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ミカエル晴雨堂の晴耕雨読な映画処方箋

晴雨堂ミカエルの飄々とした晴耕雨読な映画処方箋。 体調に見合った薬膳料理があるように、 料理に合う葡萄酒があるように、日常の節目に合った映画があります。映画の話題をきっかけに多彩な生活になれば幸いです。詳しいレビューは「続きを読む」をクリックしてください。

「グロテスク」 不安と恐怖を楽しむ時に〔20〕

グロテスク」 
英国で上映禁止となった問題作!

 
 
  
【英題】Grotesque
【公開年】2008年  【制作国】日本  【時間】73分  【監督】白石晃士
【原作】
【音楽】佐藤和郎
【脚本】白石晃士
【出演】長澤つぐみ(アキ)  川連廣明(和男)  大迫茂生(謎の男)
         
【成分】不気味 絶望的 スプラッター ホラー 
     
【特徴】登場人物は僅か3名の意欲的低予算B級スプラッタ映画。イギリスで上映禁止となったほか、ネット市場の大手Amazonは自主規制。
 日本のレンタル屋で出回っているバージョンについては、特に派手なスプラッタは無い。飛び出す臓器も作り物まるだし。但しヒロインたちをいたぶる人格異常者はリアリティがある。
 長澤つぐみ氏が体当たりの熱演。
   
【効能】犯人の人格異常者ぶりがリアルで戦慄をおぼえる。ヒロインを惜しげもなく虐待する描写に監督の思い切りの良さを感じる。
 
【副作用】稚拙なスプラッタにガッカリ。前評判のわりに怖くないので詐欺にあった気分になる。
 
下の【続きを読む】をクリックするとネタバレありの詳しいレビューが現れます。  
スプラッタよりも問題になったモノ。
 
 2009年、イギリス当局で事実上の上映禁止処置がとられた問題作として注目をあびている本作。主演の長澤つぐみ氏はブログで「そりゃそうだよ」という趣旨のコメントを淡々と述べている。(余談1)

 だが、スプラッタなどの残酷描写は平凡で、むしろアメリカやイタリアのB級ホラー映画のほうが生々しくてリアルでインパクトがある。
 切断される指や引きずり出される臓物も作り物丸出し、ヒロインの衣服を切り裂き乳首をつまんでハサミで切る場面にしても、斬る真似まるだしで、パリス・ヒルトン氏が殺され役で出演している「蝋人形の館」で指を切られる場面の方が痛い。
 低予算という事もあるが世論に配慮してわざと稚拙な表現にしているともとれる。
 
 純情で初々しい若いカップルが外科医を自称する謎の男に拉致され、散々弄ばれたあげくに殺される救いようの無い物語、日本で発表されているDVDの内容しか知らないが、イギリスで審査を受けた内容も同じだとすれば、引っかかったのはスプラッタ場面ではなく別の描写だと思う。

 一つは犯人像のリアルさである。多くのホラーやスプラッタでは、主人公を襲う輩はゾンビであったり吸血鬼であったりと明白なモンスターが多い。異常者の犯罪でもかなりのデフォルメがされ人間離れしている。
 「蝋人形の館」の犯人兄弟はひと目みただけで異常者とわかる演技をしていたし、「13日の金曜日」のジェイソンに至っては宇宙基地を破壊するスーパーモンスターにまで成長した。だから劇場で大いに恐怖を楽しんでも、鑑賞後はフィクションからシャバの世界へ切り替えができる。
 
 しかし本作に登場する異常者は現実に居そうなのである。紳士的で表情や声の起伏が少ない快楽殺人犯、淡々と作業するように主人公たちを弄ぶ。
 虐待初期で主人公たちに性的虐待を行う場面など、性的欲望にまかせてレイプするというよりは生理学的に人体を熟知した人間が解剖学的に肉体を弄っているだけ、例えていうなら鮭の雌から卵巣を穿り出し、雄から精液を搾り出して稚魚の養殖をするような感覚に近い。これはリアルなおぞましさだ。
 
 それから物語中盤で犯人は一時虐待を止めて、一見改心したような姿勢で主人公たちの怪我を治療し清潔な手術着と清潔なベッドで介護する場面がある。この場面は批判が多いようだが、弄んだかと思えば急に親切になる、私はむしろリアルな人格異常者の典型のように見えた。
 そんな犯人の「優しさ」を信用する主人公たちの姿勢もリアルで無いと感じる人も多いようだが、私はむしろ被害者の心理を比較的正確に描写しているように見えた。閉鎖された監禁空間で犯人は生殺与奪の実権を握っているのだ。その犯人が腰低く紳士的な態度で丁重な治療行為を行ってくれている。犯人をいたずらに刺激して不興をかうよりは、大人しく従う方を選ぶだろうし、そこに希望を見てしまうだろう。
 既に目をくり貫かれたり、手首を切り落とされたり、元の姿には戻れない重傷を負っているのだ。2人で協力して逆襲に討って出て犯人を殺す発想は、日本人にはなかなかもてない。
 
 そしてもう一つ、恋人の前での性的虐待、この場面が人権意識の高いイギリスの倫理審査に抵触した可能性がある。
 本作に限らず、日本のポルノやAVは性器を見せないという物理的条件さえ満たせば、あとは大幅な表現の自由がある。異論や反対意見があると思うが、私はそれを良い事だと信じている。カンヌで評価が高い仏映画「ピアニスト」を見ると、日本の日活ロマンポルノの方が先端を行っているのが判り、ポルノが映画界の底上げ役を果たしてきたか、もっと好意的評価をすべきだとさえ私はしばしば訴えてきた。

 しかし欧米のポルノは、性器露出がOKであっても精神的苦痛を与えるものは不可になる。たとえばアメリカのポルノは大概明るくスポーツでも楽しむような映像が圧倒的だ。裏を反せば現実に凶悪な性犯罪が多いためフィクションだと割り切れず、それを煽るような表現や精神的苦痛を伴う場面に抵抗と警戒感を抱くのだ。
 「グロテクス」のような作品ができるという事は、まだ日本が平和で安定している証拠でもある。不穏な空気が流れると、真っ先に犯人扱いされて発禁されるのが、このポルノ方面のジャンルだ。
 
 もし、被害者カップルが協力して犯人と熾烈な格闘を展開して脱出する話ならば、あるいは犯人と相討ちになって全員死亡というアンハッピーエンドならば、英倫理は通したかもしれない。

(余談1)元AV女優。AV時代から演技派としての定評あり。子供の頃から劇団で舞台に立ち、大学は日本大学藝術学部演劇学科を出ているらしい。韓国芸能界では映像や演劇などの専門の学位を修得している俳優が多いが、日本ではAV業界だけでなく日本の芸能界全体から見ても珍しい演劇学科卒の学士女優である。
 
晴雨堂スタンダード評価
☆☆ 可
 
晴雨堂マニアック評価
☆☆☆ 佳作

 

 
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