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ミカエル晴雨堂の晴耕雨読な映画処方箋

晴雨堂ミカエルの飄々とした晴耕雨読な映画処方箋。 体調に見合った薬膳料理があるように、 料理に合う葡萄酒があるように、日常の節目に合った映画があります。映画の話題をきっかけに多彩な生活になれば幸いです。詳しいレビューは「続きを読む」をクリックしてください。

「11人いる!」 家族と一緒に癒されよう〔8〕 

11人いる!」 原作に忠実な映画化


 
【英題】They Were 11
【公開年】1986年  【制作国】日本国  【時間】91分  【監督】出崎哲
【原作】萩尾望都
【音楽】福田裕彦
【脚本】今泉俊昭 小出一巳
【言語】日本語
【出演】神谷明(タダ)  河合美智子(フロル)  田中秀幸(王様)  古川登志夫(四世)  玄田哲章(ガンガ)  鈴置洋孝(アマゾン)  若本紀昭(ヌー)  池水通洋(石頭)  塩屋浩三(赤鼻)  TARAKO(トト)  柏倉つとむ(チャコ) 
  
【成分】ロマンチック 不思議 パニック 知的 SF アニメ
  
【特徴】宇宙の最高学府めざす受験生10人が最後の実技試験に参加すると・・。宇宙船という閉鎖された空間、10人のはずなのに11人、疑心暗鬼・内部対立・イニシアチブ争い、SFというよりは舞台を宇宙に設定した探検モノ・サバイバル物の傑作が萩尾望都氏の漫画「11人いる!」である。本作はこれをほぼ忠実にアニメ映画化した。
 ネタとしては、ハリウッドの実写特撮SF映画としてリメイクしてほしい作品である。欧米にウケること間違いない。
 
【効能】人間社会の縮図を学べ、明日への希望に満たされる。物語や登場人物の構成を学べる。
 
【副作用】原作に忠実すぎてつまらない。
 
下の【続きを読む】をクリックするとネタバレありの詳しいレビューが現れます。記事に直接アクセスした場合は、この行より下がネタばれになりますので注意してください。
原作に忠実すぎたアニメ映画

 萩尾望都氏の「11人いる!」は、類別としては少女漫画のカテゴリーだろうが、日本の漫画史およびSF文学史上(余談1)に残る傑作である。
 物語設定と構成力・キャラ設定(余談2)・登場人物同士の相関関係(余談3)がバランスよく組み立てられている。特にタダと王様を軸に11人の間で「派閥」のようなものが形成され、船内の環境が悪化し極限状態になってくると疑心暗鬼から対立・敵対へと変化していく様の描写が丁寧だ。社会心理学としても興味深い物語ではないだろうか。(余談4)
 
 さて、アニメ映画は好意的に見れば原作に忠実、悪く見れば原作依存である。よく原作とアニメは違うものだといわれる。原作からアニメやドラマ・映画にするときは、何らかの制約で物語やキャラの改編が程度の差はあれ行われ、どんな秀作でも原作ファンからのブーイングが起こるものである。だから原作とは別の作品であると割り切らねばならない。
 逆に原作を忠実にアニメや映画で表現したらどんな風に見えるのか、それをよく表した見本のようなアニメ映画がこの作品である。
 
 私個人ではパッとしない印象だった。他の評判を聞く限り、この印象は私だけではないようだ。原作漫画を忠実にアニメにするということは、一見すると正しいことのように思えるが、実は監督らの主体性が見えないため、かえって拍子抜けするものだった。それどころか、萩尾望都氏の瑞々しいタッチが殺されて工業規格化されたような絵柄になってしまうため、余計に印象が薄くなってしまう。
 
 原作の完成度が高いので、いじりようが無かったことと、原作のページ数が90分枠の映画にはめ込みやすかったのが、幸運であり不幸でもあったかもしれない。
 むしろアニメ化よりも、欧米の映画人が実写映画化したほうが映画人として主体性を発揮できるのではないかと思うし、そんな映画を観てみたい。できれば、ハリウッドよりもロシアの映画人に撮ってほしい素材である。
 
(余談1)ハードSFファンはこれをSFとは認めていない。彼らにとっては科学考証に忠実なSFしか認められないのである。例えば、アーサー・C・クラーク氏は認めてもレイ・ブラットベリー氏は認めない。小松左京氏の「日本沈没」はSFだが、星新一氏は純文学という具合だ。
 「11人いる!」は、単に舞台が宇宙というだけの青春小説と見なしている。
 
(余談2)狩猟民族アマゾンの描写が弱々しいと批判する漫画仲間がいたが、少女漫画と少年漫画のニーズが違うことを見落としている。現在でも「北斗の拳」ばりのキャラを登場させたら、気持ち悪いと敬遠される恐れがある。
 
(余談3)漫画仲間の中には、11人のキャラのうち半分しか描ききれていない、と批判する人がいた。しかしそれは構成というものを理解していない発言である。どんな物語でも、一話で描けるのは5人から7人までである。ストーリングは2・3人、ゲストスターが2人、悪役2人程度の配分になっているはずだ。それ以上を1話で描くのは物理的に無理であり、読者にも解り辛くなる。
 大勢のキャラを描ききれているかのように感じる物語は、連続ドラマであり、1クールか2クールの間に脇役を主人公に据えるサイドストーリーを入れているためである。
 それに、11人ではなく7人だったら、1人増えたことに気付かれやすく説得力が無い。
 
(余談4)王様とフォースを軸とするグループ、タダとガンガを軸とするグループに分かれるが境界線は明確ではない。平素は友人としてタダに集まるが、部下として王様の指示に従ってしまう中間派の存在が興味深い。完全に中立の立場を守っているのはヌーと石頭である。
 
 それにしても、神谷明氏と古川登志夫氏の対立コンビ多いな。面堂終太郎VS諸星あたる、ケンシロウVSシン。
 

 
晴雨堂スタンダード評価
☆☆☆ 良
 
晴雨堂マニアック評価
☆☆☆ 佳作

 
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TBありがとうございます。ほとんど放置状態ですが、またいつか気が向いて何か書きたくなった時の為に、閉鎖もせず置いてあります。
分析、興味深く読みました。
ロシア(!)のスタッフで、映画化なんていいかもしれません。ハリウッドじゃなくてね。わたしも、あんまりよく知らないけど。古い作品ですが、あの構成はほんとにうまい。あのレベルのは、なかなかないですよ。

わたくしも老後は晴耕雨読の日々を送りたいですね。
[ 2009/09/01 10:14 ] [ 編集 ]
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11人いる! 萩尾望都「11人いる!」のアニメ化作品。 声優はタダを神谷明、フロルを女優の河合美智子が担当してます。 うーむ、1986年製作の古い作品のわりに良くできてるんだけど、 コミックを読んで展開や結末を知ってるからいまいちでした。 原作をかなり忠実にア..
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