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ミカエル晴雨堂の晴耕雨読な映画処方箋

晴雨堂ミカエルの飄々とした晴耕雨読な映画処方箋。 体調に見合った薬膳料理があるように、 料理に合う葡萄酒があるように、日常の節目に合った映画があります。映画の話題をきっかけに多彩な生活になれば幸いです。詳しいレビューは「続きを読む」をクリックしてください。

「桃太郎 海の神兵」 社会問題を考えたい時に〔3〕

桃太郎 海の神兵」 
手塚治虫に影響を与えた伝説のアニメ

 

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【公開年】1945年  【制作国】日本国  【時間】74分  【監督】瀬尾光世
【音楽】古関裕而 大東亜交響楽団
【脚本】瀬尾光世
【言語】日本語 一部イングランド語
【出演】未確認  
             
【成分】・ファンタジー スペクタクル ロマンチック 勇敢 切ない かわいい かっこいい 戦争アニメ 1940年代 第二次大戦 白黒 アニメ
            
【特徴】第二次大戦末期、海軍省の後援で制作された国策アニメ映画。桃太郎の鬼退治をベースに、第二次大戦初期の第一落下傘旅団パレンバン油田基地急襲や山下奉文将軍のシンガポール占領などの勝ち戦を物語に盛り込んでいる。
 落下傘部隊が敵地に降下し銃撃を行う様は綺麗に描き込まれていて動きも良く名場面である。また、鬼である欧米人が世界中を侵略し植民地にしていった歴史的事実が影絵アニメで絵本調に解り易く描写されている点もセンスが良い。これらの描写に影響を受けた手塚治虫氏は後に「ジャングル大帝」を制作したといわれている。
 海軍省の強力なバックアップがあったとはいえ、制作時は大戦末期、物資も熟練アニメーターも不足している中での制作、国策アニメとはいえ作品づくりにかける情熱を感じる一作だ。
 
【効能】牧歌的な当時の日本の山村描写に癒されると同時に、油断するとその山村が蹂躙される國際社会の厳しさを学べる。
 当時の末期的戦況と作品内容の落差を見ることで反面教師として戦争の虚しさを体感できる。
 
【副作用】偏った認識のもと戦意高揚のための国策アニメゆえ、胡散臭さとわざとらしさでおぞましく思う。
 古い画質とデッサンの乱れが不快感。
 
下の【続きを読む】をクリックするとネタバレありの詳しいレビューが現れます。記事に直接アクセスした場合は、この行より下がネタばれになりますので注意してください。  
賛否はともかく、制作者の矜持を感じる作品。

 公開は1945年4月。4月のいつかは判らないが、戦艦大和が沖縄へ出撃し、知覧からは前途ある若者たちが神風として飛び立って逝った末期的戦局の時期にあたる。(余談1)言うまでもなく、この長編アニメ映画の制作趣旨は国威発揚であり、海軍省後援の下に制作された国策映画である。
 戦火で焼失したか、戦後GHQの追及を恐れて処分されたと思われていたが、80年代になって松竹の倉庫の奥で発見された伝説のアニメだ。
 
 作品内容は、桃太郎の鬼退治をパロディーにしたものだ。当然のことながら、桃太郎らは日本軍であり、鬼は英軍である。物語はこの時期すでに過去の栄光となった山下奉文将軍のシンガポール占領と、第一落下傘旅団パレンバン油田基地急襲をエピソードに取り入れている。
 敗戦直前の破綻した日本経済を反映してか、海軍省のバックアップを受けていても作画は不安定でときおり技術的に稚拙な部分も出てくる。同時代のディズニーアニメと比べれば、その差は歴然としている。(余談2)
 
 物語構成と演出は、国策映画という但書付きで素晴らしいと思う。高価な機材と熟練した人員が必要な映画やアニメは国家の支援の下でなければ制作できず、当然のことながら国策映画しか撮らせてもらえない。アニメ制作の楽屋裏を若干知っている人間としては、作品全体に不本意ながらも創作にかける情熱と労苦が滲み出ているのを感じてしまうため、一部の護憲市民や反戦平和運動家のように「おぞましい国策映画」と簡単に決め付けて一蹴することはできない。
 
 評価できる点(余談3)は幾つかある。まず主人公は桃太郎ではない。司令官桃太郎の下で戦う猿・犬・雉たち下士官・兵士である。冒頭は猿の水兵たちの平和で牧歌的な故郷描写から始まる。美しい山村描写とあどけない猿の水兵たちは、後の「男たちの大和」に通ずるものがある。
 当時の大東亜共栄・アジアの解放という大義名分を背景にしているものの、鬼であるヨーロッパ人たちが如何に狡賢く世界侵略をしてきたかが、この歴史的事実を影絵調でファンタジックに解りやすく描写されている。
 目玉は落下傘部隊の急襲場面だ。飛行機から落下傘降下する兵士たちの描写がとび抜けて細かく美しい。実際の落下傘部隊の戦闘をかなり精細に再現していた。よく海軍省は許可したものである。(余談4)
 
 この長編アニメは、たしかに戦意高揚を目的としている。当時の制約ある環境下では加害者の視点どころか、軍当局が士気を萎えさせると判断した箇所は全てカットされるのだ。(余談5)
 過酷な時代であっても、賛否あるにせよ創作の意欲を抱き続けた当時のクリエイターたちの熱意と、クリエイターたちを苦しめた社会や権力者の醜い姿をこのアニメで汲み取ることが大切なのだ。(余談6)
 
(余談1)「男たちの大和」と「俺は、君のためにこそ死ににいく」と比較しながら観ることを薦める。物語展開と演出に類似点を見るだろう。
 当時、医学生だった手塚治虫氏が観ていたそうである。そういえば、この「海の神兵」で登場する南洋の描写が手塚治虫氏の「ジャングル大帝」と似ているような気がした。
 
(余談2)監督は日本アニメの先駆けであり、「のらくろ」の作画などを手がけた瀬尾光世氏である。瀬尾監督はディズニーの国策アニメを観て驚愕したそうである。戦時中に何故みれたのかは不明だが、おそらく海軍省の軍属のような立場だったのだろう。地位を利用して日本軍が占領地で没収した映画フィルムを研究と称して観た可能性がある。
 手塚治虫氏もそうだが、昔のアニメ関係者はディズニーコンプレックスがある。現代のアニメ作家には想像できないかもしれないが。
 
(余談3)あくまで「評価できる点」であって「評価すべき点」ではない。この意味の違いを取り違えないよう願う。
 いくら海軍が支援して100人ものスタッフを投入したとはいえ、熟練アニメーターの多くは戦地に行っており、しばしばデッサンが乱れる画像から瀬尾監督の苦労が窺われる。
 
(余談4)それでも、銃器の描写に軍からクレームがつき描き直させられたそうだ。
 銃器の描写程度でクレームをつけても仕方がない。むしろ米軍は想像力乏しい日本の官僚や軍人の特質に目をつけて勝利していったと評しても過言ではないからだ。つまり庶民やクリエイターたちを締め付けた日本の官僚こそ米軍を利する利敵行為と見なしても良いだろう。
 
(余談5)他にも雉兵長の部下の葬儀場面がカットされている。
 
(余談6)一部の反戦平和運動家や左翼市民の言をそのまま受け取れば、アンジェイ・ワイダ監督やタルコフスキー監督や張藝謀監督の作品も体制迎合作品として一蹴しなければならなくなる。
 
晴雨堂スタンダード評価
☆☆☆ 良
 
晴雨堂マニアック評価
☆☆☆☆ 名作

 
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ジャングル大帝 ベスト・セレクション<ジャングルの掟編> [DVD] 手塚治虫<ジャングルの掟編> [DVD]


 
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