ミカエル晴雨堂の晴耕雨読な映画処方箋

晴雨堂ミカエルの飄々とした晴耕雨読な映画処方箋。 体調に見合った薬膳料理があるように、 料理に合う葡萄酒があるように、日常の節目に合った映画があります。映画の話題をきっかけに多彩な生活になれば幸いです。詳しいレビューは「続きを読む」をクリックしてください。

「ディア・ドクター」 家族と一緒に考えよう〔23〕 

ディア・ドクター」 
そうあってほしい気持ちに入り込む鶴瓶




【原題】
【公開年】2009年  【制作国】日本国  【時間】127分  【監督】西川美和
【原作】西川美和
【音楽】モアリズム
【脚本】西川美和
【言語】日本語
【出演】笑福亭鶴瓶(診療所所長伊野治)  瑛太(研修医相馬啓介)  余貴美子(看護士大竹朱美)  井川遥(鳥飼りつ子)  松重豊(波多野行成巡査部長)  岩松了(岡安嘉文警部補)  笹野高史(曽根登喜男村長)  中村勘三郎[18代目](救急病院医師)  香川照之(斎門正芳)  八千草薫(鳥飼かづ子)

【成分】笑える 悲しい 知的 切ない コミカル 医療問題 

【特徴】手塚治虫氏の「ブラック・ジャック」によく似たエピソードがある。村人から絶大な信頼を寄せられているモグリ医師の失踪を軸に描く主要人物たちの人生模様。
 鶴瓶氏の綱渡り医療がリアル。現代社会の虚構に光を照らす。

 晴雨堂の2009年公開映画10選に選ぶ。

【効能】鶴瓶氏の綱渡り医療にハラハラ。
 そうあってほしい気持ち、それに支配される嘘をつく側とつかれる側の現代人悲喜劇を体感。

【副作用】結末がイマイチ現実味が無く拍子抜け。

下の【続きを読む】をクリックするとネタバレありの詳しいレビューが現れます。記事に直接アクセスした場合は、この行より下がネタばれになりますので注意してください。
鶴瓶初主演映画

 手塚治虫氏の「ブラック・ジャック」によく似たエピソードがある。ブラック・ジャックは山深い農村の路線バスに乗っていた。そこで村唯一の診療所にいる唯一の医者の噂を聞く。置き去りにされた山村で何十年も1人で医療活動を行っている医師、ブラック・ジャックは興味を持ち途中下車をして診療所に向かう。

 診療所では60近い医師が笑顔で診察していた。村人たちの評判はすこぶる良い。ところが、バセドー氏病を患っている少女を診ていた時、ブラック・ジャックは疑問に思う。投薬だけで治そうとする医師に向かって、手術で甲状腺を切除する事を意見する。
 医師とブラック・ジャックは少し口論したが、けっきょく医師はブラック・ジャックの意見を受け入れ手術をする事になる。人手が足りないことを理由に手術を渋っていたがブラック・ジャックが助手をする事で踏み切る。

 村人の評判とは真逆で、その医師は素人みたいに頼りない。一応執刀するが、ブラック・ジャックが横で指示を与えてやらねば危なっかしい。
 なんとか手術を成功させ、2人はビールで祝杯を挙げる。医師はインターンを終え戦後まもない頃に赴任して村を守ってきたと話す。ブラック・ジャックが村を発つ際に見送りにきた医師に「あなたの世代ではインターン制度はありません。気をつけてくだい」と忠告して去っていく。
 何ヵ月か経って、ブラック・ジャックは東京のある駅の構内で医師と再会する。医師は大学の角帽をかぶっていた。医学部に入りなおし、医師のライセンスをとるのだと。

 西川美和監督が「ブラック・ジャック」を読んでいたかどうかは知らないが、この作品は非常に良く似ている。そして鶴瓶が役柄にハマリ過ぎていた。映画初主演とは思えないくらいだ。
 一見するとマイペースに医療活動をするベテラン医師だが、端で観ている観客からでも鶴瓶医師は危なっかしい綱渡りをしているのがわかる。たぶん、場数を踏んでいて新米医師よりも疾病がわかる余貴美子看護師がしっかりお膳立てをしているから格好がついているのだろう。周囲の助けと運で鶴瓶医師はハッタリをかましながら医師を演じ、無医村で困る村人のニーズと権威に弱い田舎者の体質(余談1)からなのか、鶴瓶医師は必要以上に名声と人望を得ていく。
 鶴瓶医師は医者になりきろうと献身的に村をこまめに巡回して周り、村人一人一人に笑顔で声をかける。村民全員の家族構成や病歴を把握し真夜中の急患にも応じる。その姿が余計に尊敬と信頼を集める。

 おそらく、村人の何人かは「変だな」と思ったかもしれない。しかし綱渡り医療が成功すると疑念と不安は払拭され名医の権威と安心が維持されて、その喜びが大袈裟な万歳三唱となって表れる。後に刑事からモグリだったと告げられると鶴瓶医師の権威が崩壊されて掌返したように態度を変える。
 余貴美子看護師には鶴瓶医師がモグリであるのは殆どバレていただろう。だが診療所の医師が不在という事は自分の失職も意味し、なにより献身的な鶴瓶医師の姿勢に、敢えて疑念を封印し正体を知ろうとはしなかった。刑事から正体を告げられた時はまるで初めて気がついたかのようにとぼける。
 そして、正真正銘プロの井川遥医師(余談2)が母八千草薫の診断に疑問を持ち対決する。鶴瓶医師は一通りの医学の知識と医薬品に詳しいのか、井川遥医師の鋭い質問に落ち着いた語調で丁寧に答える。明らかに井川遥医師は納得しきれていないのだが、一時は信用する。

 すべて登場人物たちの「そうあってほしい」気持ちの中に巧く滑り込んだ鶴瓶キャラの妙義だ。鶴瓶はラストもその才能を発揮する。偽医者を追う刑事たちは同じプラットホームで鉢合わせになるが気づかない。そして井川遥医師がかすかに期待した行動をとる。

 それにしても、香川照之氏は癖のある話題作に出まくりだな。映画だけでなくCMやドラマまで、休みあるのかな?

(余談1)私の田舎でも大袈裟に祭り上げるところがある。むかし、ある国会議員が関与している市民団体の会員になったら、まるで政治家秘書にでもなったかのように騒がれた。

(余談2)私の姉は看護婦の主任を経て看護学校の教員をしているのだが、雰囲気が良く似ている。アイスクリームを食べようと冷蔵庫を物色しながらも日頃の母の食生活が気になるのか食材をチェックし、台所のゴミ箱に薬の包装を見つけると調べる。医療関係者ぽくて良い。何気ない演技だが井川遥氏はかなり役作りをしている。



晴雨堂スタンダード評価
☆☆☆☆ 優

晴雨堂マニアック評価
☆☆☆☆ 名作


【受賞】第52回ブルーリボン賞:主演男優賞、監督賞 第33回山路ふみ子映画賞:映画賞(西川美和)、映画功労賞(八千草薫


 
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こんばんは

西川美和監督は「ゆれる」でもそうでしたが 一見本筋に関係無い ささいな描写が上手いと思います。
ここでは田舎のいやらしい人間関係がチラチラと見られる。瀕死の老人を治療?する医師に目配せしながらうなづく長男の嫁らしい女性(寝たきりで長引かれては介護するほうとしてはこまるだろう)八千草薫の診察を部屋から出て行かずに眺めつづける老人たち(村の老人の憧れの後家さんなのだろうが心配な気持ちだけではないことは明らか)医者になった井川をやっかむ姉妹 など  
[ 2011/09/23 01:09 ] [ 編集 ]
amaria氏へ
 
 そういう些細な描写が大事なのです。西川監督に限らず、有能な映画人や作家は大事にします。
 
 駄作というのは、そういった描写が抜け落ち、主人公の描写でさえ背景が描ききれていない事が多い、人間観察や人生体験が乏しいからです。
 
 だからコッポラの娘は嫌いなんですよ。「バージン・スーサイド」なんか親を単純に抑圧者としか描けていないし、自殺者をかかえる遺族の気持ちが全く理解できていない。彼女は基本的に「自分」だけしか見ていない。


> 西川美和監督は「ゆれる」でもそうでしたが 一見本筋に関係無い ささいな描写が上手いと思います。
> ここでは田舎のいやらしい人間関係がチラチラと見られる。瀕死の老人を治療?する医師に目配せしながらうなづく長男の嫁らしい女性(寝たきりで長引かれては介護するほうとしてはこまるだろう)八千草薫の診察を部屋から出て行かずに眺めつづける老人たち(村の老人の憧れの後家さんなのだろうが心配な気持ちだけではないことは明らか)医者になった井川をやっかむ姉妹 など  
[ 2011/09/24 06:50 ] [ 編集 ]
そうでしたか

私もソフィア・コッポラとはまったく合わないです。「ヴァージン・・」はDVD早送りしちゃって記憶になし 「マリー・アントワネット」は友人の「ヴェルサイユでロケしたお茶の間ドラマで眠かった」で鑑賞止め 「ロスト・・」が私的には一番良かったが これはビル・マーレイのおかげでオスカーは脚本ではなく彼がもらうべきだと思った。「SOMEWHERE」は予告で興味わかなかったのです。
 
彼女は「ほんの小さな事柄でも人の人生というのは、変るものだと信じています」とのこと
彼女の世界が小さいと思っていたけど それは確信犯?だったわけで 世界が小さい+内容の薄さ・大味=退屈

作品の多くが世界の小さいのに加えて 結局内輪の話であるのも何かあざとさを感じるのと 大人になりきれないのに ませている女の子という感性がどうも生理的に苦手なのです。きっとこれは私が女の子というものが嫌いなせいだと思う。
[ 2011/09/24 12:24 ] [ 編集 ]
amaria氏へ

> 私もソフィア・コッポラとはまったく合わないです。「ヴァージン・・」はDVD早送りしちゃって
 
 映像のセンスは良いし、反抗期の思春期女性の描き方も優れている反面、親の描き方はステレオタイプでした。ムカムカしながら見た憶えがあります。
 
 冒頭、13歳の末の妹が自殺未遂をして救助にあたった大人が嘆くと、偉そうに「13歳の気持ちが解らないくせに」と冷たく言う場面で腹がたった。私なら、「では自殺者を抱えた遺族の悲しみを貴様は理解できるとでも言うのか! お前もワシらの気持ち理解しとらんくせに生意気言うな!」と思いっきり顔に平手をとばす。
 
 最後は姉妹全員が自殺です。親にとって自分の人生全てを否定されたも同然、しかし家を去る両親はあまり悲しみを表に出していない。足取りしっかり車に乗り込む。ショックで認知症状態にすれば評価は高かったが。
 
 ヤフー映画サイトでは、そんな映画に共感するレビュアーが多いこと、それにもおぞましさを感じました。この方々は自宅と学校のつなぐ範囲の世界から出た事がないのではないかと思います。
 

 ソフィア・コッポラ監督の作品は万事この調子です。好意的にみれば反抗期の女の子から巧みに銭を落とさせるビジネスマン、悪意でとればいい歳して人間というものが解っていない思春期おばさんです。
[ 2011/09/25 05:39 ] [ 編集 ]
こんにちは。

本物ってどういうことだろうと思いました。

私もこれ大好きです。
村を出る時だったかなぁ…
畑仕事をしている八千草薫に
鶴瓶がちょっと離れたところから
上着を振ってお別れをするシーンが
すごく好きです。
良い映画ですね。

『ゆれる』も好きです。
ラストシーンの香川照之の表情がとてもよかったです。
[ 2012/05/06 11:48 ] [ 編集 ]
ひろみ氏へ

 田んぼの横の細い舗装道で白衣を脱いで振り回す場面、印象的でしたね。

 それにしても香川照之氏はいつ休んでいるのでしょう? 話題の映画やドラマには顔を出し、CMにも出て、しかも拘束されるNHK大河ドラマの常連出演者。これに歌舞伎役者が加わる。休む暇がありません。 

> こんにちは。
>
> 本物ってどういうことだろうと思いました。
>
> 私もこれ大好きです。
> 村を出る時だったかなぁ…
> 畑仕事をしている八千草薫に
> 鶴瓶がちょっと離れたところから
> 上着を振ってお別れをするシーンが
> すごく好きです。
> 良い映画ですね。
>
> 『ゆれる』も好きです。
> ラストシーンの香川照之の表情がとてもよかったです。
[ 2012/05/07 06:09 ] [ 編集 ]
そうですねぇ…
でもおそろしく処理能力が高い人が
ものすごい集中力を発揮すると
こういうことも出来るのではないかと…
お休みするのが好きじゃないのかもしれないし。

密度の濃い人生ですよね。
[ 2012/05/08 01:26 ] [ 編集 ]
ひろみ氏へ

 彼が担当する役はチョイ役・脇役ではありませんからね。主演か助演ですから。どうやって物理的に限られた時間をやり繰りしているのか、気になります。

> そうですねぇ…
> でもおそろしく処理能力が高い人が
> ものすごい集中力を発揮すると
> こういうことも出来るのではないかと…
> お休みするのが好きじゃないのかもしれないし。
>
> 密度の濃い人生ですよね。
[ 2012/05/08 06:39 ] [ 編集 ]
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