FC2ブログ

ミカエル晴雨堂の晴耕雨読な映画処方箋

晴雨堂ミカエルの飄々とした晴耕雨読な映画処方箋。 体調に見合った薬膳料理があるように、 料理に合う葡萄酒があるように、日常の節目に合った映画があります。映画の話題をきっかけに多彩な生活になれば幸いです。詳しいレビューは「続きを読む」をクリックしてください。

「散り行く花」 自分に喝を入れたい時に〔10〕 

散り行く花」 映画史の伝説的名作


散り行く花【淀川長治解説映像付き】《IVC BEST SELECTION》 [DVD]
散り行く花 (トールケース) [DVD]

【原題】BROKEN BLOSSOMS 
【公開年】1919年  【制作国】亜米利加  【時間】60分  
【監督】D・W・グリフィス
【原作】トーマス・パーク
【脚本】D・W・グリフィス
【言語】無声映画
【出演】リリアン・ギッシュ(ルーシー)  リチャード・バーセルメス(中国人青年チェン・ハン)  ドナルド・クリスプ(バトリング・バロウズ)  

【成分】泣ける 悲しい ロマンチック 切ない かわいい 1910年代 サイレント白黒映画

【特徴】夢やぶれ落ちぶれた中国人青年チェン・ハン、父親の暴力に怯える美少女ルーシー、野卑で凶暴なプロボクサーの父親バトリング。ロンドンの陰気なスラム街で荒んだ日々をおくるチェン・ハンとルーシーに巡ってきた束の間の儚い安らぎを描くプラトニックなラブ・ロマンス。

【効能】思春期の頃に抱いたプラトニックな恋愛を思い出させる。ドメスティック・バイオレンスは昨日今日に始まった現象ではなく、古くから連綿と起こっていた事を再確認させる。

【副作用】全体に話が暗くて気が重くなる。

下の【続きを読む】をクリックするとネタバレありの詳しいレビューが現れます。記事に直接アクセスした場合は、この行より下がネタばれになりますので注意してください。
リリアン・ギッシュの演技

リリアン・ギッシュ 1915年頃
1915年頃のリリアン・ギッシュ

 映画黎明期の「月世界旅行」・ソ連の「戦艦ポチョムキン」・チャップリンの短編作品などを思い浮かべる映画ファンは多いと思うが、「散り行く花」もこれら名作に列する。
 監督は映画史で「映画の父」と評されるグリフィス。クローズアップ技法など現在の映画で基本となる手法を編み出していった。映画史に残る傑作を多数制作したが、アメリカで興行的に失敗しヨーロッパでは評価された作品もある。(余談1)

 本作はシンプルに3人の登場人物で構成されている。リチャード・バーセルメス氏扮する良家の若い中国人青年が冒頭に登場し、ガラの悪い白人水兵たちに顔を顰め、野蛮な欧米人に仏の教えを広めようと希望を胸にロンドンへ渡るが、落ちぶれてスラム街のしがない商人になる。一方そのスラム街では15歳の少女ルーシーが父親のドメスティック・バイオレンスに晒されていた。この作品は中国青年とルーシーのプラトニックで儚い恋を描く。

 白人俳優リチャード・バーセルメス氏の中国人振りはあまり違和感が無かった。衣装も特に誤りは無かった。中国にいるときの堂々とした物腰と明るい照明、落ちぶれたときの猫背姿に陰影を強調した照明、対比は見事だ。サイレントならではの表現である。

 驚きなのは、薄幸の美少女を演じたヒロインのリリアン・ギッシュ氏、彼女は1893年生まれ、出演当時は二十歳代半ばの大人になっているはずである。しかし作中の彼女はまるで小学生のように幼く可憐だった。D・W・グリフィス監督とは芸術家としての同志的関係で、本作品発表の翌年には妹が出演する映画のために監督も担当しているほどの実力者である。

 憂いと愁いを帯びた大きな瞳、ぎこちない笑顔、大袈裟とも思える怯える動きの表情筋、迫りくる父親の暴力を前にただ恐れおののき犬のように辺りをグルグルと回る動作。
 あの当時、俳優の演技は舞台で見せることを前提にしていた。さらに白黒サイレント映画は色と音が無いので独特のメイクと演技をしなければならない。役柄の心情風景を観客に伝えるためには、現在の映画よりも大袈裟に動く必要があった。

 晩年のリリアン・ギッシュ氏は当時の演技について「子供の動きは動物に近いと思ったので、恐怖に駆られたら辺りをグルグル回るだけになってしまうだろう」と説明していた。
 この判断は正しいと思う。おかげで出演当時は既に成人になっているはずなのに、全く大人には見えなかった。粗暴な父親のおかげて笑うことを知らぬまま短い一生を終えてしまう幼い少女そのものだった。

 この話をしたTVインタビューは80年代後半だったと思う。「散り行く花」の美少女が御健在であったことに吃驚し、そのうえ現役の俳優であることに最敬礼した。「八月の鯨」で老姉妹の妹セーラを演じていたのでは1987年頃だ。既に90を超える老人だったと思うが、非常にお元気で明るくてハッキリとした言葉で話されていた。
 ふと思った。薄幸の美少女を演じていたあの頃、現場ではケタケタと明るく、グリフィス監督にはタメ口で演技についての意見を並べたりと、180度正反対の太陽のような女の子だったのではないか、と。

 最後に「散り行く花」という邦題は儚い余韻があって名タイトルだと思う。原題の「BROKEN BLOSSOMS(壊れた花)」は生々しくてストレートで気持ち悪い。欧米人は余韻も捻りも無くそのまんまのタイトルをつける。
 もし邦題を英語に訳したら、逆にアメリカ人は意味が解らなくなるのだろうか?

(余談1)この「散り行く花」は興行的に成功したかどうかは知らないが、主演のリリアン・ギッシュ氏の話によれば、スポンサーは「ウケない」と大怒りだったらしい。

(余談2)中国人の役名は単に「yellow man」とあるだけ。チャイニーズでもアジアンでもない。当時のアメリカ人の貧しい認識が窺われる。



晴雨堂スタンダード評価
☆☆☆☆ 優

晴雨堂マニアック評価
☆☆☆☆☆ 金字塔


晴雨堂関連作品案内
八月の鯨 リンゼイ・アンダーソン
嵐の孤児 <全長版> [DVD] D・W・グリフィス<全長版> [DVD]
イントレランス【淀川長治解説映像付き】 [DVD] D・W・グリフィス
國民の創生 [DVD] D・W・グリフィス
白昼の決闘-完全復刻版- [DVD] キング・ヴィダー
狩人の夜 [DVD] チャールズ・ロートン


 
 blogram投票ボタン にほんブログ村 映画ブログへ
ブログランキングに参加しています。
関連記事
スポンサーサイト



コメントの投稿













管理者にだけ表示を許可する
映画処方箋一覧
晴雨堂が独断と偏見で処方した映画作品。
下段「日誌」項目は晴雨堂の日常雑感です。
メールフォーム
晴雨堂ミカエルに直接ご意見を仰せになりたい方は、このメールフォームを利用してください。晴雨堂のメールアドレスに送信されます。

名前:
メール:
件名:
本文:

プロフィール
↓私の愛車と野営道具を入れたリュックです。

晴雨堂ミカエル

Author:晴雨堂ミカエル
 執筆者兼管理人の詳しいプロフィールは下記の「晴雨堂ミカエルのプロフ」をクリックしてください。

晴雨堂ミカエルのプロフ

FC2カウンター
2007年10月29日設置
当ブログ注目記事ランキング
当ブログで閲覧数の多い順ランキングです。
設置2013年6月13日
ブログランキング
下記のランキングにも参加しております。ご声援ありがとうございます。
  にほんブログ村 映画ブログへblogram投票ボタン
アクセスランキング
[ジャンルランキング]
映画
15位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
レビュー
5位
アクセスランキングを見る>>
タグランキング
晴雨堂の関心度が反映されています。当ブログ開設当初は「黒澤明」が一位だったのに、今は・・。
訪問者閲覧記事
最近のアクセス者が閲覧した記事を表示しています。
月別アーカイブ
ブロとも申請フォーム
リンク