「大空のサムライ」
冒頭で坂井三郎氏本人がカメオ出演。 【原題】【公開年】1976年
【制作国】日本国
【時間】102分
【制作】 【監督】丸山誠治 【原作】坂井三郎 【音楽】津島利章
【脚本】須崎勝弥
【言語】日本語 一部イングランド語
【出演】藤岡弘(
坂井三郎一飛曹)
志垣太郎(笹井中尉)
大谷直子(本田幸子) 田辺靖雄(大野二飛曹) 島村美輝(野村一飛曹) 伊藤敏孝(-) 福崎和宏(前田二飛曹) 平泉征(中川一飛曹) 平田昭彦(大薗中佐) 地井武男(滝一飛曹) 丹波哲郎(斉藤大佐) 島田順司(半田飛曹長)
【成分】勇敢 絶望的 切ない かっこいい ゼロ戦 戦争映画 ラバウル ガダルカナル 第二次大戦 1942年~現代
【特徴】撃墜王として著名な元ゼロ戦パイロット
坂井三郎氏の自伝を映画化。主演には「仮面ライター」で人気俳優となった
藤岡弘氏が務める。
零戦の編隊飛行や空中戦場面は円谷門下の川北紘一氏が特撮監督として辣腕をふるい、非常にうまく演出しているのだが、現在のCGに慣れた目で見ると模型丸出しであり、同時代のハリウッドの戦争映画と比べてもリアリティーは劣る。そのため邦画としてはそこそこ制作費を使っているにも関わらずB級映画の珍味に観られる可能性がある。
【効能】主人公
坂井三郎の生き抜く執念に感動する。冒頭の
坂井三郎氏本人のカメオ出演に驚く。
【副作用】B級臭さにガッカリ。出演者たちの大仰な演技がわざとらしい。
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「永遠の0」より「大空のサムライ」だ! 架空の零戦搭乗員を主人公にした「永遠の0」が原作・映画ともに好評である。映画の方はレビューで述べたが、構成やキャスティングなどバランスが良く完成度が高い。観客を感涙させるに足る内容だと私も評価しているが、個人的好みを言えば虫唾が走る。(余談1)
それよりも実在の零戦パイロットを主人公にした作品のほうが説得力がある。日本軍が優勢だった大戦前期、ニューギニアの東部にまで侵攻した精鋭揃いのラバウル航空隊エース
坂井三郎氏(以下、敬称略)の自伝「
大空のサムライ」の映画化作品だ。
主人公坂井に扮するのは
藤岡弘氏、坂井の上官で戦友の笹井中尉には
志垣太郎氏、搭乗員たちに理解がある斉藤司令に丹波哲郎氏、悲劇の一式陸攻(余談2)機長に地井武男氏と、非常に濃い顔ぶれである。
概ね原作に沿った内容で物語が進み、おそらく本物だろう零戦操縦席を使った指導風景や笹井中尉を中心に搭乗員たちが戦術を練るミーティング風景、なにより佳境のガダルカナル空中戦で坂井が頭を被弾し、出血多量の意識混濁に悩まされながらラストで生還する場面は感動である。
「永遠の0」などカミカゼ物を観るたびに、執念で生還した人をもっと取り上げても良いのではないかと強く思う。
残念ながら「永遠の0」を観た後で本作を観たらB級ギャグに見えてしまうかもしれない。
映画化は1976年、当時はCGが無く、円谷門下の川北紘一氏が特撮監督を担当して本作のために精巧に作ったラジコンやプラモを駆使、難しい編隊や空中戦の絵を器用に描写したが、同時代のハリウッド映画と比べるとプラモ丸出しなのである。
また濃い顔ぶれの俳優たちの演技が大仰で濃すぎて、目つきも歌舞伎のキメのようで説得力が無い。おまけに
藤岡弘氏が仮面ライダー本郷猛のように長髪、実際の坂井は短髪である。
さらに制作陣は男臭い原作そのままでは駄目と思ったのか、若き
大谷直子氏を従軍看護婦役で登場させ紅一点のヒロインにして坂井の部下とラブロマンス、取って付けたような違和感を感じた。
それから最後に、実際の坂井の戦後は印刷会社経営者なのだが、本作では映画化にともなう改編で医療品を運ぶセスナ機の操縦士という設定になって、坂井本人もそのフィクションに付き合って冒頭でカメオ出演している。
本作の構成を原作忠実にもっと整理して、最新のCGでリメイクされる事を強く願う。(余談3)
(余談1)大戦末期、零戦は体当たり攻撃に使用されたため、カミカゼや自爆のイメージが付きまとう。しかし、それのみに焦点を当ててしまうと、九死に一生ならぬ十死に零生の暴挙を行う羽目を詳細に描けば判りやすい反戦映画ができるが、さじ加減を間違えると英霊やその遺族の方々の気持ちを徒に蔑ろにされてしまう場合がある。左翼系市民の靖国批判に対する保守系市民の反発は、そんな感情からも出ているのだ。
一方、それでは特攻した英霊たちの心情に沿ったり英霊たちの特攻を肯定する作品にしてしまうと、戦争への美化につながり教訓が潰されてしまう。日米戦争のみに限定していえば、人権軽視の日本軍は人権重視の米軍に負けたのだ。
(余談2)海軍の双発爆撃機。葉巻のような太い胴体が特徴、航続距離を伸ばすためにガソリンタンクを大きくし防弾が疎かにしたため、米軍からはライターと渾名された。
(余談3)90年代なら、坂井役は岡村隆史氏、笹井中尉には稲垣吾郎氏がピッタリと思っていたが、今は誰が合っているだろうか?
晴雨堂スタンダード評価
☆☆ 可
晴雨堂マニアック評価
☆☆☆ 佳作晴雨堂関連書籍案内大空のサムライ(上) 死闘の果てに悔いなし (講談社+α文庫) 坂井三郎
大空のサムライ(下) 還らざる零戦隊 (講談社+α文庫) 坂井三郎
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それよりも実在の零戦パイロットを主人公にした作品のほうが説得力がある。日本軍が優勢だった大戦前期、ニューギニアの東部にまで侵攻した精鋭揃いのラバウル航空隊エース
坂井三郎氏(以下、敬称略)の自伝「
大空のサムライ」の映画化作品だ。
主人公坂井に扮するのは
藤岡弘氏、坂井の上官で戦友の笹井中尉には
志垣太郎氏、搭乗員たちに理解がある斉藤司令に丹波哲郎氏、悲劇の一式陸攻(余談2)機長に地井武男氏と、非常に濃い顔ぶれである。
概ね原作に沿った内容で物語が進み、おそらく本物だろう零戦操縦席を使った指導風景や笹井中尉を中心に搭乗員たちが戦術を練るミーティング風景、なにより佳境のガダルカナル空中戦で坂井が頭を被弾し、出血多量の意識混濁に悩まされながらラストで生還する場面は感動である。
「永遠の0」などカミカゼ物を観るたびに、執念で生還した人をもっと取り上げても良いのではないかと強く思う。
残念ながら「永遠の0」を観た後で本作を観たらB級ギャグに見えてしまうかもしれない。
映画化は1976年、当時はCGが無く、円谷門下の川北紘一氏が特撮監督を担当して本作のために精巧に作ったラジコンやプラモを駆使、難しい編隊や空中戦の絵を器用に描写したが、同時代のハリウッド映画と比べるとプラモ丸出しなのである。
また濃い顔ぶれの俳優たちの演技が大仰で濃すぎて、目つきも歌舞伎のキメのようで説得力が無い。おまけに
藤岡弘氏が仮面ライダー本郷猛のように長髪、実際の坂井は短髪である。
さらに制作陣は男臭い原作そのままでは駄目と思ったのか、若き
大谷直子氏を従軍看護婦役で登場させ紅一点のヒロインにして坂井の部下とラブロマンス、取って付けたような違和感を感じた。
それから最後に、実際の坂井の戦後は印刷会社経営者なのだが、本作では映画化にともなう改編で医療品を運ぶセスナ機の操縦士という設定になって、坂井本人もそのフィクションに付き合って冒頭でカメオ出演している。
本作の構成を原作忠実にもっと整理して、最新のCGでリメイクされる事を強く願う。(余談3)
(余談1)大戦末期、零戦は体当たり攻撃に使用されたため、カミカゼや自爆のイメージが付きまとう。しかし、それのみに焦点を当ててしまうと、九死に一生ならぬ十死に零生の暴挙を行う羽目を詳細に描けば判りやすい反戦映画ができるが、さじ加減を間違えると英霊やその遺族の方々の気持ちを徒に蔑ろにされてしまう場合がある。左翼系市民の靖国批判に対する保守系市民の反発は、そんな感情からも出ているのだ。
一方、それでは特攻した英霊たちの心情に沿ったり英霊たちの特攻を肯定する作品にしてしまうと、戦争への美化につながり教訓が潰されてしまう。日米戦争のみに限定していえば、人権軽視の日本軍は人権重視の米軍に負けたのだ。
(余談2)海軍の双発爆撃機。葉巻のような太い胴体が特徴、航続距離を伸ばすためにガソリンタンクを大きくし防弾が疎かにしたため、米軍からはライターと渾名された。
(余談3)90年代なら、坂井役は岡村隆史氏、笹井中尉には稲垣吾郎氏がピッタリと思っていたが、今は誰が合っているだろうか?
晴雨堂スタンダード評価
☆☆ 可
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だからこそ日本では「ヤマト」や「ガンダム」、「銀河英雄伝説」などアニメの世界に清清しい戦争作品が作られるようになった、と思います。