ミカエル晴雨堂の晴耕雨読な映画処方箋

晴雨堂ミカエルの飄々とした晴耕雨読な映画処方箋。 体調に見合った薬膳料理があるように、 料理に合う葡萄酒があるように、日常の節目に合った映画があります。映画の話題をきっかけに多彩な生活になれば幸いです。詳しいレビューは「続きを読む」をクリックしてください。

「アレクサンドリア」 社会問題を考えたい時に〔25〕 

アレクサンドリア」 
大衆に圧殺されるヒュパティアの悲劇


 
 
【原題】AGORA
【公開年】2009年  【制作国】西班牙  【時間】127分  
【監督】アレハンドロ・アメナーバル
【原作】
【音楽】ダリオ・マリアネッリ
【脚本】アレハンドロ・アメナーバル マテオ・ヒル
【言語】イングランド語
【出演】レイチェル・ワイズヒュパティア)  マックス・ミンゲラ(ダオス)  オスカー・アイザック(オレステス)  マイケル・ロンズデール(テオン)  サミ・サミール(キュリロス)  アシュラフ・バルフム(アンモニオス)  ルパート・エヴァンス(シュネシオス)  ホマユン・エルシャディ(アスパシウス)  オシュリ・コーエン(メドルス)
   
【成分】泣ける 悲しい スペクタクル パニック 不気味 恐怖 勇敢 知的 絶望的 かっこいい ローマ帝国 キリスト教 4世紀末 エジプト アレクサンドリア
                           
【特徴】ローマ時代末期、キリスト教徒の暴徒によって虐殺された女性科学者ヒュパティアの悲劇が描かれている。
 
 ヒュパティアは実在の天文学者で、地動説を研究していた事でも知られている。キリスト教徒たちによって教会に連れ込まれ皮剥ぎという残酷に殺されたのは事実であり、キリスト教徒たちは反省をしなければならない歴史的気エピソードである。
    
【効能】キリスト教の負の一面を学習できる。群集心理の危うさを再確認。
 
【副作用】キリスト教を侮蔑しているように感じ不快感。
 
下の【続きを読む】をクリックするとネタバレありの詳しいレビューが現れます。記事に直接アクセスした場合は、この行より下がネタばれになりますので注意してください。  
キリスト教の負の一面を直視せよ!!
  
 本作の主人公ヒュパティア、実在の人物である。初めてその名を知ったのは高校生の頃だった。当時、カール・セイガン博士の科学番組「コスモス」(余談1)が大評判だったが、高校の図書室にその日本語訳の書籍版に記載されていた。
 まだ16か17の少年だった私は驚愕した。キリスト教徒の暴徒がアレクサンドリアの大図書館に乱入し、貴重な書物を燃やしまくった。学者であるヒュパティア女史は「異教徒」とインネンつけられ教会に連れ込まれて着衣を全て剥ぎ取られ、牡蠣の貝殻で生きたまま皮膚や肉を削ぎ落とす残酷な皮剥ぎの刑で虐殺された。40代前半と伝えられている。
 セイガン博士は過去に犯したキリスト教の過ちとして反省の弁を書き連ねた。(余談2)
 
 まさか、ヒュパティアが実写映画化されるとは思わなかった。それもカトリックの国スペインで制作され、多少時間がかかったが日本公開に漕ぎ着けるとは奇蹟だ。上映される映画館もそこそこメジャーである。
 どう考えてもヒュパティアという題材は、日本人には殆ど馴染みが無いしウケそうなテーマに思えない。一般で知っているのは私のようにギリシァ・ローマ時代に関心があり、アンチ・キリスト教的傾向の人間くらいだろう。よくぞ上映してくれた。
 
 ただ、一般ウケしないマイナーなテーマではあるが、昨今のアラブ情勢を見ればむしろタイムリーな作品ではないかと思う。本作の原題はギリシァ語の「アゴラ」、広場という意味である。ギリシア・ローマ時代の都市は中央に広場をつくり市場や青空学校などを催した。そのアゴラがタイトルである。
 中東各地の民衆デモもアゴラで始まっている。アレクサンドリアの大図書館に乱入した民衆と市民革命をおこした市民たちが妙にダブる。基本ベースは同じではないか、と。
 
 4世紀末のローマ帝国は常態化した蛮族の侵入で経済が破綻していた。当時のエジプトは安全地帯だったが、疲弊したローマのために搾取をされ、民衆の憤懣は蓄積されていたのだ。
 そんな不満分子に根を張ってきたのがキリスト教だ。キリスト教は一神教で他宗教は「迷信」「異端」「悪魔」として認めない傾向がある。排他的な思想と不満分子が結びついたとき、神の名において理性の安全装置がはずされ容易に暴走する。どれだけの民族や宗教が「キリスト教信徒」たちによって蹂躙されたか。
 ヒュパティアたち改宗しない知識人は、民衆からみれば支配階級であり、キリスト教信徒から見れば神に逆らう悪である。たちまち怨嗟の標的だ。
 単なる史劇として捉えて欲しくない。今も世界紛争の根の部分では、この「アレクサンドリア」につながっているのだ。
 
 アメナーバル監督はまだ30代と若い。尊厳死を望む重度の障害者を主人公にした前作「海を飛ぶ夢」(余談3)のときは30そこそこの青年だ。どうして老成した物語を構成できるのか? アンチ・キリスト教ともとれる人物を主人公にするのか?
 彼の、多数派の正義や偽善に押しつぶされるマイノリティーの理解は非常に深い。理性を失った群衆の描き方や毅然としたヒュパティアの表情、たぶんフィクションだろう恋愛感情の絡め方、非常に上手い。
  
(余談1)アメリカの科学教育番組。セイガン博士はなかなかのエンターティナーで役者だった。俳優のロバート・ウーリッジ氏かサム・ニール氏にも雰囲気が似ていた。日本語吹替は横内正氏が担当。
 番組の音楽を担当したのがギリシアのヴァンゲリス氏。「コスモス」で評判になり、映画「炎のランナー」や「南極物語」のテーマ曲も担当する。
 
(余談2)ローマカトリックの総本山バチカンは第二次大戦中ナチスを黙認し、ドイツ敗戦後はナチ幹部の南米亡命を斡旋した者もいたとか。第二次大戦はキリスト教の2千年から見れば僅か60年程度の最近だ。イスラエルは現在もなおバチカンに警戒心を抱いている。
 
 悲劇のヒュパティアはほぼ同じ歳頃のレイチェル・ワイズ氏が好演する。伝えられるヒュパティアの肖像はけっこう美人だが、当時の40代なので、たぶんワイズ氏のようなナイスボディではなかったと思う。

(余談3)この作品で主人公は尊厳死を思い止まらせようと説得する善意の主婦や神父の偽善を看破し、神父にいたってはキリスト教のマイナス面まで指摘して批判する。 

晴雨堂スタンダード評価
☆☆☆☆ 優
 
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☆☆☆☆☆ 金字塔

 

 
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