「太平洋の奇跡-フォックスと呼ばれた男-」
知られざるサイパンでの美談。 【原題】【公開年】2011年
【制作国】日本国
【時間】128分
【監督】平山秀幸 【原作】ドン・ジョーンズ
【音楽】加古隆
【脚本】西岡琢也 グレゴリー・マルケット チェリン・グラック
【言語】日本語 イングランド語
【出演】竹野内豊(
大場栄大尉) ショーン・マッゴーワン(ハーマン・ルイス大尉)
井上真央(青野千恵子) 山田孝之(木谷敏男曹長) 中嶋朋子(奥野春子) 岡田義徳(尾藤三郎軍曹) 板尾創路(金原少尉) 光石研(永田少将) 柄本時生(池上上等兵) 近藤芳正(伴野少尉) 酒井敏也(馬場明夫) ベンガル(大城一雄) トリート・ウィリアムズ(ウェシンガー大佐) ダニエル・ボールドウィン(ポラード大佐) 阿部サダヲ(元木末吉)
唐沢寿明(
堀内今朝松一等兵)
【成分】スペクタクル パニック 勇敢 知的 切ない かっこいい 戦争映画 第二次大戦 1944年~1945年 サイパン 日本語 英語
【特徴】第二次大戦末期、激戦地サイパン島での史実をもとに映画化。原作者は実際にサイパン島激戦に参加した元海兵隊ドン・ジョーンズ氏。当時は中隊長付伍長。日本語の読み書きはできないが、会話は堪能、戦後はGHQ職員として日本に駐在。
物語は若い米軍大尉の視点で進められている。残存部隊をまとめ組織的抵抗を続けた
大場栄大尉たちの奮闘を描く。
大場隊を華々しく描くドン・ジョーンズ氏に、実際の大場大尉は違和感を感じており、本作についても大場大尉の遺族が監修者として意見したと思われる。米軍大尉が大場大尉を高く評価しているわりには、
竹野内豊氏扮する大場大尉は鈍重で寡黙なキャラとして描かれている。
唐沢寿明氏扮する堀内一等兵はぶっ飛んだキャラとして描かれているが、実際にそんな人物だったらしい。
【効能】生きることへの意欲が静かに湧き起こる。ほのかに明日への希望が生まれる。
【副作用】戦争活劇と思って観ると拍子抜けする。
下の【続きを読む】をクリックするとネタバレありの詳しいレビューが現れます。記事に直接アクセスした場合は、この行より下がネタばれになりますので注意してください。
唐沢寿明のぶっ飛びキャラ、なんと史実! 第二次大戦末期の1944年夏に展開されたサイパンの戦い。この戦いで印象に残っている3つの映像がある。
1つは崖から投身自殺をする日本の民間人たち。死相露わの悲壮感漂う表情でモンペ姿の女性たちが崖から次々と身を躍らせる動画。2つ目は戦場カメラマンである
ユージン・スミス氏(余談1)が撮影した瀕死の赤子を慎重に抱きかかえる若い米兵の写真。そして3つ目は巨大滑走路に100機単位で所狭しと翼を休めている大型爆撃機B29を俯瞰で撮った写真。
これら映像を見たのは小学校高学年のころだった。戦争の悲惨さやその中にもあるヒューマンな出来事や物量豊かな米軍、いろいろな見方ができるがそれ以上に私はアメリカの恐ろしさを感じた。これら出来事を戦争しながら鮮明な記録映像に残すアメリカの総合力に戦慄した。
残念ながら本作の主人公
大場栄大尉の事は最近まで全く知らなかった。本作が制作されるニュースを知って初めて大場大尉の事を知り、自分なりに資料に目を通した。
復員後の彼は会社役員を務めたり市会議員を務めるなど、地域の名士として活躍し天寿を全うしたにも関わらず、ゼロ戦パイロットの坂井三郎中尉や戦艦大和の最期を描いた能村次郎大佐と違って、戦争体験を本に残すようなことはしなかったようだ。
竹野内豊氏扮する大場大尉もそんな人柄が出ているような気がする。制作には大場大尉の子息が関わっているから、かなり意見がなされたのだろうか。
もちろん、物語は史実に沿っているとはいえ脚色はされている。(余談2)ただし最小限に留めていた。予告編や前評判から、大場大尉率いる残存部隊が神出鬼没の大活躍をして米軍に痛打を与えていく痛快な場面を期待するだろうが、本作にそんな活劇は無い。どちらかといえば、大場隊は逃げて潜伏するばかりだ。活劇的な役割は、
唐沢寿明氏扮するヤクザあがりの堀内一等兵が演じる。
実際の
大場栄氏自身も原作について読み物として面白くするためにフィクションが加えられていると指摘し、アメリカ人の目にはこんな風に見えるのかな、日本人とは違う解釈になるのかなと一応納得する心情を書き残している。本作でルイス大尉が大場を高く評価している様と、大場大尉をやや鈍重に描いているギャップに制作陣は大場氏の実像を込めているのかな、と思う。(余談3)
リアルさを出すために、語り部を米軍大尉にしたり、大勢のアメリカ人俳優やエキストラを出演させて日米合作のような形にしたり、冒頭の総力戦場面や時折り発生する堀内と米兵との小競り合いは迫力ある絵になっているものの、物語自体は戦争活劇ではない。いわゆる「戦争映画」を楽しむために観た人はがっかりするだろう。
(余談1)ロバート・キャパと並び称される著名な報道カメラマン。キャパが設立したマグナム・フォトのメンバーでもある。
晩年は水俣病患者の取材を行い、そのとき20代前半の女性を伴侶にする。その女性はアイリーン・スミス氏で、現在は京都を拠点に環境保護運動や反戦反核運動を展開、日本の市民運動業界の名士となっている。
(余談2)降伏式典の場面で、大場大尉と米軍指揮官の身長はほぼ同じだったが、実際の式典写真では大場のほうが10cm程度低い。それに軍服は映画では長袖だが、実際は半袖だ。
人物構成や物語展開も2時間枠の映画にまとめるため、切り捨てたり貼り付けたりしている。
(余談3)実際に堀内一等兵は本作のようなぶっ飛んだキャラだったようだ。
冒険活劇ならば、大場大尉も積極的にランボーやコマンドーみたいに兵士として格闘を演じさせたほうが面白いかもしれないが、それをやらなかったのは正解だと思う。どちらかといえば、映画の大場は潜伏拠点を視察したり、指揮所で幕僚の少尉や曹長たちと地図を睨んでいる体が多いが、これは「大尉」らしくてOKだ。
また、日本留学経験があるルイス大尉と学校教師だった大場大尉の、お互い知識人あがりの将校という関係も面白い。お互いに100%軍人ではなく、どこかに民間人的発想や視点がある事が悲劇を回避させた伏線になっている。
それにしてもルイス大尉を演じたショーン・マッゴーワン氏の日本語台詞は上手い。「ラストサムライ」のトム・クルーズ氏とは雲泥の差だ。
晴雨堂スタンダード評価
☆☆☆☆ 優
晴雨堂マニアック評価
☆☆☆☆ 名作晴雨堂関連作品案内太平洋の奇跡-フォックスと呼ばれた男-オリジナル・サウンドトラック
晴雨堂関連書籍案内タッポーチョ 太平洋の奇跡 「敵ながら天晴」玉砕の島サイパンで本当にあった感動の物語 (祥伝社黄金文庫) ドン・ジョーンズ
太平洋の奇跡〜フォックスと呼ばれた男〜 (小学館文庫) 大石直紀
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1つは崖から投身自殺をする日本の民間人たち。死相露わの悲壮感漂う表情でモンペ姿の女性たちが崖から次々と身を躍らせる動画。2つ目は戦場カメラマンである
ユージン・スミス氏(余談1)が撮影した瀕死の赤子を慎重に抱きかかえる若い米兵の写真。そして3つ目は巨大滑走路に100機単位で所狭しと翼を休めている大型爆撃機B29を俯瞰で撮った写真。
これら映像を見たのは小学校高学年のころだった。戦争の悲惨さやその中にもあるヒューマンな出来事や物量豊かな米軍、いろいろな見方ができるがそれ以上に私はアメリカの恐ろしさを感じた。これら出来事を戦争しながら鮮明な記録映像に残すアメリカの総合力に戦慄した。
残念ながら本作の主人公
大場栄大尉の事は最近まで全く知らなかった。本作が制作されるニュースを知って初めて大場大尉の事を知り、自分なりに資料に目を通した。
復員後の彼は会社役員を務めたり市会議員を務めるなど、地域の名士として活躍し天寿を全うしたにも関わらず、ゼロ戦パイロットの坂井三郎中尉や戦艦大和の最期を描いた能村次郎大佐と違って、戦争体験を本に残すようなことはしなかったようだ。
竹野内豊氏扮する大場大尉もそんな人柄が出ているような気がする。制作には大場大尉の子息が関わっているから、かなり意見がなされたのだろうか。
もちろん、物語は史実に沿っているとはいえ脚色はされている。(余談2)ただし最小限に留めていた。予告編や前評判から、大場大尉率いる残存部隊が神出鬼没の大活躍をして米軍に痛打を与えていく痛快な場面を期待するだろうが、本作にそんな活劇は無い。どちらかといえば、大場隊は逃げて潜伏するばかりだ。活劇的な役割は、
唐沢寿明氏扮するヤクザあがりの堀内一等兵が演じる。
実際の
大場栄氏自身も原作について読み物として面白くするためにフィクションが加えられていると指摘し、アメリカ人の目にはこんな風に見えるのかな、日本人とは違う解釈になるのかなと一応納得する心情を書き残している。本作でルイス大尉が大場を高く評価している様と、大場大尉をやや鈍重に描いているギャップに制作陣は大場氏の実像を込めているのかな、と思う。(余談3)
リアルさを出すために、語り部を米軍大尉にしたり、大勢のアメリカ人俳優やエキストラを出演させて日米合作のような形にしたり、冒頭の総力戦場面や時折り発生する堀内と米兵との小競り合いは迫力ある絵になっているものの、物語自体は戦争活劇ではない。いわゆる「戦争映画」を楽しむために観た人はがっかりするだろう。
(余談1)ロバート・キャパと並び称される著名な報道カメラマン。キャパが設立したマグナム・フォトのメンバーでもある。
晩年は水俣病患者の取材を行い、そのとき20代前半の女性を伴侶にする。その女性はアイリーン・スミス氏で、現在は京都を拠点に環境保護運動や反戦反核運動を展開、日本の市民運動業界の名士となっている。
(余談2)降伏式典の場面で、大場大尉と米軍指揮官の身長はほぼ同じだったが、実際の式典写真では大場のほうが10cm程度低い。それに軍服は映画では長袖だが、実際は半袖だ。
人物構成や物語展開も2時間枠の映画にまとめるため、切り捨てたり貼り付けたりしている。
(余談3)実際に堀内一等兵は本作のようなぶっ飛んだキャラだったようだ。
冒険活劇ならば、大場大尉も積極的にランボーやコマンドーみたいに兵士として格闘を演じさせたほうが面白いかもしれないが、それをやらなかったのは正解だと思う。どちらかといえば、映画の大場は潜伏拠点を視察したり、指揮所で幕僚の少尉や曹長たちと地図を睨んでいる体が多いが、これは「大尉」らしくてOKだ。
また、日本留学経験があるルイス大尉と学校教師だった大場大尉の、お互い知識人あがりの将校という関係も面白い。お互いに100%軍人ではなく、どこかに民間人的発想や視点がある事が悲劇を回避させた伏線になっている。
それにしてもルイス大尉を演じたショーン・マッゴーワン氏の日本語台詞は上手い。「ラストサムライ」のトム・クルーズ氏とは雲泥の差だ。
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☆☆☆☆ 優
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