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ミカエル晴雨堂の晴耕雨読な映画処方箋

晴雨堂ミカエルの飄々とした晴耕雨読な映画処方箋。 体調に見合った薬膳料理があるように、 料理に合う葡萄酒があるように、日常の節目に合った映画があります。映画の話題をきっかけに多彩な生活になれば幸いです。詳しいレビューは「続きを読む」をクリックしてください。

「隊長ブーリバ」 カップルで泣きたい時に〔8〕

隊長ブーリバ
ゴーゴリー作品のハリウッド映画化

 

 
【原題】TARAS BULBA
【公開年】1962年  【制作国】亜米利加  【時間】122分  
【監督】J・リー・トンプソン
【原作】ニコライ・ワシリェヴィチ・ゴーゴリ
【音楽】フランツ・ワックスマン
【脚本】ウォルド・ソルト カール・タンバーグ
【出演】ユル・ブリンナー(ブーリバ)  トニー・カーティス(アンドレー)  クリスティーネ・カウフマン(ナタライ)  サム・ワナメイカー(-)  ブラッド・デクスター(-)  ガイ・ロルフ(-)  ペリー・ロペス(オスタップ)  ジョージ・マクレディ(-)  イルカ・ウィンディッシュ(-)  ウラジミール・ソコロフ(-)  エイブラハム・ソファー(-)  
  
【成分】悲しい スペクタクル 勇敢 切ない かっこいい 時代劇 16世紀 ポーランド ウクライナ
 
【特徴】ウクライナを舞台にした歴史スペクタクル。ユル・ブリンナー氏がコサック族傭兵の隊長を演じる。「スパルタカス」で主人公の参謀役に扮したトニー・カーチス氏は息子に扮する。豪放磊落な父親とは対照的に敵であるポーランド貴族の令嬢と愛し合い、身内のコサック族との狭間で苦悩する悲劇の青年を演じ、作品を盛り上げる。
 1930年代にフランスで映画化され、ハリウッド製の本作はリメイクになる。最近になってロシアでも制作されたようだ。ロシア版のヒロインはかなりの美形。
 
【効能】東欧史の一場面を垣間見られる。勝ち得た物と引き換えに失うものがあることを悟らせる。
 
【副作用】壮大な物語なのだが、大味で大作には見えない。
 
下の【続きを読む】をクリックするとネタバレありの詳しいレビューが現れます。  
これもユル・ブリンナーのあたり役

 好意的要素は2つある。まずキャスティングが素晴らしい。ロシアのコサック族の戦いをテーマにしているので、その族長役に相応しいハリウッド俳優で真っ先に浮かぶのは、誰もがユル・ブリンナー氏(余談1)の名前と坊主頭であろう。実際にユル・ブリンナー氏のコサック隊長役は実にハマリ役である。
 
 次に息子役のトニー・カーチス氏、この作品の2年ほど前にも「スパルタカス」で奴隷解放の英雄スパルタカスの側近で教養のある優しい青年を演じた。今回の役どころもそれに近い。戦しか知らないブーリバは息子をキエフへ上京させて高等教育を受けさせた。父親と互角に戦えるほどの逞しい体格と格闘術、しかし育ちが良すぎるのか優しすぎる、そんなキャラである。
 
 そしてヒロイン、クリスティーネ・カウフマン氏。ブーリバの息子が愛してしまうポーランド貴族の令嬢役である。彼女はドイツ映画「制服の処女」(余談2)や「コンスタンチン大帝」「ポンペイ最後の日」など歴史モノが続いている。歴史的絵画を背景にしたら美しく映えそうな女優だ。偏見かもしれないが、あの気品と可憐さはアメリカ人俳優では難しいかもしれない。文化的にポーランドに近いドイツ文化圏の女優だからこその所作と思ってしまう。
 
 次にハリウッドがロシアのコサック族に焦点をあてたのが興味深い。日本の時代劇に例えれば、16世紀の北海道でアイヌ民族が日本に対し組織的蜂起を展開したシャクシャイン戦争をテーマに映画を創るくらい珍しいことである。物語はポーランドの傭兵に甘んじていたコサックが蜂起する展開だ。
 
 ただ、これは賛否あると思うし私自身も功罪と思うのだが、ロシアの文豪ゴーゴリーの小説を「ハリウッド映画化」したという点は原作ファンには辛いかもしれない。単に「映画化」ではなく「ハリウッド映画化」としたのは、ハリウッドらしい改編や演出が目に付くからである。
 
 最近では章子怡氏(チャン・ツィイー)が芸者の主人公に扮した「SAYURI」があるが、これら映画で鼻につくのは他民族文化への無理解というより故意による歪曲と、社会性のある原作でもラブロマンスを主軸に据えてくる点にある。
 この作品でも、コサック族を必要以上に遊牧民的に描きすぎているのではないかと思う。たしかに東欧はモンゴルの支配下にあった時期があるのだが、些かアジア的に描きすぎている。しかもみすぼらしく汚らしい描写だ。もちろん、この演出によって洗練されたバロック風のポーランド貴族の装束との対比によって、経済的文化的な力関係と対立が判り易くなっている。
 しかし、17世紀という時代の戦争場面は描写が些か難しい。中世のような戦い方でもあるし、火縄銃もあるので銃撃戦もある。戦闘場面をいかに魅せるべきか制作者側は悩んだようだ。大味の感がある。
 しかもハリウッド映画の宿命なのか、原作よりもラブロマンスに重心を置いているため、人によっては陳腐に見えるかもしれない。
 
(余談1)沿海州のウラジオストック出身とも樺太出身ともいわれていて、謎が多い俳優である。
 
(余談2)1930年代に制作された切ない女子校モノである。厳格な全寮制女子校で女生徒が女教師に恋をする物語。30年近くたって再びリメイクが制作され、オーストリア出身のクリスティーネ・カウフマン氏はそれに出演して脚光を浴びる。私はやはり1作目が好きである。何故なら、ナチスが台頭しているときの映画なので社会的圧力は計り知れないほど強かっただろう。
 タイトルからレズ物の成人映画を連想する人は、アダルトビデオの見過ぎである。これは映画史に残る文藝作で女高生モノの基本となった作品だ。
 
晴雨堂スタンダード評価
☆☆☆ 良
 
晴雨堂マニアック評価
☆☆☆ 佳作

 
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