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ミカエル晴雨堂の晴耕雨読な映画処方箋

晴雨堂ミカエルの飄々とした晴耕雨読な映画処方箋。 体調に見合った薬膳料理があるように、 料理に合う葡萄酒があるように、日常の節目に合った映画があります。映画の話題をきっかけに多彩な生活になれば幸いです。詳しいレビューは「続きを読む」をクリックしてください。

「サバイバル・オブ・ザ・デッド」 社会を冷笑したい時に〔36〕

サバイバル・オブ・ザ・デッド」 
姉妹編「ダイアリー・オブ・ザ・デッド」に続き
アメリカ人を風刺。

 
 
 
【原題】SURVIVAL OF THE DEAD
【公開年】2009年  【制作国】亜米利加  【時間】90分  
【監督】ジョージ・A・ロメロ
【原作】
【音楽】ロバート・カーリ
【脚本】ジョージ・A・ロメロ
【言語】イングランド語
【出演】アラン・ヴァン・スプラング(サージ)  ケネス・ウェルシュ(オフリン)  キャスリーン・マンロー(ジャネット/ジェーン)  デヴォン・ボスティック(ボーイ)  リチャード・フィッツパトリック(マルドゥーン)  アシーナ・カーカニス(-)  ステファーノ・ディマッテオ(-)  ジョリス・ジャースキー(-)  エリック・ウールフ(-)  ジュリアン・リッチングス(-)  ウェイン・ロブソン(-)
  
【成分】笑える 悲しい 不思議 パニック 不気味 知的 絶望的 切ない ホラー ゾンビ 社会風刺 アメリカ人批判
                   
【特徴】ダイアリー・オブ・ザ・デッド」ではアメリカが創り出したYouTubeに代表されるネット社会とピューリッツァー賞に代表されるジャーナリズムがテーマになっていたが、本作では西部開拓時代(西部侵略時代)で培われたアメリカ人の伝統的精神が風刺の的になっている。
 「ダイアリー・・」でチョイ登場していた人物が本作の主人公になって物語が展開するので、続編というよりは姉妹編と言ったほうが良いだろう。
    
【効能】これぞアメリカ人、と納得してしまう。アメリカ人が抱える病理が垣間見える。
 
【副作用】ホラーにしては怖さやスリルが無いのでつまらない。
 
下の【続きを読む】をクリックするとネタバレありの詳しいレビューが現れます。記事に直接アクセスした場合は、この行より下がネタばれになりますので注意してください。  
ラストのオチはまさにアメリカンだ!
  
 最初に述べておくが、これは社会派ゾンビ映画家ロメロ監督の作品である。ゾンビを通して人間社会を考察する意図があるので、観終わって「地味で面白くなかった」と文句を述べる方が多いが、最初からロメロという人間はこんなヤツだと割り切る事を薦める。
 
 各地でゾンビが蔓延、出動した州兵も膨れ上がるゾンビの群れに対処しきれず茫然自失。もはや治安を維持するより自分の命を守るだけで精一杯の状況。
 そんな危機的状況に疲れきった表情で座り込む一人の軍曹、あれ? 見覚えあるぞ。ああ「ダイアリー・オブ・ザ・デッド」で主人公たちピッツバーグ大学の映画サークルから銃や食糧を奪ったチンピラ州兵ではないか。するとこれは続編? いや「ダイアリー」の後日談ではない。学生たちを脅して武器を巻き上げる場面を州兵側視点で回想されるが、それ以外はこの軍曹(サージ)を主人公とした別のエピソードが展開する。姉妹編か。
  
 不思議なもので、「ダイアリー」では如何にもワルそうな軍曹の顔が、ここではワイルドに見える。本隊は既に壊滅状態なのか、あるいは壊滅すると見限って脱走したのか、軍曹をリーダー格に4人の州兵が生存者グループを襲っては武器や食糧などを強奪して安全地帯を求め彷徨う。
 犠牲を払って「安全な島」に辿り着くが、そこは二家の地主が対立する島だった。一方は、危険なゾンビは頭を撃ち抜いて処分すべきとする派閥。もう一方は元の人間に戻す方法が見つかるかもしれないので鎖でつないで「生かしておく」派。まるで西部劇のようなムードの二家の争いに州兵グループは巻き込まれる。
 
 「ダイアリー」では現代アメリカ人がつくりあげたネット社会とジャーナリズムがテーマとなっていて、主人公はドキュメンタリー作家を目指す学生だった。ゾンビ化現象を目の当たりにするとジャーナリズムの使命感を燃やし、ネットを利用して最新最良の情報を発信しようと命をかける。
 本作では伝統的なアメリカ市民気質を取り上げながら人間の病理を描写している。伝統的とはすなわち西部開拓時代から培われた気質である。「ダイアリー」の学生に対して本作では銃器に手馴れた野性味あふれる兵士が主人公、州兵の身分からしてアメリカ的だ。(余談1)舞台も広大な農場、西部劇感覚で武装した島民たち。それぞれの派閥が自警団をつくって対立し、そこへ自動小銃で武装した主人公たちが割り込む。アメリカらしい。
  
 ラストのオチはロメロ監督らしい。激しい銃撃戦の後、主人公たちは辛くも脱出し、双方の家長は相撃ちで死んでしまう。ゾンビとなった2人の家長は月夜の下でお互い無表情で向き合いながら弾の入っていない拳銃を構え、引き金を引き続ける。
 ゾンビの行動は生前の生活習慣や本能を引き継ぐ。2人の伝統的アメリカ市民の頭の中には相手に対する意地と憎しみ、射撃が生活の一部で反射神経に焼き付いていたことが悲しくて笑える。(余談2)
  
(余談1)日本でいえば自衛隊以外に大阪府軍があるようなものである。
 アメリカではイギリスから独立した経緯、先住民を虐殺しながら土地を奪ってきた経緯から、正規軍以外に民兵組織が大活躍した。そのため、様々な解釈はあるものの民兵設置に関する規定が合衆国憲法に設置されており、それを根拠に国防軍以外にも郷土防衛軍として各州に「州立軍隊」がある。
 主な任務は国内の災害支援と治安維持、国軍のサポート。
 
 ところで、脱走兵グループの紅一点が登場いきなり自慰をやり始める。着衣は乱さないものの、ズボンの中に手を入れて仰け反る場面は色気ある。ロメロ監督のことだから、単なるスケベ心で入れた場面ではなく、周囲を死臭で取り囲まれ常に生命の危機というストレスから種族保存の本能が刺戟されたのであろう。レズビアンというキャラ設定が絶妙な矛盾で面白い。
 
(余談2)ところで、ロメロ監督は昨今の敏捷なゾンビに否定的だ。「死体があんなに走ったら足がもげる」と実にリアル重視のコメントを残している。
 それなら、本作では海中から襲ってくるゾンビもいた。生きている人間でも長時間水に浸かると皮膚がふやけて大変になる。ゾンビなら組織が脆いので手や足の裏などの皮膚の厚い部分は水を吸って手袋みたいに剥離するはずなのだが。
 それからゾンビたちが馬一頭まるごと食べる場面があるが、食べたものはどこへ入っていくのだろう。消化器官は動いていないはずなのだが。



晴雨堂スタンダード評価
☆☆☆ 良
 
晴雨堂マニアック評価
☆☆☆☆ 名作

 

 
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