元祖「スターリングラード」 【原題】STALINGRAD
【公開年】1993年
【制作国】独逸 瑞典
【時間】138分
【監督】ヨゼフ・フィルスマイアー 【音楽】ノルベルト・J・シュナイダー
【脚本】ヨゼフ・フィルスマイアー【言語】ドイツ語 一部ロシア語
【出演】トーマス・クレッチマン(ハンス・フォン・ヴィッツラント少尉) ドミニク・ホルヴィッツ(フリッツ伍長) ヨヘン・ニッケル(ロロ・マンフレッド軍曹) セバスティアン・ルドルフ(ジジ・ミューラー) カレル・エルマネック(マスク大尉) ダーナ・ヴァヴロヴァ(イリーナ) シルヴェスター・グロート(オットー)
【成分】悲しい スペクタクル パニック 恐怖 勇敢 絶望的 切ない かっこいい 戦争映画 反戦 第二次大戦 独ソ戦 1942年 ドイツ軍
【特徴】ハリウッドが描くドイツ軍と違い考証は正確。
スターリングラードでの市街戦描写のリアル描写、軍人貴族出身の将校とナチスに迎合して出世した野卑な上官との対立、ロシアの冬将軍によってジリ貧となるドイツ第6軍の有様、見どころの多い反戦映画である。
主演の
トーマス・クレッチマン氏が学生のように若い。
【効能】軍隊組織の暗部、戦争の暗部を擬似体感できる。反戦意識が高まる。
【副作用】救いようの無い結末に気が疲れ意気消沈する。。
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フォン・ウィッツラント少尉の転落 ジュード・ロウ氏主演の「
スターリングラード」の陰にすっかり隠れてしまった感のある作品だが、これは邦題のせいである。(余談1)実はこの作品こそ原題も邦題も「
スターリングラード」であり、ジュード・ロウ氏の作品より7年前に公開された大作である。
この作品は東西ドイツが統一した直後に制作された記念すべき戦争映画であり、ドイツ人にとって大きなトラウマでもある
スターリングラードの激戦を描いている。主演は「戦場のピアニスト」「キング・コング」などで活躍めざましいハリウッド俳優の
トーマス・クレッチマン氏。彼にとっては初めて手がける大作である。政治的には東ドイツの水泳選手だったクレッチマン氏を主役に起用することは東西ドイツ統一の象徴ともいえるだろう。
作品内容は、ジュード・ロウ氏の「
スターリングラード」はハリウッド仕様で使用言語は英語、明確なヒーローと敵役があり、ヒロインとのラブロマンスあり、最後は観客が納得できるハッピーエンドだ。もちろん、この作品をけなすつもりは無く社会派的要素と娯楽要素のバランスが取れた秀作だと思う。
一方、この「
スターリングラード」には娯楽性は乏しい。戦争映画の秀作は多くが群集劇として優れているが、この作品も主人公はいるが強いヒーローは存在しておらず優れた群集劇だ。
スターリングラードでの市街戦をリアルに描写しており、ハリウッド映画にありがちな勝ってメデタシの内容ではない。明らかな反戦映画である。
トーマス・クレッチマン氏は主人公
フォン・ウィッツラント少尉に扮する。当時は既に30歳になっていたと思うが、現在のような渋い貫禄は無く、髭の剃りあとが目立たない白面の学生のような顔だった。役柄もそれに相応しく、騎士道精神溢れるユンカー出の坊ちゃんで新米少尉だった。(余談2)
新米少尉とはいえ、エリート風を吹かすキャラではなく、生真面目な将校を演じていた。勇敢な戦い方と臨機応変の判断力と部下思いの姿勢に部下たちも信頼を寄せるようになる。しかしあまりに部下思いだったのが仇となり、野戦病院で医者を脅迫したことで懲罰部隊に送られた辺りから転落の人生となる。
一面白い雪原の極寒でジリ貧となる部隊、少尉にとっては堪えがたい残虐行為の連続に、ついに友人同然の信頼関係になった部下らと脱走を決意する。ラストは何の希望も無い重苦しいものであった。これは死闘を切り抜けて無事に母港に帰り着いた潜水艦が連合軍の空襲で沈没し艦長たちが死んでいく「Uボート」に共通するパターンある。
好戦的で戦争を楽観的に描写しがちなハリウッドでは制作できない作品であろう。
冒頭はロシアの厳しい極寒での戦いを暗示するかのように、イタリアの暑い海水浴場で兵士たちが休暇を楽しむ光景から始まる。オーソドックスな演出だが説得力は抜群である。
(余談1)何故ならジュード・ロウ氏の「スターリングラード」の原題は「ENEMY AT THE GATES(門の敵)」であり、邦題的に表現すれば「前門の狙撃兵」か。
(余談2)ユンカーの事は詳しく知らないが、下級貴族で近代ドイツでは官僚や将校の担い手である。「八甲田山」でも見られるように、明治時代の日本でも士族は平民より優遇されていた。同様の構図を連想されたほうが良いだろう。ただし日本よりヨーロッパの身分格差は激しい。
ナチスの良い点は身分の垣根を崩したことにあるが、凶暴なナチスの躍進に便乗してナチス的に行動する平民出の将校も少なくなく、その象徴が主人公と対立する野卑な上官(たぶん少佐)や、主人公の足を引っ張ったり、少佐?に取り入って昇進する下劣な若い兵士である。
ときおり、少佐?から「もう特別扱いはしないぞ」という台詞が出てくるが、これは平民出の少佐がユンカー出身の少尉への妬みと対抗心を表しているのだろう。
主人公が反抗行為をしたために懲罰部隊に落とされ、再び少尉に復帰するときに司令官(将軍)が親しげに没収した少尉肩章をわざわざ肩に付けてやる場面がある。他の兵には渡すだけなのに少尉には付けてやるのは、同じユンカー出の一種の仲間意識か。
そういえば、ヒトラー暗殺未遂事件に関わった将校たちは、フォン・シュタウフェンベルク大佐をはじめ苗字に貴族を表す「フォン」が付いている者が多い。
主人公の面倒を見る直属の上官(大尉)は若い頃の津川雅彦氏に似ている。
晴雨堂スタンダード評価
☆☆☆☆ 優
晴雨堂マニアック評価
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フォン・ウィッツラント少尉の転落 ジュード・ロウ氏主演の「
スターリングラード」の陰にすっかり隠れてしまった感のある作品だが、これは邦題のせいである。(余談1)実はこの作品こそ原題も邦題も「
スターリングラード」であり、ジュード・ロウ氏の作品より7年前に公開された大作である。
この作品は東西ドイツが統一した直後に制作された記念すべき戦争映画であり、ドイツ人にとって大きなトラウマでもある
スターリングラードの激戦を描いている。主演は「戦場のピアニスト」「キング・コング」などで活躍めざましいハリウッド俳優の
トーマス・クレッチマン氏。彼にとっては初めて手がける大作である。政治的には東ドイツの水泳選手だったクレッチマン氏を主役に起用することは東西ドイツ統一の象徴ともいえるだろう。
作品内容は、ジュード・ロウ氏の「
スターリングラード」はハリウッド仕様で使用言語は英語、明確なヒーローと敵役があり、ヒロインとのラブロマンスあり、最後は観客が納得できるハッピーエンドだ。もちろん、この作品をけなすつもりは無く社会派的要素と娯楽要素のバランスが取れた秀作だと思う。
一方、この「
スターリングラード」には娯楽性は乏しい。戦争映画の秀作は多くが群集劇として優れているが、この作品も主人公はいるが強いヒーローは存在しておらず優れた群集劇だ。
スターリングラードでの市街戦をリアルに描写しており、ハリウッド映画にありがちな勝ってメデタシの内容ではない。明らかな反戦映画である。
トーマス・クレッチマン氏は主人公
フォン・ウィッツラント少尉に扮する。当時は既に30歳になっていたと思うが、現在のような渋い貫禄は無く、髭の剃りあとが目立たない白面の学生のような顔だった。役柄もそれに相応しく、騎士道精神溢れるユンカー出の坊ちゃんで新米少尉だった。(余談2)
新米少尉とはいえ、エリート風を吹かすキャラではなく、生真面目な将校を演じていた。勇敢な戦い方と臨機応変の判断力と部下思いの姿勢に部下たちも信頼を寄せるようになる。しかしあまりに部下思いだったのが仇となり、野戦病院で医者を脅迫したことで懲罰部隊に送られた辺りから転落の人生となる。
一面白い雪原の極寒でジリ貧となる部隊、少尉にとっては堪えがたい残虐行為の連続に、ついに友人同然の信頼関係になった部下らと脱走を決意する。ラストは何の希望も無い重苦しいものであった。これは死闘を切り抜けて無事に母港に帰り着いた潜水艦が連合軍の空襲で沈没し艦長たちが死んでいく「Uボート」に共通するパターンある。
好戦的で戦争を楽観的に描写しがちなハリウッドでは制作できない作品であろう。
冒頭はロシアの厳しい極寒での戦いを暗示するかのように、イタリアの暑い海水浴場で兵士たちが休暇を楽しむ光景から始まる。オーソドックスな演出だが説得力は抜群である。
(余談1)何故ならジュード・ロウ氏の「スターリングラード」の原題は「ENEMY AT THE GATES(門の敵)」であり、邦題的に表現すれば「前門の狙撃兵」か。
(余談2)ユンカーの事は詳しく知らないが、下級貴族で近代ドイツでは官僚や将校の担い手である。「八甲田山」でも見られるように、明治時代の日本でも士族は平民より優遇されていた。同様の構図を連想されたほうが良いだろう。ただし日本よりヨーロッパの身分格差は激しい。
ナチスの良い点は身分の垣根を崩したことにあるが、凶暴なナチスの躍進に便乗してナチス的に行動する平民出の将校も少なくなく、その象徴が主人公と対立する野卑な上官(たぶん少佐)や、主人公の足を引っ張ったり、少佐?に取り入って昇進する下劣な若い兵士である。
ときおり、少佐?から「もう特別扱いはしないぞ」という台詞が出てくるが、これは平民出の少佐がユンカー出身の少尉への妬みと対抗心を表しているのだろう。
主人公が反抗行為をしたために懲罰部隊に落とされ、再び少尉に復帰するときに司令官(将軍)が親しげに没収した少尉肩章をわざわざ肩に付けてやる場面がある。他の兵には渡すだけなのに少尉には付けてやるのは、同じユンカー出の一種の仲間意識か。
そういえば、ヒトラー暗殺未遂事件に関わった将校たちは、フォン・シュタウフェンベルク大佐をはじめ苗字に貴族を表す「フォン」が付いている者が多い。
主人公の面倒を見る直属の上官(大尉)は若い頃の津川雅彦氏に似ている。
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