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ミカエル晴雨堂の晴耕雨読な映画処方箋

晴雨堂ミカエルの飄々とした晴耕雨読な映画処方箋。 体調に見合った薬膳料理があるように、 料理に合う葡萄酒があるように、日常の節目に合った映画があります。映画の話題をきっかけに多彩な生活になれば幸いです。詳しいレビューは「続きを読む」をクリックしてください。

「ヒトラーの旋律」 社会を冷笑したい時に〔34〕 

ヒトラーの旋律」 
ヒトラー ~最期の12日間~」の
シュペアー軍需相”が
ユダヤ人警察長官役を好演。

 
 
  
【原題】GHETTO
【公開年】2006年  【制作国】立陶宛 独逸  【時間】110分  
【監督】アウドリアス・ユツェナス
【原作】ジョシュア・ソボル
【音楽】アナトリユス・センデロヴァス
【脚本】ジョシュア・ソボル
【言語】イングランド語
【出演】ハイノ・フェルヒ(ゲンツ長官)  エリカ・マロジャーン(ハイヤ)  アイリダ・ギンタウタイテ(-)  セバスティアン・フールク(-)
  
【成分】ゴージャス パニック 恐怖 知的 絶望的 セクシー 劇団 ゲットー ユダヤ人虐殺 ナチスドイツ リトアニア 1940年代前半
       
【特徴】リトアニアとドイツの合作。出演俳優の多くは日本では知られていないが、ハイノ・フェルヒ氏は「ヒトラー ~最期の12日間~」でシュペアー軍需相を好演、実際のシュペアーに酷似している事でも評判だった。本作では若いナチスドイツの将校にへつらうユダヤ人警察長官役を担当する。

 欧米で大量に制作されているナチスドイツのユダヤ人迫害モノ。リトアニアにあるユダヤ人ゲットーが舞台というのが珍しいか。
 ゲットーの支配者であるナチスドイツの少年のような若い将校とユダヤ人を取りまとめる中年のユダヤ人警察長官との緊張感ある主従関係が見もの。
 ゲットー内の劇団が主役のようなものなので、様々な節目に巧みな舞台劇と歌が織り込まれている。ミュージカルとしても楽しめるかもしれない。
   
【効能】暴力を背景に凶暴性を内にある事あからさまな権力者との駆け引きを楽しめる。
 
【副作用】よくあるステレオタイプなユダヤ人迫害モノでマンネリを感じる場合がある。もともと舞台劇なので映画的にスケールの乏しさを感じてしまう。
 
下の【続きを読む】をクリックするとネタバレありの詳しいレビューが現れます。記事に直接アクセスした場合は、この行より下がネタばれになりますので注意してください。  
リトアニア・ゲットーの悲劇。
  
 第二次大戦モノである。ユダヤ人迫害モノである。使い古されたネタである。ユダヤ人作家が描いた戯曲が原作らしいので、フィクションである。
 
 時代考証的にも誤りが幾つかある。例えば、ゲットーを支配するドイツの若い役人が武装親衛隊ではなくドイツ国防軍陸軍中尉の制服を着ていること。国防軍とは戦争専門の特化した機関であり、武装親衛隊は正確には「軍隊」ではなく行政官僚から軍事までやってしまう特殊な機関である。ゲットーの管理は行政部門なので普通は国防軍が絡むことが無い。物語的にはどうでも良いことなのだが。
 
 制作はドイツとリトアニアの合作。出演者は殆ど日本では知られていない俳優ばかり。ヒロインのエリカ・マロジャーン氏と主役の1人で苦悩するユダヤ人警察長官役のハイノ・フェルヒ氏くらいだろう。ハイノ・フェルヒ氏はあの「ヒトラー ~最期の12日間~」でシュペアー軍需相を好演した事で世界的に有名である。実際のシュペアーにそっくりだった。本作では堂々とした所作のナチスの高官から一転して迫害される側の役をする。しかも穏便に丸く収めるタイプのキャラなので、同胞からも突き上げられ批難される可哀相な役だ。
 
 本作のテーマはもちろん苦難のユダヤ人とナチスドイツの糾弾だが、社会派映画でもなければスペクタクル戦争映画でもない。面白さは支配者であるドイツ軍将校とユダヤ人同胞を取りまとめる立場のユダヤ人警察長官との緊張感ある駆け引きだろう。
 まだ士官学校を出て間もない20代前半の少年のようなドイツ軍指揮官がゲットーの支配者として赴任する。ゲットーでユダヤ人たちを取りまとめているのが警察長官、おそらくドイツ軍将校から見れば父親くらいの年齢だろう。
 
 ドイツ軍のキッテル中尉は典型的な凶暴性を発揮する未熟な精神のナチ支配者として描かれている。悪魔のようにユダヤ人への虐待を部下に命じたかと思えば、突然ユダヤ人の境遇に理解があるかのように振舞う。ヒロインの若いユダヤ人女優に対しては紳士的になったりもする。
 警察長官はそこに希望の光を見たのだろうか? 若い中尉に対し敬意を表して従順な執事のように侍る。中尉もそれに応えるかのように警察長官を信頼する体を見せる。中尉との友好関係を維持してゲットー内の同胞を守ろう、それは中盤の中尉臨席による舞台劇公開のイベントへと結実した。
 しかしドイツ軍の対ソ戦線が崩壊し旗色が悪くなってくると中尉には温厚でいられる余裕が無くなる。
 
 ちょっとした山場で中尉は「上からの命令でユダヤ人を処分しなければならない」と警察長官に相談を持ちかける。「このゲットーは君たちのためにも維持しなければならない。そこで年寄や犯罪者など若干名を連行して処刑し、上の命令を聞く振りをする。どうだ?」
 警察長官は「賢明な御判断です」と評価し処刑要員の人選を喜々として行う。後日、そのことで同胞から「裏切り者!」と吊るし上げにされ、「俺は同胞を守るためなら幾らでも泥を被ってやる!」と叫んでも周囲は冷ややかな目で見る。
 結果をいえば、そんな苦悩の警察長官の努力は全て無駄になる。
 
 「ヒトラー」でもヒトラーの腰巾着と見られていたシュペアーを演じたハイノ・フェルヒ氏の愚直な演技を楽しもう。(余談1)
  
(余談1)ラスト、中尉の命令でゲットー内の劇団が渾身の風刺劇を披露する。キッテル中尉はご機嫌に笑いながら藝術の理解者として褒め称え、切っていない焼きたての食パンと樽詰めの苺ジャムが一杯に詰まれた荷車を兵士に運ばせ、劇団員たちに褒美として与える。
 一時は死を覚悟した団員たちは次第に緊張が緩み香ばしいパンと甘いジャムに舌鼓を打つが、これはキッテルがとるいつものフェイントだった。
 
 といった場面があるのだが、ジャムは樽詰めの保存食なんだ、というのが判る場面でもある。日本ではパンに塗る甘味料・調味料のカテゴリーだが。
 あまり映画の主題とは関係ないのだが、しかしこういった細かいところを注意して鑑賞することで、世界各国や民族の風土と人情・文化と価値観を知るきっかけになる。
 
 たまに映画愛好を「現実逃避」と批判する輩がいるが、それは映画のもつ一断面を指摘しているに過ぎない。映画は一方で浮かれている輩に精神的ビンタを食らわせて現実を疑似体験させる効果もある。鑑賞の仕方を工夫すれば情報の宝庫にもなる。
 様々な視点で観れば、1つの作品から様々な背景が浮き彫りになるときがある。作品の価値は制作者の能力だけでなく、鑑賞する側の姿勢でも左右される。
  
 どんな「クズ映画」でも観方によっては価値が出てくる。それを短兵急に小馬鹿にしたり否定する考えは危険である。

 

 
晴雨堂スタンダード評価
☆☆☆ 良
 
晴雨堂マニアック評価
☆☆☆ 佳作

 

 
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JUGEMテーマ:映画 制作年:2004年  制作国:ドイツ・リトアニア  上映メディア:劇場未公開  上映時間:107分  原題:Ghetto  配給:彩プロ  監督:アウドリアス・ユツェナス  主演:ハイノー・フェルヒ      エリカ・マロジャーン      ゼバ...
[2010/12/04 19:30] La.La.La
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