「永遠の0」
政治色を極力抑えた特攻モノ秀作。 【原題】【公開年】2013年
【制作国】日本国
【時間】144分
【制作】 【監督】山崎貴 【原作】百田尚樹 【音楽】佐藤直紀 【脚本】山崎貴 林民夫
【言語】日本語
【出演】岡田准一(宮部久蔵)
三浦春馬(佐伯健太郎)
井上真央(松乃) 濱田岳(井崎) 新井浩文(景浦) 染谷将太(大石) 三浦貴大(武田) 上田竜也(小山)
吹石一恵(佐伯慶子) 田中泯(景浦(現代)) 山本學(武田(現代)) 風吹ジュン(清子) 平幹二朗(長谷川(現代)) 橋爪功(井崎(現代)) 夏八木勲(賢一郎)
【成分】泣ける 悲しい 勇敢 絶望的 切ない かっこいい 第二次大戦 カミカゼ 1940年代前半~現代
【特徴】第二次大戦末期、アメリカ軍に対し自爆攻撃を行った神風特攻隊を題材。
百田尚樹氏のベストセラー小説を映画化。ジャニーズ系アイドルで近年演技力を高く評価されている
岡田准一氏が主演を務める。
百田氏は近年保守系論客として右派市民からは称賛され左派市民から酷評されている立場の人だが、この手の作品にありがちな政治的思い入れによる戦争美化的演出過多はあまり見られず、感涙を誘うエンターテイメント作品としては完成度が高い。
「パッチギ」で映画賞を総なめにし右派市民から批難されている井筒和幸監督は、当然のことながら本作を戦争美化映画として酷評している。
【効能】主人公たちの純愛に感涙。
【副作用】巧妙な戦争美化・自爆美化にしか見えず激しいアナフィラキシー的拒絶反応を起こす。
下の【続きを読む】をクリックするとネタバレありの詳しいレビューが現れます。記事に直接アクセスした場合は、この行より下がネタばれになりますので注意してください。
特攻モノの傑作、だが俺は虫唾が走る。 非常にバランスの良い作品だと思う。古風な二枚目が似合う
岡田准一氏に対して顔に幼さが残る
三浦春馬氏、目付きが怖い青年景浦に新井浩文氏、現代の景浦に強面の田中泯氏。特に岡田氏の役作りは成功している。
音楽も悪くないし選曲の相性は抜群、CGも「三丁目・・」から格段に進歩した。本作のテーマゆえ当たり前の事だがゼロ戦の描写には大変な気合を込めている。
俳優陣もベテランの曲者揃い、構成も賛否あるが私は主人公の実孫を演じる
三浦春馬氏が祖父の戦友たちを取材する「現代」と零戦に搭乗する祖父の「戦時中」が交差する演出は説得力があると思う。
またこういう特攻モノだと、作者や制作陣の政治的思い入れが強く出すぎて演出過多になりがちだが、本作はよく抑えたと思っている。 レビュアーの中には、当時の軍人にはありえないと指摘する方もいるが、原作者
百田尚樹氏は地道な取材によって宮部久蔵をはじめとした架空の零戦搭乗員たちを作り上げた。(余談1)個人的には、私は百田氏を弁護する気は全く無く、むしろ罵詈雑言あびせたいほどだが。
物事には必ず誤差がある。旧日本陸軍は全員坊主頭だと思いきや、ロス五輪の金メダリスト・バロン西こと西竹一中佐は七三頭でアメリカかぶれ。当時の日本軍の上下関係は絶対と思いきや、著名な撃墜王坂井三郎中尉は先任搭乗員(下士官)時代に主計士官に向かって拳銃を向け威嚇発射した。
さらに
奥崎謙三氏に至っては、上官を殴る蹴るして食糧をはじめ物品を奪う。上官は部下の兵卒にやられたとは恥ずかしくて報告できず部隊の内々に伏せられた。だから、本作の軍人たちの所作も誤差の範囲内に収まる。(余談2)
これほどの布陣と構成で臨めば、「ガンダム」でシャア少佐が盟友ガルマ大佐に向かって嘲笑しながら放った心の声「これで勝てなければ貴様は無能だ」と同じく、これで観客を感涙させなければ監督は無能だ。戦術目的は十分に達成した成功作と言えよう。
なにより、夏八木勲氏の遺作であり、我がマドンナ
吹石一恵氏が出演しているとなれば注目せざるを得ない。(余談3)
だが、俺はこの作品には虫唾が走る。百田氏は生きようとする人を描いたらしいが、こんな架空の人物を主人公にしたカミカゼ作品よりも、執念で大戦中を戦い抜き生き延びた実在の撃墜王坂井三郎中尉を題材にしたほうが判りやすい。「大空のサムライ」を映画化してほしいものだ。
坂井三郎氏はガダルカナルの空戦で頭を被弾して重傷を負い、半身の自由が利かず血まみれになりながらラバウル基地に帰還した。
大戦末期の硫黄島上空での空中戦では事実上隻眼状態でありながら敵機15機を相手に1発も被弾せず回避しまくり生還、応戦せず真っ直ぐ体当たりせよとの命令には背いて果敢に応戦して敵機を撃墜し帰還した強靭な生命力を表現してほしい。(余談4)
(余談1)たぶん、宮部久蔵の経歴からいって撃墜王で名高い坂井三郎氏や岩本徹三氏がモデルになっている可能性がある。宮部は空母赤城に配属されているが、岩本徹三氏も赤城と同じ第一航空艦隊所属空母瑞鶴に配属されていた。宮部はラバウルに配属され小隊長として2機の僚機を率いてガダルカナルの長距離行に参加しているが、坂井三郎氏もあの作戦に参加し頭と眼を負傷した。
宮部は内地で教官に就くが、坂井氏も岩本氏も前線を離れ暫く教官の任に就いている。大戦末期の戦況悪化に伴い再び前線に戻り、この時期に宮部と同じく少尉に任官した。
もし宮部が戦後も生き残ったら、坂井氏や岩本氏と同じようにポツダム昇進(軍隊が無くなるので退役前に昇進させて退職金と恩給の額を多くする目的。大尉以下の軍人が対象)で中尉になっただろう。
部下に対して細やかな指導をしたというエピソードでは、杉田庄一氏を織り交ぜているかもしれない。彼は鉄拳制裁は好まず面倒見が良かったので部下の人望があった。
興味深い事に、杉田氏は大戦末期の一時期坂井三郎氏と同じ部隊にいて対立した。杉田側の主張では坂井は空戦講話で誇張した武勇伝を語ったり、後輩を見くびり暴力も振るったらしく、それが腹に据えかねていたという。若手から坂井氏は「厄介な古参」と陰口を叩かれていた。当然、坂井側の主張は真逆である。自著で自身は暴力は振るわず、部下イジメをする上官を批判した。
(余談2)
奥崎謙三氏は伝説のアナーキストで、昭和天皇に向かってパチンコ玉を撃った人で有名。この事件以降、一般参賀で使用されるバルコニーのガラスは防弾になった。
原一男監督「ゆきゆきて、神軍」の主演としても知られている。
(余談3)夏八木勲氏は最晩年に仕事を無茶苦茶入れまくっている。2013年に限って言えば、「脳男」「ひまわりと子犬の7日間」「サンゴレンジャー」「そして父になる」この「
永遠の0」、他、もう一作あったかな。凄い執念だ。
(余談4)但し、坂井氏の著作と日本軍側と米軍側の公式記録には食い違う点がある事は一応ことわっておく。私は坂井三郎氏の著作を子供のころから読んでいた事もあって、彼の主張は正しいと信じていたい。ただ、多少の誇張はあると思う。
藤岡弘。氏主演で70年代に映画化されている。当時としては最高水準の特撮技術で描写されているが、CGに慣れた目で見ると違和感を抱く方が多いかもしれない。また出演者たちの演技も大仰。なにより、原作の改編が目に余る。
この作品の冒頭には坂井三郎氏本人が出演されているのだが、なぜフィクションに付き合ったのだろう?
晴雨堂スタンダード評価
☆☆☆☆ 優
晴雨堂マニアック評価
☆☆☆ 佳作
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特攻モノの傑作、だが俺は虫唾が走る。 非常にバランスの良い作品だと思う。古風な二枚目が似合う
岡田准一氏に対して顔に幼さが残る
三浦春馬氏、目付きが怖い青年景浦に新井浩文氏、現代の景浦に強面の田中泯氏。特に岡田氏の役作りは成功している。
音楽も悪くないし選曲の相性は抜群、CGも「三丁目・・」から格段に進歩した。本作のテーマゆえ当たり前の事だがゼロ戦の描写には大変な気合を込めている。
俳優陣もベテランの曲者揃い、構成も賛否あるが私は主人公の実孫を演じる
三浦春馬氏が祖父の戦友たちを取材する「現代」と零戦に搭乗する祖父の「戦時中」が交差する演出は説得力があると思う。
またこういう特攻モノだと、作者や制作陣の政治的思い入れが強く出すぎて演出過多になりがちだが、本作はよく抑えたと思っている。 レビュアーの中には、当時の軍人にはありえないと指摘する方もいるが、原作者
百田尚樹氏は地道な取材によって宮部久蔵をはじめとした架空の零戦搭乗員たちを作り上げた。(余談1)個人的には、私は百田氏を弁護する気は全く無く、むしろ罵詈雑言あびせたいほどだが。
物事には必ず誤差がある。旧日本陸軍は全員坊主頭だと思いきや、ロス五輪の金メダリスト・バロン西こと西竹一中佐は七三頭でアメリカかぶれ。当時の日本軍の上下関係は絶対と思いきや、著名な撃墜王坂井三郎中尉は先任搭乗員(下士官)時代に主計士官に向かって拳銃を向け威嚇発射した。
さらに
奥崎謙三氏に至っては、上官を殴る蹴るして食糧をはじめ物品を奪う。上官は部下の兵卒にやられたとは恥ずかしくて報告できず部隊の内々に伏せられた。だから、本作の軍人たちの所作も誤差の範囲内に収まる。(余談2)
これほどの布陣と構成で臨めば、「ガンダム」でシャア少佐が盟友ガルマ大佐に向かって嘲笑しながら放った心の声「これで勝てなければ貴様は無能だ」と同じく、これで観客を感涙させなければ監督は無能だ。戦術目的は十分に達成した成功作と言えよう。
なにより、夏八木勲氏の遺作であり、我がマドンナ
吹石一恵氏が出演しているとなれば注目せざるを得ない。(余談3)
だが、俺はこの作品には虫唾が走る。百田氏は生きようとする人を描いたらしいが、こんな架空の人物を主人公にしたカミカゼ作品よりも、執念で大戦中を戦い抜き生き延びた実在の撃墜王坂井三郎中尉を題材にしたほうが判りやすい。「大空のサムライ」を映画化してほしいものだ。
坂井三郎氏はガダルカナルの空戦で頭を被弾して重傷を負い、半身の自由が利かず血まみれになりながらラバウル基地に帰還した。
大戦末期の硫黄島上空での空中戦では事実上隻眼状態でありながら敵機15機を相手に1発も被弾せず回避しまくり生還、応戦せず真っ直ぐ体当たりせよとの命令には背いて果敢に応戦して敵機を撃墜し帰還した強靭な生命力を表現してほしい。(余談4)
(余談1)たぶん、宮部久蔵の経歴からいって撃墜王で名高い坂井三郎氏や岩本徹三氏がモデルになっている可能性がある。宮部は空母赤城に配属されているが、岩本徹三氏も赤城と同じ第一航空艦隊所属空母瑞鶴に配属されていた。宮部はラバウルに配属され小隊長として2機の僚機を率いてガダルカナルの長距離行に参加しているが、坂井三郎氏もあの作戦に参加し頭と眼を負傷した。
宮部は内地で教官に就くが、坂井氏も岩本氏も前線を離れ暫く教官の任に就いている。大戦末期の戦況悪化に伴い再び前線に戻り、この時期に宮部と同じく少尉に任官した。
もし宮部が戦後も生き残ったら、坂井氏や岩本氏と同じようにポツダム昇進(軍隊が無くなるので退役前に昇進させて退職金と恩給の額を多くする目的。大尉以下の軍人が対象)で中尉になっただろう。
部下に対して細やかな指導をしたというエピソードでは、杉田庄一氏を織り交ぜているかもしれない。彼は鉄拳制裁は好まず面倒見が良かったので部下の人望があった。
興味深い事に、杉田氏は大戦末期の一時期坂井三郎氏と同じ部隊にいて対立した。杉田側の主張では坂井は空戦講話で誇張した武勇伝を語ったり、後輩を見くびり暴力も振るったらしく、それが腹に据えかねていたという。若手から坂井氏は「厄介な古参」と陰口を叩かれていた。当然、坂井側の主張は真逆である。自著で自身は暴力は振るわず、部下イジメをする上官を批判した。
(余談2)
奥崎謙三氏は伝説のアナーキストで、昭和天皇に向かってパチンコ玉を撃った人で有名。この事件以降、一般参賀で使用されるバルコニーのガラスは防弾になった。
原一男監督「ゆきゆきて、神軍」の主演としても知られている。
(余談3)夏八木勲氏は最晩年に仕事を無茶苦茶入れまくっている。2013年に限って言えば、「脳男」「ひまわりと子犬の7日間」「サンゴレンジャー」「そして父になる」この「
永遠の0」、他、もう一作あったかな。凄い執念だ。
(余談4)但し、坂井氏の著作と日本軍側と米軍側の公式記録には食い違う点がある事は一応ことわっておく。私は坂井三郎氏の著作を子供のころから読んでいた事もあって、彼の主張は正しいと信じていたい。ただ、多少の誇張はあると思う。
藤岡弘。氏主演で70年代に映画化されている。当時としては最高水準の特撮技術で描写されているが、CGに慣れた目で見ると違和感を抱く方が多いかもしれない。また出演者たちの演技も大仰。なにより、原作の改編が目に余る。
この作品の冒頭には坂井三郎氏本人が出演されているのだが、なぜフィクションに付き合ったのだろう?
晴雨堂スタンダード評価
☆☆☆☆ 優
晴雨堂マニアック評価
☆☆☆ 佳作
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