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ミカエル晴雨堂の晴耕雨読な映画処方箋

晴雨堂ミカエルの飄々とした晴耕雨読な映画処方箋。 体調に見合った薬膳料理があるように、 料理に合う葡萄酒があるように、日常の節目に合った映画があります。映画の話題をきっかけに多彩な生活になれば幸いです。詳しいレビューは「続きを読む」をクリックしてください。

「陰獣」 知的興奮を楽しもう〔10〕

陰獣」 
フランス人から見た江戸川乱歩世界。

 
 
  
【原題】INJU, LA BETE DANS L'OMBRE
【公開年】2008年  【制作国】仏蘭西  【時間】105分  
【監督】バーベット・シュローダー
【原作】江戸川乱歩
【音楽】ホルヘ・アリアガータ
【脚本】ジャン=アルマン・ブグレール フレデリック・アンリ バーベット・シュローダー
【言語】フランス語 日本語
【出演】ブノワ・マジメル(アレックス)  源利華(玉緒)  石橋凌(茂木)  西村和彦(-)  藤村志保(-)  菅田俊(刑事)
  
【成分】ゴージャス 不気味 知的 セクシー
         
【特徴】江戸川乱歩陰獣」の実写映画化、一応77年公開「江戸川乱歩陰獣」のリメイクになるか。
 フランス映画なのでフランス人に感情移入しやすいよう主人公はフランス人作家に変更、フランス人の興味を惹きやすいようヒロインは京都の芸子に変わっている。個人的には江戸川乱歩の淫靡なミステリー世界がほぼ再現されていると思う。
 ソフトやポスターのパッケージでは激しいSMプレイを思わせるポルノを連想しそうだが、官能描写はスパイス程度、知的興味をくすぐられる佳作となっている。
 ヒロインには、フランス在住の後藤久美子氏や同期の宮沢りえ氏が候補にあがっていたが、日本では殆ど無名のフランスで活躍しているモデル源利華氏が監督の肝煎りでヒロインを務める。
   
【効能】知的な退屈しのぎになる。
 
【副作用】ポルノ的描写を期待した人はガッカリ。
 
下の【続きを読む】をクリックするとネタバレありの詳しいレビューが現れます。記事に直接アクセスした場合は、この行より下がネタばれになりますので注意してください。  
源利華、て誰?
  
 この作品は私が知る限り過去2回作品化されている。1つはあおい輝彦氏と香山美子氏主演の70年代後半に発表された映画。(余談1)あと、80年代半ばにテレビ朝日の2時間ドラマで天知茂氏が明智小五郎に扮して活躍するシリーズでも実写化されている。
 
 結論から述べると、江戸川乱歩世界はほぼ綺麗に描写されているのでは、と私は思った。フランス版リメイクにあたって、フランスの観客に感情移入しやすいよう主人公はフランス人に、フランス人の興味を引き易い様にセレブな人妻静子が芸子玉緒に変更されている事を除けば、いや、むしろ設定として江戸川乱歩の淫欲世界がより引き立つ。外国人、すなわち部外者が日本の江戸川乱歩世界に誘われ迷い込み戻れなくなる転落の様が強調され、それによって乱歩の猟奇淫靡性が増すからだ。(余談2)
 
 本作の冒頭は1950年代の京都のような雰囲気、トラディショナルなパトカーから少し古いデザインの背広を着たイケメン刑事が現れ御茶屋に踏み込む。和服美人の芸子さんに声をかけると首がもげる。羽織袴に天狗の面を被った犯人が現れ、とっさに拳銃弾を数発放つと犯人の姿は鏡のように割れ、裏から縄で縛られた和服姿の恋人が血を流して倒れる。犯人が鏡を使った罠だった。背後から犯人が姿を現す、怒りに燃える刑事は日本刀を抜き犯人と鍔迫り合いを展開するが、返り討ちとなり刑事の生首が目を開いて死んでいる恋人と見つめ合うように転がる。
 
 場面は急に現代のフランスの大学にある視聴覚室にうつり、フランス人主人公が学生に向かって日本の謎の怪奇推理小説家大江春泥について講義を続ける。冒頭の場面はゼミの教材として上映した大江春泥原作の日本映画だったのだ。
 掴みはOKだと思う。江戸川乱歩が活躍したのは昭和初期から戦後の昭和30年代、日本人にとっては乱歩らしい雰囲気であり、フランス人に乱歩世界を紹介する効果がある。
 
 大江に敬意とライバル心を抱くフランスの作家は、自分の作品のプレゼンのため来日、御茶屋で編集者の接待を受けているとフランス語がやけに流暢な謎の芸子玉緒と出会う事から原作に沿った展開で主人公は事件に巻き込まれ転落が始まる。
 
 さて問題のヒロイン玉緒役は源利華氏が務めたのだが、私には初めて聞く名前だ。パリを拠点にモデルやダンサーをしているらしく現地ではミュージシャンのPVで知られた人物らしい。なるほど、それでフランス語が流暢なのだ。
 本作ではDVDパッケージにも紹介されているように、色白スレンダーな身体を披露する。ヨーロッパ人が日本的美人と思ってしまう顔つきなのだろうか、美人タイプだとは思うが日本の芸能界には珍しいタイプである。
 
 噂によると中山美穂氏・後藤久美子氏・宮沢りえ氏も候補として名乗りをあげていたらしいが、監督は源利華氏を頑なに惚れこんだという。
 中年のスケベ心を正直に申せば、宮沢りえ氏や後藤久美子氏があわれもない姿で縛り付けられ、鞭でしばかれる姿を観たかった・・。
 
(余談1)この映画では日活ロマンポルノ「東京エマニエル夫人」で有名な田口久美氏がバストぽろりする、と記憶しているが違ったかな。

(余談2)「陰獣」はあの伝説の雑誌「新青年」で発表され、部数拡大に貢献した。「新青年」に該当する雑誌は現在の言論界には見当たらない。強いていえば、「週刊プレイボーイ」に文藝色を濃くしたような感じか。
 1920年代から30年代にかけて日本の最先端サブカルチャーを牽引した雑誌として伝説となっていて、多くの編集者たちの憧れの存在でもある。「ドグラ・マグラ」の夢野久作も執筆陣に加わっていた。
 
 小学生の頃、江戸川乱歩氏といえば、明智小五郎と少年探偵団が怪人二十面相と立ち向かう少年少女モノ冒険小説を書くイメージがあった。端的にいえば子供だまし小説と決めてかかっていた。
 ところが、テレビ朝日「土曜ワイド劇場」の人気シリーズ、天知茂氏の明智小五郎を観てから、江戸川乱歩の作品はかなり面白いかも、と認識を新たにして原作を読むようになった。
 

 
晴雨堂スタンダード評価
☆☆☆ 良
 
晴雨堂マニアック評価
☆☆☆ 佳作

 
晴雨堂関連作品案内
江戸川乱歩の陰獣 [DVD] 加藤 泰 仲倉重郎
  

 
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