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ミカエル晴雨堂の晴耕雨読な映画処方箋

晴雨堂ミカエルの飄々とした晴耕雨読な映画処方箋。 体調に見合った薬膳料理があるように、 料理に合う葡萄酒があるように、日常の節目に合った映画があります。映画の話題をきっかけに多彩な生活になれば幸いです。詳しいレビューは「続きを読む」をクリックしてください。

「望郷」 人生をふり返ろう〔9〕

望郷」 ジャン・ギャバン出世作。
 

 
【原題】PEPE-LE-MOKO
【公開年】1937年  【制作国】仏蘭西  【時間】94分  
【監督】ジュリアン・デュヴィヴィエ
【原作】ロジェ・ダシェルベ
【音楽】ヴィンセント・スコット
【脚本】アンリ・ジャンソン ロジェ・ダシェルベ
【出演】ジャン・ギャバン(ぺぺ)  ミレーユ・バラン(ギャビー)  リーヌ・ノロ(イネス)  リュカ・クリドゥ(スリマン)  ルネ・カール(-)  マルセル・ダリオ(-)
        
【成分】ゴージャス ロマンチック 知的 切ない かっこいい ギャング物 1930年代 アルジェリア アルジェ カスバ 白黒映画 
   
【特徴】ジャン・ギャバンがスター俳優の地位を不動にした作品。当時フランス領だったアルジェリアの首都アルジェに潜伏するギャングの若きボスと若いパリジェンヌの束の間の恋。
 ギャング物のラブストーリーとしては金字塔扱いされる作品で、後の作品でしばしば模倣される。日本でも昭和14年に大ヒット。
  
【効能】青年から中年への節目を実感。異国情緒の中での恋を疑似体験。
 
【副作用】古い白黒映画なので映像が暗い。主人公の詰めの甘さにイラっ。
 
下の【続きを読む】をクリックするとネタバレありの詳しいレビューが現れます。
絶妙な邦題。

 ハードボイルド映画に欠かせないフランスの名優ジャン・ギャバン氏がスターの地位を不動にした作品である。
 本作でもギャングのボス役なのだが、当時まだ30代前半なので役柄負けだろうと思いきや、貫禄ある若頭といった感じだ。歳の割に渋さがある。当時のジャン・ギャバン氏より歳上になっているはずのSMAPやTOKIOの面々と比べたら一目瞭然だろう。邦画俳優に例えれば、丹波哲郎氏・仲代達矢氏・中村敦夫氏のようなタイプだ。彼らも若い頃から若造に見えない。
 
 本作の舞台は当時フランス領だったアルジェリアの首都アルジェの旧市街一角のカスバ、今や世界遺産になっている有名な観光地だ。(余談1)ジャン・ギャバン氏扮する主人公ぺぺは多くの前科がある裏社会の若手ヒーロー、お尋ね者なので本国を離れカスバで潜伏するのだが、カスバ住民の顔役みたいな待遇を受けていて逃亡者とは思えない優雅な生活。まるでミュージカルのヒーローみたいに歌う場面まである。(余談2)警察の追及も、ぺぺの慎重さと機転のきく神経、それと情婦たちカスバの人々の協力でいつも振り切る。
 
 そんなぺぺの前に美しいパリジェンヌが現れる。ミレーユ・バラン氏扮するギャビーだ。当時はまだ20代の半ば頃だったと思う。細い眉に鼻筋の通った顔、少しきつい感じがするが、カスバの中ではひときわ白く垢抜けて輝いて見える。
 初めて観た子供の頃は気付かなかったが、このときのジャン・ギャバン氏の年齢は物語のバランスの上で重要である。後年の渋いロマンスグレーのドンでは、小娘をみて突然血迷ってしまう色ボケジジイで格好悪い。かといって20代ではいくら貫禄のある顔つきでも若頭どころか三下の兄貴分程度だ。

 それにもし20代のぺぺがパリでギャビーに出会っていたら、恋をしただろうか?
 限界を知らぬ成長真っ盛りの青二才から成長が止まって少しずつ老化が目立たないところで進んでいく歳頃が30代だ。日常生活では体力気力の衰えは気がつかない。しかし何かの拍子で「あれ?」と思うのが30代だ。
 運動会で子供と一緒に短距離走をやったら、足がもつれて転倒してしまう。久しぶりに草野球をやったら、以前は難なく捕れた打球を見失ってエラーしてしまう。スポーツに自信があった人ほどそんな経験をする。
 ぺぺはそんな歳頃を逃亡先のカスバで過ごしていた。
 
 優雅な若旦那的生活をしていたとはいえ、逃亡中の緊張感ある毎日だ。しかもヨーロッパとは文化が違うイスラム文化圏の北アフリカ、豪胆で自信家のぺぺだからこそ少しずつ望郷の念が心の隅に巣食い忍び寄り気力に陰りが出始めている事に気がつかない。そんな時にパリを思い出させるギャビーが現れる。ギャビーの存在は、ちょうどガードが甘くなってしまったぺぺの脇腹を直撃する存在だ。この恋愛描写がある種プロモーションビデオ的で唐突ながらも説得力がある。

 「おっ、綺麗な子やん」と思った事がきっかけに故郷への憧憬が恋愛感情の形で一気に噴出す。もし、そこそこの歳だったら、遠くから眺めるだけで済ましていただろう。しかしまだ激しい恋愛をする体力はあった。愛人たちの前では封印していた望郷の気持ちがギャビーへの恋愛感情を隠れ蓑にして暴走する。その結果、今までの手際の良かった逃亡生活のリズムが狂いだし、不協和音は愛人の裏切りまで誘発させてしまう。 
 ラスト、フランス行きの船に乗るギャビーにぺぺは最期の力を振り絞って叫ぶが、客船の汽笛に掻き消される。これはギャビーの姿の向こうに続くフランスに向かっての望郷の叫びだ。「望郷」という邦題をつけた人は鋭い。このラストシーンは映画史上名高い場面として語り継がれている。
 なお、このラストの場面といい、本作にも至るところで「見覚えのある場面」を感じる。これは特に1930年代の映画に感じる感覚だ。この時代の映画は、現代映画の原型となっているせいかもしれない。
 
(余談1)記憶違いかもしれないが、たしかロケーションはカスバではなかったはずだ。カスバを再現した特設セットで撮影が行われている。白黒映像というのもあるが、あまり違和感は感じない。アルジェの市民が見たら多少は違和感を感じるかもしれないが。

(余談2)実際にジャン・ギャバンが歌っている。母親が歌手をやっていて、自身も少年時代から芝居小屋で舞台に立っていたので、もともと歌は上手い。
 
晴雨堂スタンダード評価
☆☆☆☆ 優
 
晴雨堂マニアック評価
☆☆☆☆ 名作

 

 
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