「敦煌」 シルクロード浪漫 【公開年】1988年
【制作国】日本国 中華人民共和国
【時間】143分
【監督】佐藤純彌 【原作】井上靖 【音楽】佐藤勝
【脚本】吉田剛
佐藤純彌【言語】日本語 一部中国語 タングート語
【協力】中国電影合作制片公司 中国人民解放軍八一電影制片廠
【出演】西田敏行(朱王礼)
佐藤浩市(趙行徳)
中川安奈(ツルビア) 新藤栄作(段茂貞) 原田大二郎(尉遅光) 三田佳子(西夏の女) 柄本明(呂志敏) 綿引勝彦(漢人の無頼漢) 蜷川幸雄(没蔵嗣文) 鈴木瑞穂(野利仁栄)
田村高廣(曹延恵) 渡瀬恒彦(李元昊)
【成分】悲しい スペクタクル ロマンチック パニック 勇敢 絶望的 切ない かっこいい 時代劇 シルクロード 中央アジア 11世紀 北宋
【特徴】中国ロケと人民解放軍の協力を得て邦画らしからぬ壮大なスペクタクル時代絵巻にした意欲作。
当時はNHK特集「シルクロード -絲綢之路-」で中国ブーム・シルクロードブームが起こり、舞台となっている
敦煌は観光名所だった。
因みにヒロインはウイグル系の王女、宋(中国)と西夏の勢力争いに蹂躙された王国である。
【効能】砂漠、地平線まで続くエキストラ、壮大な気分にさせてくれる。
【副作用】邦画的クサイ場面がありせっかくの異国情緒が台無し。
下の【続きを読む】をクリックするとネタバレありの詳しいレビューが現れます。記事に直接アクセスした場合は、この行より下がネタばれになりますので注意してください。
内容が投下資本に見合っていない作品 壮大なスケールの歴史超大作との触れ込みだった。それは2007年公開の「蒼き狼・・」に似ているだろう。
田村高廣氏、渡瀬恒彦氏は作品に見合った申し分の無い演技をしていた。
佐藤浩市氏は疑問符がつくが、現代中国人と解釈すれば納得できる演技だったし、
西田敏行氏の騎馬姿とチャンバラは格好良かった。
この手のスペクタクル作品でネックとなっているのは、CGの無い時代の日本国内では大群衆シーンであり人件費の高さからエキストラを集めるのは困難だが、本作では中国政府が全面的に協力し、中国人民解放軍の協力が得られたのが大きかった。中国の戦争映画では解放軍の協力は必ずある。なにしろ解放軍には映画や宣伝のための部隊があるほどだ。観光客への宣伝になり外貨獲得の起爆剤だと算盤をはじいたのだろう。
スペクタクルを撮りたい日本と、外貨獲得を狙う中国の利害が一致した作品である。 また、中国の宋王朝時代の
敦煌は、一見すると馴染みの無い舞台のように思うが、80年代はNHK特集の「シルクロード -絲綢之路-」は好視聴率、シルクロード観光が流行った。テーマ曲を担当した喜多郎もシンセサイザー楽器のブームを作った。宋時代を舞台にした「水滸伝」は70年代前半に日本でTVドラマ化され日本にも馴染みがある。(余談1)
つまり、日本には根強い中国ファン層があり、
敦煌はシルクロードを象徴する遺跡である。(余談2)優秀で人気のある俳優を起用し、宣伝工作をしっかりしていれば、興行的に成功する素材である。
だが、結果は日本映画の弱点を露呈した作品になった。正確には
黒澤明監督を除く全ての日本人監督の欠点といえる。
まず群衆シーンが下手糞だ。「
敦煌」の場合は人民解放軍の協力を得ているので、迫力ある攻城シーンや合戦シーンが描けるはずだ。なにしろエキストラは本職が兵士であるし、命令通りに動く訓練も受けている。一般の素人エキストラに比べれば扱いやすい。実際に張藝謀監督「英雄」で秦軍の弓兵が攻撃する場面があったが大した迫力だった。しかし「英雄」のメインはカンフーであって軍勢シーンではない。「
敦煌」は攻城と合戦シーンは目玉中の目玉である。予算と場面の重要度などを考えたら、「
敦煌」は巨費と人材を投じた割には些かこじんまりと撮りすぎている。黒澤監督の「乱」のほうが少ないエキストラでまだ迫力がある。
次に日本の芸能界の問題かもしれないが、女優がダイコンである。ヒロインの
中川安奈氏は中央アジアの某王国の王女の役という重要な役柄だが、台詞が棒読み風である。表情筋の動かし方もぎこちない。たしかドイツ系?のクオーターだったとおもうが、白人系の容姿は人種の十字路である中央アジアらしくて良かったとは思うが、なぜこれだけの準備と投下資本を投入しながら、モデルに毛の生えたような女優をヒロインに据えるのか? 台無しだ。
日本もハリウッドに負けないスペクタクル史劇を創る力がある。なのに詰めの甘さからショボイ内容になる。群衆シーンの迫力の無さは、エキストラの数ではない。監督が使い方・撮り方が解っていないからだ。内容が水臭くなるのは芸能界の事情から適切なキャスティングができないからではないか。(余談3)日本芸能界の構造的問題があるかもしれない。監督を挿げ替えても、予算をかけても今のままでは同じことかもしれない。
(余談1)「三国志」の吉川英治氏や横山光輝氏・「項羽と劉邦」の
井上靖氏の功績も大きいだろう。時代劇ファンの多くが中国史にも関心を抱くようになっている。
(余談2)拝金主義・環境破壊・不良商品・著作権無視など傍若無人の「今の中国」しか知らない人間にはピンとこないかもしれない。人民中国に憧れる日本人・古代中国に憧れる日本人は大勢居たのである。
(余談3)監督に権限が無いのではないか?
ハリウッドでは、例えば「チャーリー」では名優ダスティン・ホフマン氏がチャップリン役のオーディションを受けて落とされ、若手のロバート・ダウニーJr氏が起用された。
晴雨堂スタンダード評価
☆☆☆ 良
晴雨堂マニアック評価
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田村高廣氏、渡瀬恒彦氏は作品に見合った申し分の無い演技をしていた。
佐藤浩市氏は疑問符がつくが、現代中国人と解釈すれば納得できる演技だったし、
西田敏行氏の騎馬姿とチャンバラは格好良かった。
この手のスペクタクル作品でネックとなっているのは、CGの無い時代の日本国内では大群衆シーンであり人件費の高さからエキストラを集めるのは困難だが、本作では中国政府が全面的に協力し、中国人民解放軍の協力が得られたのが大きかった。中国の戦争映画では解放軍の協力は必ずある。なにしろ解放軍には映画や宣伝のための部隊があるほどだ。観光客への宣伝になり外貨獲得の起爆剤だと算盤をはじいたのだろう。
スペクタクルを撮りたい日本と、外貨獲得を狙う中国の利害が一致した作品である。 また、中国の宋王朝時代の
敦煌は、一見すると馴染みの無い舞台のように思うが、80年代はNHK特集の「シルクロード -絲綢之路-」は好視聴率、シルクロード観光が流行った。テーマ曲を担当した喜多郎もシンセサイザー楽器のブームを作った。宋時代を舞台にした「水滸伝」は70年代前半に日本でTVドラマ化され日本にも馴染みがある。(余談1)
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敦煌はシルクロードを象徴する遺跡である。(余談2)優秀で人気のある俳優を起用し、宣伝工作をしっかりしていれば、興行的に成功する素材である。
だが、結果は日本映画の弱点を露呈した作品になった。正確には
黒澤明監督を除く全ての日本人監督の欠点といえる。
まず群衆シーンが下手糞だ。「
敦煌」の場合は人民解放軍の協力を得ているので、迫力ある攻城シーンや合戦シーンが描けるはずだ。なにしろエキストラは本職が兵士であるし、命令通りに動く訓練も受けている。一般の素人エキストラに比べれば扱いやすい。実際に張藝謀監督「英雄」で秦軍の弓兵が攻撃する場面があったが大した迫力だった。しかし「英雄」のメインはカンフーであって軍勢シーンではない。「
敦煌」は攻城と合戦シーンは目玉中の目玉である。予算と場面の重要度などを考えたら、「
敦煌」は巨費と人材を投じた割には些かこじんまりと撮りすぎている。黒澤監督の「乱」のほうが少ないエキストラでまだ迫力がある。
次に日本の芸能界の問題かもしれないが、女優がダイコンである。ヒロインの
中川安奈氏は中央アジアの某王国の王女の役という重要な役柄だが、台詞が棒読み風である。表情筋の動かし方もぎこちない。たしかドイツ系?のクオーターだったとおもうが、白人系の容姿は人種の十字路である中央アジアらしくて良かったとは思うが、なぜこれだけの準備と投下資本を投入しながら、モデルに毛の生えたような女優をヒロインに据えるのか? 台無しだ。
日本もハリウッドに負けないスペクタクル史劇を創る力がある。なのに詰めの甘さからショボイ内容になる。群衆シーンの迫力の無さは、エキストラの数ではない。監督が使い方・撮り方が解っていないからだ。内容が水臭くなるのは芸能界の事情から適切なキャスティングができないからではないか。(余談3)日本芸能界の構造的問題があるかもしれない。監督を挿げ替えても、予算をかけても今のままでは同じことかもしれない。
(余談1)「三国志」の吉川英治氏や横山光輝氏・「項羽と劉邦」の
井上靖氏の功績も大きいだろう。時代劇ファンの多くが中国史にも関心を抱くようになっている。
(余談2)拝金主義・環境破壊・不良商品・著作権無視など傍若無人の「今の中国」しか知らない人間にはピンとこないかもしれない。人民中国に憧れる日本人・古代中国に憧れる日本人は大勢居たのである。
(余談3)監督に権限が無いのではないか?
ハリウッドでは、例えば「チャーリー」では名優ダスティン・ホフマン氏がチャップリン役のオーディションを受けて落とされ、若手のロバート・ダウニーJr氏が起用された。
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