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ミカエル晴雨堂の晴耕雨読な映画処方箋

晴雨堂ミカエルの飄々とした晴耕雨読な映画処方箋。 体調に見合った薬膳料理があるように、 料理に合う葡萄酒があるように、日常の節目に合った映画があります。映画の話題をきっかけに多彩な生活になれば幸いです。詳しいレビューは「続きを読む」をクリックしてください。

「デモンズ'95」 孤独を楽しむ時に〔17〕

デモンズ'95」 死臭と腐臭の幻想世界
 

 
【原題】DELLAMORTE DELLAMORE
【公開年】1994年  【制作国】伊太利 仏蘭西  【時間】100分  
【監督】ミケーレ・ソアヴィ
【原作】 ティジアノ・スクラヴィ
【音楽】マヌエル・デ・シーカ
【脚本】ジャンニ・ロモーリ
【言語】イングランド語
【出演】ルパート・エヴェレット(フランチェスコ・デラモルテ)  フランソワ・ハジー・ラザロ(ナギ)  アンナ・ファルチ(彼女)  
             
【成分】笑える ファンタジー 不思議 不気味 知的 切ない セクシー コミカル ゾンビ
         
【特徴】イタリアの片田舎にある墓地を舞台に、墓守と助手の2人がゾンビ相手に死闘を繰り広げる。ゾンビはもっぱら初七日の夜に発生し、夜の墓地で時には集団で、時にはバイクに乗って、幻想的に現れる。 墓場でヒロインがルパート・エヴェレット氏と騎乗位でセックスしている場面が評判となった。
 「デモンズ」のシリーズであるかのように邦題がつけられているが、関係ない。

 日本ではB級以下のエログロのホラーとして紹介されているが、内容はカフカの不条理世界を連想させる文学的描写である。
  
【効能】孤独感を楽しめる。月夜に観ると発情する。
 
【副作用】ホラー嫌いには爛れた映画にしか見えない。
 
下の【続きを読む】をクリックするとネタバレありの詳しいレビューが現れます。記事に直接アクセスした場合は、この行より下がネタばれになりますので注意してください。  
幻想的なゾンビ映画

 監督は「サスペリア」のダリオ・アルジェント監督のもとで映画に関わってきたミケーレ・ソアヴィ氏、主演は「アナザー・カントリー」のルパート・エヴェレット氏、この2人が揃うだけで退廃耽美の香りがする。
 
 イタリア映画界を代表するミケーレ・ソアヴィ監督だが、日本では興味本位的な扱いしかされていない。どういう訳か彼のホラー映画は、日本では「デモンズ」と名づけられる傾向が強く、事情を知らない人にはさもM・ソアヴィ監督は「デモンズ」シリーズにしがみついている三流監督のようなイメージで見られる(余談1)が、ダリオ・アルジェント監督の「門下」で頭角をあらわし、監督デビュー作「アクエリアス」はホラーファンの間で高く評価されている。
 「デモンズ」はシリーズといえるほど創られていないし、言うまでもなくこの作品は「デモンズ」とは関係ない。(余談2)
 
 一言で表現すれば、死臭と腐臭が漂う幻想世界、というべきか。ファンからのお叱りを覚悟で例えるなら、アメリカの詩情豊かなSF小説家レイ・ブラットベリー氏がもしゾンビ小説を書いたら、この映画のようになるだろう。
 ルパート・エヴェレット氏の役は墓守である。少し知恵遅れの太った助手と2人で管理する墓地では、なぜか埋葬後7日たつとゾンビ化して墓から這い上がり生きている人間を襲う。成仏させるには他のゾンビ映画と同じく頭を破壊しなければならない。墓守は食事や入浴のときも拳銃(余談3)を手元に置いている。
 この異常な生活は、2人にとってはありふれた日常になっていた。2人は手馴れた動作でゾンビ退治を繰り返し、カメラはそれを淡々と撮っていく。だから、この映画は恐怖をウリにするホラー映画ではない。
 
 ゾンビ描写の新機軸が盛り沢山である。
 墓守の恋人がゾンビ化したとき、蒼白の身体に所々痛んで黒ずみ、ランジェリー風の衣服はボロになっているが、顔は神秘的な表情なので、ほのかに腐臭を放つ女神という描写だ。
 結婚前の少女が事故で亡くなり花嫁衣裳で埋葬されるとき、少女に恋していた助手の嬉しそうな顔が切ない。埋葬から7日後に助手がうきうきしながら墓を暴き、無理やり棺桶から出そうとしたために少女の首だけが取れる。ウエディングベールをつけた少女の生首が助手の求愛を受け、2人で墓地の小屋へ歩く後姿がどことなくユーモラス。
 バイク乗りの若者がゾンビ化したときは、副葬品のバイクと一緒に墓から飛び出し、月夜の墓地を爆走する。バイクはガソリンを入れたまま埋葬されたのか? それともバイクもゾンビ化したのだろうか?
 
 ゾンビ退治の日々に疲れた墓守の前に、干物が腐ったような臭いが漂いそうな死神が白昼堂々と現れ、人を殺せばゾンビは出ないことを約束する。墓守は死神の言うとおりに街に出て大量虐殺を始める。死神の魔力なのか、警官も刑事も墓守を疑わない。それどころか、拳銃を片手にいかにも挙動不審な墓守に向かって気さくに声をかけ「この先で殺人事件が起こったから、気をつけろ。銃を持っていたら安全だ」と朗らかに注意する。実にコミカルな場面である。
 
 ついに心身ともに限界を感じた墓守は助手と2人で町を出ようとするが、町は異次元か異空間で隔離されているのか出られない。瓶のような空間の中に2人がポツンと立ち尽くす詩情ある風景で物語は終わる。
 
(余談1)「デモンズ」は2作しかつくられていない。その他の「デモンズ」はシリーズでも関連作品でない。
 なお、本作を以てソアヴィ監督は息子の介護のため映画界から引退する。
 
(余談2)原題はイタリア語か? 辞書が手元に無いので判らない。内容から邦題をつけるとすれば、「墓守の愛」「愛欲の墓地」あたりが適当か?
 原作はホラーコミックらしい。

(余談3)訪問してきたゾンビ紳士を撃ち倒した後、拳銃をテーブルに置いた時、画面いっぱいに拳銃がアップで映るので型がよく判る。私は銃器マニアではないので断定できないが、イタリアの軍用拳銃ボデオ M1889 リボルバーだと思う。マカロニウエスタン「暁の用心棒」に登場するアギラの愛用銃として知られている。
 グリップの形状に特徴があるので判別しやすい。引き金を囲う用心金が無いタイプの方が有名だが、本作では有る方である。


 
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