「スパイ・ゾルゲ」
CGで戦前の東京を再現 【公開年】2003年
【制作国】日本国
【時間】182分
【監督】篠田正浩【原作】篠田正浩 【音楽】池辺晋一郎
【脚本】 篠田正浩 ロバート・マンディ
【言語】日本語 イングランド語 一部中国語
【出演】イアン・グレン(
リヒャルト・ゾルゲ)
本木雅弘(
尾崎秀実) 椎名桔平(吉河光貞) 上川隆也(特高T) 永澤俊矢(宮城与徳) 葉月里緒菜(三宅華子) 小雪(山崎淑子) 夏川結衣(尾崎英子) 榎木孝明(近衛文麿) 大滝秀治(西園寺公望) 岩下志麻(近衛夫人) 石原良純(中島中尉)
ウルリッヒ・ミューエ(駐日本ドイツ大使)
【成分】ゴージャス 不気味 知的 切ない 上海事変 2・26事件 第二次大戦 30年代~40年代
【特徴】ゾルゲ役に「トゥームレイダー」の
イアン・グレン氏(今は「バイオハザード」のアイザックス博士で有名か)を迎え、
篠田正浩監督のラストフィルム、戦前の街並をCGで再現するなど、話題性のある作品だった。近年の邦画洋画では珍しい3時間におよぶ長編大作。劇場公開時では久々に上映中に休憩が入る映画となった。
「善き人のためのソナタ」の
ウルリッヒ・ミューエ氏がドイツ大使役で出演。
ゾルゲに騙される気の優しい人物を演じている。
【効能】戦前の日本の風俗を楽しめる。ノスタルジー、トラディショナル趣味を満足させられる。
【副作用】映画はなにを主張したいのか解らず、呆気にとられるかもしれない。また、保守右翼市民には不愉快な内容。
下の【続きを読む】をクリックするとネタバレありの詳しいレビューが現れます。
監督の優柔不断が反映した作品 太平洋戦争前夜の日本で暗躍した諜報員
ゾルゲ(余談1)をどのように評価するのか定まっておらず、しかも評価の視点は直接現在の日本における政治的立場につながるため、製作者や監督は余程の覚悟をもって独裁を敷かなければ作品として曖昧になる危険がある。
リヒャルト・ゾルゲという素材自体は非常に面白いので、ハリウッドがつくればもっと面白いスパイ映画になっただろうし、日本単独ではなくドイツやロシアをまじえた数カ国による合作なら重厚なスパイ・サスペンスに仕立てることができただろう。もっとも、世界の映画産業の中心は米・独・仏・英・伊なので、篠田監督に国際的名声と政治力が必要になるが。
各々の場面を切り取ってみれば、監督・スタッフ・俳優の気合の入れ方が伝わってくる。CGで再現した東京や上海などの街並み、衣装や小さな小道具にいたるまで行き届いた時代考証、
本木雅弘氏の
尾崎秀実ぶり、榎木孝明氏の近衛総理ぶりも及第点だった。(余談2)
それだけに、まず台詞の使用言語が日本語・中国語・英語の三ヶ国語というのは勿体無かった。英語を喋るスターリンやドイツ大使館員たちでは調子が狂う。せっかくドイツ大使役にドイツ映画「善き人のためのソナタ」の
ウルリッヒ・ミューエ氏が出演しているのに、英語台詞をしゃべらせるなんて。
いっそ、宇宙人にも英語を話させるハリウッドに倣って、本作は邦画だから全編日本語にしてしまっても良かったかもしれない。あそこまでこだわって何故?という思いを抱いたファンも多いだろう。
また、実際の
ゾルゲ諜報団は容易に
ゾルゲには辿り着けないよう工夫したネットワークを形成していたのだが、物語を解りやすくしたかったのかその辺りの描写は無かった。特高の捜査描写も無い。(その割りには長い映画だが)
ゾルゲを基軸とした太平洋戦争前夜の歴史絵巻とみるべきか、
ゾルゲに振り回され翻弄された人々の悲哀を描いた大河ドラマか、いろんな観方はできると思う。ただ、警戒していた通り、肝心の主人公であるゾルゲ像が曖昧のまま終わり、監督がマスコミ向けに語った平和とか反戦のメッセージとは逆に、所詮は世の中虚無でしかないということを言いたいのではないかと解釈されかねない。
結局、篠田監督は詰めで独裁を敷けなかったようだ。気合だけが空回りした作品である。
(余談1)ソ連のスパイ。ナチ党員のドイツの新聞記者として来日。諜報活動にあたっては、日本の文化や風俗などから徹底的に調べ上げていた。たぶん、文化人類学か民族学・民俗学の学位が取れるくらいの研究を短時間で行っている。ただ、日本は嫌いで軽蔑していたようだ。だとすれば、ビジネスマンの鑑ともいえる。日本はどの分野でも逆の事をしてよく失敗をする。
(余談2)三十八式小銃の実弾とそのパッケージのアップは「おお!」と声をあげかけた。実弾を「実包」と言ったのも良い。小さなところで間違いをおかす映画は少なくないので好感が持てる。特高警察の拷問もリアル。
なのに、兵卒の中で髪の毛が耳にかかりそうな辺りまで伸ばした者がいた。上官のビンタを食らう前に髪を刈るだろうから、あれはありえない。外地の前線ならいざ知らず、内地では少しでも服装等違えると鉄拳制裁の対象になる。
それから、気合の入ったCGではあるが、もう少し技術的な進歩が必要だろう。リアルなようで、おもちゃっぽく見える。
晴雨堂スタンダード評価
☆☆ 可
晴雨堂マニアック評価
☆☆ 凡作 晴雨堂関連作品案内映画「スパイ・ゾルゲ」オリジナル・サウンドトラック
わが心の「スパイ・ゾルゲ」 妻・岩下志麻が見た 監督・篠田正浩 [VHS] 岩下志麻
国際スパイ・ゾルゲ [DVD]
晴雨堂関連書籍案内人間ゾルゲ (角川文庫) 石井花子
ゾルゲ事件 獄中手記 (岩波現代文庫) リヒアルト・ゾルゲ
赤い諜報員 ゾルゲ、尾崎秀実、そしてスメドレー 太田尚樹
偉大なる道 上―朱徳の生涯とその時代 (岩波文庫 青 429-1) アグネス・スメドレー
偉大なる道 下―朱徳の生涯とその時代 岩波文庫 青 429-2 アグネス・スメドレー
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ゾルゲ(余談1)をどのように評価するのか定まっておらず、しかも評価の視点は直接現在の日本における政治的立場につながるため、製作者や監督は余程の覚悟をもって独裁を敷かなければ作品として曖昧になる危険がある。
リヒャルト・ゾルゲという素材自体は非常に面白いので、ハリウッドがつくればもっと面白いスパイ映画になっただろうし、日本単独ではなくドイツやロシアをまじえた数カ国による合作なら重厚なスパイ・サスペンスに仕立てることができただろう。もっとも、世界の映画産業の中心は米・独・仏・英・伊なので、篠田監督に国際的名声と政治力が必要になるが。
各々の場面を切り取ってみれば、監督・スタッフ・俳優の気合の入れ方が伝わってくる。CGで再現した東京や上海などの街並み、衣装や小さな小道具にいたるまで行き届いた時代考証、
本木雅弘氏の
尾崎秀実ぶり、榎木孝明氏の近衛総理ぶりも及第点だった。(余談2)
それだけに、まず台詞の使用言語が日本語・中国語・英語の三ヶ国語というのは勿体無かった。英語を喋るスターリンやドイツ大使館員たちでは調子が狂う。せっかくドイツ大使役にドイツ映画「善き人のためのソナタ」の
ウルリッヒ・ミューエ氏が出演しているのに、英語台詞をしゃべらせるなんて。
いっそ、宇宙人にも英語を話させるハリウッドに倣って、本作は邦画だから全編日本語にしてしまっても良かったかもしれない。あそこまでこだわって何故?という思いを抱いたファンも多いだろう。
また、実際の
ゾルゲ諜報団は容易に
ゾルゲには辿り着けないよう工夫したネットワークを形成していたのだが、物語を解りやすくしたかったのかその辺りの描写は無かった。特高の捜査描写も無い。(その割りには長い映画だが)
ゾルゲを基軸とした太平洋戦争前夜の歴史絵巻とみるべきか、
ゾルゲに振り回され翻弄された人々の悲哀を描いた大河ドラマか、いろんな観方はできると思う。ただ、警戒していた通り、肝心の主人公であるゾルゲ像が曖昧のまま終わり、監督がマスコミ向けに語った平和とか反戦のメッセージとは逆に、所詮は世の中虚無でしかないということを言いたいのではないかと解釈されかねない。
結局、篠田監督は詰めで独裁を敷けなかったようだ。気合だけが空回りした作品である。
(余談1)ソ連のスパイ。ナチ党員のドイツの新聞記者として来日。諜報活動にあたっては、日本の文化や風俗などから徹底的に調べ上げていた。たぶん、文化人類学か民族学・民俗学の学位が取れるくらいの研究を短時間で行っている。ただ、日本は嫌いで軽蔑していたようだ。だとすれば、ビジネスマンの鑑ともいえる。日本はどの分野でも逆の事をしてよく失敗をする。
(余談2)三十八式小銃の実弾とそのパッケージのアップは「おお!」と声をあげかけた。実弾を「実包」と言ったのも良い。小さなところで間違いをおかす映画は少なくないので好感が持てる。特高警察の拷問もリアル。
なのに、兵卒の中で髪の毛が耳にかかりそうな辺りまで伸ばした者がいた。上官のビンタを食らう前に髪を刈るだろうから、あれはありえない。外地の前線ならいざ知らず、内地では少しでも服装等違えると鉄拳制裁の対象になる。
それから、気合の入ったCGではあるが、もう少し技術的な進歩が必要だろう。リアルなようで、おもちゃっぽく見える。
晴雨堂スタンダード評価
☆☆ 可
晴雨堂マニアック評価
☆☆ 凡作 晴雨堂関連作品案内映画「スパイ・ゾルゲ」オリジナル・サウンドトラック
わが心の「スパイ・ゾルゲ」 妻・岩下志麻が見た 監督・篠田正浩 [VHS] 岩下志麻
国際スパイ・ゾルゲ [DVD]
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