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ミカエル晴雨堂の晴耕雨読な映画処方箋

晴雨堂ミカエルの飄々とした晴耕雨読な映画処方箋。 体調に見合った薬膳料理があるように、 料理に合う葡萄酒があるように、日常の節目に合った映画があります。映画の話題をきっかけに多彩な生活になれば幸いです。詳しいレビューは「続きを読む」をクリックしてください。

「アナザー・カントリー」 孤独をたのしむ時に〔16〕 

アナザー・カントリー
エリック・サティが似合う映画

 

 
【原題】ANOTHER COUNTRY
【公開年】1983年  【制作国】英吉利  【時間】92分  
【監督】マレク・カニエフスカ
【原作】ジュリアン・ミッチェル
【音楽】マイケル・ストーン
【脚本】ジュリアン・ミッチェル
【言語】イングランド語
【出演】ルパート・エヴェレット(ガイ・ベネット)  コリン・ファース(トミー・ジャッド)  ルパート・ウェンライト(デヴェニッシュ)  マイケル・ジェン(バークレイ)  ロバート・アディ(デラヘイ)  トリスタン・オリヴァー(ファウラー)  ケイリー・エルウィズ(ジェームズ・ハーコート)  
              
【成分】ファンタジー ゴージャス 知的 切ない 同性愛 男子校 学園モノ 1930年代 イギリス 
        
【特徴】ゲイ映画の古典といえる作品だが、物語の主軸はむしろ異端と主流派との学園内権力闘争といったほうが良いかもしれない。
 80年代に思春期・青春時代をおくった女性たちの間で「アナカン」と呼ばれブームになった。佐々木倫子氏の代表作「動物のお医者さん」で馬小屋実習エピソードの扉絵は、雄だけの厩舎を「アナカン」イメージで描かれている。
  
【効能】主人公たちの孤高の立場は夜の静寂を楽しむのに最適。エリック・サティのピアノ曲を鑑賞後に聞くとより効果があがる。
 イギリスエリート層の階級意識が学べる。
 
【副作用】爛れたイメージで気持ち悪くなる。
 
下の【続きを読む】をクリックするとネタバレありの詳しいレビューが現れます。記事に直接アクセスした場合は、この行より下がネタばれになりますので注意してください。  
たまたま同性愛者の凡人の物語
 
 1970年代半ば、萩尾望都氏がドイツの全寮制高校を舞台にした「トーマの心臓」を、竹宮恵子氏がフランスの全寮制高校を舞台にした「風と木の詩」を発表した。(余談1)
 いずれも少年の同性愛がテーマであり、両氏の傑作として漫画史に刻まれている。「アナザー・カントリー」は両氏の漫画を実写映画化したような雰囲気だ。(余談2)
 
 映画の舞台は1930年代のイギリス、エリートが通う学校として有名な伝統あるイートン校
 実際の政治的事件を背景にしたようだが、物語自体には政治臭いは感じられなかった。上流階級の子弟が通うエリート養成の全寮制男子高に構築された窮屈な上下関係と、少年社会の権力闘争と、その中で繰り広げられる少年愛・同性愛が中心だ。(余談3)
 
 主人公のルームメイトは同性愛者ではないが、主人公の良き理解者であり苦言者であり共産主義者だった。だが、作品自体に社会主義との絡みは感じられなかった。当時の社会主義思想は、知識人の間では新感覚の流行思想だった。今でこそ時代遅れの思想というイメージがあるが、ソ連崩壊までは「進歩的思想」「革新的思想」として受け入れられていた。(余談4)
 
 政財界の担い手を要請するエリート学校で共産主義というのは明らかな反権力姿勢だ。同性愛で学園の秩序を乱す主人公との間に理解と友情が生まれたのは、極自然な成り行きだ。
 したがって、共産主義者という要素は、あくまで当時の保守に対して進歩的で自由な反権力立場の人間として描かれているだけである。同性愛者の主人公を理解・許容でき冷静かつ客観的な視点を持つ友人として。
 主人公は後にソ連へ亡命するが、それは単に大英帝国のエリート層で生活できないから、受け入れてくれるソ連へ逃げただけで、何か社会主義革命の信念があっての事ではない。

 同性愛を中心モチーフとして描いたのは画期的だったかもしれないが、学園内の人物描写はやはり萩尾氏や竹宮氏の作品の方が丁寧かつ説得力があったので、この映画は気の抜けかかったラムネのようだった。
 むしろ主人公が学園やエリート社会の秩序に反発した副作用としての同性愛、主人公がエリート社会から落伍してソ連へ亡命しなければならなかった原因付けとしての同性愛でしかない。
 たぶん、本気で同性を愛している人たちが観たら、主人公の性癖は「愛」ではなく「スリルある趣味」でしかない。
 
 売り文句は「一生、女を愛さない」だったと思うが、内容は果たしてそれに見合ったものか疑問である。
 ただ、映像はお洒落でトラディショナルなので、エリック・サティのピアノ曲を聞きながら観たら面白いかもしれない。
  
(余談1)私は小学生の頃に読んだ。竹宮氏の「風と木の詩」が具体的に性描写があってエロかった。
 子供心に「こんなん子供が読んでええんか?」と疑問に思ったものだ。池田理代子氏の「ベルばら」といい、少女漫画というのは「大人」だ。対して少年漫画の基本は、あくまで勧善懲悪・機械描写・マッチョ・スポ根で、面白いと感じた事がなかった。当時、面白いと感じた男性漫画家は手塚治虫氏・横山光輝氏・諸星大二郎氏くらいだった。
 
(余談2)同性愛が傍役で登場していたのは過去にあったと思う。同性愛を主軸に置き、おなかつ興行的に成功した作品はこれが初めてではないか。
 となれば、日本漫画は「アナザー・カントリー」よりも10年近く前に、なんと!大部数の「少女漫画!」として発表され特に社会的大問題を起こさなかった訳だから、けっして日本の文化人は欧米に劣等感?を持つ必要はない。
 
(余談3)どこの国でもそうだが、イートン校でも服装で上下関係が判るようになっている。生徒会を支配する立場の生徒は派手なガラのベストを着用、それ以外は上着と同じ黒のベストだ。下級生は上級生の下僕。しかしその雰囲気が日本と違って上品。
 
 主人公は物語後半で男子への恋文が発覚し制裁を受けるが、尻を向けて歯を食いしばり、権力を持つ生徒が鞭で尻を叩く場面がある。これは強烈な描写として紹介される事もあるが、最初に観た私の印象は「イギリスって、上品」だった。教鞭でズボンの上から叩くだけだから血が滲む程度だろうし、ズボンも破けていない。処罰が終わったら叩き役はスポーツでもした後のような爽やかな笑顔で主人公と握手する。私にはむしろこの場面が面白かった。
 
 後に主演のルパート・エバレット氏は同性愛者であることをカミングアウトした。
 
(余談4)現在の日本でも、社会主義の流れをくむ護憲派とフェミニストやジェンダーフリー論者は憲法改正反対に共闘している事が多々ある。
 

 
晴雨堂スタンダード評価
☆☆☆☆ 優
 
晴雨堂マニアック評価
☆☆☆ 佳作

 
【受賞】カンヌ国際映画祭(芸術貢献賞)(1984年)
 
晴雨堂関連作品案内

 
晴雨堂関連書籍案内
トーマの心臓 (小学館文庫) 萩尾望都
風と木の詩 (第1巻) (白泉社文庫) 竹宮惠子
風と木の詩 (第2巻) (白泉社文庫) 竹宮惠子
風と木の詩 (第3巻) (白泉社文庫) 竹宮惠子
風と木の詩 (第4巻) (白泉社文庫) 竹宮惠子
風と木の詩 (第5巻) (白泉社文庫) 竹宮惠子
風と木の詩 (第6巻) (白泉社文庫) 竹宮惠子
風と木の詩 (第7巻) (白泉社文庫) 竹宮惠子
風と木の詩 (第8巻) (白泉社文庫) 竹宮惠子
風と木の詩 (第9巻) (白泉社文庫) 竹宮惠子
風と木の詩 (第10巻) (白泉社文庫) 竹宮惠子


 

 
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[2009/07/27 21:05] 真紅のthinkingdays
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