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ミカエル晴雨堂の晴耕雨読な映画処方箋

晴雨堂ミカエルの飄々とした晴耕雨読な映画処方箋。 体調に見合った薬膳料理があるように、 料理に合う葡萄酒があるように、日常の節目に合った映画があります。映画の話題をきっかけに多彩な生活になれば幸いです。詳しいレビューは「続きを読む」をクリックしてください。

「エル・スール」 自分に喝を入れたい時に〔13〕 

エル・スール」 追懐する少女
 


【原作】EL SUR 
【公開年】1982年  【制作国】西班牙  【時間】95分  【監督】ヴィクトル・エリセ
【原作】アデライーダ・ガルシア・モラレス
【音楽】ヴィクトル・エリセ
【脚本】ヴィクトル・エリセ
【言語】スペイン語
【出演】オメロ・アントヌッティ(アグスティン 父親)  ソンソレス・アラングーレン(8歳のエストレリャ)  イシアル・ボリャン(15歳のエストレリャ)  オーロール・クレマン(イレーネ・リオス)  
  
【成分】悲しい 不思議 知的 絶望的 切ない かわいい 1950年代 スペイン
  
【特徴】内戦の傷がまだ生々しい1950年代のスペインが舞台。辛い過去を背負っていると思われる父親の在りし日を回想する少女の物語。
 前もって、スペイン内戦の事情やキリスト教について学習してから鑑賞すると登場人物の心情により触れる事ができる。
 
【効能】家族について改めて鑑みる心の機会を得られる。
 
【副作用】陰鬱な気分にさせられる。
 
下の【続きを読む】をクリックするとネタバレありの詳しいレビューが現れます。  
陰鬱な内戦の後遺症。 

 スペインの名作。この作品は学生の頃に観た。
 舞台は1950年代後半のスペイン。主人公の少女が今は居ないもう1人の主人公である父親のことを回想する形で話が進む。スペイン北部のバスク地方?の少し寒々とした風景と、窓越しに物思いに耽る少女の顔、そして少しはにかんだような暗い影のある髭面の父親、これらが印象に残る静かな作品である。
 タイトルの「EL SUR(エル・スール)」とは、「EL」は定冠詞で「SUR」は「南」、スペインの南とはアンダルシア地方で熱い太陽の南国、なのに映画の舞台は寒々としている。鹿児島や沖縄に思いを馳せながら青森か北海道に住むような感じに近いかもしれない。(余談1)
 
 母親は早くに亡くしているのか、父と娘の二人暮しのようだった。父と娘の触れ合いで今でも記憶に残っているのは、物語の語り部である少女が8歳のときに聖体拝受の儀式を受ける場面である。基督教の行事に聖体拝受祭というのがあるが、判り易くいえば日本でいう七五三のお宮参りみたいなものである。もちろん、八百万の神様の国である日本と違い、よく言えば厳格、悪く言えば排他的選民思想の一神教であるキリスト教では通過儀礼としての重みは違う。
 そんなメデタイ祭りに、娘と一緒に教会へ行くべき父親は山へ出かけて陰気に鉄砲を撃つ。そんな不謹慎で縁起の悪い態度の父親に、親戚?や村のお婆さんたちは眉を顰める。けっきょく父親は祭の終わり際に教会の隅に隠れるように出席し、父親の姿を確認した少女の顔が愛らしかった。(余談2)
 
 学生の頃は少女に感情移入した。いまは少女の父親の歳に近づいてきた。いま見ると、父親の憂いを帯びた表情に感情移入できるだろうか。どんな思いで「南」を見ていたのだろうか。なぜ自殺しなければならなかったのか?
 
(余談1)スペインも多民族国家である。南部のアンダルシアやカタロニアや北部のバスクは民族が違う。カタロニアとバスクは自治州が置かれていて、しばしば分離独立運動が活性化する。
 実は日本でも厳密には単一民族ではない。北海道にはアイヌ民族がいるし、沖縄もつい19世紀半までは琉球王国だった。さらに関西と関東を中心に在日コリアン60万人が生活している。
 
(余談2)物語や台詞を注意深く観ていれば解ることではあるが、やはり今の多くの日本人にはピンと来ないかもしれない。
 1930年代のスペインは、かなり左よりの人民戦線が政権をとった。それに反発したフランコ将軍率いる保守勢力が反乱を起こし内戦が繰り広げられていた。フランコ軍はナチスドイツから援軍や武器供与を受けて情け容赦ない戦いを展開し、人民戦線を倒して独裁をしくことになる。ピカソがフランコの蛮行を非難する「ゲルニカ」という絵を描いたのは有名。
 しかし、フランコが独裁を戦後も長く続け天寿を全うしてしまったのは、ヒトラーやムッソリーニとは異なる点である。原因として2つある。1つはスペインは内戦を終結させると早々にドイツとは距離を置き第二次大戦には参戦しなかった。2つめは教会の支持である。実は映画などでは善玉に描かれることが多い人民戦線は、教会を弾圧していたのである。マルクスは宗教を阿片と非難していたから。
 
 若い頃の父親は理想に燃えて人民戦線を支持していた。戦後も信条は変えず基督教は受け容れがたいものなのである。娘の晴れの日に山へ行って鉄砲を撃つ頑なな態度はそれに起因する。一方、少女の祖父は敬虔な昔ながらの基督教の信者でフランコ派なので、確執は単なる親子の断絶どころではない。
 日本で一番近いシチュエーションとしては、若い頃に学生運動に参加し天皇制粉砕や革命を声高に叫んでいて、夢破れた今は技術者として農村で細々と生活している。村人からは尊敬はされているが変わり者とも思われている。そんな感じか。
 
 作中の父親は、スペインの暖かな南に住んでいた。内戦を避けて各地を転々とし、「現在」の北部へ移り住んだ。
 
晴雨堂スタンダード評価
☆☆☆☆ 優
 
晴雨堂マニアック評価
☆☆☆☆ 名作


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晴雨堂ミカエルさん、こんばんは。
トラックバック&コメントありがとうございました。(*^-^*

私は画に惹き込まれ、映像を見つめていた感じでした。

父に感情移入するか、少女に感情移入するかで
物語の感じ方が大きく変わってくる作品でしょうね。

機会があればもう一度観たい作品です。
[ 2009/09/08 00:33 ] [ 編集 ]
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エル・スール [DVD]◆プチレビュー◆南への郷愁が痛いほど伝わる。スペイン内戦の歴史を知ると、深い作品だと判るだろう。近頃のスペイン映画といえば、ペドロ・アルモドバル監督が有名で、アントニオ・バンデラスやペネロペ・クルスの人気も手伝ってちょっとしたラテンブ...
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