「沈まぬ太陽」 久々の本格邦画。 【英題】【公開年】2009年
【制作国】日本
【時間】202分
【監督】若松節朗 【原作】山崎豊子 【音楽】住友紀人
【脚本】西岡琢也
【出演】渡辺謙(恩地元)
三浦友和(行天四郎)
松雪泰子(三井美樹)
鈴木京香(恩地りつ子) 石坂浩二(国見正之) 香川照之(八木和夫) 木村多江(鈴木夏子) 清水美沙(小山田修子) 鶴田真由(布施晴美) 柏原崇(恩地克己) 戸田恵梨香(恩地純子) 大杉漣(和光雅継) 西村雅彦(八馬忠次) 柴俊夫(堂本信介) 風間トオル(沢泉徹) 山田辰夫(古溝安男) 菅田俊(志方達郎) 神山繁(桧山衛) 草笛光子(恩地将江) 小野武彦(道塚一郎) 矢島健一(青山竹太郎) 品川徹(龍崎一清) 田中健(井之山啓輔) 松下奈緒(樋口恭子) 宇津井健(阪口清一郎) 小林稔侍(竹丸鉄二郎) 加藤剛(利根川泰司)
【成分】泣ける 勇敢 知的 切ない かっこいい 1970年代~80年代
【特徴】。
【効能】。
【副作用】。
下の【続きを読む】をクリックするとネタバレありの詳しいレビューが現れます。
サラリーマン社会の大河ドラマ 渡辺謙氏が泣きながら舞台挨拶に臨んだだけはある。気合の入った内容だった。以前、「クライマーズ・ハイ」を観た時に物足りなさを感じたのだが、それが少しだけ解消された気分だ。
休憩時間が入ったのも良い。子供の頃に見た超大作を前にしているようで懐かしい気がする。よくスポンサーや配給会社が許したものだ。今は洋画も邦画も客入の回転を考慮して壮大な物語でも強引に2時間程度でまとめてしまう。
渡辺謙氏以外の出演者の顔ぶれも重みと厚みがあり、しかも配役は適材適所。特に良かったのは
三浦友和氏である。かつては主人公とともに労組を引っ張ってきた同志が経営者側へ寝返り、主人公がアフリカなどへ左遷されている間に出世して会社中枢へ加わる。彼の平凡な会社員的所作は巧いと思う。
演出も英断だ。三浦氏扮する行天は悪役なので、観客ウケと判りやすさを考えたら、お洒落な高級スーツに身をかためたエリートをアピールするようなキザなキャラにしたがるだろう。しかし現実にそんなステレオタイプなエリート社員はサラリーマン社会では個性的過ぎてベンチャー企業にはありえるが、巨大企業には少ない。本作はよくぞ堪えた。(余談1)
欲を言えば、行天の家族も出してほしかった。恩地の家庭はサラリーマンにとって理想でもある。特に好青年に成長した息子と牛丼屋で飯を食べる場面は父親冥利に尽きる。部下や後輩の指導に失敗してきた私にそんな経験ができるだろうかと、切なく羨ましくもなる。
対して行天はどうなっているのだろうか。原作では仰天の家庭は崩壊常態なのだが、私が制作者であれば行天も意外に立派な家庭を築いている事にする。汚職が追及されそうになったときに重要書類を家に持ち帰って家族総出で処分する場面を入れる。行天にも恩地と同じ歳頃の息子がいて、なんとかつて恩地とともに労組活動をやっていた頃の自分そっくりに育ち、NGO活動に熱心だった。親子で口論することもしばしば。
しかし父親の窮地に、満面を悔しさと憤りに染めながらも積極的に書類を処分する。そんな顔に母親は「なんて顔してんねん。お父さんに食べさせてもらっている事、よう考え!」と息子の心の傷口に塩を塗り込むような説教をする。それを行天は制して「すまんな、お前にこんな事させて」、息子は憤然と「仕方ないよ。理念より親が大事だ」と吐き捨てるようにいう。
実際にこんな場面入れたら物語のバランスが悪くなってしまうだろうが、私が制作者なら、稚拙で浮いたCG場面を入れるよりも行天をもっと味わい深く描くほうを選ぶ。やはり、サラリーマン社会で恩地みたいなキャラはスーパーマンに近いのだから。
批評家の中には「社会派ではない、会社映画だ」と皮肉る論調が見受けられる。だが、多くの日本人サラリーマンにとって会社は社会と同じなのだ。特に終身雇用制が生きていた時代は、会社に一生の多くの時間を割き家庭は仕事の疲れを癒す場でしかない。今みたいに転職が当たり前の時代ではなかった頃は、「転勤」ぐらいで仕事は辞めないし転職は社会的信用を失う行為だった。愛社精神とまでいかなくても、会社に愛着を持たなければ仕事などやってられない。会社と家庭を結ぶ世界がサラリーマンにとっての社会だった。(余談2)
この映画は、日本人サラリーマンのための大河ドラマであり、おそらく多くの日本人たちが共感し、自然に社会問題を受け入れられるテーマだと思う。
幸いにもこの数十年は国土が戦場になったことが無いし他国を武力で侵略したり国際政治を操ったことも無いためか、日本にはゲバラやカストロのような革命家は不在だし、ケネディやゴルバチョフのような国民的スーパースターもいない。
三里塚闘争や安田講堂をテーマにしても広範囲の日本人の共感は無理だ。松下幸之助や本田宗一郎では偉人のダイジェスト版になるし企業宣伝臭い。この「
沈まぬ太陽」あたりが日本人にとってちょうど良い。
(余談1)悪役として描かれるが、行天のようなタイプは至極平凡な会社員である。60年安保時代の労組なら恩地型リーダーは少なくなかったかもしれないが、経営者との対立を避けるようになった80年代以降の企業労組の委員長職は、係長から課長へ昇進するための待機ポストと化しているところが多い。委員長は時短などの待遇改善に消極的姿勢をとることで経営者側にとっては「残業や休日出勤に協力した」という実績となり課長へ進む。
(余談2)市民運動に参加していたとき街頭でビラまきをよくやったが、受け取ってくれる人の多くは還暦を過ぎた老人ばかりだ。最も関心を抱いてくれなかったのは、背広を着た30代40代の男性たちである。
晴雨堂スタンダード評価
☆☆☆ 良
晴雨堂マニアック評価
☆☆☆☆ 名作 晴雨堂関連作品案内映画「沈まぬ太陽」オリジナル・サウンドトラック
クライマーズ・ハイ [DVD] 原田眞人
記者から見た御巣鷹山墜落事件を描いた映画。
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サラリーマン社会の大河ドラマ 渡辺謙氏が泣きながら舞台挨拶に臨んだだけはある。気合の入った内容だった。以前、「クライマーズ・ハイ」を観た時に物足りなさを感じたのだが、それが少しだけ解消された気分だ。
休憩時間が入ったのも良い。子供の頃に見た超大作を前にしているようで懐かしい気がする。よくスポンサーや配給会社が許したものだ。今は洋画も邦画も客入の回転を考慮して壮大な物語でも強引に2時間程度でまとめてしまう。
渡辺謙氏以外の出演者の顔ぶれも重みと厚みがあり、しかも配役は適材適所。特に良かったのは
三浦友和氏である。かつては主人公とともに労組を引っ張ってきた同志が経営者側へ寝返り、主人公がアフリカなどへ左遷されている間に出世して会社中枢へ加わる。彼の平凡な会社員的所作は巧いと思う。
演出も英断だ。三浦氏扮する行天は悪役なので、観客ウケと判りやすさを考えたら、お洒落な高級スーツに身をかためたエリートをアピールするようなキザなキャラにしたがるだろう。しかし現実にそんなステレオタイプなエリート社員はサラリーマン社会では個性的過ぎてベンチャー企業にはありえるが、巨大企業には少ない。本作はよくぞ堪えた。(余談1)
欲を言えば、行天の家族も出してほしかった。恩地の家庭はサラリーマンにとって理想でもある。特に好青年に成長した息子と牛丼屋で飯を食べる場面は父親冥利に尽きる。部下や後輩の指導に失敗してきた私にそんな経験ができるだろうかと、切なく羨ましくもなる。
対して行天はどうなっているのだろうか。原作では仰天の家庭は崩壊常態なのだが、私が制作者であれば行天も意外に立派な家庭を築いている事にする。汚職が追及されそうになったときに重要書類を家に持ち帰って家族総出で処分する場面を入れる。行天にも恩地と同じ歳頃の息子がいて、なんとかつて恩地とともに労組活動をやっていた頃の自分そっくりに育ち、NGO活動に熱心だった。親子で口論することもしばしば。
しかし父親の窮地に、満面を悔しさと憤りに染めながらも積極的に書類を処分する。そんな顔に母親は「なんて顔してんねん。お父さんに食べさせてもらっている事、よう考え!」と息子の心の傷口に塩を塗り込むような説教をする。それを行天は制して「すまんな、お前にこんな事させて」、息子は憤然と「仕方ないよ。理念より親が大事だ」と吐き捨てるようにいう。
実際にこんな場面入れたら物語のバランスが悪くなってしまうだろうが、私が制作者なら、稚拙で浮いたCG場面を入れるよりも行天をもっと味わい深く描くほうを選ぶ。やはり、サラリーマン社会で恩地みたいなキャラはスーパーマンに近いのだから。
批評家の中には「社会派ではない、会社映画だ」と皮肉る論調が見受けられる。だが、多くの日本人サラリーマンにとって会社は社会と同じなのだ。特に終身雇用制が生きていた時代は、会社に一生の多くの時間を割き家庭は仕事の疲れを癒す場でしかない。今みたいに転職が当たり前の時代ではなかった頃は、「転勤」ぐらいで仕事は辞めないし転職は社会的信用を失う行為だった。愛社精神とまでいかなくても、会社に愛着を持たなければ仕事などやってられない。会社と家庭を結ぶ世界がサラリーマンにとっての社会だった。(余談2)
この映画は、日本人サラリーマンのための大河ドラマであり、おそらく多くの日本人たちが共感し、自然に社会問題を受け入れられるテーマだと思う。
幸いにもこの数十年は国土が戦場になったことが無いし他国を武力で侵略したり国際政治を操ったことも無いためか、日本にはゲバラやカストロのような革命家は不在だし、ケネディやゴルバチョフのような国民的スーパースターもいない。
三里塚闘争や安田講堂をテーマにしても広範囲の日本人の共感は無理だ。松下幸之助や本田宗一郎では偉人のダイジェスト版になるし企業宣伝臭い。この「
沈まぬ太陽」あたりが日本人にとってちょうど良い。
(余談1)悪役として描かれるが、行天のようなタイプは至極平凡な会社員である。60年安保時代の労組なら恩地型リーダーは少なくなかったかもしれないが、経営者との対立を避けるようになった80年代以降の企業労組の委員長職は、係長から課長へ昇進するための待機ポストと化しているところが多い。委員長は時短などの待遇改善に消極的姿勢をとることで経営者側にとっては「残業や休日出勤に協力した」という実績となり課長へ進む。
(余談2)市民運動に参加していたとき街頭でビラまきをよくやったが、受け取ってくれる人の多くは還暦を過ぎた老人ばかりだ。最も関心を抱いてくれなかったのは、背広を着た30代40代の男性たちである。
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☆☆☆ 良
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