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ミカエル晴雨堂の晴耕雨読な映画処方箋

晴雨堂ミカエルの飄々とした晴耕雨読な映画処方箋。 体調に見合った薬膳料理があるように、 料理に合う葡萄酒があるように、日常の節目に合った映画があります。映画の話題をきっかけに多彩な生活になれば幸いです。詳しいレビューは「続きを読む」をクリックしてください。

「風と共に去りぬ」 ゴージャス気分を楽しむ時に〔8〕 

風と共に去りぬ」 
ハリウッド映画史上不朽の名作。

 
 
  
【原題】GONE WITH THE WIND
【公開年】1939年  【制作国】亜米利加  【時間】231分  
【監督】ヴィクター・フレミング
【原作】マーガレット・ミッチェル
【音楽】マックス・スタイナー
【脚本】シドニー・ハワード
【出演】ヴィヴィアン・リースカーレット・オハラ)  クラーク・ゲイブルレット・バトラー)  レスリー・ハワード(アシュレイ・ウィルクス)  オリヴィア・デ・ハヴィランド(メラニー・ハミルトン)  トーマス・ミッチェル(ジェラルド・オハラ)  バーバラ・オニール(エレン・オハラ)  ハティ・マクダニエル(マミー)  ジェーン・ダーウェル(ドーリー)  ウォード・ボンド(トム)  
         
【成分】ゴージャス ロマンチック 知的 切ない かっこいい アメリカ・ジョージア州アトランタ 1861年~1865年頃 
       
【特徴】「ベン・ハー」とならんでハリウッド映画の最高峰といってもよい大作。原作も「ベン・ハー」とならんでアメリカ文学史上のベストセラーにして不朽の名作。南北戦争当時の南部上流階級の正確な風俗が天然色フィルムで記録されているので歴史的価値がある。
 ただ、原作は1930年代の作品であり、マーガレット・ミッチェルの社会的ポジションから、白人の上から目線であるのは否めず、人権派や黒人勢力から根強い反発がある。
   
【効能】ゴージャスなアメリカンワールドを体感できる。
 
【副作用】黒人奴隷と地主制度を肯定しているように見え不快感。
 貧困に喘ぎホームレスになった訳でもない依然として地主階級にいるヒロインが何もかも失ったかのように絶望的になるのは笑止。
 
下の【続きを読む】をクリックするとネタバレありの詳しいレビューが現れます。記事に直接アクセスした場合は、この行より下がネタばれになりますので注意してください。  
なぜ「風と共に去りぬ」が名作なのか。
 
 「風と共に去りぬ」は「ベン・ハー」と並ぶアメリカ映画史上空前の大作である。が、初めて観た少年の頃はどうして「名作」なのか理解できなかった。
 
 まず、主人公スカーレット・オハラが性格ブスである。地主階級に生まれ何不自由なく育った御令嬢、しかも人格的に問題のある女性、これが主人公であるのが納得できなかったし、所詮は上流階級の他愛ない痴話喧嘩をもったいぶって壮大に巨費を投じて贅沢に映画化しているだけ、さんざん周囲の友人知人たちを振り回しもてあそんでおきながら、ラストは単に夫から三行半を投げ付けられただけ。
 別にホームレスへと零落れるわけでもなく、搾取され続けた小作人や奴隷が蜂起して報復リンチを受けた挙句に打ち首獄門に処せられる訳でもなく、取り合えず日々の食事は何とかなる健康で文化的な生活水準は維持しているのだ。つまらん、なんてつまらん物語を大仰に長々とみせられる、制作者のゴージャス趣味に長時間付き合わされて命削られた気分になった。
 
 少年時代に認めた価値は3つだけだった。1930年代でカラー作品、しかも4時間近い大長編だ。当時のカラーフィルムは感度も良くなく安定性もなくで高価だった。全編を通じ概ね光量の多い明るい場面が多いことに気がつくだろう。また同時期にヴィクター・フレミング監督が手掛けた「オズの魔法使」では予算の都合でやむを得ず夢の世界をカラーに現実世界は白黒にした。
 カラーフィルムを贅沢に使う作品に相応しく、南北戦争以前の繁栄した南部地主階級の生活を忠実に再現、豪華なロケセットに細部に至るまで行き届いた小道具や衣装、豊かなアメリカを象徴する贅沢な作品だ。(余談1)
 
 2つ目に認めたのは歴史的価値だった。先ほど南北戦争以前の地主階級の生活を再現と述べたが、本作が公開された当時はまだ南北戦争に従軍していた兵士たちが健在だった。これは現在(2010年)でいえば、第二次世界大戦時に出征された若い兵士たちが80・90のご高齢で健在なのに感覚が近い。つまり本作公開時の段階では南北戦争時の生活様式はまだ遠い過去の時代ではなかった。(余談2)だから、南北戦争時の南部上流階級の風俗が正確にカラーで再現できているので歴史的価値がある。
 
 そして3つ目、スカーレットの幼い娘が乗馬中の事故で命を落とすのだが、この場面が強烈だった。娘を止めてと叫ぶスカーレット、優しいパパのレットは「馬から落ちて泣いちゃうよ」と注意する。ところが落馬どころか、障害物に頭から激突してしまう。人形だろうか? 子供のスタントだろうか? それとも背の低い大人のスタントだろうか? いきなりの残酷場面に度肝を抜かれた。
 
 少年時代の私が本作で認めた価値はこの3点のみだった。しかし、不思議なものでこれも加齢とともに観方が変わっていき、あれほど嫌いだったスカーレット・オハラ嬢に今では愛着のようなものを感じている。彼女はあまりに自分に対して素直な生き方をしていたのだなぁと。
 スカーレットとレットとは対照的キャラのメラニーとアシュレは良妻賢母型と品行方正紳士、いま観ると息が詰まるくらい善人だ。ここまで善人ではストレスが溜まってしまうのではないか。
 
 少年時代から既にレット・バトラーの考え方には共感を抱いていたし、やがてスカーレットに対しても善人ぶらない正直さがかえって信頼できるようになる。レットのように深入りさえしなければ、面白い友情が築けるまではないか。
 
 そしてラスト、家族も友人も失ったスカーレットは人生に絶望しながらも「明日がある」とつぶやき生きていく場面、現代人ならば気分障害に陥ってもおかしくない状況で、自ら「明日がある」と裏付けの無い希望を引っ張り出す様に、今の私たちに欠けつつある生命力、生きる本能を感じる。これは感動する。(余談3)

(余談1)公開された1939年当時、言うまでもなく日米関係は険悪になりつつあり、最初の日本公開は戦後10年近く経ってからである。したがって戦時中はディズニーアニメと同じく日本人鑑賞者は占領地での軍関係者にほぼ限られた。
 
(余談2)原作者マーガレット・ミッチェル氏は1900年生まれなので19世紀半ばの時代のことは知らないが、親戚縁者から当時のことをよく聞かされていた。現代(2010年)でいえば、太平洋戦争のことをお爺さんお婆さんから聞かされたようなものか。
 
(余談3)吹き替えによっては「タラがある」になっていたと記憶している。
 
 そういえば、ヴィヴィアン・リー氏はクラーク・ゲイブル氏の口臭が凄くてラブシーンはかなり苦痛だったらしい。
 

 
晴雨堂スタンダード評価
☆☆☆☆☆ 秀
 
晴雨堂マニアック評価
☆☆☆☆ 名作

 
【受賞】アカデミー賞(作品賞)(1940年) NY批評家協会賞(女優賞)(1939年)
 

 

 
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ベンハーのが 私は いい作品と 思います。
風と共に去りぬ の ラストシーンのセリフの一部が どうも 好きになれない私です。あのセリフが いろいろな意味で考えさえられるのだけれど。時代によって 犯罪思考だとう思うんです。生きていくということ
[ 2012/04/09 18:09 ] [ 編集 ]
村石太レディ&ブッ太氏へ

 それは解るような気がしますね。 

> ベンハーのが 私は いい作品と 思います。
> 風と共に去りぬ の ラストシーンのセリフの一部が どうも 好きになれない私です。あのセリフが いろいろな意味で考えさえられるのだけれど。時代によって 犯罪思考だとう思うんです。生きていくということ
[ 2012/04/15 05:40 ] [ 編集 ]
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