「麦の穂をゆらす風」 【原題】THE WIND THAT SHAKES THE BARLEY
【公開年】2006年
【制作国】英吉利 愛蘭 独逸 伊太利 西班牙
【時間】126分
【監督】ケン・ローチ 【音楽】ジョージ・フェントン
【脚本】ポール・ラヴァーティ
【言語】イングランド語
【出演】キリアン・マーフィ(デミアン・オドノヴァン) ポードリック・ディレーニー(テディ・オドノヴァン) リーアム・カニンガム(ダン) オーラ・フィッツジェラルド(シネード) メアリー・オリオーダン(ペギー) メアリー・マーフィ(ベマデッタ) ローレンス・バリー(マイケル) ダミアン・カーニー(Finbar) マイルス・ホーガン(Rory) マーティン・ルーシー(Congo) ジェラルド・カーニー(Donacha) ロジャー・アラム(ハミルトン) ウィリアム・ルアン(Gogan)
【成分】泣ける 悲しい スペクタクル パニック 恐怖 勇敢 絶望的 切ない 1910年代~1920年代 独立戦争
アイルランド【特徴】アイルランド独立戦争に身を投じた2人の若い兄弟を軸に物語が進む。情熱的で強硬派の兄と穏健で現実主義の弟だったが、戦争に揉まれていくうちに立場が変わっていく。
日本の政治ドラマ、戦争ドラマはステレオタイプ的なベタな台詞で済ましてしまうが、本作は説得力があり強烈。政治運動や市民運動に関わった事がある人が見れば、身につまされる痛い場面の連続だ。
実際の
マイケル・コリンズが登場するニュース映像も挿入される。
【効能】歴史の勉強になる。日本周辺との類似性を観る事で日本の危うさも学べる。現実逃避の人や浮かれ気味の人には活を入れられ政治の厳しさを教えられて目が冴える。
【副作用】重たくて息がつまる。
下の【続きを読む】をクリックするとネタバレありの詳しいレビューが現れます。記事に直接アクセスした場合は、この行より下がネタばれになりますので注意してください。
直視しづらいテーマ 96年にリーアム・ニーソン氏が
アイルランド独立戦争のリーダー、
マイケル・コリンズを演じた。あれから10年、末端の活動家たちを描いたのが「
麦の穂をゆらす風」である。
マイケル・コリンズは既に歴史上の人物となったが、末端の活動家たちの軋轢は今でも現在進行形である。
アイルランドを代表するロックバンド
U2のボノ氏がIRAの爆弾テロを批判したことで物議を醸したのが本作公開より僅か20年前である。(余談1)だから、今回の作品は内戦問題に一層踏み込んだものと言えよう。
主人公は独立闘争の末端リーダーを務める兄弟である。物語はこの兄と弟を軸に進められる。独立闘争に熱心な理想主義の兄に対して、気が優しく現実的で戦嫌いの弟。ところが弟は英国軍の狼藉を目の当たりにしてから気が変わり兄と行動を共にする。闘争を守るため裏切り者を弟は手にかける。その中には幼馴染もいた。
精神的にも肉体的にも多大な犠牲を払って勝ち取ったのが、完全独立ではなく自治領の地位だった。兄は政治的判断でその条件に妥協し、弟は納得できず樹立したばかりの
アイルランド政府に反逆して捕らえられ、兄が泣きながら指揮する銃殺隊によって処刑される。(余談2)
この兄と弟の物悲しく切ないコントラストを帯びた相関関係が、この作品の真髄である。また内戦の悲しさを象徴しているがステレオタイプではない。
多くの日本人は
アイルランドは馴染みが無いだろう。ところが、
アイルランドとイギリスの関係は、韓国朝鮮と日本の関係に似ている部分がある。
アイルランドと韓国朝鮮は隣国に併合された歴史があるし、形は違えど南北分断が現在進行形である。日本の芸能界で在日コリアンの活躍が目立っているのと同じように、在英アイリッシュの活躍も目立っている。(余談3)
むかし、来日したイギリス人留学生に在日コリアンの問題について質問されたとき、私はアイリッシュの問題に似ていると答えたものだ。だから馴染みが無いどころか、日本人にとっても間近い問題であり、本来は辛い内容の映画である。
日本では「パッチギ!」程度の描写でさえも嫌韓バッシングが大挙行われる。在日コリアンにとっても評判は必ずしも良くない。それだけ双方はまだまだ正視できないデリケートな政治的問題である。
ケン・ローチ監督はイギリス人?で、
キリアン・マーフィ氏ら俳優はアイルランド人。イギリスを完璧に悪者に描いているのでイギリスでのバッシングはどうなのだろうか? 内戦の被害者遺族が健在のアイルランドでの評判はどうなのだろうか?
(余談1)アメリカでの「ヨシュア・トゥリー・ツアー」だったか、「
Sunday Bloody Sunday」の間奏での発言。「革命なんて糞くらえだ!」
(余談2)優しい人間が戦うと決めると過激派に転ずることが多々ある。
条約批准をめぐっての議論がよくできていた。日本人でも、会社や運動団体を立ち上げた経験のある人には身につまされる場面ではないか。双方の意見に理があり、双方の感情が当然のものであるがゆえの平行線。
欧米の秀作に多い特徴は、ディスカッション場面が優れていることである。
(余談3)ビートルズが代表例。Paul McCartneyの苗字にMcが付くのはアイリッシュ特有。意味は、カートニーの子孫。
ポールはナイトを表すSirの称号をもっている。日本的に言えばポール・マッカートニー卿だ。
かつて、ビートルズの成功でメンバー4人にMBE勲章を授けられたが、後にジョン・レノンは返上している。理由は大英帝国の世界侵略に貢献した者に授ける性格の勲章だからだ。さらにジョンはIRAに資金援助までしている。対してポールは勲章を持ち続け、90年代にSirになった。なんとも対照的な2人だ。
晴雨堂スタンダード評価
☆☆☆☆ 優
晴雨堂マニアック評価
☆☆☆☆☆ 金字塔【受賞】カンヌ国際映画祭(パルム・ドール)(2006年)
晴雨堂関連作品案内マイケル・コリンズ 特別版 [DVD] ニール・ジョーダン
アイルランド・ライジング [DVD] ジョン・ストリックランド
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アイルランド独立戦争のリーダー、
マイケル・コリンズを演じた。あれから10年、末端の活動家たちを描いたのが「
麦の穂をゆらす風」である。
マイケル・コリンズは既に歴史上の人物となったが、末端の活動家たちの軋轢は今でも現在進行形である。
アイルランドを代表するロックバンド
U2のボノ氏がIRAの爆弾テロを批判したことで物議を醸したのが本作公開より僅か20年前である。(余談1)だから、今回の作品は内戦問題に一層踏み込んだものと言えよう。
主人公は独立闘争の末端リーダーを務める兄弟である。物語はこの兄と弟を軸に進められる。独立闘争に熱心な理想主義の兄に対して、気が優しく現実的で戦嫌いの弟。ところが弟は英国軍の狼藉を目の当たりにしてから気が変わり兄と行動を共にする。闘争を守るため裏切り者を弟は手にかける。その中には幼馴染もいた。
精神的にも肉体的にも多大な犠牲を払って勝ち取ったのが、完全独立ではなく自治領の地位だった。兄は政治的判断でその条件に妥協し、弟は納得できず樹立したばかりの
アイルランド政府に反逆して捕らえられ、兄が泣きながら指揮する銃殺隊によって処刑される。(余談2)
この兄と弟の物悲しく切ないコントラストを帯びた相関関係が、この作品の真髄である。また内戦の悲しさを象徴しているがステレオタイプではない。
多くの日本人は
アイルランドは馴染みが無いだろう。ところが、
アイルランドとイギリスの関係は、韓国朝鮮と日本の関係に似ている部分がある。
アイルランドと韓国朝鮮は隣国に併合された歴史があるし、形は違えど南北分断が現在進行形である。日本の芸能界で在日コリアンの活躍が目立っているのと同じように、在英アイリッシュの活躍も目立っている。(余談3)
むかし、来日したイギリス人留学生に在日コリアンの問題について質問されたとき、私はアイリッシュの問題に似ていると答えたものだ。だから馴染みが無いどころか、日本人にとっても間近い問題であり、本来は辛い内容の映画である。
日本では「パッチギ!」程度の描写でさえも嫌韓バッシングが大挙行われる。在日コリアンにとっても評判は必ずしも良くない。それだけ双方はまだまだ正視できないデリケートな政治的問題である。
ケン・ローチ監督はイギリス人?で、
キリアン・マーフィ氏ら俳優はアイルランド人。イギリスを完璧に悪者に描いているのでイギリスでのバッシングはどうなのだろうか? 内戦の被害者遺族が健在のアイルランドでの評判はどうなのだろうか?
(余談1)アメリカでの「ヨシュア・トゥリー・ツアー」だったか、「
Sunday Bloody Sunday」の間奏での発言。「革命なんて糞くらえだ!」
(余談2)優しい人間が戦うと決めると過激派に転ずることが多々ある。
条約批准をめぐっての議論がよくできていた。日本人でも、会社や運動団体を立ち上げた経験のある人には身につまされる場面ではないか。双方の意見に理があり、双方の感情が当然のものであるがゆえの平行線。
欧米の秀作に多い特徴は、ディスカッション場面が優れていることである。
(余談3)ビートルズが代表例。Paul McCartneyの苗字にMcが付くのはアイリッシュ特有。意味は、カートニーの子孫。
ポールはナイトを表すSirの称号をもっている。日本的に言えばポール・マッカートニー卿だ。
かつて、ビートルズの成功でメンバー4人にMBE勲章を授けられたが、後にジョン・レノンは返上している。理由は大英帝国の世界侵略に貢献した者に授ける性格の勲章だからだ。さらにジョンはIRAに資金援助までしている。対してポールは勲章を持ち続け、90年代にSirになった。なんとも対照的な2人だ。
晴雨堂スタンダード評価
☆☆☆☆ 優
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