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ミカエル晴雨堂の晴耕雨読な映画処方箋

晴雨堂ミカエルの飄々とした晴耕雨読な映画処方箋。 体調に見合った薬膳料理があるように、 料理に合う葡萄酒があるように、日常の節目に合った映画があります。映画の話題をきっかけに多彩な生活になれば幸いです。詳しいレビューは「続きを読む」をクリックしてください。

「ラストエンペラー」 美術鑑賞映画〔3〕 

ラストエンペラー
ジョン・ローン氏は良かったが・・。

 

 
【原題】THE LAST EMPEROR
【公開年】1987年  【制作国】伊太利 英吉利 中華人民共和国  
【時間】163分  
【監督】ベルナルド・ベルトルッチ
【原作】愛新覚羅溥儀
【音楽】坂本龍一 デヴィッド・バーン 蘇聡
【脚本】ベルナルド・ベルトルッチ マーク・ペプロー エンツォ・ウンガリ
【言語】イングランド語 一部中国語 日本語
【出演】ジョン・ローン愛新覚羅溥儀)  陳冲(婉容皇后)  ピーター・オトゥール(レジナルド・ジョンストン)  坂本龍一(甘粕正彦)  デニス・ダン(大李)  ヴィクター・ウォン(陳宝琛)  高松英郎(菱刈隆大将)  マギー・ハン(川島芳子)  リック・ヤン(戦犯収容所尋問官)  鄔君梅(文繍淑妃)  ケイリー=ヒロユキ・タガワ(張謙和)  池田史比古(吉岡安直中佐)  
             
【成分】スペクタクル ゴージャス 勇敢 知的 切ない かっこいい 20世紀初頭~1960年代 第二次大戦 満州国 中国
            
【特徴】イタリアの名監督ベルナルド・ベルトルッチ氏による歴史大作。当時の中国政府の協力によって紫禁城のロケーションが実現。
 男前のジョン・ローン氏の辮髪姿・背広姿・人民服姿が見られる。映画音楽を担当した坂本龍一氏の中華風西洋音楽がグッド。(彼は音楽でアカデミー賞をとる)。
 
【効能】時代劇とゴージャス劇と人民中国風映画など、さまざまな雰囲気が楽しめる。
 
【副作用】西洋人的興味本位な歴史改竄が目立ち不快になるかもしれない。
 
下の【続きを読む】をクリックするとネタバレありの詳しいレビューが現れます。記事に直接アクセスした場合は、この行より下がネタばれになりますので注意してください。  
ヨーロッパの君主に見える皇帝溥儀

 清朝最後の皇帝溥儀の一生を描いた超大作であり、1987年公開当時は日本でも大ブームを巻き起こした。それに触発されてか、本来の当事国である中国・香港でも映画「火龍」(余談1)やTVドラマ「末代皇帝」が制作され、これも日本で流行った。主役はチミノ監督「イヤー・オブ・ザ・ドラゴン」でマフィアの若きボスを好演したジョン・ローン氏が抜擢された。
 
 伊・英・中の合作で創られたこの作品、たぶん中国史や中国人の所作を知らない人間が観たら、思わず感動してしまう映画だろうと思う。イタリアの名監督ベルトリッチ氏の名演出と坂本龍一氏の重厚な中国風西洋クラッシック、1930年代のアール・デコ調風俗とそれを引き立たせるジョン・ローン氏の美貌、欧米人や日本の女学生および若いOLにウケる美しい描写になっている。
 激動の20世紀を生きた溥儀を演じるためジョン・ローン氏は、青年時代の長衣の辮髪姿・青年皇帝時代のゴージャスな洋装・老年期の質素な人民服姿と様相を変え、それに見合った演技を披露しているので、ファンにはたまらないだろう。特にラストの溥儀老人を演じた36歳のJ・ローン氏の技量は素晴らしいものだった。
 
 しかしである。前述したように、この映画は中国史や中国人を知らない人間にとっては感動できる映画ではある。逆にいえば、中国人を知っている人間にとっては噴飯モノである。
 まずハリウッド仕様にしているのか中国が合作に加わっているにも関わらず台詞は英語である。しかも日本軍将官が日本語で話し通訳が英語で溥儀に伝えるという極めて不自然な描写があった。ハリウッド仕様なら、いっそ全て英語に統一しても良かったのだ。
 また、ジョン・ローン氏はアメリカの俳優ではあるが、もともと香港出身の中国人であり京劇など中国の古典舞踊を学んできた実力派俳優であるのに、作中の所作は中国人らしくなく、まるでヨーロッパの小公国の王子のようだった。同種テーマの中国が制作した「火龍」と「末代皇帝」を見れば一目瞭然だろう。ジョン・ローン氏の責任ではなく、監督の趣味のせいだ。
 后同士が仲が良いというのもイマイチ納得がいかない。そんな関係もあるかもしれないが、日本・韓国・中国の宮廷劇は共通してドロドロした女同士の権力闘争、特に史実でも中国の後宮はそんな話が絶えない。中国三大悪女の一人である大権力者西太后の御前で幼い溥儀がはしゃぐなど、まったくありえないし英語を話す西太后ともに爆笑モノである。まだ日本語を話す「蒼穹の昴」の田中裕子氏の西太后のほうがさまになっている。
 満州国軍の兵士を武装解除したり、坂本龍一氏扮する甘粕が皇后の不倫をネタに溥儀を脅すのも説得力が無い。(余談2)壮大なスケールの映画なのに、甘粕ら日本人が溥儀を傀儡にし満州国を牛耳る過程がショボイ描写だ。
 
 たぶん、ジョン・ローン氏も内心は変だなと思っていたはずである。敢えてハリウッドの市場に従い、ビジネスに徹したようだ。
 また、ベルトリッチ監督の描写に納得がいかないゆえに中国は「末代皇帝」を制作したのではないかと思う。
 
(余談1)中国皇帝は防腐処理して埋葬されるが、溥儀は歴代の皇帝で唯一火葬にされた人物なので「火龍」と呼ばれる。龍は皇帝を示す。
 
(余談2)作中では運転手との不倫だが、実際は満州国軍将校と恋愛関係になっていた。
 満州国軍が丸腰などというのも史実と違う。現にノモンハン事件で満州国軍は最前線でソ連軍と交戦していた。
 他、甘粕をダーティーに演出するために監督の判断で片腕の無い人間にしたあげく川島芳子とデキていたり、文化大革命を貧相に描いたり、関係遺族が観たらたぶん不愉快になるだろう。私も観ながら「ベルトリッチ!ええかげんにせいよ」と思った。
 溥儀の話は未だ歴史ではない。関係者や遺族が存命している現代の話である。なのにこの歪曲、所詮ヨーロッパ人にとってはアジアは御伽噺の国か? と勘ぐりたくなる。
 


晴雨堂スタンダード評価
☆☆☆☆ 優
 
晴雨堂スタンダード評価
☆☆☆ 佳作

 
【受賞】アカデミー賞(監督賞 撮影賞 脚色賞 編集賞 録音賞 衣裳デザイン賞 美術賞 作曲賞)(1988年) ゴールデン・グローブ(作品賞ドラマ)(1987年) NY批評家協会賞(撮影賞)(1987年)
 
晴雨堂関連作品案内
ラストエンペラー ディレクターズ・カット (初回生産限定版) [DVD] ベルナルド・ベルトルッチ
ラスト・エンペラー オリジナル・サウンドトラック 坂本龍一の主題曲が良い。
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ラスト エンペラー (末代皇帝)溥儀 6 [DVD] 陳道明主演
イヤー・オブ・ザ・ドラゴン [DVD] マイケル・チミノ
 
晴雨堂関連書籍案内
わが半生―「満州国」皇帝の自伝〈上〉 (ちくま文庫) 溥儀
わが半生―「満州国」皇帝の自伝〈下〉 (ちくま文庫) 溥儀
新訳 紫禁城の黄昏 レジナルド・F・ジョンストン
最後の宦官秘聞―ラストエンペラー溥儀に仕えて 賈英華
わが夫、溥儀―ラストエンペラーとの日々 李淑賢
  

 
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やはり英語セリフはかなり凹みますよね。

この映画が中国セリフだったら評価は相当変ったと思うのですが。
[ 2013/08/01 18:29 ] [ 編集 ]
うろぱす氏へ
 
 ジョン・ローン氏や陳冲氏をはじめ中国語を話せる俳優(陳冲氏は話せるだけでなく普通話は母語かもしれない)が中国を舞台に中国人の役をやっているのに英語を話す、そんな奇妙な映画でしたね。中国語は僅かに兵士たちが列車を降りる時の掛け声「快!快!(早くしろ)」ぐらいですか。
 
 ならば全て英語で統一すればいいのに何故か日本軍は日本語を話す。中国とイギリスは英語なのに。悪の日本軍を際立たせる効果がありますね。

> やはり英語セリフはかなり凹みますよね。
>
> この映画が中国セリフだったら評価は相当変ったと思うのですが。
[ 2013/08/01 19:14 ] [ 編集 ]
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ラストエンペラーイタリアの名匠ベルナルド・ベルトリッチが、激動の時代に生きた中国の最後の皇帝溥儀(ふぎ)の生涯を描いた歴史大作。アカデミー賞では、ノミネートされた9部門(作品賞、監督賞、撮影賞、脚色賞、編集賞、録音賞、衣裳デザイン賞、美術賞、作曲賞)全...
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