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ミカエル晴雨堂の晴耕雨読な映画処方箋

晴雨堂ミカエルの飄々とした晴耕雨読な映画処方箋。 体調に見合った薬膳料理があるように、 料理に合う葡萄酒があるように、日常の節目に合った映画があります。映画の話題をきっかけに多彩な生活になれば幸いです。詳しいレビューは「続きを読む」をクリックしてください。

「ラリー・フリント」 絶望から脱出しよう〔35〕 

ラリー・フリント」 
圧倒的多数のエセ良識に押し潰される
小さな自由。

 

      
【原題】THE PEOPLE VS. LARRY FLYNT
【公開年】1996年  【制作国】亜米利加  【時間】129分  
【監督】ミロス・フォアマン
【原作】
【音楽】トーマス・ニューマン
【脚本】スコット・アレクサンダー ラリー・カラゼウスキー
【言語】イングランド語      
【出演】ウディ・ハレルソンラリー・フリント)  コートニー・ラヴ(アルシア・リージャー)  エドワード・ノートン(アラン・アイザックマン)  ブレット・ハレルソン(ジミー・フリント)  ドナ・ハノーヴァー(ルース・カーター・ステイプルトン)  ジェームズ・クロムウェル(チャールズ・キーティング)  クリスピン・グローヴァー(アーロ)  ヴィンセント・スキャヴェリ(チェスター)  マイルズ・チャピン(マイルズ)
   
【成分】泣ける 楽しい 悲しい 勇敢 知的 切ない セクシー かっこいい 出版業界 表現規制 言論 風俗 70年代 アメリカ 英語

【特徴】実在のポルノ雑誌出版編集人として著名なラリー・フリント氏のサクセスストーリーと長い苦難の法廷闘争を描いた作品。圧倒的多数のエセ良識によって潰されそうになる社会的少数者への優しい視点が光る、ミロス・フォアマン監督ならではの表現。
 主人公は風俗業界の人間ゆえ、作中で女性の裸がよく出てくるが、それ以上に多いのは法廷闘争の場面である。欧米、とりわけアメリカは訴訟社会なので法廷でのやり取りは迫力ある。
 
 作中ではラリー・フリント氏本人が裁判官役でカメオ出演している。自ら判事役を務めるとはなかなかの皮肉 
    
【効能】表現規制問題の落とし穴と「良識」に潜む残虐性を学べる。アメリカ法廷闘争の雰囲気を体感。絶望の中に希望の光りを見る。
 
【副作用】ただのエロ親父の自業自得破綻人生にしか見えず、不快感。主人公に人間的成長が見られず虚しさを覚える。
 
下の【続きを読む】をクリックするとネタバレありの詳しいレビューが現れます。記事に直接アクセスした場合は、この行より下がネタばれになりますので注意してください。
エセ保守派とエセ人権派は
卑怯にも理解を拒否する世界。

 
 ミロス・フォアマン監督は「カッコーの巣の上で」「アマデウス」などの社会派や伝記映画を得意とする映画人のイメージが強い。
 あまり監督のプライベートな生い立ちと絡めるのは良くないと思うが、父母をナチスドイツのユダヤ人迫害で失い、母国チェコではソ連の圧力を受け亡命を余儀なくされた。

 だからフォアマン監督は洪水のように押し寄せる公的抑圧に精一杯抵抗して生き抜こうとする一個人への視点が丁寧で優しい感じする。
 
 ラリー・フリント氏は歴史上の人物ではなく、ご健在の現代人だ。ストリップ・クラブを経営、最初はそのPR誌のつもりで発行した「ハスラー」が一般誌に食い込み大成功。一躍、クラブ経営者から出版業界の寵児となる。現在もポルノ文化の業界では伝説的巨人だ。
 実際のフリント氏の写真を見たことがあるが、主演のウディ・ハレルソン氏のような痩せて角ばった顔はしていない。ポッチャリと肥えた感じの、とても美男子ではない。(余談1)ヒロインのコートニー・ラヴ氏は実際のアリシアに雰囲気をかなり近づけている。
 弟ジミー役には、ウディ・ハレルソン氏の実弟ブレット・ハレルソン氏が担当しているので説得力があるが、同じような顔が2人いて混乱すると監督が判断したのか弟には口髭を生やさせて区別している。
 
 ラリーとアリシアの夫婦関係は、世間一般の夫と妻というよりは、仕事の同志とセックスフレンドのようだ。自分たちが築き上げたハスラーを盛り上げようと、イケイケで邁進する姿は微笑ましい。ラリーが狙撃され半身不随になってからは夫婦の営みが出来なくなってしまうのだが、依然として同志関係は続き自分たちの世界を守ろうと懸命になる姿は切ない。

  ハスラーはいわゆる風俗誌で、ラリーはその業界の人間、当然のことながら本作も女性の裸や半裸がよく出てくるのだが、それ以上に多いのは法廷場面だ。アメリカの保守派・良識派による法廷闘争を余儀なくされる。ここで頑張るのはエドワード・ノートン氏扮する若い弁護士、アリシアが白羽の矢を当てた童顔のアイザック弁護士である。
 欧米の論争劇というのは、よくできている。日本のような予定調和の世界ではないからリアリティがある。
 
 戦争犠牲者の遺体写真と女性のヌード、どちらが忌まわしいかを問うラリーの姿はカッコ良い。当然、忌まわしいのは戦争の写真であり、女性のヌードは生命の象徴だ。しかし、銃弾を頭に受けて斃れかける兵士の写真(ロバート・キャパは好きだが)がもてはやされて、赤ん坊が出てくる素敵なところを映せば猥褻だ。私もその社会の「良識」は異常な似非良識だと思う。
 
 久しぶりにDVDで観ると涙が出る。映画館で観た時は、フォアマン監督よくやった、と喝采するだけだったが。それだけ日本の表現規制は思慮浅く進められている。
 規制ばかり増やせば、それだけ歪んだ性犯罪が増えるだけだ。(余談2)

(余談1)最初の法廷場面だったか? 裁判官役でラリー・フリント氏自身がカメオ出演。顔のアップも映っている。肥えて首が見えない状態になっているが、雰囲気は若い頃と変わりはない。
 裁判官に扮するとは、フリント氏は考えたな。

(余談2)日本はかつて裸文化を謳歌していた。欧米のようにヌーディスト・ビーチなんて特別な場所は必要なかった。何故なら日常だったから。
 暑い夏では、男も女も諸肌脱いで涼んでいた。これはつい百年前まで日本の農村漁村では珍しくなかった。炭鉱では共同浴場で男も女も一緒の風呂場で煤や油を落としていた。
 
 いつも思うのだが、権力が「風紀を守る」「治安を守る」という目的のために取り締まってくるし、保守派は規制すれば万事解決と脊髄反射で短兵急判断をするのだが、取締りを厳しくすればするほど、むしろ社会は歪み男女差別や幼児虐待が噴き出しているのではないか。
 出雲の阿国の頃は女優が歌舞伎やっていたのに、幕府が規制して現在の形になった。明治に入ってからは基督教諸国に合わせて銭湯の混浴も取り締まりだした。
 しかし性風俗を取り締まれば取り締まるほど、実は女性や子供の権利も削がれ翻弄させられている事に気づかないか?
 

 
晴雨堂スタンダード評価
☆☆☆☆ 優
 
晴雨堂マニアック評価
☆☆☆☆☆ 金字塔

 
【受賞】ベルリン国際映画祭(金熊賞)(1997年) ゴールデン・グローブ(監督賞)(1996年) LA批評家協会賞(助演男優賞)(1996年)

晴雨堂関連書籍案内
ラリー・フリント (徳間文庫) ラリー・フリント




 
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コメント頂きありがとうございました!

>戦争犠牲者の遺体写真と女性のヌード、どちらが忌まわし
いかを問うラリー
ホント、ブラボーなシーンです。
表現の規制については難しい問題だなと思いますが、このスピーチはとても説得力があっていつ観ても唸らされます^^
[ 2012/01/15 22:44 ] [ 編集 ]
*jonathan*氏へ
 
 こちらこそ、ありがとうございます。
 
 感動されたとは嬉しいですね、「ラリー・フリント」は私の作品ではないのにありがたく思ってしまいます。
 
 それだけ、作品に感情移入しすぎているのかもしれません。

> >戦争犠牲者の遺体写真と女性のヌード、どちらが忌まわし
> いかを問うラリー
> ホント、ブラボーなシーンです。
> 表現の規制については難しい問題だなと思いますが、このスピーチはとても説得力があっていつ観ても唸らされます^^
 
 これは世間の矛盾を雄弁に突いた名場面です。
思えば、女性の裸が忌むべきものであれば、
時代劇でバッサバッサ人が斬り殺されたり、
戦争映画で人がバラバラ射殺されたりする場面は、出してはいけない事になるし、
凶悪事件との因果関係を疑わなくてはならなくなります。
しかし、秋葉原の殺人事件の犯人は、鬼平犯科帳を観てやった訳ではありません。

 東京都をはじめ各地の自治体では短兵急な規制を進めていますが、
私は見当ハズレの対策をやっても逆効果ですよ。
[ 2012/01/16 00:07 ] [ 編集 ]
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