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ミカエル晴雨堂の晴耕雨読な映画処方箋

晴雨堂ミカエルの飄々とした晴耕雨読な映画処方箋。 体調に見合った薬膳料理があるように、 料理に合う葡萄酒があるように、日常の節目に合った映画があります。映画の話題をきっかけに多彩な生活になれば幸いです。詳しいレビューは「続きを読む」をクリックしてください。

「第9地区」 社会を冷笑したい時に〔35〕

第9地区」 
ナンセンスギャグ満載のSF名作。
晴雨堂推薦2010年日本公開映画最優秀作

 
 
  
【原題】DISTRICT 9
【公開年】2009年  【制作国】亜米利加 新西蘭  【時間】111分  
【監督】ニール・ブロンカンプ
【原作】
【音楽】クリントン・ショーター
【脚本】ニール・ブロンカンプ テリー・タッチェル
【言語】イングランド語
【出演】シャールト・コプリー(ヴィカス・ファン・デ・メルヴェ課長)  デヴィッド・ジェームズ[俳優](クーバス大佐)  ジェイソン・コープ(グレイ・ブラッドナム/クリストファー・ジョンソン)  ヴァネッサ・ハイウッド(タニア・ファン・デ・メルヴェ)  ナタリー・ボルト(リヴィングストン)  シルヴァン・ストライク(-)  ジョン・サムナー(-)  ウィリアム・アレン・ヤング(ダーク・マイケルズ)  グレッグ・メルヴィル=スミス(-)  ニック・ブレイク(モラヌー)  ケネス・ンコースィ(トーマス)
  
【成分】笑える スペクタクル パニック 勇敢 知的 絶望的 かっこいい コミカル SF 戦争 バイオレンス アパルトヘイト 南アフリカ ヨハネスブルク
            
【特徴】アパルトヘイトの南ア上空に巨大宇宙船、宇宙船乗組員たちが新たなアパルトヘイトの対象に。社会風刺とナンセンスギャグが機関銃のように出てくるバイオレンス・スプラッタ・SF・コメディ映画。
 「スターシップ・トルーパーズ」「アイアンマン」「ブレードランナー」「第五惑星」「エイリアン」「アバター」などの良さを効率よくミックスさせて新機軸物語へと昇華させた名作である。個人的には「アバター」より秀作だと思っている。
 ブロンカンプ監督と主演のシャールト・コプリー氏は高校時代の友人、これも監督と主演者のタッグが活きた作品か。
    
【効能】スカッと爽やか残酷ドンパチ映画。社会風刺に満ちて人間社会の冷酷さを体感できる。
 
【副作用】残酷・不潔のおぞましい映像にしか見えない。
 
下の【続きを読む】をクリックするとネタバレありの詳しいレビューが現れます。  
私は「アバター」より秀作だと思う。
  
 作品の評価基準、大雑把にいってしまえば「観て面白い」と感じたものは佳作であり、感動させられたり予想外の展開に唸らされたら名作になる。その「面白い」と感じる基準や「感動した」「予想外の展開に唸る」基準は十人十色であり、同じ人間でも観たときの精神状態で変わってくる。
 
 この手の作品の場合、私はまずハードSF(余談1)的な完成度と投資予算の規模を考慮する。「アバター」の場合は予算規模が大きく、采配はキャメロン監督なので評価基準はかなり高くなる。「アバター」ほどの資本と人材を投入すれば、金字塔的映画として世界的ヒットは当然、かつての「タイタニック」と同程度の映画では凡作に見えてしまう。
 しかし本作は、ピーター・ジャクソン氏が制作に絡んではいるものの、監督や出演者はあまり日本で知られていない者ばかり。人件費は比較的安価だったと思う。 
 
 「アバター」は文明批判的要素をストレートに出した生真面目な物語だが、本作はユーモアたっぷりで最初は喜劇的内容で話が進むのかと思った。
 冒頭はドキュメンタリー映画風に、関係者のインタビュー映像の連続という形で話が進んでいく。CGが発達した現代、南ア・ヨハネスブルグ上空のリアルな巨大宇宙船や宇宙人の映像にはあまり驚かない。むしろ話の展開や台詞のリアリティに惹かれていく。掴みをドキュメンタリー風展開にしたのは効果的だった。
 
 宇宙人の設定は節足動物的風体で、社会構成も蟻か蜂の様なものなのだろう。指令を出すごく少数の指導的個体をのぞけば他は知性の無い働き蟻のよう、しかもリーダー不在のようで統制が取れておらず、宇宙船を修理する様子も無い。
 だから人類よりはるかに進んだ科学技術を有しながら、難民として地球人の管理下に置かれ、アパルトヘイト廃止前の南アに於いては最下層の黒人より下の階層に甘んじ劣悪な難民キャンプでの生活を強いられる。上空には科学の粋を凝らした巨大宇宙船が浮かんでいるのに、その下で腐臭が漂いそうな不潔な掘っ立て小屋で宇宙人たちは這うように生きている。
 
 南ア社会にとっては、知性が感じられない海老のような宇宙人が新たなアパルトヘイトの対象となった。本作の主人公は、宇宙人の難民を管理する部署の白人課長ヴィカスと、おそらく宇宙人社会では中間管理職で技術を担当していただろう赤い半纏を着た宇宙人親子である。(余談2)
 前半は、終始笑顔でひょうきんに武装部隊と協力して第9地区から新たな収容所へ難民を移動させる仕事をこなすヴィカスの姿が映される。ユーモアある展開で進むと思いきや、ヴィカスがある液体を浴びてから話が急激にシリアスな内容(だけどナンセンスギャグ的センスが常に光っている)となり、赤い半纏の宇宙人とパートナーシップを組んで政府軍とギャング団との三つ巴の激しい銃撃戦を展開する。
 
 面白さは、「スターシップ・トルーパーズ」「アイアンマン」「ブレードランナー」「第五惑星」「エイリアン」「アバター」などの良さを効率よくミックスさせて新機軸物語へと昇華させた感じだ。
 ヴィカスが宇宙人のパワードスーツに乗り込んで政府軍と闘う様は、「アイアンマン」のロバート・ダウニー氏より親近感と格好良さがあって好きである。
 
 個人的に「アバター」よりも面白いと思っている。遥かに社会批判性とユーモアが効いていて、それでもって新人監督による低予算映画、あまり有名でない俳優たち、これはけっこうSF傑作だと思う。
 
(余談1)ハードSFとは、科学考証として誤りの無い内容を指す。例えば「2001年宇宙の旅」はハードSFだが、「スターウォーズ」はSFファンタジーだ。ハードSFには科学的知識は不可欠だが、SFファンタジーは時代劇や神話の舞台を単に宇宙空間にすり替えただけでも成り立つ。
 
(余談2)明らかに他の宇宙人と異なり知性がある。たぶん働き蟻的な他の同胞と違って技術を担当する中間管理職的なポジションではないかと思う。ちょうど人間社会ではヴィカスに相当するあたりか。
 

 
晴雨堂スタンダード評価
☆☆☆☆ 優
 
晴雨堂マニアック評価
☆☆☆☆☆ 金字塔

 
【受賞】LA批評家協会賞(美術賞)(2009年)
 

 
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