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ミカエル晴雨堂の晴耕雨読な映画処方箋

晴雨堂ミカエルの飄々とした晴耕雨読な映画処方箋。 体調に見合った薬膳料理があるように、 料理に合う葡萄酒があるように、日常の節目に合った映画があります。映画の話題をきっかけに多彩な生活になれば幸いです。詳しいレビューは「続きを読む」をクリックしてください。

「火怨・北の英雄 アテルイ伝」 家族と一緒に考えよう〔26〕 

火怨・北の英雄 アテルイ伝」 
近年、注目されてきた古代日本の英雄。

  

火怨・北の英雄 アテルイ伝 [Blu-ray]
火怨・北の英雄 アテルイ伝 [DVD]
 
【原題】
【公開年】2013年  【制作国】日本国  【時間】176分  
【演出】佐藤峰世 田中英治
【原作】高橋克彦
【音楽】川井憲次
【脚本】西岡琢也
【言語】日本語(一部台詞に陸奥言葉)       
【出演】大沢たかお阿弖流為)  内田有紀(佳那)  石黒賢(阿万比古)  北村一輝母礼) 伊藤歩(古天奈)
       
【成分】切ない 悲しい 泣ける スペクタクル 勇敢 時代劇 日本東北地方 奈良時代末から平安時代初頭 延暦年間 8世紀末 
  
【特徴】企画そのものは大震災で壊滅的な打撃を受けた東北地方を応援する目的で、古代東北地方の英雄阿弖流為を主人公に制作された。震災を意識してか、冒頭とラストは現代の釜石市の病院が舞台で、入院している年輩の被災者が担当医に阿弖流為の物語を語る形式をとっている。
 あまり時代劇では取り上げられることの無いテーマを、東日本大震災をきっかけにNHKが光を当てた事は、2013年大河ドラマ「八重の桜」と同様である。いつもは主役の敵対勢力として描かれるだけの存在を主役に据えるのは民放ほど利潤に縛られないNHKならではの企画。
 
 大沢たかお氏がヤマトと戦った蝦夷軍を束ねる若き族長を熱演。
     
【効能】古代日本の歴史を見直すきっかけになる。阿弖流為のひたむきで素朴な人柄に感涙。
 
【副作用】全体に大味感があり歴史ドラマのダイジェスト版的で白ける。朝廷が悪役なので不快感。
 
下の【続きを読む】をクリックするとネタバレありの詳しいレビューが現れます。記事に直接アクセスした場合は、この行より下がネタばれになりますので注意してください。  
大味感ばかりが目立った低予算風大作ドラマ
 
 90年代を代表するハリウッドのスペクタクル歴史大作「ブレイブハート」を観た時、日本にも平安時代前期にヤマトに対して蜂起した蝦夷の阿弖流為や江戸時代前期に松前藩に対し蜂起したアイヌ民族のシャクシャインがいるではないかと思った。
 
 「ブレイブハート」の内容は、ブリテン島南部のイングランド王国が北部のスコットランド王国に侵攻、それをスコットランド人ウイリアム・ウォレスをリーダーに蜂起してイングランド軍を討ち負かす。ところがイングランド王の謀略と巻き返しによって盟友や友軍の裏切りが誘発しウォレス軍は大敗、最期は捕らえられて処刑される。
 この阿弖流為の物語も「ブレイブハート」とほぼ同じ展開である。いや、まったく同じと見て差し障りは無く、メル・ギブソン監督が本作の監督を担当しても良いくらいだ。本作を観ていると、メル・ギブソン監督が潤沢な予算で制作したら、もっと生々しくて迫力のある映画に仕上げるのではないかと思った。少なくとも大味感・ダイジェスト感のある作品にはしないだろう。何故なら、「ブレイブハート」と本作の尺はほぼ同じだからだ。
 
 制作者もたぶん「ブレイブハート」をかなり参考にしたのではないかと思われる描写がある。蝦夷の風俗は「ブレイブハート」に登場するスコットランド人に似ている。
 デザインそのものはアイヌ文化を参考にしているが、爆発長髪に紙縒りのような三つ編みを何本か施すのは「ブレイブハート」のスコットランド人にも見られる。揃いの衣装と鎧兜を装備した「文明人」のヤマト軍とボサボサ頭の蝦夷軍の対比はイングランド人とスコットランド人の対比とそっくりだ。

 また老獪な絶対権力者イングランド王エドワード1世と全く同じポジションに桓武天皇が座る。文武に秀でているが一途で純朴な主人公ウイリアム・ウォレスに対し、阿弖流為もまた一途で純真。坂上田村麻呂配下の刺客となって舞い戻ってきた実兄阿万比古に向かって「ワ(俺)を殺しに来たんだろ。大好きな森の中で大好きな比古兄に殺されるなら良い」とまで言う。
 合戦シーンでも、蝦夷軍とヤマト軍が突撃して鍔迫り合いをするとき先頭の両軍兵士たちがタックルをする。これまでの日本時代劇にはあまり無く「ブレイブハート」の合戦シーンにはよく出る。
 
 ただ、同じNHKのTVドラマでも「坂の上の雲」ではまるで映画を観ているかのような迫力ある場面が多々あるのに対し、本作は何故か貧相な場面が目立つのである。俳優たちは熱演しているし、台詞や演出にも光るものがある。にも関わらずだ。
 蝦夷軍がなぜヤマトに蜂起したのかその背景や、蝦夷軍が次第にジリ貧になっていく様が描写を簡潔に描きすぎている。そのため阿弖流為が田村麻呂の軍に降伏した動機描写も活きていない。
 エキストラは非常に少ないのか、あるいはカメラワークが悪すぎる。大軍が進軍している様はCGなどで再現しているし、合戦シーンになると狭いロケ現場で十数名のエキストラがチャンバラをやっているようにしか見えない。特に阿弖流為に最期まで従う女族長古天奈が田村麻呂本営に突撃する場面は数名の騎馬武者を従えてあっけなく散る。
 「坂の上の雲」であれほど見事な映像を創っておきながら、本作では何故だ? ワザと貧相な映像にしているような気がしてならない。「ブレイブハート」は少なからずスコットランドの独立運動を煽ってしまったが、本作制作者は気合を入れすぎたら「ブレイブハート」と同じく、東北が日本からの分離独立を考えるのではないかと危惧しているのだろうか? あるいは沖縄や北海道のアイヌ民族に独立機運を煽ってしまうのを恐れているのだろうか? これは勘ぐり過ぎだろうか?
 しかしスコットランドは17世紀まで独立国で現在はイギリス主権下の自治国のような形であるのに対し、東北は平安時代まで陸奥は植民地的、関東(坂東)はいつ分離独立するか判らない自治政府的だったが、鎌倉・室町を経て完全に「日本」になっている。
 東日本大震災の復興政策さえ間違わなければ、スコットランドのようになることはまず無いだろう。
 
 個人的には素材が映画的に素晴らしいため、阿弖流為の人生のダイジェスト版にしてしまったのは残念である。
 
晴雨堂スタンダード評価
☆☆ 可
 
晴雨堂マニアック評価
☆☆ 凡作

 

 
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