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ミカエル晴雨堂の晴耕雨読な映画処方箋

晴雨堂ミカエルの飄々とした晴耕雨読な映画処方箋。 体調に見合った薬膳料理があるように、 料理に合う葡萄酒があるように、日常の節目に合った映画があります。映画の話題をきっかけに多彩な生活になれば幸いです。詳しいレビューは「続きを読む」をクリックしてください。

欧米の映画から眺める日本の体罰文化の特殊性 近頃の現象[九百十二]

<女子柔道暴力>園田監督の辞任決定
 
 暴力行為で選手から告発された柔道全日本女子の園田隆二監督(39)が1日、全日本柔道連盟(全柔連)に進退伺を提出し、全柔連がこれを受理したため、辞任が決定した。(毎日新聞)
 
【雑感】記者会見を見ていると、園田隆二氏は自ら進んで蜥蜴の尻尾になろうとしているような感がする。ある意味、潔い態度だが、こんな締め括り方で良いのか?
 またマスコミのげんきんさにも腹が立つ。一斉に体罰けしからん論、園田隆二氏や桜宮高体罰教師を犯罪者扱いだが、こないだまで「厳しい指導」を美談として称揚していたのではなかったのか? さすがにテレビではビンタや蹴りはあまり映さないが、強豪チームの監督やコーチの罵詈雑言、すなわち明白なパワハラを「厳しい指導」として好意的に紹介していたではないか。
 そもそも「柔道一直線」「巨人の星」「ドカベン」「野球狂の詩」「サインはV」「エースをねらえ」などスポ根名作の大半に「暴力」があり、それを愛の鞭であると支持していたからこそベストセラーになったのだ。マスコミや世間のわざとらしいカマトトぶりに呆れる。


 園田氏の言動についての是非や過去のスポ根作品の問題点はさておき、当ブログは映画が一応テーマになっているので、欧米の映画作品から日本の体罰文化の特殊性を論じてみよう。

・「アナザー・カントリー」1983年 イギリス ルパート・エヴェレット主演
 1930年代の上流階級子弟が学ぶ全寮制エリート養成の厳格な男子校で繰り広げられる少年たちの同性愛や権力闘争を描いた佳作。ルパート・エヴェレット氏の出世作である。
 この作品では佳境でルパート扮する主人公ベネットが体罰を受ける。大勢の立会人の前で、教鞭を持つ生徒会幹部に尻を向けてひざまずく。悲壮感のあるBGM、映画は険悪かつ異様な雰囲気として描写している。生徒会幹部は数メートル後ろから助走をつけ教鞭で主人公の尻を十数回打つ。
 とはいえ、細くてしなやかな教鞭、桑田真澄氏が少年野球時代に受けたケツバットに比べれば遥かにダメージは少ない。それにズボンを履いたままなので尻の皮が裂けたり血が出ることはないだろう。
 刑罰が終わるとイギリス紳士らしく鞭を振るった生徒会幹部と鞭を打たれた主人公は握手する。その時の生徒会幹部の顔はまるでスポーツを楽しんだ後のような爽やかな笑顔だったのが、体育会系出身の日本人の私には奇異に見えた。
 主人公が体罰を受けたのはこれ一回だけである。それまでも生徒会には反抗的な態度を隠さず、軍事教練の授業ではワザとだらしない格好で参加した。日本ならばこの時点で鉄拳制裁なのだが、主人公は何も危害を加えられていない。最終的に男子へ宛てた恋文が発覚して鞭打ちを受ける。しかも鞭打ちの刑は異常な光景として描写されている。桑田氏が受けたバットで尻を殴る体罰は日常ありふれた光景だった。

・「パットン大戦車軍団」1970年 アメリカ ジョージ・C・スコット主演
 第二次大戦中の北アフリカやヨーロッパで勇猛を馳せたアメリカのパットン将軍を描いた伝記映画。
 パットン将軍は厳つく獰猛な軍人で知られており、スポ根でいえば鬼コーチ・鬼監督、日本であれば罵声怒声ビンタ鉄拳足蹴すべてやりそうな威圧感あるキャラなのだが、意外に作中では部下に暴力を振るう場面は少ない。というより殆ど無いといっても過言ではない。
 史実では野戦病院を視察した際に全く外傷のない兵士が神経症で入院しているのを見かけ殴打する事件があるが、本作でも比較的忠実に再現されている。ただ、殴打といっても持っていた手袋で頭を叩いた程度で、旧日本軍なら兵士は鉄拳で何度も殴られ病院から放り出されるだろう。いや現代日本の体育会系の価値観でも、パットンの行為は暴力の内に入らないし、それが社会問題になることもこないだまではありえなかった。
 もちろん、あくまで映画の表現であって、史実では平手か拳骨で殴ったかもしれない。当時のゴシップ記事のように乗馬ブーツで蹴りを入れたかもしれない。しかし映画を観ていた欧米人がパットンの行為を傷病者に対する暴力と見えたことが重要である。
 また欧米では当時から神経症への認知度があり、軍隊内で大権を有する将軍がマスコミで批難され、第二次大戦中であるにも関わらず司令官を解任され、おまけに兵士たちの前で謝罪をする羽目にもなった。

・「シン・レッド・ライン」1998年 アメリカ ジム・カヴィーゼル主演
 第二次大戦中、日米激突のガダルカナル島が舞台。
 これには特に「体罰」描写がある訳ではない。主人公は厭戦気分を隠さないアメリカ軍二等兵。この態度だけでも旧日本軍であれば鉄拳制裁に軍法会議に営倉おくりになるかもしれないが、ショーン・ペン扮する上官のウェルシュ曹長は実に紳士的態度で接する。
 功を焦るトール中佐は無茶な命令を部下の大尉に下し、人の良さそうな大尉は若干反抗的な態度で応える。やがて中佐は大尉を中隊長解任処分にするのだが、その台詞が一見すると紳士的だ。「君は疲れている」
 旧日本軍であれば、いや今の自衛隊でも「腰抜け」とか「使えん奴」と罵る。もしかしたらビンタの2・3発はあるかもしれない。単に隊長解任だけでなく、降格処分もありえるかもしれない。

 以上の通り、日本であれば体罰文化花開くはずの舞台で、意外にも体罰は少ないだけでなく、パットンにいたっては持っていた手袋で兵士の頭をはたいただけで司令官を解任され、後日兵士たちの前で謝罪スピーチをやらされる。日本の体育会系の監督やコーチはビンタや蹴りぐらいではなかなか解任されない。
 園田監督は国際試合の場で選手をビンタしているところを他国の監督が制止に入ったという。体罰を加える光景は少なくとも欧米人の目には異様に映ることが以上の映画からでも判るだろう。
 いまスポーツ界はオリンピック招致で躍起になっている。オリンピックを牛耳っているのは欧米諸国だ。欧米人の目に嫌悪の意味で異様に映る行為を国際試合の場で行うことは、即ちオリンピックをイスタンブールに譲ることを意味すると評しても過言ではない。
 

 
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