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ミカエル晴雨堂の晴耕雨読な映画処方箋

晴雨堂ミカエルの飄々とした晴耕雨読な映画処方箋。 体調に見合った薬膳料理があるように、 料理に合う葡萄酒があるように、日常の節目に合った映画があります。映画の話題をきっかけに多彩な生活になれば幸いです。詳しいレビューは「続きを読む」をクリックしてください。

「ナチス・ゾンビ 吸血機甲師団」 おバカになって愉快になろう〔28〕 

ナチス・ゾンビ 吸血機甲師団」 
ゾンビに感情が芽生えた感動巨編!

 
ナチスゾンビ 日本版.jpg
(絶版) 

【英題】ZOMBIE'S LAKE
【公開年】1980年  【制作国】仏蘭西 西班牙  【時間】87分  
【監督】J・A・レイザージャン・ローラン
【原作】
【音楽】ダニエル・ホワイト
【脚本】ジュリアン・エステバン ジェス・フランコ
【言語】イングランド語
【出演】ハワード・バーノン(町長)  ピエール・エスクーロー(ドイツ兵)  アノチカ(ヘレナ)  アントニオ・メイアンス... Morane (as Robert Foster)  ナディネ・パスカル(ヘレナの母)  Youri Radionow ... Chanac  ギルダ・アランシオ(金髪ギャルの泳者)  マルシア・シャリフ(カチュア)  バート・アルトマン(イボンヌ・ダニー)  Jean Rollin ... Stiltz  Edmond Besnard ... Promizoulin
  
【成分】笑える 泣ける 勇敢 セクシー パニック 不気味 切ない ゾンビ フランス 1944年頃~1950年代半ば 第二次大戦 ドイツ国防軍 レジスタンス
               
【特徴】第二次大戦中のフランス、レジスタンスによって皆殺しにされ湖に遺棄されたドイツ兵の遺体が10年後にゾンビとなって甦り、近隣の村人の特に20歳前後の若い女性を狙って襲う。
 ゾンビ映画で著名なジャン・ローラン氏がJ・A・レイザー名義でメガホンをとった珍味中の珍味映画。今でこそ感情のあるゾンビも当たり前に登場するが、本作はそのハシリかもしれない。ドイツ兵とフランス女性の間に生まれた子供が戦後10年あまり経ってゾンビと化した父親に再会し親子である事をお互いに確認し合う涙の場面がある。なんとそのゾンビは父親の記憶があり、仲間のゾンビが少女に襲い掛かったら守って格闘する感動シーンすらある。さすがはジャン・ローラン監督。
 制作陣がゴタゴタしていたようで、驚くほど低予算・短期間で制作された伝説映画。観ていても安っぽい場面のオンパレード、B級以下映画が好きな人にはたまらない作品である。
    
【効能】ゾンビとなっても子を思う気持ちを抱き続ける悲劇のドイツ兵に涙する。20歳前後の若く綺麗な女性の全裸が執拗に登場するため、一部の鑑賞者には目の保養になる。素人の自主制作のような出来栄えに映画ファンの情熱がくすぐられる。
 
【副作用】いかにも手抜き露な映画に時間と金銭の喪失感を味わう。
 
下の【続きを読む】をクリックするとネタバレありの詳しいレビューが現れます。記事に直接アクセスした場合は、この行より下がネタばれになりますので注意してください。  
切ないゾンビ兵士たちの成仏映画
 
 まず、面白く感じたのはタイトルだ。英語のタイトルはシンプルに「ZOMBIE'S LAKE」すなわち「ゾンビの湖」か「ゾンビがいる湖」でしかない。それを「ナチスゾンビ 吸血機甲師団」などと大仰にぶち上げるところが笑える。
 日本版VHSソフトのパッケージには、第二次大戦中のドイツ国防軍の制服を着用した数名のドイツ兵が写っている。全員、絵の具の青を思いっきり顔に塗りたくったようなメイク、ゾンビというよりゾンビの扮装をしたコスプレか仮装行列にしか見えない。これに日本語タイトル「吸血機甲師団」なんてあると、内容の安っぽさは観る前から明らかだ。
 
 果たして、予想に違わず安直で陳腐で手抜きが露わの場面が機関銃のように出る。森の中の湖に20歳前くらいの少女が服を脱ぎ捨て全裸で泳ぎだす。湖底からその少女を狙う黒い影、第二次大戦中のドイツ国防軍制服を着たゾンビが襲い掛かる。このパターンがラストまで続く。
 設定としては、第二次大戦中に舞台となっているフランスのとある田舎町に駐屯してきたドイツ軍の1小隊、町の住人たちがレジスタンスに豹変して皆殺しに、遺体は町外れの森の湖に遺棄する。それが戦後10年余り経ってゾンビとして甦り町に復讐する、という話らしいのだが、襲っているのは何故かハイティーンから20歳くらいまでの若い女性ばかり。しかも全裸女性が多い。
 
 いくら若い裸の女性をゾンビが襲う絵はB級ゾンビ映画の定番とはいえ、盛り沢山が過ぎる。くだんの湖は中世から続く忌まわしい風習で呪われた場所ではなかったのか? その呪いでドイツ兵の遺体がゾンビになって犠牲者が出始めているのではなかったのか? なのに懲りずに美女の一団がまた湖にやってきて、服を全部脱ぎ捨てて水泳を楽しむ。そしてゾンビの餌食になる。
 ゾンビたちは郊外の森から町中に侵入し、やはり男性よりも女性を襲う。町が大騒ぎしているのに呑気にガートルの位置を直している間に噛み付かれたり、庭先に大きなタライに水をはって行水をしている美女が襲われ血をすわれたり、ゾンビが人を襲う場面をカメラに収めるのに夢中になった女性ジャーナリストが数名のゾンビに寄って集って噛み付かれたり。
 むしろ低予算ながら容姿端麗のハイティーンの美少女たちを大勢集めたことに感心する。アメリカのB級未満なら、どう見ても子供2・3人は産んでそうなオバサンが女子高生役で大勢登場してドン臭い演技をするだろう。

 パッケージのゾンビたちを観れば判る様に、メイクは素人の自主制作映画レベル、単なる青塗りのゾンビたちである。パッケージに登場するゾンビたちだけあって顔・首筋・手と衣装から覗いている部分全てに青塗りを施しているが、それでも目の周りなど塗れていない部分が確認できる。作中ではなんと首筋のメイクが剥げていたり、ところどころ人間臭いのだ。
 当然、邦題にあるような「機甲師団」なんて登場しない。ゾンビが戦車を操って町に大挙押し寄せるのなら見応えあるホラーアクションになるのだが、とてもそんな絵を撮れるほどの予算規模ではない。ゾンビといえば生きている人間の腹を食い破り臓物を引きずり出す場面が定番だが、そんな絵を撮る予算すら無いのか、「吸血機甲師団」らしく美女の首筋に噛み付いて血を啜る真似をするだけだ。
 時代考証も怪しい。戦後10年強の設定のはずなのに、どう見ても町の風景やファッションや自動車などは70年代のものだ。だいたい、ゾンビたちは10年も湖に浸かっているのに軍服の保存状態が良すぎる。ジャックブーツなんか水でふやけてボロボロになっているはずなのに綺麗だ。
 低予算といえば、ゾンビたちの生前の場面が大仰だ。分隊規模のドイツ兵たちが来襲する敵を迎え撃つシーンなのだが、やたら効果音が賑やかだ。いかにも素人の自主制作戦争映画、編集時に既成の銃撃効果音を貼り付けたような感じだ。
 
 悪いところばかり並べたが、良い場面もある。あるドイツ兵が生前に町の女性と親しくなり関係を持ってしまう。ドイツ兵がレジスタンスに殺され湖に遺棄された後、女性も赤ん坊を出産して亡くなってしまう。その赤ん坊が小学校高学年くらいの美少女に成長、そこへ湖から父親がゾンビとなって甦るのだ。
 ゾンビの来襲で町が騒然となっているとき、少女の家に侵入した1体のゾンビ、少女が首にかけているペンダントを見てゾンビは胸を肌蹴て同じペンダントをしている事を示す。生前、少女の母親にプレゼントしたペアのペンダントだった。少女もこのゾンビが父親である事を悟る。(余談1)
 いまでこそゾンビに知能や感情があるパターンが多くなっているが、本作はそのハシリではないか。感動の親子の対面である。ドイツ国防軍の制服を着た長身の青塗りゾンビとそれに寄り添うように並んで歩く長い金髪の背の低い美少女の仲睦まじい姿は涙が出る。このゾンビ、娘に襲い掛かる仲間のゾンビと決闘までするのだ。
 
 ラストは印象深い悲劇に終わる。ゾンビと仲が良い美少女を町の住民が目を付け説得する。ゾンビを倒すにはナパームで焼き殺す方法が一番、ゾンビに怪しまれずにナパームを飲ませることができるのはこの少女だけ。
 「あのゾンビはお父さんだ。お父さんは人間を襲わない」と訴える少女に、住民たちは「お父さんは死んでいるんだ。成仏させてあげなければならない。それはお父さんも望んでいる」などと勝手な解釈を混ぜて説き伏せる。
 ついにゾンビたちは少女の裏切りを知らず桶一杯のナパームを飲み干し、住民たちが放った松明の炎で火達磨になり消えていく。
 「私はお父さんを忘れない」涙を流す少女の顔にホロリとくる。
 
(余談1)国防軍の制服の下には立ち襟のワイシャツを着ているはずだが、このゾンビは素肌の上から直接制服を着ていた。また少女とのペアのペンダントを強調するためか、本来なら円形の大きな認識票を首にかけていなければならないのをかけていなかった。(記憶違いかもしれないが)
 米軍の認識票は小さな楕円形のタッグが2枚綴りで鎖につながっているタイプが有名。兵が戦死した際に遺体の回収がその場でできない場合、2枚のうち1枚を抜き取り、後日回収するときの手掛かりにする。
 ドイツ国防軍の場合は、大きな円形の認識票で、一部を折って割れるように加工されてある。用途は米軍と同じだ。


 
晴雨堂スタンダード評価
☆ 不可
 
晴雨堂マニアック評価
☆☆☆ 佳作

  

 
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