fc2ブログ

ミカエル晴雨堂の晴耕雨読な映画処方箋

晴雨堂ミカエルの飄々とした晴耕雨読な映画処方箋。 体調に見合った薬膳料理があるように、 料理に合う葡萄酒があるように、日常の節目に合った映画があります。映画の話題をきっかけに多彩な生活になれば幸いです。詳しいレビューは「続きを読む」をクリックしてください。

「砂漠のライオン」 絶望から脱出しよう〔12〕 

砂漠のライオン」 
リビアと米国の貴重な合作映画

  

 
【原題】LION OF THE DESERT
【公開年】1981年  【制作国】利比亜 亜米利加 英吉利  【時間】163分  
【監督】ムスタファ・アッカド
【音楽】モーリス・ジャール
【脚本】 H・A・L・クレイグ
【言語】イングランド語
【出演】アンソニー・クイン(オマル・ムフタール)  オリヴァー・リード(グラツィアーニ)  イレーネ・パパス(マブルーカ)  ロッド・スタイガー(ムッソリーニ)  ユアン・ソロン(-)  ロバート・ブラウン(-)
          
【成分】泣ける 悲しい スペクタクル 勇敢 切ない かっこいい 第二次大戦前 リビア
      
【特徴】リビアとアメリカとイギリスが合作した貴重な映画。ハリウッドの性格俳優アンソニー・クイン氏がリビア独立の英雄を演じる。戦争映画は若々しい青年が主人公となるのが多いが、これは老人がヒーローを務める。子供たちに文字やイスラムの教義を寺子屋のような野外スクールで教える老師がイタリア軍の横暴に立ち上がり独立戦争が勃発。リビアではオマル・ムフタールは最高額紙幣の肖像になっている。因みにカダフィ大佐の肖像はその次のランクの紙幣におさまっている。
 
【効能】侵略される者と侵略する者の対比が強烈、全世界で発生している紛争の根が学べる。
 
【副作用】歴史的背景に興味なく戦争活劇を求める人には退屈な映画。
 
下の【続きを読む】をクリックするとネタバレありの詳しいレビューが現れます。  
侵略する側と侵略される側の雄弁なコントラスト
 
 この映画は実在のアラブの英雄が主人公であり、リビアとアメリカという異色の合作(余談1)で、ハリウッド俳優アンソニー・クイーン氏がアラブの英雄に扮する。リビアが製作に加わり、監督がアラブ出身だけあって、イタリア占領下リビアの描写は概ね忠実である。たぶん、アラブ人にも鑑賞に堪えうる作品だろう。
 
 主人公はオマル・ムフタールで、リビアではカダフィ大佐とならんで独立の父と呼ばれている。最高額紙幣に印刷されているほどの偉人(余談2)であり、白い髭が特徴だ。つまりアンソニー・クイーン氏はアラブの老師を演じているわけで、若者や壮年がヒーローを務める事が多いハリウッド映画とは色合いが全く違う。実際にこの映画にラブロマンスは出てこない。
 
 史実では、古代ローマ帝国の栄光を取り戻すこともスローガンにしているファシスト・イタリアの侵略に対して、オマル・ムフタールはゲリラ戦で抵抗した。コーランの先生であり、いわば読み書きできる知識人だ。老獪な戦略と戦術で、近代兵器で武装したイタリア軍を翻弄し苦しめたが、オマールを支援するリビア民衆を収容施設に閉じ込め、補給路を完全に潰されたために敗退し捕虜になる。(余談3)
 法廷では毅然とした態度がイタリア側の記録でも讃えられている。弁護を担当した法務部大尉が「国家反逆罪ではなく戦時捕虜として扱うべきだ」と踏み込んだ発言をしたために処罰された。(余談4)
 
 たぶん、アンソニー・クイーン氏のオマル・ムフタールリビア人が観ても違和感は無いと思う。激しい怒りと闘志を内に秘めながら冷静かつ穏やかな物腰で戦闘を指揮する様は当事国でも感動を呼ぶだろう。「ブレイブハート」や「スパルタカス」で登場するヒーローは純情で情熱型だが、落ち着いた好々爺がヒーローというのは珍しい作品だ。
 
 ムフタールの部隊を追い詰めるイタリア軍の将軍をオリバー・リード氏が扮する。「スタートレック」のウイリアム・シャトナー氏に容姿が似た堂々とした風貌で、やり手で手段を選ばない軍人を演じる。
 ようやくムフタールを捕らえ司令官室で対面するときが支配者と被支配者との対立が雄弁に描写された名場面だ。ムフタールに会う直前は緊張していたくせに、ムフタールが連行されてくる頃合に、さも忙しく事務作業をして、いかにも「忙しいが会ってやっるんだ」と言いたげの格好つけ、勝者の姿を見せようとする。ムフタールは淡々と普段と同じ調子で話をするのに対し、将軍はやたらと寛大さを見せようとオーバーアクションをする。侵略者の卑屈さとムフタールの高潔さを表す場面だ。(余談5)
 
 欧米とアラブが協力して製作した史実に忠実な秀作、今となっては稀有な映画である。
 
(余談1)アメリカはリビアを敵視しており、リビアの事実上の元首カダフィ大佐をテロ支援者と見なしている。表面上はカダフィ大佐の微笑外交で諸外国との関係改善が進んでいるが。
 
 監督はシリアのムスタファ・アッガド氏、ハリウッドにも顔が利く存在であり、「ハロウィン」「ブギーマン」などの娯楽ホラー映画も手がける。残念ながら2005年秋、爆弾テロに巻き込まれて死去。

 また、カダフィ大佐も2011年に内戦勃発を許し、最期は反カダフィ派に拘束され半ばなぶり殺しのような形で「処刑」される。民兵たちは「殺すな、生け捕りだ」と叫んでいたようだが、少年兵が撃ってしまったとか。
 形式的な裁判すら行わなかったのは、今後の政権に禍根を残すリスクがある。
 
 主人公アラブの英雄を演じたのはアンソニー・クイーン氏。スパニッシュ系の濃い風貌から、よくインディアン・中国人・マフィアのボスなど「非アングロ・サクソン系」キャラを担当することが多かった。ギリシアを舞台にした「その男ゾルバ」はハマリ役である。
 
(余談2)カダフィ大佐はムフタールよりランクの低い紙幣に自分の顔を印刷をさせている。政権崩壊後は紙幣も変わっているだろう。
 
(余談3)アメリカもベトナムで同じ戦術を使っている。「戦術村」を作って村人を収容し、北爆(ハノイ政権への爆撃)などを展開して補給路の断絶を図った。
 
 軍事マニアにとっては、イタリア軍のショボイ戦車の群れとエリート将軍の負けっぷりで、イタリア軍の弱さとロンメルの優秀さを見るだろう。
 
(余談4)こういう類の映画を侵略者側が製作すると、かならず「良い白人」を登場させて免罪符にする。白人を悪者ばかりにしたら、金払いの良い白人観客層に受けないし、いたずらに白人への敵意ばかりが目立つ。たとえば北朝鮮や中国などの戦争映画に登場する日本軍は好例だろう。
 この「砂漠のライオン」の場合は、実際にあったエピソードであるので免罪符意図はあまりない。
 
(余談5)公開処刑されたとき、ムフタールの手から愛用のメガネが落ちる。それを10歳くらいの少年が持って帰る。ムフタールからカダフィ大佐へとバトンタッチした事を暗示する場面と言われている。しかし、ムフタールが処刑されたときは、まだカダフィ大佐は産まれていない筈だが。
 

 
晴雨堂スタンダード評価
☆☆☆☆
 
晴雨堂マニアック評価
☆☆☆☆

 
晴雨堂関連作品案内
ザ・メッセージ [DVD] ムスタファ・アッカド
スパルタカス スペシャル・エディション 【プレミアム・ベスト・コレクション\1800】 [DVD] スタンリー・キューブリック
ブレイブハート (2枚組特別編) [DVD] メル・ギブソン
 
晴雨堂関連書籍案内
カダフィ正伝―誕生から革命秘話、そして激動の半生を初めて語る 平田伊都子
 

 
 blogram投票ボタン にほんブログ村 映画ブログへ
ブログランキングに参加しています。
関連記事
スポンサーサイト



このコメントは管理人のみ閲覧できます
[ 2011/08/13 19:03 ] [ 編集 ]
 貴重な体験、お話くださりありがとうごさいます。非公開なのが残念な気がします。
[ 2011/08/16 07:06 ] [ 編集 ]
なんだか 気後れしまして 
[ 2011/08/17 00:18 ] [ 編集 ]
コメントの投稿













管理者にだけ表示を許可する
映画処方箋一覧
晴雨堂が独断と偏見で処方した映画作品。
下段「日誌」項目は晴雨堂の日常雑感です。
メールフォーム
晴雨堂ミカエルに直接ご意見を仰せになりたい方は、このメールフォームを利用してください。晴雨堂のメールアドレスに送信されます。

名前:
メール:
件名:
本文:

プロフィール
↓私の愛車と野営道具を入れたリュックです。

晴雨堂ミカエル

Author:晴雨堂ミカエル
 執筆者兼管理人の詳しいプロフィールは下記の「晴雨堂ミカエルのプロフ」をクリックしてください。

晴雨堂ミカエルのプロフ

FC2カウンター
2007年10月29日設置
当ブログ注目記事ランキング
当ブログで閲覧数の多い順ランキングです。
設置2013年6月13日
ブログランキング
下記のランキングにも参加しております。ご声援ありがとうございます。
  にほんブログ村 映画ブログへblogram投票ボタン
アクセスランキング
[ジャンルランキング]
映画
114位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
レビュー
61位
アクセスランキングを見る>>
タグランキング
晴雨堂の関心度が反映されています。当ブログ開設当初は「黒澤明」が一位だったのに、今は・・。
訪問者閲覧記事
最近のアクセス者が閲覧した記事を表示しています。
月別アーカイブ
ブロとも申請フォーム
リンク