「聯合艦隊司令長官 山本五十六
-太平洋戦争70年目の真実-」
太平洋戦争開戦七十周年節目の映画 【原題】【公開年】2011年
【制作国】日本国
【時間】141分
【監督】成島出 【原作】 【音楽】岩代太郎
【脚本】長谷川康夫 、飯田健三郎
【言語】日本語
【出演】役所広司(
山本五十六)
玉木宏(真藤利一) 柄本明(米内光政) 柳葉敏郎(井上成美) 阿部寛(山口多聞) 吉田栄作(三宅義勇) 椎名桔平(黒島亀人) 益岡徹(草野嗣郎) 袴田吉彦(秋山裕作) 五十嵐隼士(牧野幸一) 河原健二(有馬慶二) 碓井将大(佐伯隆) 坂東三津五郎[10代目](堀悌吉) 原田美枝子(山本禮子) 瀬戸朝香(谷口志津) 田中麗奈(神崎芳江) 中原丈雄(南雲忠一) 中村育二(宇垣纏) 伊武雅刀(永野修身) 宮本信子(高橋嘉寿子) 香川照之(宗像景清)
【成分】悲しい スペクタクル 勇敢 知的 絶望的 切ない 第二次大戦 太平洋戦争 1940年代前半
【特徴】太平洋戦争開戦から70周年を記念?して制作された戦争大作。
数少ない良識派の軍人として名高い
山本五十六が主人公。彼を反戦派の平和主義者であるかのように描かれている。
従来の戦争映画と違い、
玉木宏氏扮する新聞記者を通じて当時のマスコミ状況を描写しているのは興味深い。
【効能】戦争への楽観論と暴走する世論を垣間見ることができ社会の教訓となる。
【副作用】テーマの割りに大味感・小物感・未熟感があり、拍子抜けして不愉快になる。
下の【続きを読む】をクリックするとネタバレありの詳しいレビューが現れます。記事に直接アクセスした場合は、この行より下がネタばれになりますので注意してください。
TVドラマ「坂の上の雲」がマシ。 成島出監督たち制作陣の意図は解る。たぶん、こんな形に展開するだろうなと思った。
第二次大戦前夜は現代と似ている部分が多々ある。恐慌で格差社会、高学歴・有名企業の人間でも明日はどうなるか判らず、10年後・20年後の人生設計が立てられない。海外では不穏な戦の臭いに満ちている。
首相の指導力は著しく低下し、議会も行政の足を引っ張るだけのように見える。閉塞感から、軍部は統帥権のみを拡大解釈、その他の帝国憲法を蔑ろにし他国へ戦を展開。マスコミはもはや行政のチェック機関ではなく、弾圧を受けるまでもなく閉塞に喘ぐ世論を追い風に、好戦派に気に入られようと煽動記事を書く。(余談1)
だからである。現代とダブって見えるから、海軍の良識派との評価が高い
山本五十六を持ち上げて社会風刺色のある映画を制作したくなる気持ちはわかるが、私は説得力を感じる事はできない。物語としては無難な形になっているが、同時に
山本五十六の無理な美化も臭う作品に仕上がってしまった。
また公開と同時期に放送された「坂の上の雲」(余談2)では、TVドラマでありながらロシア軍の事情も丁寧に描写されており、欧米系の俳優やエキストラが多数参加し、ロシア語台詞も飛び交っている。二百三高地や日本海海戦の情景もTVのドラマとは思えないくらいのリアルで迫力があった。
TVでここまでやられてしまうと、ドラマより予算規模が大きいはずの大作映画、しかも賛否両論ある歴史的に著名な戦争指導者を主人公に据える作品であるだけに、大味感を抱いてしまう。
制作陣は明らかに政治的なメッセージがあって制作している。そのメッセージを作中で非戦派の平和主義者に仕立てあげた
山本五十六を介して主張している。
百歩譲って多少の美化は止むを得ないにしても、
山本五十六最期の数年間のダイジェストになってしまったのは残念だし、また作中の通り主義主張信条性格で海軍提督の上席にいるのはどうしても無理を感じる。やはり平和主義ではなくアメリカの軍事力の怖さを知っているだけに楽観論で戦略を組み立てられなかったほうが自然だ。
そのアメリカ軍内部の描写が殆ど無いのは奇怪である。事情があってアメリカ軍の描写を控えねばならないのであれば、パスしても良かったのではないか。
比較しやすい映画作品がハリウッドにある。同じように晩年の数年間を第二次大戦に生きたパットン将軍の伝記「パットン大戦車軍団」だ。これと比べると、大味感と貧相感と完成度の低さを感じる作品となった。 私は
山本五十六のような偉い人が主人公になる映画より、ゼロ戦パイロットの坂井三郎中尉の伝記映画が観たい。
(余談1)そういえば、当時の近衛文麿は閉塞感を吹き飛ばすが如く颯爽と登場して失速した政治家だった。同じくその孫の細川護煕氏も颯爽と登場して失速した。
現代社会は2つの大戦からの教訓から、容易に世界大戦や世界大恐慌に陥らないよう強力な安全装置を構築している。日本でいえば、左派市民が支持している日本国憲法の足枷がある。
加えて当時よりも人間の利害関係は複雑化しているので、現代は全く同じ社会情勢にはならない。韓国はもはや日本のお家芸である電子産業を圧迫する先進国であり、中国はアメリカと覇を競う経済と軍事の大国となった。
(余談2)「坂の上の雲」で秋山好古を好演した阿部寛氏が、本作では海軍航空畑の急先鋒山口多聞少将に扮した。実際の山口多聞少将は太っていて垂れ目で優しそうな風貌、安部寛氏のような引き締まった眼光鋭い容姿ではない。しかし性格はかなり厳しく激しいものだったと伝えられている。
晴雨堂スタンダード評価
☆☆☆ 良
晴雨堂マニアック評価
☆☆ 凡作晴雨堂関連作品案内聯合艦隊司令長官 山本五十六 オリジナル・サウンドトラック
晴雨堂関連書籍案内聯合艦隊司令長官 山本五十六 半藤一利
ブログランキングに参加しています。
- 関連記事
-
スポンサーサイト
TVドラマ「坂の上の雲」がマシ。 成島出監督たち制作陣の意図は解る。たぶん、こんな形に展開するだろうなと思った。
第二次大戦前夜は現代と似ている部分が多々ある。恐慌で格差社会、高学歴・有名企業の人間でも明日はどうなるか判らず、10年後・20年後の人生設計が立てられない。海外では不穏な戦の臭いに満ちている。
首相の指導力は著しく低下し、議会も行政の足を引っ張るだけのように見える。閉塞感から、軍部は統帥権のみを拡大解釈、その他の帝国憲法を蔑ろにし他国へ戦を展開。マスコミはもはや行政のチェック機関ではなく、弾圧を受けるまでもなく閉塞に喘ぐ世論を追い風に、好戦派に気に入られようと煽動記事を書く。(余談1)
だからである。現代とダブって見えるから、海軍の良識派との評価が高い
山本五十六を持ち上げて社会風刺色のある映画を制作したくなる気持ちはわかるが、私は説得力を感じる事はできない。物語としては無難な形になっているが、同時に
山本五十六の無理な美化も臭う作品に仕上がってしまった。
また公開と同時期に放送された「坂の上の雲」(余談2)では、TVドラマでありながらロシア軍の事情も丁寧に描写されており、欧米系の俳優やエキストラが多数参加し、ロシア語台詞も飛び交っている。二百三高地や日本海海戦の情景もTVのドラマとは思えないくらいのリアルで迫力があった。
TVでここまでやられてしまうと、ドラマより予算規模が大きいはずの大作映画、しかも賛否両論ある歴史的に著名な戦争指導者を主人公に据える作品であるだけに、大味感を抱いてしまう。
制作陣は明らかに政治的なメッセージがあって制作している。そのメッセージを作中で非戦派の平和主義者に仕立てあげた
山本五十六を介して主張している。
百歩譲って多少の美化は止むを得ないにしても、
山本五十六最期の数年間のダイジェストになってしまったのは残念だし、また作中の通り主義主張信条性格で海軍提督の上席にいるのはどうしても無理を感じる。やはり平和主義ではなくアメリカの軍事力の怖さを知っているだけに楽観論で戦略を組み立てられなかったほうが自然だ。
そのアメリカ軍内部の描写が殆ど無いのは奇怪である。事情があってアメリカ軍の描写を控えねばならないのであれば、パスしても良かったのではないか。
比較しやすい映画作品がハリウッドにある。同じように晩年の数年間を第二次大戦に生きたパットン将軍の伝記「パットン大戦車軍団」だ。これと比べると、大味感と貧相感と完成度の低さを感じる作品となった。 私は
山本五十六のような偉い人が主人公になる映画より、ゼロ戦パイロットの坂井三郎中尉の伝記映画が観たい。
(余談1)そういえば、当時の近衛文麿は閉塞感を吹き飛ばすが如く颯爽と登場して失速した政治家だった。同じくその孫の細川護煕氏も颯爽と登場して失速した。
現代社会は2つの大戦からの教訓から、容易に世界大戦や世界大恐慌に陥らないよう強力な安全装置を構築している。日本でいえば、左派市民が支持している日本国憲法の足枷がある。
加えて当時よりも人間の利害関係は複雑化しているので、現代は全く同じ社会情勢にはならない。韓国はもはや日本のお家芸である電子産業を圧迫する先進国であり、中国はアメリカと覇を競う経済と軍事の大国となった。
(余談2)「坂の上の雲」で秋山好古を好演した阿部寛氏が、本作では海軍航空畑の急先鋒山口多聞少将に扮した。実際の山口多聞少将は太っていて垂れ目で優しそうな風貌、安部寛氏のような引き締まった眼光鋭い容姿ではない。しかし性格はかなり厳しく激しいものだったと伝えられている。
晴雨堂スタンダード評価
☆☆☆ 良
晴雨堂マニアック評価
☆☆ 凡作晴雨堂関連作品案内聯合艦隊司令長官 山本五十六 オリジナル・サウンドトラック
晴雨堂関連書籍案内聯合艦隊司令長官 山本五十六 半藤一利
ブログランキングに参加しています。
- 関連記事
-
スポンサーサイト
ミカエルさんはとても理論的に硬派に論じられてますが、未見の私には内容以前に役所広司が主役の時点で身構えてしまいます。
というのも彼の主演作(失楽園、それでも僕は~、十三人の刺客などなど)にはことごとく落胆し、いつしか嫌いな俳優になってしまいました。
それもよりによってあの三船の十八番だった五十六をだなんて・・・と。
観てから判断したいと思いますがもう僕にとって役所は崖っぷち状態です(^^;)
役者って良くも悪くも作品の全呪縛を背負うから、大変ですよね、それがやりがいでもありますが。
ちなみに「男たちの大和」は大好きですよ!