのか、本作には雨の場面が登場する。タルコフスキー監督は黒澤映画のファンでもあり同じく雨の描写にこだわっていて、クリスが
ソラリスー旅立つ前のエピソードにバルコニーでコーヒーを飲んでいる時に雨が降り、クリスは雨を避ける事もせず天を仰いで濡れるに任せる場面がある。本作でも雨の街の場面が出てくるのだが、前作ほど印象深いシーンには見えなかった。
ドナタス・バニオニス氏のクリス役を意識しているのか、今回のクリス役を務めた
ジョージ・クルーニー氏もロマンスグレーにしている。 ハリー役はレイアに役名が変わり、これまたナターリヤ・ボンダルチューク氏に背格好が近いナターシャ・マケルホーン氏になっている。(余談2)
セットは前作よりも凝っているが、その分どこか謎めいた静寂が無くなり機械の震動音が絶えず聞こえているような感じがする。クルーの生き残りはアメリカの音楽を聞いていたし。
ナターリヤは東欧的神秘性があったが、ナターシャはアイルランド系ではあるがアメリカの三十路オバサンといった感じで、ソラリスが生んだゴーストのようなモノには見えなかった。
駄作ではないが、これは単に宇宙に舞台を移しただけのラブストーリーにしか見えない。「惑星ソラリス」のレビューでは「これはSFではない」と評したが、これは「ソラリス」ではなかった。切ないラブファンタジーだ。
(余談1)前作では3時間近い長編であり、主人公クリスがソラリスへ渡って物語が本格始動するまでに1時間近くプロローグがある。
しかし、その1時間がかなり重要で、クリスの屈折した態度が良く出ていて、後半のソラリスでの出来事の伏線になっている。
(余談2ドナタス・バニオニス氏はロシア人ではない。リトアニアの俳優である。当時は50代前半。神秘的な魅力のナターリヤ・ボンダルチューク氏はモスクワ生まれの女優。この時はまだ20代前半の学生、しかも映画の大学で監督コースだった。20代後半には監督デビューする。凄い貫禄だ。
少し歳が離れているとは思ったが、親子ほど離れていて夫婦を演じている。違和感を感じなかった。
一概に良い悪いは言えないのだが、旧ソ連に限らず、韓国・中国もアメリカもヨーロッパも、俳優たちは藝術系の大学で学ぶ事がけっこう多い。が、日本の俳優たちは端的にいうと藝術系の学位無しの人が圧倒的だ。日本はプロダクションとアクタースクールがタイアップしているか、あるいはプロダクションや劇団そのものがアクタースクールも兼ねている、といった事情が影響しているのか。
晴雨堂スタンダード評価
☆☆☆ 良
晴雨堂マニアアック評価
☆☆☆ 佳作晴雨堂関連記事案内「惑星ソラリス」 孤独を楽しむ時に〔31〕「チェ 28歳の革命」 感動からエナジーを得よう〔10〕「チェ 39歳 別れの手紙」 自分に喝を入れたい時に〔29〕
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ソラリス」、公開後30年を経てアメリカでリメイクされた。
この話を聞いたとき、私はあまり観る気は起きなかった。どうせアメリカ人好みの解りやすいラブストーリーにしてしまうだろう。
ソラリス独特の神秘的雰囲気も生々しい肉感的に描写にされてしまうだろう。だから映画館で観る気は無かったし、実際に観なかった。
上映時間が不安にさせた。前作タルコフスキー監督版は165分と長い映画だったが、今回は100分も無い。これだけ短くされたら話の内容は予想がつく。アメリカ人が「
ソラリス」を観てリメイクを創る場合、取捨選択の基準は何か。クリスとハリーのラブストーリーになってしまうに決まっている。(余談1)
それが2009年1月に封切られた「チェ」2部作を見て、私はソダーバーグ監督を見直した。「チェ」のデキが非常に良く、しかも私好みだったからだ。チェとアレイダのラブシーンを撮りたがるところを、ソダーバーグ監督はよくぞ堪えてくれた。
やはり観てみよう。そう思ってDVDをレンタルした。ところが、やはりラブストーリーにされていた。
ひと言でいうと、前作をコクのあるモカとすれば、本作はインスタントコーヒーなどと酷評するつもりはないが、ブレンドコーヒーのアメリカンに練乳を加えたような感じだ。
ソラリスのアメリカンである。
前作に敬意を表しているのか、本作には雨の場面が登場する。タルコフスキー監督は黒澤映画のファンでもあり同じく雨の描写にこだわっていて、クリスが
ソラリスー旅立つ前のエピソードにバルコニーでコーヒーを飲んでいる時に雨が降り、クリスは雨を避ける事もせず天を仰いで濡れるに任せる場面がある。本作でも雨の街の場面が出てくるのだが、前作ほど印象深いシーンには見えなかった。
ドナタス・バニオニス氏のクリス役を意識しているのか、今回のクリス役を務めた
ジョージ・クルーニー氏もロマンスグレーにしている。 ハリー役はレイアに役名が変わり、これまたナターリヤ・ボンダルチューク氏に背格好が近いナターシャ・マケルホーン氏になっている。(余談2)
セットは前作よりも凝っているが、その分どこか謎めいた静寂が無くなり機械の震動音が絶えず聞こえているような感じがする。クルーの生き残りはアメリカの音楽を聞いていたし。
ナターリヤは東欧的神秘性があったが、ナターシャはアイルランド系ではあるがアメリカの三十路オバサンといった感じで、ソラリスが生んだゴーストのようなモノには見えなかった。
駄作ではないが、これは単に宇宙に舞台を移しただけのラブストーリーにしか見えない。「惑星ソラリス」のレビューでは「これはSFではない」と評したが、これは「ソラリス」ではなかった。切ないラブファンタジーだ。
(余談1)前作では3時間近い長編であり、主人公クリスがソラリスへ渡って物語が本格始動するまでに1時間近くプロローグがある。
しかし、その1時間がかなり重要で、クリスの屈折した態度が良く出ていて、後半のソラリスでの出来事の伏線になっている。
(余談2ドナタス・バニオニス氏はロシア人ではない。リトアニアの俳優である。当時は50代前半。神秘的な魅力のナターリヤ・ボンダルチューク氏はモスクワ生まれの女優。この時はまだ20代前半の学生、しかも映画の大学で監督コースだった。20代後半には監督デビューする。凄い貫禄だ。
少し歳が離れているとは思ったが、親子ほど離れていて夫婦を演じている。違和感を感じなかった。
一概に良い悪いは言えないのだが、旧ソ連に限らず、韓国・中国もアメリカもヨーロッパも、俳優たちは藝術系の大学で学ぶ事がけっこう多い。が、日本の俳優たちは端的にいうと藝術系の学位無しの人が圧倒的だ。日本はプロダクションとアクタースクールがタイアップしているか、あるいはプロダクションや劇団そのものがアクタースクールも兼ねている、といった事情が影響しているのか。
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☆☆☆ 良
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