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ミカエル晴雨堂の晴耕雨読な映画処方箋

晴雨堂ミカエルの飄々とした晴耕雨読な映画処方箋。 体調に見合った薬膳料理があるように、 料理に合う葡萄酒があるように、日常の節目に合った映画があります。映画の話題をきっかけに多彩な生活になれば幸いです。詳しいレビューは「続きを読む」をクリックしてください。

「上海にかかる橋」 カップルで癒されたい時に〔17〕

上海にかかる橋」 
80年代の中国映画を代表する名作恋愛劇。

 
「大橋下面」病院からの帰り道の場面。
中国本土でも未ソフト化らしい。百度百科から参照。 
  
【原題】大橋下面
【公開年】1983年  【制作国】中華人民共和国  【時間】117分  【監督】白沈
【原作】
【音楽】劉雁西
【脚本】
【言語】中国語
【出演】龔雪(秦楠)  張鉄林(高志華)  王频(高志華の母)  殷新(肖云)  奇梦石(秦楠の父)  袁凯(高英華)  方超(冬冬) 
  
【成分】個人経営 開放政策 恋愛モノ 文革 80年代前半 中国上海    
       
【特徴】80年代から本格化した開放政策下の中国上海が舞台。現在の資本主義的ビル群が立ち並ぶ上海と違って、当時は戦前の街並みが殆ど残っている古き良き風景である。
 文革で迫害を受けた政治家・藝術家たちの復権を象徴する作品でもあるので、人民公社から「個人経営」へと移行する社会背景と地方へ下放された若者たちの心の傷と明るい未来への期待が全面に表れている。
 当時、若手俳優だった龔雪氏と張鉄林氏の素直で初々しい演技と、辛かった時代から明るい明日に向かって進むカップル像に癒される。
 現在の中国では古臭いと評価されているのか、ソフト化されていないようだ。
   
【効能】直向な若いカップルの姿に癒され未来が明るくなる。
 青年時代に恋人と過ごした一場面を思い出す。
 
【副作用】現政策の肯定と前政策の否定が露なので政治臭を感じ不快感。素朴な映画の舞台にひきかえ現在の華やか過ぎる上海に不快感。
 
下の【続きを読む】をクリックするとネタバレありの詳しいレビューが現れます。記事に直接アクセスした場合は、この行より下がネタばれになりますので注意してください。  
素直な演技の女優龔雪
誠実な演技の男優張鉄林
嗚呼、青春の上海。

 
 1983年の夏、小論文が採用されて大阪府教育委員会が主催する高校生中国派遣団に私は参加した。最初に訪問した都市が上海である。当時の上海は現在のような成金趣味の派手なビルは乱立しておらず、1930年代の街並みがそのまま残っているアンティークな大都市だった。
 
大橋下面 八十年代初頭の上海市街
 
 流暢に日本語を話すガイドは「中国はモノを大切にします。古い物も大切に活用しますのでご覧の通りの街並みが残っています」と説明した。私は捻くれた高校生だったので、古い街並みを大切にしているのは100%言い訳だろうと思っていた。それは上海万博を開催した現在の上海が私の正しさを証明している。
 
 当時の上海市民の風俗は今と大きく違う。男性は人民服に人民帽、夏は白い開襟シャツ、女性は人民服が開襟のジャケットに作業ズボンが大半だ。私たちを迎えてくれた上海の高校生たちも概ね同じ格好、ただ女生徒たちは清潔な白いブラウスに膝下5センチ丈のフレアスカートにヒールのあるサンダル姿だった。たぶん余所行きの格好なのだろう。髪も当然茶髪はいない。長く艶やかな黒髪だった。当時の私の目にはみんな直球ど真ん中の美人に見えた。
 
 さて本作の話に入ろう。私にとっても当時の上海は青春の思い出だった。その同時期の上海が舞台となっているのがこの「上海にかかる橋」(余談1)で、街並みは私か見てきた風景そのものである。
 主人公は陰のある若い女性秦楠(チンナン)、演じる龔雪(ゴンシェ)は若い頃の坂井和歌子氏に似ている。その秦楠に恋する男性高志華(ゴゥ・ジファ)が張鉄林氏(チャン・ティエリン)が扮する。今や清の皇帝役が板についているベテラン俳優だが、この当時はどこか若い頃のピーターに似ている。(余談2)
 
個人経営の秦楠と高志華
 
 時代は文革(余談3)が終わり、経済の建て直しのため開放政策へ舵を切り出した頃だ。人民公社など集団で計画的に生産を行う体制から資本主義的な要素を取り入れ個人商売を認めるようになった。2人の主人公も流行の個人商売を行う若者だ。秦楠は路上で裁縫店を営み、高志華は主にパンク修理などをするチャリンコ屋を始めている。
 
 冒頭、ジャケットにズボン姿の若い女性がキビキビと上海の下町を歩く、主人公秦楠だ。家に戻ると父親に食事を渡す。スープが入った大きなホーローの白カップに漬物1本だけという質素な朝ご飯。どうやら父親と2人暮らしらしい。父親を職場へ送り出した後、自分は足踏みミシンを表の路上に出して仕事を始めるが、通行の邪魔なのか度々往来するトラックから怒鳴られる。
 そこへ近所でチャリンコ屋を営む30歳の独身男性高志華が見かねて声をかける。「君のお父さん、小学校の頃の先生なんだ」と安心させ、「ウチの前なら広いから邪魔にならない。一緒に仕事しよう」と誘う。
 
 こうして2人は高志華の家の前で並んで仕事をするようになる。歳頃が同じで美人の秦楠に高志華は惹かれ、事あるごとに優しく接するが、秦楠は常に遠慮がちで他人行儀、ますます高志華は惹かれていく。彼の母親も秦楠を気に入り志華の嫁にと目をつける。ところが秦楠には秘密があった。幼い息子冬冬(ドンドン)を田舎の親戚にあずけて都会で働く訳ありシングルマザーだったのである。
 
 その後、お約束の波乱の数々が起こる。秦楠と高志華の共通の友人肖健がチャリンコの密売で逮捕される。秦楠は1人暮らしをする彼の妹肖雲が心配になり見舞いに行くと、生まれつき足に障害を持つ彼女は松葉杖を引きずりながら賢明に前向きに生きている姿に心を打たれ、自分も世間の目を気にせず堂々と息子冬冬を連れてシングルマザーであることを周囲に明らかにする。動揺する高志華とその母親、近所の苛めっ子が冬冬を苛める。苛めっ子の母親がヒロインを偏見の目で見る。

秦楠と高志華と子供
 
 ギクシャクした日々が続き、秦楠と高志華の間に不穏な空気が流れかけるが、高志華は冬冬の父親になることを決意、冬冬の交通事故がきっかけで急速に秦楠と張志華の距離が縮まり、志華の母親もわだかまりを捨て話が大団円へ。
 秦楠は最後に自分の全てを理解してもらおうと、高志華へ今までの経緯を書いた手紙を渡す。下放(余談4)時代に同じ境遇の男性と知り合った事、その男性と子供をもうけたこと、文革が終わって男性は親戚を頼り1人カナダへ出国しまったこと、そして男性は自分を捨てたこと。
 
未来を信じる2人 
希望に満ちる秦楠
 
 その晩、高志華の自宅兼チャリンコ工房で2人は机挟んで話し合う。この場面はもっとも感動した。2人は微笑みながらお互いを見つめあう。明るい未来を信じ、2人で明日を切り開いていこうとする決意の顔。
 ラストは、高志華が作った三輪車に冬冬を乗せ親子3人で上海の街を歩く場面へとうつりエンドロール。カメラは次第にズームアウトしてまだ背の低い建物しかない大都市上海の街並みを俯瞰で写すところで「劇終」。
 
 当時の中国映画なので、セックス場面を入れたがるハリウッドやフランス映画と違い、いたってプラトニックな描写だ。それが2人の直向さ誠実さを強調して感じの良い恋愛物語にしている。
 人によっては文科省選定の反差別の同和教育映画的に見えるかもしれないが、私は作中の二人のようにささやかな幸せを素直に求めたい。

家族として歩く3人
 
 
(余談1)原題は「大橋下面」、中国大陸部で使用されている簡体字を使うと「大桥下面」、大きな橋の下という意味だ。橋の下でひたむきに生きる若者たちへの思いを込めているのか?
 
(余談2)奇しくも、2人とも中国から離れてしまった。龔雪氏はアメリカへ移住し、張鉄林氏は国籍をイギリスに遷した。
 張鉄林氏は当時「西太后」で皇帝の弟役でも出演していて、当時から比較的日本でも知られた俳優だった。
 
(余談3)アメリカやヨーロッパの市民が反戦平和運動で盛り上がり日本が安保闘争に明け暮れた60年代、中国では文化大革命が行われていた。資本主義的な権力者を打倒して真の社会主義を建設する理想に燃えた運動だったが、実は江青らが毛沢東を担ぎ上げて行った権力闘争だった。これにより、多くの知識人が迫害を受け経済が停滞する。
 
(余談4)都市偏重になりがちな「資本主義的」流れを断ち切るため、知識人・学生・若者を地方の経済的後進地域や国境近くの寂れた地域に派遣する運動を「下放」といった。 
 
晴雨堂スタンダード評価
☆☆☆ 良
 
晴雨堂マニアック評価
☆☆☆☆☆ 金字塔

 
【受賞】第4回金鶏賞最優秀主演女優賞 第7回百花賞最優秀女演員賞
 

 
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