「クヒオ大佐」
薄幸女性役の名手 彼女の役柄で印象に残っているのは、高飛車なお嬢様、姐御肌のオバサン、キャリアのあるダンスの先生などなど。(余談1)近年、巧いなと感じるようになったのは不幸を背負った女性役だ。「容疑者Xの献身」や本作「
クヒオ大佐」だ。
見るからに不幸のオーラを出しているキャラを好演した。本作で一番気に入っている場面は、従業員の給料資金を
クヒオ大佐のために使い込んでしまって従業員から吊るし上げにあうところだ。
メイクの力もあるのだろうが、大佐との逢瀬で見せた白く輝く笑顔、艶々した表情。経営する弁当屋での肌ツヤのない表情。
クヒオ大佐と恋愛に疲れを感じる物憂げな表情、そして従業員の吊るし上げで、若干肌が荒れて赤っぽくむくんだような表情。クヒオと寝所をともにする時の張りのある表情とは対照的で説得力がある。
従業員の抗議描写も巧い。よくステレオタイプに従業員が怒鳴り罵る場面を撮りたがるのだが、ここでは静かな険悪が広がる。数名の女性従業員が社長
松雪泰子氏を事務所の壁際で取り囲み、古株が代表して静かに落ち着いた語調で社長を糾弾する。
クヒオ大佐との交際で社長としての業務も疎かになりがち、従業員の間で静かに不信感が進行している様が節目節目にさりげなく描写されている。肝心な時に社長が不在で、代わりに従業員が作業を止めて応対するのはかなり迷惑な話だ。社長の弟に愚痴とまではいかないまでも近頃の社長の言動に対する不安は口にする。そしてついにとどめの賃金支払いの遅れだ。月々かつかつで生活している者にとっては、電気・ガス・水道・電話・学費・家賃・ローンなどの支払いが狂って難儀する。
その光景を偶然見てしまったチョイ悪弟新井浩文氏の息を呑んでしまう表情もリアルだ。
堺雅人氏はコメディを意識しているのかクヒオを少しオーバーアクションで演じ気味だが、クヒオを取り巻く人物、取り分け女性たちの演技はそれに悲劇的な現実味を与えている。
(余談1)私が最初に
松雪泰子氏を認識したのは高嶋政伸氏が政治家ジュニアの役をやった「ジュニア」で大物政治家の娘役を演じた時からだ。その時は美人女優が演じる定番の清楚で知的なキャラなのだが、その後はぶっ飛んだ役柄をよくこなす。
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