「スパルタカス」
普遍的テーマの傑作ローマ史劇 【原題】SPARTACUS
【公開年】1960年
【制作国】亜米利加
【時間】198分
【監督】スタンリー・キューブリック【原作】ハワード・ファスト
【音楽】アレックス・ノース
【脚本】ダルトン・トランボ
【出演】カーク・ダグラス(
スパルタカス) ローレンス・オリヴィエ(マーカス・リシニアス・クラサス) チャールズ・ロートン(グラッカス)
ジーン・シモンズ(バリニア) ピーター・ユスティノフ(レンチュラス・バタイアタス) トニー・カーティス(アントナイナス) ジョン・ギャヴィン(カイアス・ジュリアス・シーザー)
【成分】泣ける 悲しい スペクタクル 勇敢 知的 切ない かっこいい 戦争 BC1世紀 ローマ史劇
【特徴】カーク・ダグラス氏制作による歴史超大作。監督は若き
スタンリー・キューブリック氏。2人は険悪な仲だったようだが、作品は素晴らしい感動巨編だ。
ローマ時代に起こった実際の組織的奴隷解放戦争をベースにした現代にも通ずる社会派色のローマ史劇になっており、台詞の節々には当時のアメリカで沸き起こった公民権運動が背景になっている。
本作品に感動した映画好きのある少年は後に俳優となって「ブレイブハート」を監督主演する事になった。
【効能】絶望と無力感に打ちひしがれたとき、活力と勇気と明日への希望が湧き起こる。
【副作用】長い映画なので疲れる。反体制・反権力志向を嫌悪する人には生理的に嫌な物語。
ハッピーエンドでないと納得しない人には徒にテンション下る暗い話。
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カーク・ダグラスとスタンリー・キューブリックの
不本意な共同作業で生まれた傑作 ローマ史劇は多数製作されている。中でも有名なのはキリスト教をテーマにした「ベン・ハー」「クォ・ヴァディス」「聖衣」、ローマ帝国衰亡の兆しを描いた「ローマ帝国の滅亡」「グラディエーター」、退廃のローマをポルノチックに描いた「カリギュラ」「サテリコン」。
その中でこの「
スパルタカス」は異色であると同時に、たぶん世界中で共感される傑作だろう。何故なら、前述の諸作品はキリスト教圏の観客が対象だが、「
スパルタカス」がテーマとする被支配者の解放と自由は世界中の人々が抱く普遍的テーマだからだ。(余談1)
前半の非人間的で非情かつ過酷な剣奴(余談2)の生活、中盤で主人公がついにキレて反抗し仲間たちも呼応して大規模な反乱へと発展、周辺の奴隷たちが
スパルタカスの下へ集まり、剣奴の格闘技知識を生かして強力な「解放軍」が誕生、ローマ正規軍に連戦連勝する。
しかし、ローマは有能な軍人政治家クラサスがローマ軍全指揮権を掌握し、狡猾な謀略で
スパルタカスの友軍を買収して追い詰め、老獪な戦術で
スパルタカス軍を攻囲殲滅する。
監督は当時30歳の若き
スタンリー・キューブリック氏。至るところに大胆かつ繊細な描写が光る。一見すると肥え太って野卑で成金的な役柄のピーター・ユスチノフ氏やチャールズ・ロートン氏が人間的で現実主義者、潔癖で理想主義者の軍人貴族に扮するローレンス・オリヴィエ氏が冷酷さと虚栄心の固まりの本性を現し、
スパルタカス扮する
カーク・ダグラス氏の純情で一途に自由を求める姿勢、凛とした瞳の光を見せるヒロインの
ジーン・シモンズ氏。これら人物設定と相関関係は本来複雑なのだが、組み立て方が良いので判り易い。
特に圧巻なのは、最後の決戦を前にしてのスパルタカスとクラサスの演説が交互に同時進行ではじめられる。クラサスは整列する軍団兵を前にしてローマの威信と秩序と名誉のため勝利することを宣言する。スパルタカスは大勢の仲間を前に深刻な状況を真正直に打ち明け、ローマ軍を打ち破りイタリア全土の奴隷解放をぶち上げる。
決戦はスパルタカスの大敗となり、スパルタカスをはじめ捕虜は全員磔刑に処される。クラサスに囚われたスパルタカスの妻バリニアは、クラサスの政敵の計らいで脱出し、まだ息のあるスパルタカスに向かって赤ん坊を見せ、腹から搾り出すような低い声で「この子は自由よ。自由・・」と潤ませながらも闘志あふれる凛々しい瞳でスパルタカスを見つめる。(余談3)
「死ぬことは、自由人たちにとっては楽しい人生の終わりだが、奴隷にとっては苦痛からの解放だ。だから戦に勝つ」の台詞に代表されるスパルタカスの信念と決意は、おそらく世界中で支持共感されるだろう。
この映画に感動した少年が、後に俳優となり監督して「ブレイブハート」製作を手がけた著名な映画人メル・ギブソン氏の逸話は有名である。
最後に、制作者も兼ねていた主演の
カーク・ダグラス氏と監督
スタンリー・キューブリック氏の仲はあまり良くなかった。前の「突撃」で脚本をめぐり極めて険悪な口論をしたそうである。
ところが、
カーク・ダグラス氏は本作にキューブリック氏を起用した。キューブリック氏の能力は認めていた逸話である。キューブリック監督は割り切って雇われ監督に徹して仕事をしたそうで、本作は
カーク・ダグラスの作品であって自分の作品ではないと語っていたそうである。
(余談1)世界史上でも特筆すべき農民や奴隷の大規模な組織的反乱は、東に中国秦時代の陳勝の乱、西にスパルタカスの乱がある。しかし陳勝は王を号して秦に取って代わる支配者になろうとしたが、スパルタカスは文献を見る限り王になる意志は無く、あくまで奴隷解放とローマからの脱出、故郷への帰還だった。だから、搾取者から労働者を解放する事が建前の共産圏諸国ではスパルタカス研究が盛んだった。
そういう意味では、ハリウッドが巨費を投じて製作したというのは今から考えると興味深い事件かもしれない。
(余談2)殺し合いを見世物にする奴隷。ローマ市民は格闘技か闘牛を鑑賞するかのような感覚で狂喜していた。帝政期になると奴隷ではなく職業として従事するローマ市民も現れる。4世紀中頃からキリスト教勢力の拡大とともに廃れ禁止される。
(余談3)日本語吹替えの声優は、まるで「御奉行様、ありがとうごぜぇますだ」に近い語調で台詞を言っていた。不愉快である。やはり、「自由」の概念が市民革命を経験した欧米と、そうでない日本の差なのか? しかし日本でも自由民権運動があるんだけどなぁ。
晴雨堂スタンダード評価
☆☆☆☆☆ 秀
晴雨堂マニアック評価
☆☆☆☆☆ 金字塔【受賞】アカデミー賞(助演男優賞)(1960年) ゴールデン・グローブ(作品賞(ドラマ))(1960年)
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カーク・ダグラスとスタンリー・キューブリックの
不本意な共同作業で生まれた傑作 ローマ史劇は多数製作されている。中でも有名なのはキリスト教をテーマにした「ベン・ハー」「クォ・ヴァディス」「聖衣」、ローマ帝国衰亡の兆しを描いた「ローマ帝国の滅亡」「グラディエーター」、退廃のローマをポルノチックに描いた「カリギュラ」「サテリコン」。
その中でこの「
スパルタカス」は異色であると同時に、たぶん世界中で共感される傑作だろう。何故なら、前述の諸作品はキリスト教圏の観客が対象だが、「
スパルタカス」がテーマとする被支配者の解放と自由は世界中の人々が抱く普遍的テーマだからだ。(余談1)
前半の非人間的で非情かつ過酷な剣奴(余談2)の生活、中盤で主人公がついにキレて反抗し仲間たちも呼応して大規模な反乱へと発展、周辺の奴隷たちが
スパルタカスの下へ集まり、剣奴の格闘技知識を生かして強力な「解放軍」が誕生、ローマ正規軍に連戦連勝する。
しかし、ローマは有能な軍人政治家クラサスがローマ軍全指揮権を掌握し、狡猾な謀略で
スパルタカスの友軍を買収して追い詰め、老獪な戦術で
スパルタカス軍を攻囲殲滅する。
監督は当時30歳の若き
スタンリー・キューブリック氏。至るところに大胆かつ繊細な描写が光る。一見すると肥え太って野卑で成金的な役柄のピーター・ユスチノフ氏やチャールズ・ロートン氏が人間的で現実主義者、潔癖で理想主義者の軍人貴族に扮するローレンス・オリヴィエ氏が冷酷さと虚栄心の固まりの本性を現し、
スパルタカス扮する
カーク・ダグラス氏の純情で一途に自由を求める姿勢、凛とした瞳の光を見せるヒロインの
ジーン・シモンズ氏。これら人物設定と相関関係は本来複雑なのだが、組み立て方が良いので判り易い。
特に圧巻なのは、最後の決戦を前にしてのスパルタカスとクラサスの演説が交互に同時進行ではじめられる。クラサスは整列する軍団兵を前にしてローマの威信と秩序と名誉のため勝利することを宣言する。スパルタカスは大勢の仲間を前に深刻な状況を真正直に打ち明け、ローマ軍を打ち破りイタリア全土の奴隷解放をぶち上げる。
決戦はスパルタカスの大敗となり、スパルタカスをはじめ捕虜は全員磔刑に処される。クラサスに囚われたスパルタカスの妻バリニアは、クラサスの政敵の計らいで脱出し、まだ息のあるスパルタカスに向かって赤ん坊を見せ、腹から搾り出すような低い声で「この子は自由よ。自由・・」と潤ませながらも闘志あふれる凛々しい瞳でスパルタカスを見つめる。(余談3)
「死ぬことは、自由人たちにとっては楽しい人生の終わりだが、奴隷にとっては苦痛からの解放だ。だから戦に勝つ」の台詞に代表されるスパルタカスの信念と決意は、おそらく世界中で支持共感されるだろう。
この映画に感動した少年が、後に俳優となり監督して「ブレイブハート」製作を手がけた著名な映画人メル・ギブソン氏の逸話は有名である。
最後に、制作者も兼ねていた主演の
カーク・ダグラス氏と監督
スタンリー・キューブリック氏の仲はあまり良くなかった。前の「突撃」で脚本をめぐり極めて険悪な口論をしたそうである。
ところが、
カーク・ダグラス氏は本作にキューブリック氏を起用した。キューブリック氏の能力は認めていた逸話である。キューブリック監督は割り切って雇われ監督に徹して仕事をしたそうで、本作は
カーク・ダグラスの作品であって自分の作品ではないと語っていたそうである。
(余談1)世界史上でも特筆すべき農民や奴隷の大規模な組織的反乱は、東に中国秦時代の陳勝の乱、西にスパルタカスの乱がある。しかし陳勝は王を号して秦に取って代わる支配者になろうとしたが、スパルタカスは文献を見る限り王になる意志は無く、あくまで奴隷解放とローマからの脱出、故郷への帰還だった。だから、搾取者から労働者を解放する事が建前の共産圏諸国ではスパルタカス研究が盛んだった。
そういう意味では、ハリウッドが巨費を投じて製作したというのは今から考えると興味深い事件かもしれない。
(余談2)殺し合いを見世物にする奴隷。ローマ市民は格闘技か闘牛を鑑賞するかのような感覚で狂喜していた。帝政期になると奴隷ではなく職業として従事するローマ市民も現れる。4世紀中頃からキリスト教勢力の拡大とともに廃れ禁止される。
(余談3)日本語吹替えの声優は、まるで「御奉行様、ありがとうごぜぇますだ」に近い語調で台詞を言っていた。不愉快である。やはり、「自由」の概念が市民革命を経験した欧米と、そうでない日本の差なのか? しかし日本でも自由民権運動があるんだけどなぁ。
晴雨堂スタンダード評価
☆☆☆☆☆ 秀
晴雨堂マニアック評価
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