ミカエル晴雨堂の晴耕雨読な映画処方箋

晴雨堂ミカエルの飄々とした晴耕雨読な映画処方箋。 体調に見合った薬膳料理があるように、 料理に合う葡萄酒があるように、日常の節目に合った映画があります。映画の話題をきっかけに多彩な生活になれば幸いです。詳しいレビューは「続きを読む」をクリックしてください。

「海を飛ぶ夢」 家族と一緒に考えよう〔25〕 

海を飛ぶ夢」 
社会的少数者からの視点


 
 
【原題】MAR ADENTRO
【英題】THE SEA INSIDE
【公開年】2004年  【制作国】西班牙  【時間】125分  
【監督】アレハンドロ・アメナーバル
【原作】
【音楽】アレハンドロ・アメナーバル
【脚本】アレハンドロ・アメナーバル 、マテオ・ヒル
【言語】スペイン語
【出演】ハビエル・バルデム(ラモン・サンペドロ)  ベレン・ルエダ(フリア)  ロラ・ドゥエニャス(ロサ)  クララ・セグラ(ジェネ)  マベル・リベラ(マヌエラ)  セルソ・ブガーリョ(ホセ)  タマル・ノバス(ハビ)  ジョアン・ダルマウ(ホアキン)  フランセスク・ガリード(マルク)
   
【成分】悲しい 知的 切ない 重度障害者
                           
【特徴】首から下が動かせない重度の障害者ラモンを主人公に、尊厳死を求める彼をめぐって社会的論争が巻き起こる。同じ事が日本でも起こったら大変な事件になるが、舞台となったスペインは自殺を完全否定するカトリックの国なので、日本人にはピンとこないが主人公の決断は神への反抗でもある。
 社会的少数者の視点が活きているアメナーバル監督の名作。
    
【効能】障害者がおかれている社会的抑圧を理解するきっかけになる。命を考えるきっかけになる。
 
【副作用】後ろ向きの考え方に不快感。
 
下の【続きを読む】をクリックするとネタバレありの詳しいレビューが現れます。記事に直接アクセスした場合は、この行より下がネタばれになりますので注意してください。  
社会的多数者の「善意」とは・・。

 2011年の春、日本でもやっと公開された「アレクサンドリア」、キリスト教のマイナス面とそれに煽られる群集によって虐殺されたローマ時代末期の天文学者ヒュパティアを取り上げた秀作である。
 いわばキリスト教の暗部を照らした作品のメガホンを担当したアレハンドロ・アメナーバル氏、彼の世界的名声を不動にした作品が本作「海を飛ぶ夢」だと私は思っている。「アレクサンドリア」より数年前に制作された。自分の尊厳死を求める重度の障害者男性ラモンと彼の尊厳死を支援する女性弁護士フリアの2人を主人公に話が展開する。

 実はラモンと殆ど同じ症状を抱えている知人がいる。私より3つか4つ歳上の男性で、ラモンと同じように20代の頃に重傷を負い首から下は動かない。
 ラモンより若干違う点が2つある。1つは腕は動かせる。ラモンは棒を咥えてパソコンを打っていたが、彼は腕でキーが打てる。指の自由はないが腕が使えるだけマシだった。ラモンは首から上しか自由がないので車椅子は必ず介助者が必要だが、私の知人は電動車椅子の運転はできた。

 2つ目は、自己中な左翼活動家である事。ラモンのような平凡な船乗りではなく、学生のころは差別問題に、社会人になってからは労組運動に、重度の障害者になってからは障害者解放運動を、彼の生き甲斐は社会悪と闘う事なので自分を取り巻く環境が激変しても生きる望みを失う事は無い。社会的弱者になればなるほど逆に闘争のネタが増える。
 性格は理屈ぽくて偉そうで常に上から目線、時には喧嘩腰になる。家族や他人様に迷惑をかけている負い目は持っているとは思うが、客がいる前でも介助する細君を顎で使う亭主関白ぶり、全ては社会正義のためであるという割り切りが潔い。
 彼は尊厳死を選ぶような人間ではない、命ある限り社会悪と立ち向かう戦士だ。ラモンのような控え目さはない。

 正反対の性格だが、共通する視点や考え方がある。ラモンの姿をTVで見たシングルマザーのロタは、何故かうきうきした顔でラモンに会いに行き、友達になろうとするがラモンに本音を看破され言葉の冷水を浴びせられる。
 尊厳死を求めるラモンを「家族の愛情が足らない」などと勝手に決め付け「自殺」を思い止まらせようと説教しに行く車椅子の神父には、キリスト教の傲慢を看破する。
 たぶん、私の知人も同じような事を言っただろう。彼もよく核心を突いて人を悲しませたり怒らせたりする。それが魅力で敵対者は蛇蝎の如く嫌うが、信奉者になっていく者も少なくない。
 後にロタはラモンの尊厳死に手を貸す事になるのだが、多くの人はロタの愛情とみるかもしれない。私は愛情というより、信奉に近いような気がする。

 おそらくラモンと対等な同志的関係が成り立っていたのは、弁護士のフリアだったろう。彼女もまた不治の病を抱えていて、ラモンの気持ちを本当に理解できる存在だった。2人は日本でいう「心中」を計ろうとするが、フリアの夫に阻止される。
 ラモンは尊厳死を勝ち取り、生き残ったフリアはラモンと一緒に人格だけが旅立ったかのように、抜け殻の恍惚の顔で海を眺めるだけだった。

 アメナーバル監督は社会的少数者(マイノリティ)に焦点をあてるのが非常に上手い。まだ歳若いのに、何故だろう?

(余談1)私の知人は、障害者の世界にも差別があると指摘していた。生まれながらの障害者と、後から障害者になった人との間には壁がある。そして運動に関わる健常者は「従者」「補助者」のような存在で、「同志」にはなってくれないし「同志」として認めない空気がある。当事者であればあるほどステータスが高くなる差別的秩序が見え隠れしていると。

 それは当然だろう。障害者だから善人とは限らないし正義である必然性も無い。語弊を恐れずにいえば、「俺もお前も邪な心を持った同じ人間や」と思えて対等だ。彼と一時期友情関係が成り立ったのは、その点が共通認識だったからかもしれない。

晴雨堂スタンダード評価
☆☆☆☆ 優

晴雨堂マニアック評価
☆☆☆☆ 名作


【受賞】アカデミー賞(外国語映画賞)(2004年) ヴェネチア国際映画祭(男優賞)(2004年) ゴールデン・グローブ(外国語映画賞)(2004年)


 
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こんばんは

これはかなり真剣にみて 父親の入院から死までを思い出して気分が落ち込んだ作品でした。

普通 尊厳死とは 不治で末期で苦痛な病の場合に適応されると思っていた。ラモンが訴えている苦痛とは精神の苦痛で 彼はケアがあれば生きられる状態。この状態になってからの26年間と首から下のことをすべて介護されることをリアルに想像できるかどうか そこがもっと描かれていればもっと納得できただろう。
 
彼は家族に恵まれていることもわかっている。彼が26年間生きてきたのはそのおかげだ。初めは多分母のために生き  それからは自分のことを理解できるまで甥の成長を待って 父がまだ生きていて 甥も家を離れる前で(介護がさらに負担になる前に)家族がそろっているうちに認めてもらって お別れを言って死にたかったのだ。不謹慎にも贅沢な死に方だと思った。

家族はそれぞれ考えや感じ方は違っても彼を愛している。彼もそうだし 感謝している。だから家族を解放するための死でもあると思う。ただ彼の存在が家族を1つにしていた面もあるので その死後家族間のバランスが一時的に崩れるかもしれない。

血のつながらない兄嫁のマヌエラは下の世話もしているので余計に彼の苦痛をわかっている。彼女が同じ障害を持つ神父の言葉に怒りを持ったのもわかる。この神父は世話係りの青年に対する態度からみても周りに感謝もなく傲慢である。神以外にも感謝する相手はいるはずだ。神の教えがラモンの自尊心よりも家族の愛よりも上だと思っているのだ。

ラモンはもともと生命力にあふれた能動的な人間で 世話をされるほうでなく世話するほうの人間だ。だから甥にいろいろ教え ロサの愚痴も聞いてやる・私としてはロサよりフリアに幇助してほしかった。

彼の死に関して言えることは 善悪の問題ではなく だれにも責任も罪もないということだけだ。

[ 2011/09/23 00:51 ] [ 編集 ]
amaria氏へ
 
 半身不随の寝たきりの障害者になると、実は骨と皮みたいになる。身体を動かさないので筋肉がみるみる減ってしまうからです。私の知人がそうでしたし、俳優のクリストファー・リーヴ氏の晩年もミイラみたいでした。ラモンは重度の障害者の割りに体格が良すぎるので、イマイチ説得力を感じません。俳優たちの頑張りは理解できますが、仕方の無いことでしょう。CGを使えば何とかなったとは思いますが、あまりCGに頼りすぎると俳優不要論につながるので、これも問題だ。
 
 私の知人は、作中に登場する神父に似ている部分はありますね。「大義」のために生きている活動家ですから、その大義を前にすれば「吹けば飛ぶ醜い些細な心の迷い」であり、羊飼いとして子羊の迷いを断固粉砕撃破し完璧に恭順せしめる義務がある、これは大宇宙(神)の摂理であり、万民は従う義務から断じて逃れられないのだ、という考えがあるかもしれません。またそれが生き甲斐ですから、尊厳死の発想は起こりえないし、認められない。
 知人は、作中の神父ほど頑迷ではなく、アンチキリストで運動のポジションが社会的少数者側でしたので話せば解る人でしたが。(それでもしんどかった)


 アメナーバル監督はどうやら性的少数者(セクシャル・マイノリティ)のようですね。だからアンチキリストなのかな?
[ 2011/09/24 06:38 ] [ 編集 ]
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