「リンカーン vs ゾンビ」
今度のリンカーンはゾンビハンターだ! 【原題】ABRAHAM LINCOLN VS ZOMBIES
【公開年】2012年
【制作国】亜米利加
【時間】97分
【監督】リチャード・シェンクマン 【原作】 【音楽】クリス・ライデンハウア
【脚本】リチャード・シェンクマン 【言語】イングランド語
【出演】ビル・オバースト・Jr(エイブラハム・
リンカーン) ブレネン・ハーパー(幼少期の
リンカーン) ケント・アイグルハート(トーマス・
リンカーン) リアーナ・ヴァン・ヘルトン(ナンシー・
リンカーン) ジェイソン・ヒューリー(ウィルソン・ブラウン) ベイビー・ノーマン(メアリー・オーウェンズ) ハンナ・ブライアン(ソフィア・オーウェンズ) ドン・マックグロウ(ジャクソン将軍) シンディ・クィパース(セオドア・ルーズベルト) バーニー・アスク(エドウィン・スタントン) デボラ・クリテンドン(メアリー・トッド・リンカーン) デヴィッド・アレクサンダー(エドワード・エヴァレット) クリス・ホロゼク(ジョン・マッギル少佐) デヴィッド・ルソー(ジョージ・エインズリー)
【成分】悲しい パニック 不気味 勇敢 絶望的
ゾンビ ホラー リンカーン 1864年~1865年 アメリカ 南北戦争
【特徴】いうまでもなくメジャー映画「リンカーン/秘密の書」の便乗作品と見なされている。
画面全体に少ない予算と資材をやり繰りして19世紀半ばの南北戦争当時の風俗を再現しようと努力している跡が見られる。
【効能】リンカーンやセオドア・ルーズベルトに対するアメリカ市民の敬愛の念が感じられる?
【副作用】あまりの安っぽさに時間の消失感を抱く。
下の【続きを読む】をクリックするとネタバレありの詳しいレビューが現れます。記事に直接アクセスした場合は、この行より下がネタばれになりますので注意してください。
好きな人にはたまらない作品。 グルメレポーターが「好きな人にはたまらない」という時、レポーター本人は「うわ!不味い」と思っているらしい。ただ、テレビカメラを前にストレートに不味いと口にしてしまうと取材先からの損害賠償請求のリスクが発生するので、客観的評価を装った言い回しを使う、それが「好きな人にはたまらない」である。
今回の場合、私は「うわ!安っぽ!」と思ったが、嫌いではない。むしろ少ない予算をやり繰りしてそこそこの映像に仕上げようとするB級映画には熱い愛情を感じているのだ。高級料理ではないが思わず食べてしまうジャンクフード、そんな感じか。しかも映画の場合は制作スタッフや俳優の中に未来の巨匠や名優が潜んでいる場合がある。
本作はどうも最初からビデオ作品として制作されたようだ。DVD発表が2012年12月となっている。もし制作が12年6月以降であれば、メジャーな映画人であるティム・バートン氏制作の映画、
リンカーンがバンパイアと闘うぶっ飛び設定の作品に便乗したものであろう。バンパイアと闘うなら、当然ソンビと闘うバージョンもできても不思議ではない。もしかしたら宇宙人と戦争する話も創るかもしれない。その宇宙人とは、もちろんプレデターである。(余談1)
さて、ティム・バートン氏が制作を務めた潤沢予算のメジャー映画と違ってはるかに低予算映画である。エキストラの数、ロケ現場の様子、衣装の状態、メイク、カメラの解像度、みな映像が安っぽい。
リンカーンをはじめシークレットサービスの面々は黒のフロックコートを着ているが、ワイシャツは現代のカッターシャツを流用しているように見える。また南軍兵士が若干名しか登場しないのは、低予算ゆえに軍服を揃えられなかった可能性がある。他、町の生存者や
ゾンビたちが着用している衣装は古着や現代の服を南北戦争当時の服装に見えるようアレンジしているように感じた。大河ドラマ「八重の桜」冒頭で紹介された南北戦争の風景のほうが銭をかけている。(余談2)
ただ、
ゾンビ映画というだけあって
ゾンビの描写には力を入れていた。ロメロ式の緩慢な
ゾンビで、スペインの「エル・
ゾンビ」のように音で反応するトラディショナルだ。だから俳優やエキストラも無理なく演技ができている。
ゾンビメイクも手を抜かず施されていて、特に主人公
リンカーンが若かりし頃に関係をもった元恋人がゾンビの返り血を浴び、徐々に弱ってゾンビになっていく様は丁寧に描写されていた。衣装は白い肌から蒼白色へ、そして土気色へと変化していく様を不気味に印象づけるよう黒のドレスを着せ、元恋人の娘が若さと攻撃性を強調するよう赤いドレスを着せて銃や鎌を振り回させる、スタンダードながら少ない予算を効果的に配分している。
リンカーンが塀の前で少年ルーズベルト(余談3)を肩車し、ルーズベルトが塀の上から顔を出してゾンビを狙撃する場面はアメリカ人によっては微笑ましい感動場面だろう。偉大な大統領
リンカーンが後に偉大な大統領になるルーズベルトを肩車する。
ラストは、ティム・バートン制作の
リンカーンと同様の描写で観劇へ出かける場面で終える。
(余談1)このところ、リンカーンを弄る映画が流行っているが、アメリカでいったい何が起こっているのだろうか? 2013年のNHK大河ドラマ「八重の桜」まで冒頭にリンカーンを登場させる。日本でも伊藤博文を主人公とするバンパイア物やゾンビ物ができないものか。
(余談2)銃器面でも時代考証から逸脱している部分がある。南北戦争当時の歩兵銃は火縄銃と同じ前装填方式、つまり銃口から弾丸を込める方式で連射はできないはずだが、出演者たちはバンバン撃っているように見えた。
因みに当時の主力銃は19世紀の半ばにフランス陸軍大尉ミニエーが開発したミニエー銃である。前装填だが弾丸に螺旋を入れて射程距離と命中精度を上げた。このミニエー銃は大河ドラマ「龍馬伝」後半で頻繁に登場する。つまり南北戦争で大量に使用された中古のミニエー銃が武器商人や坂本龍馬たちを経て流通していく様が浮き彫りになる。
このミニエー銃が活躍した期間は短く、ほどなく現代と同じ手元の引き金付近から弾を装填する後装填ライフルに取って代わられる。
映画やドラマで得られる情報やデータは覚えて蓄積していくと、別作品の鑑賞にも役立つ。(余談3)後に日露戦争の和平を仲介するセオドア・ルーズベルト大統領。
晴雨堂スタンダード評価
☆☆ 可
晴雨堂マニアック評価
☆☆☆ 佳作
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好きな人にはたまらない作品。 グルメレポーターが「好きな人にはたまらない」という時、レポーター本人は「うわ!不味い」と思っているらしい。ただ、テレビカメラを前にストレートに不味いと口にしてしまうと取材先からの損害賠償請求のリスクが発生するので、客観的評価を装った言い回しを使う、それが「好きな人にはたまらない」である。
今回の場合、私は「うわ!安っぽ!」と思ったが、嫌いではない。むしろ少ない予算をやり繰りしてそこそこの映像に仕上げようとするB級映画には熱い愛情を感じているのだ。高級料理ではないが思わず食べてしまうジャンクフード、そんな感じか。しかも映画の場合は制作スタッフや俳優の中に未来の巨匠や名優が潜んでいる場合がある。
本作はどうも最初からビデオ作品として制作されたようだ。DVD発表が2012年12月となっている。もし制作が12年6月以降であれば、メジャーな映画人であるティム・バートン氏制作の映画、
リンカーンがバンパイアと闘うぶっ飛び設定の作品に便乗したものであろう。バンパイアと闘うなら、当然ソンビと闘うバージョンもできても不思議ではない。もしかしたら宇宙人と戦争する話も創るかもしれない。その宇宙人とは、もちろんプレデターである。(余談1)
さて、ティム・バートン氏が制作を務めた潤沢予算のメジャー映画と違ってはるかに低予算映画である。エキストラの数、ロケ現場の様子、衣装の状態、メイク、カメラの解像度、みな映像が安っぽい。
リンカーンをはじめシークレットサービスの面々は黒のフロックコートを着ているが、ワイシャツは現代のカッターシャツを流用しているように見える。また南軍兵士が若干名しか登場しないのは、低予算ゆえに軍服を揃えられなかった可能性がある。他、町の生存者や
ゾンビたちが着用している衣装は古着や現代の服を南北戦争当時の服装に見えるようアレンジしているように感じた。大河ドラマ「八重の桜」冒頭で紹介された南北戦争の風景のほうが銭をかけている。(余談2)
ただ、
ゾンビ映画というだけあって
ゾンビの描写には力を入れていた。ロメロ式の緩慢な
ゾンビで、スペインの「エル・
ゾンビ」のように音で反応するトラディショナルだ。だから俳優やエキストラも無理なく演技ができている。
ゾンビメイクも手を抜かず施されていて、特に主人公
リンカーンが若かりし頃に関係をもった元恋人がゾンビの返り血を浴び、徐々に弱ってゾンビになっていく様は丁寧に描写されていた。衣装は白い肌から蒼白色へ、そして土気色へと変化していく様を不気味に印象づけるよう黒のドレスを着せ、元恋人の娘が若さと攻撃性を強調するよう赤いドレスを着せて銃や鎌を振り回させる、スタンダードながら少ない予算を効果的に配分している。
リンカーンが塀の前で少年ルーズベルト(余談3)を肩車し、ルーズベルトが塀の上から顔を出してゾンビを狙撃する場面はアメリカ人によっては微笑ましい感動場面だろう。偉大な大統領
リンカーンが後に偉大な大統領になるルーズベルトを肩車する。
ラストは、ティム・バートン制作の
リンカーンと同様の描写で観劇へ出かける場面で終える。
(余談1)このところ、リンカーンを弄る映画が流行っているが、アメリカでいったい何が起こっているのだろうか? 2013年のNHK大河ドラマ「八重の桜」まで冒頭にリンカーンを登場させる。日本でも伊藤博文を主人公とするバンパイア物やゾンビ物ができないものか。
(余談2)銃器面でも時代考証から逸脱している部分がある。南北戦争当時の歩兵銃は火縄銃と同じ前装填方式、つまり銃口から弾丸を込める方式で連射はできないはずだが、出演者たちはバンバン撃っているように見えた。
因みに当時の主力銃は19世紀の半ばにフランス陸軍大尉ミニエーが開発したミニエー銃である。前装填だが弾丸に螺旋を入れて射程距離と命中精度を上げた。このミニエー銃は大河ドラマ「龍馬伝」後半で頻繁に登場する。つまり南北戦争で大量に使用された中古のミニエー銃が武器商人や坂本龍馬たちを経て流通していく様が浮き彫りになる。
このミニエー銃が活躍した期間は短く、ほどなく現代と同じ手元の引き金付近から弾を装填する後装填ライフルに取って代わられる。
映画やドラマで得られる情報やデータは覚えて蓄積していくと、別作品の鑑賞にも役立つ。(余談3)後に日露戦争の和平を仲介するセオドア・ルーズベルト大統領。
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