晴雨堂の耕晴雨読な映画処方箋
 晴雨堂ミカエルの飄々とした耕晴雨読な映画処方箋。  体調に見合った薬膳料理があるように、 料理に合う葡萄酒があるように、日常の節目に合った映画があります。映画の話題をきっかけに多彩な生活になれば幸いです。

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晴雨堂ミカエル

Author:晴雨堂ミカエル
 映画好き・猫好き・ドイツビール好きです。よく晴れた爽やかな日はマウンテンバイクでサイクリングをしながら風景や野良猫を撮影します。
 リタイア後は田舎に帰り、晴天は畑仕事や庭いじり、雨天は読書や映画鑑賞の文字通り耕晴雨読の日々をおくるのが夢です。
 お金があれば郷里に「晴雨堂オタク記念館」を設立して地元の文化交流の発信基地にしたい、連れ合いは怒るだろうが。館長に任命してやるといったら言下に断られた。
 
 ブログを始めたのは2007年5月から、本格的に参考書に目を通しながら運営を始めたのは同年11月から、操作方法で度々ミスがあると思いますがご容赦のほど願います。
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2007年10月29日設置

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「K-19」-
【2008/05/27 18:23】 映画・・人生に絶望したときに観よう、元気が出るかも
潜水艦映画史に残るべき傑作
 

 

 映画館で観たとき、私は潜水艦映画の中で1・2を争う傑作だと思ったが、興行成績は芳しくなかったようだ。地元アメリカでも興行的失敗という評価が固まっている。ヤフー映画レビューを見渡しても評価が低い。
 原因の一つとして考えられるのは、ハリウッド映画でありながら内容はハリウッドらしくなかったからだろう。
 
 ファンの多くは、肉眼では見えない敵潜水艦との魚雷戦、洋上の敵駆逐艦との駆け引き、狭い船内に充満する緊張感と恐怖、極限状態で顕在化する乗組員同士の葛藤・部下と上官との対立・叩き上げとエリートとの対立、冷酷さを装いながら苦渋の判断を下す艦長などを潜水艦映画に望むだろう。(余談1)
 
 しかし、この「K-19」には「華やか」で「派手な」戦闘シーンは無い。だから潜水艦映画ではお約束的である魚雷戦シーンを期待している人にとっては面白くないだろうし、「何でわざわざこんなのを潜水艦映画で撮るのだろう?」と疑問に思うかもしれない。しかしある程度の内容は事前の宣伝などで知ることができるので、趣味に合わない方はパスする手段もあったはずだ。
 
 この映画の肯定的要素を列挙しよう。
1、米ソ冷戦時のリアルな楽屋裏描写。「冷戦」なので、潜水艦映画のお約束である魚雷戦を無理にでっち上げて描写していない。ひたすら厳しい訓練とミサイル発射実験と原子炉事故の復旧作業ばかりだ。米ソ軍拡競争下の艦長ら将兵の悲哀が丁寧に描かれていた。
 
2、放射能被爆のリアルな描写。実際はもっとヒドイのだが、過去の映画では現実味のあるメイクと演技は光っていた。アメリカでは広島・長崎の被爆者の写真を公開することを禁じている。つまり日本人とは違った形で被爆を直視できないアレルギーがあるので興行が振るわなかった原因の一つかもしれない。
  
3、新任艦長と人望ある副長の対立。ある意味ロシア的だろう。エリートと叩き上げの対立にしたほうが解り易いと思うが、敢えて旧ソ連的事情を表現した監督・脚本の判断に敬意を表する。
 スターリンの強権時代では多くの知識人や有能な軍人が粛清の対象とされてきた。そんな中でエリートとして生き残るには自ら厳しく律していかざるを得ない事情を滲ませた艦長役のハリソン=フォード氏はよく好演した。(余談2)
 
4、物語の中心である艦長役のH=フォード氏、副長役のリーアム=ニーソン氏、原子炉技師のピーター=サースガード氏にアメリカ人臭さは無い。ロシア語に吹替えたら、ロシア人が観ても違和感が無いのではないか。
 それと、ソ連軍組織の描写が正確。政治将校の役割にデフォルメは少ない。
  
5、国家の威信をかけた大事な軍事演習なのに、軍医が発注した通りの医薬品が届かなかったり、放射能防護服は品薄で化学用スーツの代用を余儀なくされ、一大事になっているのに司令部は「新鮮なフルーツを与えよ」と間の抜けた指令を出す。挙句に不祥事の責任を艦長に押し付けるばかりか、果敢に原発事故を防いだ乗組員に何の名誉も与えようせず、反乱の汚名まで着せようとする上層部。
 無茶な命令はするが、そのフォローはしない上層部の怠慢と傲慢。旧ソ連ならではの事件と指摘するレビュアーは多いが、これはどの国・どの職場にも程度の差は有れ存在する普遍的テーマである。いま問題になっている社会保険庁の問題・コムスンの問題・少し前のJR西日本の脱線事故・東海村の臨界事件。全てこの「K-19」事件と同じ構図である。
 つまり、これは旧ソ連だから起こった事件ではなく、現在の日本でも現在進行形で多発している問題なのである。
 
 よくぞハリウッドは制作した。映画にできなかった当事国ロシアの映画事情も垣間見る事件でもある。おそらく、実際のK-19乗組員の遺族は感動で泣いたはずだ。こういう作品を輩出するからハリウッドは侮れない。
 
(余談1)そういった場面がバランス良く構成された代表作としてあげられるのは、古典的名作ではクルト=ユルゲンス氏出演の「眼下の敵」であり、最近では2時間バージョンの「Uボート」、デンゼル=ワシントン氏主演の「クリムゾン・タイド」だろう。
 「Uボート」を2時間バージョンとことわったのは、後に発表されたディレクータズカットの4時間バージョンと、原版のTV用に制作された10時間バージョンがある。2時間バージョンは主に第二次大戦時のリアルな戦闘場面に重心があるが、長バージョンでは潜水艦内の生活描写や人間模様が主軸になっている。おそらく、「Uボート」の長バージョンが嫌いな方は、この「K-19」も受け付けられないと思う。
 
(余談2)H=フォード氏の母親はロシア系ユダヤ人。スターリンは反対勢力になりそうなユダヤ系も含め知識階層や指導者層の弾圧と粛清を行った。だからH=フォード氏にとってもまんざら無関係ではなく、感情移入できる事例ではないかと思う。 
 

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