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ミカエル晴雨堂の晴耕雨読な映画処方箋

晴雨堂ミカエルの飄々とした晴耕雨読な映画処方箋。 体調に見合った薬膳料理があるように、 料理に合う葡萄酒があるように、日常の節目に合った映画があります。映画の話題をきっかけに多彩な生活になれば幸いです。詳しいレビューは「続きを読む」をクリックしてください。

「アデルの恋の物語」 孤独を楽しむ時に〔15〕

アデルの恋の物語」 
弱冠19歳イザベル・アジャーニ氏の熱演




【原題】L'HISTOIRE D'ADELE H.
【公開年】1975年  【制作国】仏蘭西  【時間】97分  
【監督】フランソワ・トリュフォー
【原作】フランセス・V・ギール
【音楽】モーリス・ジョーベール
【脚本】フランソワ・トリュフォー ジャン・グリュオー シュザンヌ・シフマン
【言語】フランス語 イングランド語
【出演】イザベル・アジャーニ(アデル・ユーゴー)  ブルース・ロビンソン(アルバート・ピンンン中尉)  ジョゼフ・ブラッチリー(ウィスラー)  シルヴィア・マリオット(サンダース夫人)

【成分】悲しい 不気味 絶望的 切ない かわいい 怖い 19世紀後半 

【特徴】フランス近世の文豪ビクトル・ユーゴーの次女アデルの転落人生を描いた物語。若い中尉にストーカー行為を行い恋愛感情が破綻して正気を失う若い女性を当時19歳のイザベル・アジャーニ氏が熱演。

【効能】ストーカー行為の精神状態を若干知る事ができる。過ぎたるは及ばざるが如しの教訓を得られる。

【副作用】恋愛が怖くなる。女性が怖くなる。

下の【続きを読む】をクリックするとネタバレありの詳しいレビューが現れます。記事に直接アクセスした場合は、この行より下がネタばれになりますので注意してください。
アデルと招弟(チャオディ) 

 若い男に付きまとうストーカー的恋愛をするヒロインとして、「初恋のきた道」の章子怡氏(チャン・ツィイー)と「アデルの恋の物語」のイザベル・アジャーニ氏を思い浮かべてしまう。
 奇しくも、双方とも二十歳前の若い女優が演じ、同じように若い男に激しい恋心を抱いて追い掛け回す展開で、邦題も一見すると切ない思春期の恋愛を描いているかのような感じである。

 ところが恋の結末は全く正反対である。章子怡氏が扮する招弟の恋は、物語冒頭から既に成就されていることが判明している。原題を直訳すると「私の父と母」で、語り部である息子は立派に成長してビジネスマンになっていた。父の死に直面した母親である招弟の激しい落胆ぶり、病持ちの身体に鞭打ち葬儀の準備に取り掛かる気合の入れ様、生前の父親が教壇に立っていた小学校へ父親の声が聞きたいがために毎日欠かさず通っていたなど、恋愛が成就しただけでなく関係は最後まで固く結ばれており、その成果が立派に育った息子と小学校の存在であることがうかがわれる。

 一方、イザベル・アジャーニ氏扮するアデルの恋は、史実として破綻していることが判明している。招弟らカップルが守り育ててきた学校や息子の存在は無い。招弟らは親だけでなく村全体からも祝福され盛り立てられることになるが、アデルは一方通行の恋に終わるばかりか、親には恋愛関係が成立していると偽ってまで家を飛び出し男を追い掛け回している。
 招弟の恋は、最初は男性のために弁当をつくることから始まり、やがては男性の職場である学校の掃除や修繕まで行うようになる。アデルは激しい恋には違いないが、概ね追い掛け回すことしかやっていない。男性を振り向かすために札束まで撒き散らすが、男性のために何かボランティアをやったわけではない。やがて、男性に対するというよりは、恋愛に対する執着ゆえに精神に破綻をきたすようになる。良家の教養ある令嬢がまるでホームレスのような風体になり認知症の患者のように徘徊する。(余談1)

 どちらの恋が良いとかは一概には言えない。どちらもストーカーだし、アデルの方はまだ一方通行である分、男性は良心の呵責なく逃げやすい。招弟のほうが献身的につくしている分、男性によっては恐怖のストレスになるかもしれない。
 文豪の令嬢アデルと農村の文盲招弟は男性への訴え方も異なる。アデルの相手は些か遊び慣れた若い将校に対して、招弟の相手は村の子供に教育を普及させる使命感を持った生真面目青年だ。
 しかし恋の出発点に大きな違いは無い。双方とも思い込みの激しい少女である。どこから破綻と成就の決定的な違いが現れたのか?

 招弟にとっては愛情を注ぎ込む対象が、相手の男性だけでなく、男性に関係しているもの、やがて男性が夢を注ぎ込んでいた学校へと広がり、おそらく結婚後は男性と2人で家族や村の学校へ教え子たちへと情熱を注ぐ対象が拡大していったのだろう。
 ところがアデルは常に男性は逃げて居ない。1人で追い掛け回し孤立する。もはや相手の男性への恋愛感情は行き詰まり、男性を追い掛け回しながらも男性が対象ではなくなり、恋愛への恋愛、恋愛に対する信仰のようなものへと煮詰まってしまった感がある。他のレビュアー氏が指摘しているように、作中の言葉「私の宗教は愛」へと袋小路に行き着く。あるいは昇華というべきか?(余談2)

(余談1)次第に壊れゆく女性を演じきったイザベル・アジャーニ氏の演技は当時評判だった。章子怡氏は初々しく清純な美少女ぶりが評判だったが、彼女の壊れいく女性の演じ方を見てみたい。溥儀の皇后は阿片中毒で精神破綻をきたすので、その役をやったら似合うだろうなと考えている。

(余談2)個人的には破滅型ヒーローは好きだが、破綻型ヒロインはあまり好きではない。



晴雨堂スタンダード評価
☆☆☆☆ 優

晴雨堂マニアック評価
☆☆☆ 佳作


【受賞】NY批評家協会賞(女優賞)(1975年)

晴雨堂関連作品案内
アデルの恋の物語 サントラ
初恋のきた道 [DVD] 張藝謀
 

 
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コメント

TB有難うございました。

トリュフォーが恋愛をテーマにした作品には狂気が絡むケースが多くて怖くなるわけですが、そこがトリュフォーを観るのを止められない理由でもあります。(笑)

僕はアデルの奇行の背景には、大作家である父親絡みの劣等感があると思って観ていました。

もちろん、父親への劣等感もあるでしょう。

> 僕はアデルの奇行の背景には、大作家である父親絡みの劣等感があると思って観ていました。
  
 それもあると思いますね。人間というのは、行動を起こす際に多くの動機や口実や言い訳を必要とします。

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