「村の写真集」
ダム湖に沈む村の話。 【公開年】2003年
【制作国】日本国
【時間】111分
【監督】三原光尋 【音楽】小椋佳 【脚本】三原光尋【言語】日本語
【出演】藤竜也(高橋研一) 海東健(高橋孝)
宮地真緒(高橋香夏) 甲本雅裕(野原正浩) 桜むつ子(山本のおばあちゃん)
吹石一恵(小学校分校の水沢先生) 大杉漣(植田進)
原田知世(高橋紀子) ペース・ウー(チン・リン)
【成分】切ない ダム問題 山村 徳島
【特徴】ダム建設で湖底に沈む予定の村をまわって村の風景や村民の記念写真を撮っていく写真屋の親父と息子の物語。
【効能】自分の人生をふり返り、家庭や仕事のありがたさを再確認させる。青春の黄昏、人生の黄昏などの節目に観ると効果的。
【副作用】文科省選定映画的で退屈。ステレオタイプな家族描写にリアリティが感じられず不快感。
ダムをめぐって村内外で利害対立が発生しているはずなのに、社会のドロドロは完全割愛で安っぽく見える。
下の【続きを読む】をクリックするとネタバレありの詳しいレビューが現れます。記事に直接アクセスした場合は、この行より下がネタばれになりますので注意してください。
テーマは良いのだが・・。 監督は良いテーマに着手された。上海国際映画祭で最優秀作品賞と最優秀男優賞を受賞したのもうなづける。言い方は悪いが、日本特有の渓谷や山村の生活描写と、
藤竜也氏扮する背広にリュック姿の写真屋も味がある。それらが審査員にウケたかもしれない。(余談1)
ただ、いまどきこんなまとめ方で済ませて良かったのだろうか? というのも、舞台となった徳島といえばダム問題で揺れた木頭村がある。ダム建設をすれば村全体がダム湖に沈む、木頭村は長らく建設反対派村長をたてて国と県を相手に闘ってきた。木頭村には私の知人がいる。そして私の身内には土建屋もいる。つまり、私は開発する側とされる側の気持ちを知っている人間(余談2)なので、こんな牧歌的描写だけで勝負されると、なんだか浮世離れしているような印象を持ってしまう。(余談3)
もっとも、日本映画界の現状や徳島県との絡み、そして監督の地位を考えたら、ドロドロとした利害関係は割愛し、無難に美しい山村描写と家族の確執と結束に焦点を絞らざるを得ないだろう。とすれば、2時間弱では長すぎる。90分程度にまとめられたのではないか。
三原光尋監督作品で私が印象に残っているのは、1990年頃にミニシアターで観た「
栄養成分表示」である。大阪の藤井寺あたりを舞台に女子高生を主人公にした初々しい物語だった。残念ながらネット上の映画サイトには載っていない。主役の女の子が普通に可愛かった。
(余談1)映画の舞台となった山村の風景は、私の郷里にそっくりである。映画の舞台は徳島だが、私のところは高知の物部川流域なので文化的にも近い。
藤竜也氏のキャラも昔気質の写真館のオヤジという感じが出て良い。あそこまでステレオタイプに昔気質を演出するのなら、背負うリュックも大型のキスリング(昔の登山家やカニ族が背負う横幅の広い帆布のリュック)にすればインパクトがあった。
(余談2)話せば長くなるが、ダム建設は必ずしも治水や発電の「必要に迫られて」つくるわけではない。むしろ第一の目的は土建屋を食わすためである。土建業界には様々な関連業者が裾野広く結びついているので、単なる一業者の利権ではなく地域経済にとって死活問題でもある。だから土建屋と建設推進の政治家は必死である。そのためまず建設ありきだから、ダムによる治水効果や発電などの見積もりは数字合わせのデタラメが多いといわれている。
しかし食うために村一つ潰すことを今後も続けていけるほど国土は広くない。それにダムの耐用年数は半世紀から一世紀、泥がたまるので決壊すれば被害が倍増される欠点もある。村や山河を潰してまで建設する魅力は年々褪色している。
事は「環境保護VS経済と生活」=「綺麗事VS現実」という単純な図式ではない。
(余談3)ダム建設に反対する村民と建設推進の土建業者と県と対立、各々の生活をかけたぶつかり合い、そこへ綺麗事の口先だけの現場を知らない推進派の中央官僚と反対派の都会の環境保護運動家、これらの素材をまとめたら確実に欧米で絶賛される映画になる。
井筒監督がやったら面白いだろう。持ち前のアクの強さと独裁体制で在日コリアンという日本映画界でタブーの素材に挑戦できたのだから、これにも挑戦してほしいなぁ。
晴雨堂スタンダード評価
☆☆☆ 良
晴雨堂マニアック評価
☆☆☆ 佳作 【受賞】上海国際映画祭最優秀作品賞・最優秀男優賞
【呼びかけ】「
栄養成分表示」のデータやチラシをお持ちの方、ご一報ください。
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藤田恵氏は元徳島県木頭村村長でダム建設反対運動で著名
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藤竜也氏扮する背広にリュック姿の写真屋も味がある。それらが審査員にウケたかもしれない。(余談1)
ただ、いまどきこんなまとめ方で済ませて良かったのだろうか? というのも、舞台となった徳島といえばダム問題で揺れた木頭村がある。ダム建設をすれば村全体がダム湖に沈む、木頭村は長らく建設反対派村長をたてて国と県を相手に闘ってきた。木頭村には私の知人がいる。そして私の身内には土建屋もいる。つまり、私は開発する側とされる側の気持ちを知っている人間(余談2)なので、こんな牧歌的描写だけで勝負されると、なんだか浮世離れしているような印象を持ってしまう。(余談3)
もっとも、日本映画界の現状や徳島県との絡み、そして監督の地位を考えたら、ドロドロとした利害関係は割愛し、無難に美しい山村描写と家族の確執と結束に焦点を絞らざるを得ないだろう。とすれば、2時間弱では長すぎる。90分程度にまとめられたのではないか。
三原光尋監督作品で私が印象に残っているのは、1990年頃にミニシアターで観た「
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(余談2)話せば長くなるが、ダム建設は必ずしも治水や発電の「必要に迫られて」つくるわけではない。むしろ第一の目的は土建屋を食わすためである。土建業界には様々な関連業者が裾野広く結びついているので、単なる一業者の利権ではなく地域経済にとって死活問題でもある。だから土建屋と建設推進の政治家は必死である。そのためまず建設ありきだから、ダムによる治水効果や発電などの見積もりは数字合わせのデタラメが多いといわれている。
しかし食うために村一つ潰すことを今後も続けていけるほど国土は広くない。それにダムの耐用年数は半世紀から一世紀、泥がたまるので決壊すれば被害が倍増される欠点もある。村や山河を潰してまで建設する魅力は年々褪色している。
事は「環境保護VS経済と生活」=「綺麗事VS現実」という単純な図式ではない。
(余談3)ダム建設に反対する村民と建設推進の土建業者と県と対立、各々の生活をかけたぶつかり合い、そこへ綺麗事の口先だけの現場を知らない推進派の中央官僚と反対派の都会の環境保護運動家、これらの素材をまとめたら確実に欧米で絶賛される映画になる。
井筒監督がやったら面白いだろう。持ち前のアクの強さと独裁体制で在日コリアンという日本映画界でタブーの素材に挑戦できたのだから、これにも挑戦してほしいなぁ。
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