「プール」
晴耕雨読な生活と人生の終末。 【原題】【公開年】2009年
【制作国】日本国
【時間】96分
【監督】大森美香 【原作】桜沢エリカ 【音楽】金子隆博
【脚本】大森美香 【出演】小林聡美(京子)
加瀬亮(市尾)
伽奈(さよ)
シッテイチャイ・コンピラ(ビー)
もたいまさこ(菊子)
【成分】ファンタジー 不思議 可愛い 晴耕雨読
チェンマイ タイ 南国
【特徴】小林聡美氏を主役に据えた癒し系シリーズ? 「かもめ食堂」を第1弾とすれば、これは第3弾になるか。
1人の女子大生が卒業記念に
チェンマイで気ままな生活をしている母親のもとを訪ねる。母親が住んでいる民宿?の
プールに様々な事情を抱えた5人が集い物語が展開していく。
爽やかな南国の穏やかな日々を過ごす登場人物たちに癒されるかもしれない。
【効能】4人の晴耕雨読な生活に癒され、世間の修羅場をひと時だけ忘れさせてくれる。タイに興味を持ち旅行したくなる。
【副作用】少しあり得ない非生産的で生活臭希薄な世界に違和感を感じる。主人公の母親の身勝手さ無責任さに怒りをおぼえる。
下の【続きを読む】をクリックするとネタバレありの詳しいレビューが現れます。
こんな生活、ちっくとおかしい。 「マザーウォーター」の「前作」になるのだろうか。「かもめ食堂」から始まる「めがね」「
プール」「マザーウォーター」は一つ一つは主人公も登場人物も背景も異なる独立した作品だが、世間ではシリーズ作と見なされている。
共通点はノンビリとした晴耕雨読な風景、物語的に平坦な起承転結、日常ありふれたエピソード、癒し系との評判、そして主演には必ず
小林聡美氏・
もたいまさこ氏が担当する。
私の夢は気ままに晴耕雨読な生活をする事だ。不自然に力んで社会を変えるだの、一財産つくるだの、そんな生活はもう要らん。少なくとも平均的な日本人の中では随分やってきた部類に確実に入るので、あとはリタイアに向けての環境づくりに精を出す。(余談1)
そんな私の夢をそのまま映像化したような作品が、
小林聡美氏・
もたいまさこ氏が彩る一連の「癒し系」作品だ。まことに素晴らしい世界だ。だから、この作品の世界に羨ましいと思うことはあっても不快感は無い。
しかし生真面目に観てしまうと、たぶん不快感をもよおすだろう。まず表題「
プール」の通り小奇麗な
プールを中心に登場人物たちは生活を営んでいるが、なぜ「
プール」なのかは解り辛いだろう。
それから主人公京子の生活ぶりが現実的には見えず、感情移入できなかったり、あるいは怒りがこみ上げるかもしれない。ゲストハウスいうが、客は京子の娘さよしか見当たらないし、市尾・菊子・ビーは作業を少しだけ手伝っている程度で従業員ではない。何で生計を立てているのか判らんし、未成年の娘を放って単身タイに渡ってしまう行為はどんな言い訳や大義名分があっても身勝手な母親にしか見えない。(余談2)
私も田舎住まいの経験があるので判るが、あれだけの家屋を維持するのは大変である。南国で土地が肥えていたら絶えず草抜き・草刈り・庭木や生垣の剪定をしなければならない。虫や蟲も多い。怠ったらたちまちジャングルの中の廃墟になる。
おまけに小奇麗な
プールまである。私は中学高校と水泳部だったので判るが、毎日、カルキを投入しておかないと、一日でも怠ったら水や底は緑色になる。そもそも
プールの維持管理は銭がかかるのだ。
「ゲストハウス」らしい綺麗な状態を保つためのお金と労働は安くない。そして登場人物たちはこのゲストハウスと生活水準を維持できるほどの労働をしているようには見えない。
この作品は生活臭の無いファンタジーか、あるいは生活臭を極力削ぎ落としたポエムみたいなものだろう。清潔で真っ白なシーツには蟲の体液による染みひとつ無い。開けっぴろげの家屋には蛾も蚊も蝿も入ってこない。無数に蜘蛛の巣がなければならないのにその跡が無い。
そんな幻想的な世界に、6人の登場人物が一定の「車間距離」をおいて接している。近寄り過ぎず、遠ざかり過ぎず。各々の「自分」の領域を維持し、他人の領域にはできるだけ立ち入らず、淡々とした毎日をおくる。早朝に起きて、地元の食材で美味しく調理して食べ、可愛い動物に餌をやり、夕方は近所の市場へ食材の買出しに行き、晩御飯を食べる。その繰り返し。
単調で幸せな日々に、時々変化をつけるイベントが佳境にある。日本で言えば精霊流しのようなお祭りか。竹と紙で作った熱気球のようなモノを皆で願い事を込めながら飛ばす。
羨ましい世界だ。ラストは余命半年と宣告されながら3年以上も明るく元気に暮らしていた菊子がプールサイドで昼寝するように逝く。私も諸先輩方の最期を思うと、菊子のような最期でありたい。人生最期の数日、あるいは数週間、あるいは数ヶ月を身体中チューブを差し込まれて寝たきりで終わりたくない。
家族や友人等とともに有り触れた楽しき日常を過ごしながら、居眠りするように迎えたいものだ。
(余談1)万が一お金に余裕があれば、小さなカフェとギャラリーを併設したささやかな庵のようなものを建て、そこで好きな映画やアニメや漫画や小説などを展示してサロンのような空間を運営する。カフェでは、映画で登場する料理や酒を週がわりに安価で提供する。庵全体にはジブリのオルゴール音楽を一日中流す。
(余談2)京子側でモノを見れば、さよを祖母にあずけて単身タイへ渡ったのが7年前とすれば、さよは大学卒業を控えてのタイ旅行という設定なので、さよが義務教育を終える頃に日本を飛び出した事になるか。
幼児や15歳未満の段階で飛び出したら法的に育児放棄や児童虐待が問われるが、中学を卒業すれば一人立ちする人もボチボチいる訳で、また面倒を見る祖母もいるから問題は全く無いと考えるタイプなのだろう。
晴雨堂スタンダード評価
☆☆ 可
晴雨堂マニアック評価
☆☆ 凡作 晴雨堂関連書籍案内プール 桜沢エリカ
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こんな生活、ちっくとおかしい。 「マザーウォーター」の「前作」になるのだろうか。「かもめ食堂」から始まる「めがね」「
プール」「マザーウォーター」は一つ一つは主人公も登場人物も背景も異なる独立した作品だが、世間ではシリーズ作と見なされている。
共通点はノンビリとした晴耕雨読な風景、物語的に平坦な起承転結、日常ありふれたエピソード、癒し系との評判、そして主演には必ず
小林聡美氏・
もたいまさこ氏が担当する。
私の夢は気ままに晴耕雨読な生活をする事だ。不自然に力んで社会を変えるだの、一財産つくるだの、そんな生活はもう要らん。少なくとも平均的な日本人の中では随分やってきた部類に確実に入るので、あとはリタイアに向けての環境づくりに精を出す。(余談1)
そんな私の夢をそのまま映像化したような作品が、
小林聡美氏・
もたいまさこ氏が彩る一連の「癒し系」作品だ。まことに素晴らしい世界だ。だから、この作品の世界に羨ましいと思うことはあっても不快感は無い。
しかし生真面目に観てしまうと、たぶん不快感をもよおすだろう。まず表題「
プール」の通り小奇麗な
プールを中心に登場人物たちは生活を営んでいるが、なぜ「
プール」なのかは解り辛いだろう。
それから主人公京子の生活ぶりが現実的には見えず、感情移入できなかったり、あるいは怒りがこみ上げるかもしれない。ゲストハウスいうが、客は京子の娘さよしか見当たらないし、市尾・菊子・ビーは作業を少しだけ手伝っている程度で従業員ではない。何で生計を立てているのか判らんし、未成年の娘を放って単身タイに渡ってしまう行為はどんな言い訳や大義名分があっても身勝手な母親にしか見えない。(余談2)
私も田舎住まいの経験があるので判るが、あれだけの家屋を維持するのは大変である。南国で土地が肥えていたら絶えず草抜き・草刈り・庭木や生垣の剪定をしなければならない。虫や蟲も多い。怠ったらたちまちジャングルの中の廃墟になる。
おまけに小奇麗な
プールまである。私は中学高校と水泳部だったので判るが、毎日、カルキを投入しておかないと、一日でも怠ったら水や底は緑色になる。そもそも
プールの維持管理は銭がかかるのだ。
「ゲストハウス」らしい綺麗な状態を保つためのお金と労働は安くない。そして登場人物たちはこのゲストハウスと生活水準を維持できるほどの労働をしているようには見えない。
この作品は生活臭の無いファンタジーか、あるいは生活臭を極力削ぎ落としたポエムみたいなものだろう。清潔で真っ白なシーツには蟲の体液による染みひとつ無い。開けっぴろげの家屋には蛾も蚊も蝿も入ってこない。無数に蜘蛛の巣がなければならないのにその跡が無い。
そんな幻想的な世界に、6人の登場人物が一定の「車間距離」をおいて接している。近寄り過ぎず、遠ざかり過ぎず。各々の「自分」の領域を維持し、他人の領域にはできるだけ立ち入らず、淡々とした毎日をおくる。早朝に起きて、地元の食材で美味しく調理して食べ、可愛い動物に餌をやり、夕方は近所の市場へ食材の買出しに行き、晩御飯を食べる。その繰り返し。
単調で幸せな日々に、時々変化をつけるイベントが佳境にある。日本で言えば精霊流しのようなお祭りか。竹と紙で作った熱気球のようなモノを皆で願い事を込めながら飛ばす。
羨ましい世界だ。ラストは余命半年と宣告されながら3年以上も明るく元気に暮らしていた菊子がプールサイドで昼寝するように逝く。私も諸先輩方の最期を思うと、菊子のような最期でありたい。人生最期の数日、あるいは数週間、あるいは数ヶ月を身体中チューブを差し込まれて寝たきりで終わりたくない。
家族や友人等とともに有り触れた楽しき日常を過ごしながら、居眠りするように迎えたいものだ。
(余談1)万が一お金に余裕があれば、小さなカフェとギャラリーを併設したささやかな庵のようなものを建て、そこで好きな映画やアニメや漫画や小説などを展示してサロンのような空間を運営する。カフェでは、映画で登場する料理や酒を週がわりに安価で提供する。庵全体にはジブリのオルゴール音楽を一日中流す。
(余談2)京子側でモノを見れば、さよを祖母にあずけて単身タイへ渡ったのが7年前とすれば、さよは大学卒業を控えてのタイ旅行という設定なので、さよが義務教育を終える頃に日本を飛び出した事になるか。
幼児や15歳未満の段階で飛び出したら法的に育児放棄や児童虐待が問われるが、中学を卒業すれば一人立ちする人もボチボチいる訳で、また面倒を見る祖母もいるから問題は全く無いと考えるタイプなのだろう。
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☆☆ 可
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☆☆ 凡作 晴雨堂関連書籍案内プール 桜沢エリカ
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