「ローマの休日」
夏のそよ風似合う天真爛漫なオードリー像 【原題】ROMAN HOLIDAY
【公開年】1953年
【制作国】亜米利加
【時間】118分
【監督】ウィリアム・ワイラー 【原作】ダルトン・トランボ 【音楽】ジョルジュ・オーリック
【脚本】イアン・マクレラン・ハンター ジョン・ダイトン
ダルトン・トランボ 【出演】オードリー・ヘプバーン(アン王女)
グレゴリー・ペック(ジョー・ブラッドレー) エディ・アルバート(アーヴィング) テュリオ・カルミナティ(将軍) パオロ・カルソーニ(美容師) ハートリー・パワー(ブラッドレーの上司) マーガレット・ローリングス(ヴィアバーグ伯爵婦人) ハーコート・ウィリアムズ(大使)
【成分】笑える 楽しい ファンタジー ゴージャス ロマンチック 知的 切ない かわいい かっこいい コミカル ローマ 1950年代
【特徴】ローマを舞台にした超有名なデート映画。
オードリー・ヘプバーン氏を世界的有名なハリウッド女優にした名作。お忍びでローマを散策する王女と野心家新聞記者の束の間の癒しのひと時を描写。
制作陣にとって、政治的事情でアメリカを離れローマを舞台にしなければならなかった作品だったが、奇しくも町興し観光宣伝の見本のような完成度である。
本作の一場面は日本でもときおりCMなどで使用されるので、若年層にも未だに知名度が高い。
【効能】ローマ観光を恋人と一緒にしたような気分になる。新聞記者に憧れるようになる。
【副作用】単なるブルジョワ趣味のラブコメにしか見えない。
下の【続きを読む】をクリックするとネタバレありの詳しいレビューが現れます。記事に直接アクセスした場合は、この行より下がネタばれになりますので注意してください。
地元資本とのタイアップで大成功の
観光誘致型映画。 多くの映画ファンにとって説明の必要が無い名作である。イギリスでコミカルな女の子を演じていた
オードリー・ヘプバーン氏がハリウッドに進出し、ヒロインのアン王女役で一気に世界的スターになった1950年代の映画である。日本の少年少女漫画にも強い影響を与えた。(余談1)
邦題も気が利いている。日本人が感じる束の間の楽しい思い出と切ない余韻、この印象に合っている。ところが実は英語のタイトル、似ているけどニュアンスどころか意味が違う。
「ROMAN HOLIDAY」は「
ローマの休日」ではなく「ローマ人の休日」、ローマ帝国モノが好きな人ならお判りのように戦車競争や剣闘士の殺し合いなどのアトラクションが登場する。ローマ帝国を堕落した国と見なしているキリスト教徒にとっては退廃した馬鹿騒ぎであり、現代でも「はた迷惑」とか「スキャンダル」のイメージが残っている。
ジョーは職業を隠しアン王女とデートすることでスクープを画策するから、欧米人はもう少し俗っぽいイメージを持っているかもしれない。
このアン王女と新聞記者ジョーのデート。「映画」の良さが最大限に引き出された成功作といっていいだろう。まず観光産業との提携だ。ジョー役の
グレゴリー・ペック氏とスクーターではしゃぎながらローマ市中を2人乗りでまわる、画面にうつるイタリアの街並。真実の口で
グレゴリー・ペックが手を突っ込み手がもげた振りをしてオードリーを驚かせる。暑い夏のスペイン広場の階段でジェラートを食べるオードリー。観光誘致・町興し映画の見本のような内容だ。他にも、ヨーロッパブランドのスクーターや自動車、フランスのファッションブランド・ジバンシィが流行ったりと、映画の宣伝効果が活きている。
映画は総合藝術というだけでなく、総合産業見本市でもある事を雄弁に表している、そんな作品なのだが、制作陣にとっては切羽詰ったやむを得ない事情があった。
当時のアメリカは有名な赤狩りが展開されており、チャップリンをはじめ多くの映画人が「共産主義者」「反社会性」のレッテルを貼られてハリウッドから追放されている。この「
ローマの休日」の脚本を担当した
ダルトン・トランボ氏も標的にされていた。監視の目が厳しいアメリカ国内よりも海外ロケのほうが伸び伸びと撮れる上に現地スタッフやエキストラなどの人件費も安く、観光宣伝協力ということで現地当局や企業の協力も取り付けられやすい、これら政治的経済的問題が第一動機だった。
物語自体は他愛ないラブコメディなのだが、ローマ観光宣伝(余談2)が鼻につかず、2人も爽やかに背景とマッチしていて気分がいい。まだ20歳代前半のアン王女、長い髪をバッサリ切り、涼しげなショートへアーに白いブラウス姿で羽根を伸ばしながらも、どこか育ちの良さが溢れている女性、ジョーは知的で爽やかな紳士として振る舞い、スクープを狙う脂ぎった狩猟民的性格は見せない。
2人は夏のイタリアに吹いた涼風のように登場(余談3)して去っていく。公務で自由の無い窮屈な生活に堪えるアン王女と取材合戦にあけくれ不規則な生活の新聞記者ジョー、2人にとって息がつまる日常に吹き抜けた新鮮な空気だ。観客にとっても同様の効果をもたらす。カップルで観る夏の現代御伽話だ。
日本では映画の一場面がCMや新聞広告に使われたり、国内のどこかの映画館で上演されたり、「大昔の名作」「古い白黒映画」に変質することなくフレッシュさを保ち続けている。当時のオードリー自身がフレッシュで素直な演技をしており、ワイラー監督と共演者
グレゴリー・ペック氏が巧く魅力を引き出したに違いない。
ハリウッド進出直前のイギリス時代の映画を観たがパッとしないのだ。演技力の差ではない、演出と共演者がオードリーに最適な環境をつくったのだと思う。
(余談1)子供の頃、ジャーナリストのイメージは「スーパーマン」のクラーク・ケントか「
ローマの休日」のジョー・ブラッドレーだった。清潔なワイシャツにネクタイ、刈り上げ頭に四角い顔。
私は昔からスレンダーで黒髪で太い眉の女の子がタイプだったから、オードリーはツボにはまっていた。
(余談2)邦画「アマルティ」でのイタリアは、やはり観光宣伝臭い。特にスペイン広場での階段シーンは、織田裕二氏らが地面に落ちているジェラートを踏みつけていくところが露骨に「
ローマの休日」を意識していてワザとらしい。逆に一種のパロディで面白いのだが。
ただ、現在のスペイン広場はジェラート立ち食い禁止だと聞いている。違ったかな?
(余談3)実際、夏に撮影されていたのでかなり暑いはずだ。何度も汗を拭いたりメイクを直したり衣装を換えたりしているはずだ。なのにオードリーも
グレゴリー・ペックも汗一つかかず涼しそうな顔なので快適な気候に見えてしまう。
晴雨堂スタンダード評価
☆☆☆☆☆ 秀
晴雨堂マニアック評価
☆☆☆☆ 名作 【受賞】アカデミー賞(主演女優賞)(1953年) ゴールデン・グローブ(女優賞(ドラマ))(1953年) NY批評家協会賞(女優賞)(1953年)
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地元資本とのタイアップで大成功の
観光誘致型映画。 多くの映画ファンにとって説明の必要が無い名作である。イギリスでコミカルな女の子を演じていた
オードリー・ヘプバーン氏がハリウッドに進出し、ヒロインのアン王女役で一気に世界的スターになった1950年代の映画である。日本の少年少女漫画にも強い影響を与えた。(余談1)
邦題も気が利いている。日本人が感じる束の間の楽しい思い出と切ない余韻、この印象に合っている。ところが実は英語のタイトル、似ているけどニュアンスどころか意味が違う。
「ROMAN HOLIDAY」は「
ローマの休日」ではなく「ローマ人の休日」、ローマ帝国モノが好きな人ならお判りのように戦車競争や剣闘士の殺し合いなどのアトラクションが登場する。ローマ帝国を堕落した国と見なしているキリスト教徒にとっては退廃した馬鹿騒ぎであり、現代でも「はた迷惑」とか「スキャンダル」のイメージが残っている。
ジョーは職業を隠しアン王女とデートすることでスクープを画策するから、欧米人はもう少し俗っぽいイメージを持っているかもしれない。
このアン王女と新聞記者ジョーのデート。「映画」の良さが最大限に引き出された成功作といっていいだろう。まず観光産業との提携だ。ジョー役の
グレゴリー・ペック氏とスクーターではしゃぎながらローマ市中を2人乗りでまわる、画面にうつるイタリアの街並。真実の口で
グレゴリー・ペックが手を突っ込み手がもげた振りをしてオードリーを驚かせる。暑い夏のスペイン広場の階段でジェラートを食べるオードリー。観光誘致・町興し映画の見本のような内容だ。他にも、ヨーロッパブランドのスクーターや自動車、フランスのファッションブランド・ジバンシィが流行ったりと、映画の宣伝効果が活きている。
映画は総合藝術というだけでなく、総合産業見本市でもある事を雄弁に表している、そんな作品なのだが、制作陣にとっては切羽詰ったやむを得ない事情があった。
当時のアメリカは有名な赤狩りが展開されており、チャップリンをはじめ多くの映画人が「共産主義者」「反社会性」のレッテルを貼られてハリウッドから追放されている。この「
ローマの休日」の脚本を担当した
ダルトン・トランボ氏も標的にされていた。監視の目が厳しいアメリカ国内よりも海外ロケのほうが伸び伸びと撮れる上に現地スタッフやエキストラなどの人件費も安く、観光宣伝協力ということで現地当局や企業の協力も取り付けられやすい、これら政治的経済的問題が第一動機だった。
物語自体は他愛ないラブコメディなのだが、ローマ観光宣伝(余談2)が鼻につかず、2人も爽やかに背景とマッチしていて気分がいい。まだ20歳代前半のアン王女、長い髪をバッサリ切り、涼しげなショートへアーに白いブラウス姿で羽根を伸ばしながらも、どこか育ちの良さが溢れている女性、ジョーは知的で爽やかな紳士として振る舞い、スクープを狙う脂ぎった狩猟民的性格は見せない。
2人は夏のイタリアに吹いた涼風のように登場(余談3)して去っていく。公務で自由の無い窮屈な生活に堪えるアン王女と取材合戦にあけくれ不規則な生活の新聞記者ジョー、2人にとって息がつまる日常に吹き抜けた新鮮な空気だ。観客にとっても同様の効果をもたらす。カップルで観る夏の現代御伽話だ。
日本では映画の一場面がCMや新聞広告に使われたり、国内のどこかの映画館で上演されたり、「大昔の名作」「古い白黒映画」に変質することなくフレッシュさを保ち続けている。当時のオードリー自身がフレッシュで素直な演技をしており、ワイラー監督と共演者
グレゴリー・ペック氏が巧く魅力を引き出したに違いない。
ハリウッド進出直前のイギリス時代の映画を観たがパッとしないのだ。演技力の差ではない、演出と共演者がオードリーに最適な環境をつくったのだと思う。
(余談1)子供の頃、ジャーナリストのイメージは「スーパーマン」のクラーク・ケントか「
ローマの休日」のジョー・ブラッドレーだった。清潔なワイシャツにネクタイ、刈り上げ頭に四角い顔。
私は昔からスレンダーで黒髪で太い眉の女の子がタイプだったから、オードリーはツボにはまっていた。
(余談2)邦画「アマルティ」でのイタリアは、やはり観光宣伝臭い。特にスペイン広場での階段シーンは、織田裕二氏らが地面に落ちているジェラートを踏みつけていくところが露骨に「
ローマの休日」を意識していてワザとらしい。逆に一種のパロディで面白いのだが。
ただ、現在のスペイン広場はジェラート立ち食い禁止だと聞いている。違ったかな?
(余談3)実際、夏に撮影されていたのでかなり暑いはずだ。何度も汗を拭いたりメイクを直したり衣装を換えたりしているはずだ。なのにオードリーも
グレゴリー・ペックも汗一つかかず涼しそうな顔なので快適な気候に見えてしまう。
晴雨堂スタンダード評価
☆☆☆☆☆ 秀
晴雨堂マニアック評価
☆☆☆☆ 名作 【受賞】アカデミー賞(主演女優賞)(1953年) ゴールデン・グローブ(女優賞(ドラマ))(1953年) NY批評家協会賞(女優賞)(1953年)
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