「おとうと」
山田洋次監督、久々の現代劇。 【原題】【公開年】2009年
【制作国】日本国
【時間】126分
【監督】山田洋次 【原作】 【音楽】冨田勲
【脚本】 山田洋次 平松恵美子
【言語】日本語(東京方言 大阪方言)
【出演】吉永小百合(高野吟子)
笑福亭鶴瓶(丹野鉄郎)
蒼井優(高野小春)
加瀬亮(長田亨) 小林稔侍(丹野庄平) 森本レオ(遠藤) 茅島成美(-) 田中壮太郎(-) キムラ緑子(-) 笹野高史(丸山) ラサール石井(-) 佐藤蛾次郎(-) 池乃めだか(-) 小日向文世(小宮山進) 横山あきお(-) 近藤公園(-) 石田ゆり子(小宮山千秋) 加藤治子(高野絹代)
【成分】泣ける 笑える 楽しい 知的 切ない かわいい コミカル
【特徴】山田洋次監督久々の現代劇。
吉永小百合氏と
笑福亭鶴瓶氏の異色共演で評判。
蒼井優氏は娘役と語り部を担当する。
鶴瓶氏は自身のキャラから役作りしやすい大阪の大衆演劇の役者役、
吉永小百合氏はその姉で嫁いで東京へ移住して30年という設定なのでこれも役作りしやすい。ときおり台詞に出る関西イントネーションの標準語が綺麗だ。
鶴瓶氏が病で次第に身体が衰弱していく様を熱演している。
吉永小百合氏は実年齢より若い設定で演じているようだが、違和感が全く無い。
【効能】家族を省みるきっかけにできる。還暦過ぎとは思えない
吉永小百合氏の若さに感動。
【副作用】ステレオタイプの人物描写に食傷。
下の【続きを読む】をクリックするとネタバレありの詳しいレビューが現れます。
若い頃は嫌いだった山田洋次世界。 若い頃の私だったら、けっこう突込みを入れていたかもしれない。まず、家族観が古い。少し人間をステレオタイプに描く。
たとえば冒頭の結婚式、ヒロインの娘で語り部を担当している
蒼井優氏が伯父役の小林稔侍氏に促されて嫁ぐ挨拶をする。20代の私なら「いつの時代の話や」と嫌悪したかもしれない。
その結婚式に厄介者の叔父役鶴瓶氏が乱入、せっかくの披露宴を無茶苦茶にするのだが、新郎やその縁者たちが露骨に嫌悪の情を表す。20代の私なら「あの程度はまだ普通で面白い。いまどき嫌悪する奴いるか? 苦笑いするのが正しい反応だろう」と思った。
しかし加齢とともに感覚が変わってきた。というか世間を知るようになって認識も変わった。やはり伯父や新郎のような認識はまだまだ「一般常識」だ。
実際、私の姉が結婚したとき、新郎側の親戚衆に変な人がいないか父や伯父そして私自身も見渡し確認してしまった。ガラの悪い人や素行の悪い人が見当たらず父や伯父と一緒に安堵したものだ。映画では「変な叔父の遺伝子」を新郎側の親族が問題にしたようだが、おそらく遺伝子云々は象徴的な意味で使ったのであって、本当の意味は変な人との利害関係が不安なのだろう。現に
吉永小百合氏扮する姉は不肖の弟のために借金を肩代わりする事になる。
私の結婚式の場合、神社や教会ではあげず人前結婚で披露宴も兼ね礼服や祝儀は廃止して会費制の手作りスタイルを前面に出した。友人たちからは「お前にしては意外に世間一般のまともな結婚式だった」と言われたが、私の親戚や連れ合いの親戚から「奇を衒う」「非常識」といった具合に評判は良くなかった。いわゆる「仲間内」では叔父役鶴瓶氏のような乱入は大歓迎だが、親戚衆はやはり映画のような反応だろう。
映画でも
蒼井優氏扮する娘の1回目の結婚は私の親戚衆と同じ価値観で行われ、2回目は手作り感覚のお茶会スタイル(余談1)、同じ日本人でも明確に文化・価値観・常識は二極化している。
舞台は東京の下町と大阪の下町なのだが、大阪はイマイチ濃い大阪弁台詞は無かったように思う。これも突っ込んだかもしれないが、今はあんな感じかなと納得している。大阪の場面は主に医療関係の市民団体の施設が中心、その「業界」はけっこう地の人でも標準語的な話し方をする人が多いし、関東から「赴任」した人も少なくない。
山田洋次氏の世界は、デフォルメしているようで日本の標準を映している。それどころか、監督はけっこう右から左、上から下、十人十色の社会や人生というものを熟知しているのではないのかな、とこの頃は思ってしまう。そして大多数の日本人が納得し安心し癒される世界と展開を捉えている。
主役は
吉永小百合氏と鶴瓶氏、鶴瓶氏にとっては演じやすい人物設定だったが、寝たきりの場面は努力賞ものだ。
吉永小百合氏は演技云々以前に、存在そのものに価値がある。似たような綺麗な役しかやらない、との批判を耳にした事があるが、たとえそうであっても彼女のキャラそのものに価値があるのだ。実年齢では中山美穂氏くらいの娘がいてもおかしくないのだが、
蒼井優氏でも全く違和感がない。時々出る大阪のイントネーションも綺麗だ。
吉永氏は「次は夫婦役ですね」と言われて鶴瓶氏は嬉しがり各局のキャンペーンで自慢げに話しているが、私も楽しみ、是非その作品を見てみたいものだ。
(余談1)私の結婚式も当初は低予算のお茶会スタイルで済ますつもりだったが、親族の強い反対で折衷案を考えざるを得なかった。
私の姉や義弟をはじめ同世代の血縁者は親戚衆価値観による盛大な披露宴を行ったので、私たち夫婦だけが特異例となってしまった。
晴雨堂スタンダード評価
☆☆☆☆ 優
晴雨堂マニアック評価
☆☆☆ 佳作
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若い頃は嫌いだった山田洋次世界。 若い頃の私だったら、けっこう突込みを入れていたかもしれない。まず、家族観が古い。少し人間をステレオタイプに描く。
たとえば冒頭の結婚式、ヒロインの娘で語り部を担当している
蒼井優氏が伯父役の小林稔侍氏に促されて嫁ぐ挨拶をする。20代の私なら「いつの時代の話や」と嫌悪したかもしれない。
その結婚式に厄介者の叔父役鶴瓶氏が乱入、せっかくの披露宴を無茶苦茶にするのだが、新郎やその縁者たちが露骨に嫌悪の情を表す。20代の私なら「あの程度はまだ普通で面白い。いまどき嫌悪する奴いるか? 苦笑いするのが正しい反応だろう」と思った。
しかし加齢とともに感覚が変わってきた。というか世間を知るようになって認識も変わった。やはり伯父や新郎のような認識はまだまだ「一般常識」だ。
実際、私の姉が結婚したとき、新郎側の親戚衆に変な人がいないか父や伯父そして私自身も見渡し確認してしまった。ガラの悪い人や素行の悪い人が見当たらず父や伯父と一緒に安堵したものだ。映画では「変な叔父の遺伝子」を新郎側の親族が問題にしたようだが、おそらく遺伝子云々は象徴的な意味で使ったのであって、本当の意味は変な人との利害関係が不安なのだろう。現に
吉永小百合氏扮する姉は不肖の弟のために借金を肩代わりする事になる。
私の結婚式の場合、神社や教会ではあげず人前結婚で披露宴も兼ね礼服や祝儀は廃止して会費制の手作りスタイルを前面に出した。友人たちからは「お前にしては意外に世間一般のまともな結婚式だった」と言われたが、私の親戚や連れ合いの親戚から「奇を衒う」「非常識」といった具合に評判は良くなかった。いわゆる「仲間内」では叔父役鶴瓶氏のような乱入は大歓迎だが、親戚衆はやはり映画のような反応だろう。
映画でも
蒼井優氏扮する娘の1回目の結婚は私の親戚衆と同じ価値観で行われ、2回目は手作り感覚のお茶会スタイル(余談1)、同じ日本人でも明確に文化・価値観・常識は二極化している。
舞台は東京の下町と大阪の下町なのだが、大阪はイマイチ濃い大阪弁台詞は無かったように思う。これも突っ込んだかもしれないが、今はあんな感じかなと納得している。大阪の場面は主に医療関係の市民団体の施設が中心、その「業界」はけっこう地の人でも標準語的な話し方をする人が多いし、関東から「赴任」した人も少なくない。
山田洋次氏の世界は、デフォルメしているようで日本の標準を映している。それどころか、監督はけっこう右から左、上から下、十人十色の社会や人生というものを熟知しているのではないのかな、とこの頃は思ってしまう。そして大多数の日本人が納得し安心し癒される世界と展開を捉えている。
主役は
吉永小百合氏と鶴瓶氏、鶴瓶氏にとっては演じやすい人物設定だったが、寝たきりの場面は努力賞ものだ。
吉永小百合氏は演技云々以前に、存在そのものに価値がある。似たような綺麗な役しかやらない、との批判を耳にした事があるが、たとえそうであっても彼女のキャラそのものに価値があるのだ。実年齢では中山美穂氏くらいの娘がいてもおかしくないのだが、
蒼井優氏でも全く違和感がない。時々出る大阪のイントネーションも綺麗だ。
吉永氏は「次は夫婦役ですね」と言われて鶴瓶氏は嬉しがり各局のキャンペーンで自慢げに話しているが、私も楽しみ、是非その作品を見てみたいものだ。
(余談1)私の結婚式も当初は低予算のお茶会スタイルで済ますつもりだったが、親族の強い反対で折衷案を考えざるを得なかった。
私の姉や義弟をはじめ同世代の血縁者は親戚衆価値観による盛大な披露宴を行ったので、私たち夫婦だけが特異例となってしまった。
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