「英国王のスピーチ」
ハリウッドでウケたロイヤルブランド 【原題】THE KING'S SPEECH
【公開年】2010年
【制作国】英吉利 濠太剌利
【時間】118分
【監督】トム・フーパー 【原作】 【音楽】アレクサンドル・デスプラ
【脚本】デヴィッド・サイドラー
【出演】コリン・ファース(
ジョージ6世)
ジェフリー・ラッシュ(ライオネル・ローグ)
ヘレナ・ボナム=カーター(エリザベス) ガイ・ピアース(エドワード8世) ティモシー・スポール(ウィンストン・チャーチル) デレク・ジャコビ(大司教コスモ・ラング) ジェニファー・イーリー(ローグ夫人) マイケル・ガンボン(ジョージ5世) ロバート・ポータル(-) エイドリアン・スカーボロー(-) アンドリュー・ヘイヴィル(-) ロジャー・ハモンド(-) パトリック・ライカート(-) クレア・ブルーム(-) イヴ・ベスト(-)
【成分】泣ける 笑える ゴージャス 知的 かっこいい コミカル 英王室 第二次大戦 1940年代前半
【特徴】エリザベス女王の父親
ジョージ6世の物語。吃音を克服して国民から敬愛される国王になるまでを描く。
【効能】友情と家族愛と、王室という異常な環境を再認識。
【副作用】ゴージャスで退屈。
下の【続きを読む】をクリックするとネタバレありの詳しいレビューが現れます。
「アナカン」の左翼学生役から英国王へ。 英国王を演じた主役の
コリン・ファース氏、映画デビューは「アナザー・カントリー」だったと思う。(余談1)
その作品では左翼学生の役だった。それが30年近く時を経て英国王の役とは。
チラシには国王の姿をした
コリン・ファース氏が緊張した顔で大きく中央のスペースを占めている。この構図を見ただけでも鑑賞したくなる。「アナカン」の頃より随分老けたなぁ、という事は俺も老けている訳か、などと取り止めの無いことを連想した。
史実なので予定調和的だ。奇をてらうモノが好きな方は意表を突く展開を期待して退屈された方がいたが、そんな事は見る前からリサーチすれば解る事なので、趣味の合わない人は最初から観ない方が良い。観おわってから作品に文句をいうよりは、自分の選択眼の無さを反省すべきだ。
吃音がテーマの前面に出されているが、むしろ「非人間的」な王室の存在がメインだろう。「権力者」というのはステレオタイプに我がまま放題のように描かれる事が多々あるが、安定した権威となると今度は権威を守るために様々な制約を甘受しなければならない。
生活態度から言葉遣いまで厳しく制限される。常に国民から反感を抱かせないように配慮し続けなければならない。市川海老蔵氏のように羽目を外せば海老像のように仕事を干されるだけでは済まず、革命が起こって命まで取られかねないのだ。(余談2)
語弊を恐れずにいえば、どこの国の王室も程度の差はあれ普通の人間が住むところではない。庶民にとって異常な環境で生まれ育ってきたのが主人公だ。吃音もその環境によって生じたトラウマが原因だ。おまけに本来なら国王になるはずではなかったのに、王に即位しナチスドイツに挑まなければならない。(余談3)
そんな時に全力でぶつかるのが吃音を治療するオーストラリア人だ。おそらく主人公にとって手応えのある「友人」だろう。
もしアカデミー賞で取り上げられなかったら、私は手放しで「名作」と思った。だがこの手の作品がメジャーな賞によってスポットライトをあてられると、気分が悪くなる。
チャップリン氏が「独裁者」のラストで語った演説のほうが感動だし、メル・ギブソン氏が「ブレイブハート」でスコットランド軍に向かってぶった下手糞な演説のほうがまだ心を打つ。
英国のロイヤルブランドがハリウッドにウケたのかな。
(余談1)公開は私が大学生の頃、当時「アナカン」と略して呼ばれ、漫画同人誌を制作する女友達の間で大評判だった。イギリスのエリート養成の寄宿学校で繰り広げられる、少年同士の恋愛や権力闘争、主演を務めたルパート・エヴェレット氏が一躍有名になった。
コリン・ファース氏はルームメイトの友人役で出演している。
ルームメイトというと、助平な方は同性愛の関係を連想するだろうが、
コリン・ファース氏の役は社会主義に傾倒する若者で、冷静に俯瞰で状況を見ることのできる老成した頼もしい友人。主人公が奔放な同性愛に走る様を傍で苦笑いしながら眺めているというポジションだった。
イギリスのエリート社会では異端なのだが、知識階級の間では当時の社会主義は最先端の流行思想だった。それはルパート演じる主人公にマルクスを薦めるコリンの台詞にも現れている。
日本では既に漫画家の萩尾望都氏や竹宮恵子氏が70年代に全寮制男子校を舞台にした同性愛的な作品を発表していたので、「アナカン」はその実写版のようなモノとして女性のアマチュア漫画家たちに受け入れられた。
佐々木倫子氏の「動物のお医者さん」では、主人公ハムテルと二階堂が雄馬の厩舎で実習する場面の扉絵に「アナカン」を取り入れている。白衣を着た主人公2人の周囲には、「アナカン」の舞台パブリック・スクールの制服を着た美少年たちが大勢闊歩している風景だ。
(余談2)日本の皇室も国民に反感をもたれないよう細心の注意を払っているように見える。普段は質素に見える服装で通し、皇太子殿下は登山、秋篠宮殿下は鯰の研究といった具合に、大自然に慣れ親しむイメージを大事にして、料亭で贅沢三昧を連想させるようなことは一切しない。
秋篠宮殿下の回想によると、子供の頃に小動物を弄んで溺死させてしまったとき、今上陛下に叱られ池へ放り込まれたらしい。
(余談3)幕末日本の国政を担った井伊直弼も、十四男なので本来は彦根藩主を継ぐことはなかった。30代前半まで自由気ままに学問と藝術と武芸に打ち込んだ。学者肌であり職人肌であり、おまけに嫡子だったら経験しないような危険な運動もこなした。
危機的状況になると、正統筋ではなく外や端の人材が活躍する。
晴雨堂スタンダード評価
☆☆☆☆ 優
晴雨堂マニアック評価
☆☆☆☆ 名作 【受賞】アカデミー賞(作品賞)(2010年) ゴールデン・グローブ(男優賞(ドラマ))(2010年) LA批評家協会賞(男優賞)(2010年) NY批評家協会賞(男優賞)(2010年)
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「アナカン」の左翼学生役から英国王へ。 英国王を演じた主役の
コリン・ファース氏、映画デビューは「アナザー・カントリー」だったと思う。(余談1)
その作品では左翼学生の役だった。それが30年近く時を経て英国王の役とは。
チラシには国王の姿をした
コリン・ファース氏が緊張した顔で大きく中央のスペースを占めている。この構図を見ただけでも鑑賞したくなる。「アナカン」の頃より随分老けたなぁ、という事は俺も老けている訳か、などと取り止めの無いことを連想した。
史実なので予定調和的だ。奇をてらうモノが好きな方は意表を突く展開を期待して退屈された方がいたが、そんな事は見る前からリサーチすれば解る事なので、趣味の合わない人は最初から観ない方が良い。観おわってから作品に文句をいうよりは、自分の選択眼の無さを反省すべきだ。
吃音がテーマの前面に出されているが、むしろ「非人間的」な王室の存在がメインだろう。「権力者」というのはステレオタイプに我がまま放題のように描かれる事が多々あるが、安定した権威となると今度は権威を守るために様々な制約を甘受しなければならない。
生活態度から言葉遣いまで厳しく制限される。常に国民から反感を抱かせないように配慮し続けなければならない。市川海老蔵氏のように羽目を外せば海老像のように仕事を干されるだけでは済まず、革命が起こって命まで取られかねないのだ。(余談2)
語弊を恐れずにいえば、どこの国の王室も程度の差はあれ普通の人間が住むところではない。庶民にとって異常な環境で生まれ育ってきたのが主人公だ。吃音もその環境によって生じたトラウマが原因だ。おまけに本来なら国王になるはずではなかったのに、王に即位しナチスドイツに挑まなければならない。(余談3)
そんな時に全力でぶつかるのが吃音を治療するオーストラリア人だ。おそらく主人公にとって手応えのある「友人」だろう。
もしアカデミー賞で取り上げられなかったら、私は手放しで「名作」と思った。だがこの手の作品がメジャーな賞によってスポットライトをあてられると、気分が悪くなる。
チャップリン氏が「独裁者」のラストで語った演説のほうが感動だし、メル・ギブソン氏が「ブレイブハート」でスコットランド軍に向かってぶった下手糞な演説のほうがまだ心を打つ。
英国のロイヤルブランドがハリウッドにウケたのかな。
(余談1)公開は私が大学生の頃、当時「アナカン」と略して呼ばれ、漫画同人誌を制作する女友達の間で大評判だった。イギリスのエリート養成の寄宿学校で繰り広げられる、少年同士の恋愛や権力闘争、主演を務めたルパート・エヴェレット氏が一躍有名になった。
コリン・ファース氏はルームメイトの友人役で出演している。
ルームメイトというと、助平な方は同性愛の関係を連想するだろうが、
コリン・ファース氏の役は社会主義に傾倒する若者で、冷静に俯瞰で状況を見ることのできる老成した頼もしい友人。主人公が奔放な同性愛に走る様を傍で苦笑いしながら眺めているというポジションだった。
イギリスのエリート社会では異端なのだが、知識階級の間では当時の社会主義は最先端の流行思想だった。それはルパート演じる主人公にマルクスを薦めるコリンの台詞にも現れている。
日本では既に漫画家の萩尾望都氏や竹宮恵子氏が70年代に全寮制男子校を舞台にした同性愛的な作品を発表していたので、「アナカン」はその実写版のようなモノとして女性のアマチュア漫画家たちに受け入れられた。
佐々木倫子氏の「動物のお医者さん」では、主人公ハムテルと二階堂が雄馬の厩舎で実習する場面の扉絵に「アナカン」を取り入れている。白衣を着た主人公2人の周囲には、「アナカン」の舞台パブリック・スクールの制服を着た美少年たちが大勢闊歩している風景だ。
(余談2)日本の皇室も国民に反感をもたれないよう細心の注意を払っているように見える。普段は質素に見える服装で通し、皇太子殿下は登山、秋篠宮殿下は鯰の研究といった具合に、大自然に慣れ親しむイメージを大事にして、料亭で贅沢三昧を連想させるようなことは一切しない。
秋篠宮殿下の回想によると、子供の頃に小動物を弄んで溺死させてしまったとき、今上陛下に叱られ池へ放り込まれたらしい。
(余談3)幕末日本の国政を担った井伊直弼も、十四男なので本来は彦根藩主を継ぐことはなかった。30代前半まで自由気ままに学問と藝術と武芸に打ち込んだ。学者肌であり職人肌であり、おまけに嫡子だったら経験しないような危険な運動もこなした。
危機的状況になると、正統筋ではなく外や端の人材が活躍する。
晴雨堂スタンダード評価
☆☆☆☆ 優
晴雨堂マニアック評価
☆☆☆☆ 名作 【受賞】アカデミー賞(作品賞)(2010年) ゴールデン・グローブ(男優賞(ドラマ))(2010年) LA批評家協会賞(男優賞)(2010年) NY批評家協会賞(男優賞)(2010年)
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