晴雨堂の耕晴雨読な映画処方箋
 晴雨堂ミカエルの飄々とした耕晴雨読な映画処方箋。  体調に見合った薬膳料理があるように、 料理に合う葡萄酒があるように、日常の節目に合った映画があります。映画の話題をきっかけに多彩な生活になれば幸いです。

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晴雨堂ミカエル

Author:晴雨堂ミカエル
 映画好き・猫好き・ドイツビール好きです。よく晴れた爽やかな日はマウンテンバイクでサイクリングをしながら風景や野良猫を撮影します。
 リタイア後は田舎に帰り、晴天は畑仕事や庭いじり、雨天は読書や映画鑑賞の文字通り耕晴雨読の日々をおくるのが夢です。
 お金があれば郷里に「晴雨堂オタク記念館」を設立して地元の文化交流の発信基地にしたい、連れ合いは怒るだろうが。館長に任命してやるといったら言下に断られた。
 
 ブログを始めたのは2007年5月から、本格的に参考書に目を通しながら運営を始めたのは同年11月から、操作方法で度々ミスがあると思いますがご容赦のほど願います。
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2007年10月29日設置

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「アナザー・カントリー」-
【2008/03/06 13:46】 映画・・深夜の静けさを味わいたいときに
たまたま同性愛者の凡人の物語
 

 

 1970年代半ば、萩尾望都氏がドイツの全寮制高校を舞台にした「トーマの心臓」を、竹宮恵子氏がフランスの全寮制高校を舞台にした「風と木の詩」を発表した。(余談1)
 いずれも少年の同性愛がテーマであり、両氏の傑作として漫画史に刻まれている。「アナザー・カントリー」は両氏の漫画を実写映画化したような雰囲気である。(余談2)
 
 映画の舞台は1930年代のイギリス、エリートが通う学校として有名な伝統あるイートン校。
 実際の政治的事件を背景にしたようだが、物語自体には政治臭いは感じられなかった。上流階級の子弟が通うエリート養成の全寮制男子高に構築された窮屈な上下関係と、少年社会の権力闘争と、その中で繰り広げられる少年愛・同性愛が中心だ。(余談3)
 
 主人公のルームメイトは同性愛者ではないが、主人公の良き理解者であり苦言者であり共産主義者だった。だが、作品自体に社会主義との絡みは感じられなかった。当時の社会主義思想は、知識人の間では新感覚の流行思想だった。今でこそ時代遅れの思想というイメージがあるが、ソ連崩壊までは「進歩的思想」「革新的思想」として受け入れられていた。(余談4)
 
 政財界の担い手を要請するエリート学校で共産主義というのは明らかな反権力姿勢だ。同性愛で学園の秩序を乱す主人公との間に理解と友情が生まれたのは、極自然な成り行きだ。
 したがって、共産主義者という要素は、あくまで当時の保守に対して進歩的で自由な反権力立場の人間として描かれているだけである。同性愛者の主人公を理解・許容でき冷静かつ客観的な視点を持つ友人として。
 主人公は後にソ連へ亡命するが、それは単に大英帝国のエリート層で生活できないから、受け入れてくれるソ連へ逃げただけで、何か社会主義革命の信念があっての事ではない。

 同性愛を中心モチーフとして描いたのは画期的だったかもしれないが、学園内の人物描写はやはり萩尾氏や竹宮氏の作品の方が丁寧かつ説得力があったので、この映画は気の抜けかかったラムネのようだった。
 中心モチーフの同性愛にしても、少年愛の描写は萩尾氏のほうが優れている。むしろ主人公が学園やエリート社会の秩序に反発した副作用としての同性愛、主人公がエリート社会から落伍してソ連へ亡命しなければならなかった原因付けとしての同性愛でしかない。
 たぶん、本気で同性を愛している人たちが観たら、主人公の性癖は「愛」ではなく「スリルある趣味」でしかない。
 
 売り文句は「一生、女を愛さない」だったと思うが、内容は果たしてそれに見合ったものか疑問である。
 ただ、映像はお洒落でトラディショナルなので、エリック=サティのピアノ曲を聞きながら観たら面白いかもしれない。
  
(余談1)私は小学生の頃に読んだ。竹宮氏の「風と木の詩」が具体的に性描写があってエロかった。
 子供心に「こんなん子供が読んでええんか?」と疑問に思ったものだ。池田理代子氏の「ベルばら」といい、少女漫画というのは「大人」だ。対して少年漫画の基本は、あくまで勧善懲悪・機械描写・マッチョ・スポ根で、面白いと感じた事がなかった。当時、面白いと感じた男性漫画家は手塚治虫氏・横山光輝氏・諸星大二郎氏くらいだった。
 
(余談2)同性愛が傍役で登場していたのは過去にあったと思う。同性愛を主軸に置き、おなかつ興行的に成功した作品はこれが初めてではないか。
 となれば、日本漫画は「アナザー・カントリー」よりも10年近く前に、なんと!大部数の「少女漫画!」として発表され特に社会的大問題を起こさなかった訳だから、けっして日本の文化人は欧米に劣等感?を持つ必要はない。
 
(余談3)どこの国でもそうだが、イートン校でも服装で上下関係が判るようになっている。生徒会を支配する立場の生徒は派手なガラのベストを着用、それ以外は上着と同じ黒のベストだ。下級生は上級生の下僕。しかしその雰囲気が日本と違って上品。
 
 主人公は物語後半で制裁を受けるが、尻を向けて歯を食いしばり、権力を持つ生徒が鞭で尻を叩く場面がある。これは強烈な描写として紹介される事もあるが、最初に観た私の印象は「イギリスって、上品」だった。教鞭でズボンの上から叩くだけだから血が滲む程度だろうし、ズボンも破けていない。処罰が終わったら叩き役はスポーツでもした後のような爽やかな笑顔で主人公と握手する。私にはむしろこの場面が面白かった。
 
 後に主演のルパート=エバレット氏は同性愛者であることをカミングアウトした。
 
(余談4)現在の日本でも、社会主義の流れをくむ護憲派とフェミニストやジェンダーフリー論者は憲法改正反対に共闘している事が多々ある。
 

テーマ:映画感想 - ジャンル:映画

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