「選挙2」
前作とは正反対の闘い。
選挙2 [DVD]
【原題】【公開年】2013年
【制作国】日本国
【時間】149分
【制作】 【監督】想田和弘 【原作】 【音楽】 【脚本】 【言語】日本語
【出演】山内和彦(本人) 山内さゆり(本人)
想田和弘(本人)
【成分】楽しい 不思議 知的 切ない コミカル 統一地方選 ドキュメント
【特徴】前作「
選挙」では自民党公認候補として典型的なドブ板
選挙を展開し見事当選を果たすが、今回は無所属候補者として典型的な低予算泡沫候補者の戦いを展開する。
組織も銭もない、運動員も街宣車も
選挙事務所すらない候補者とその家族の
選挙戦は、前回の戦いで自民党が付けた選挙参謀の猿回し状態と違って、活き活きとして精神的な余裕が感じられる。
【効能】日本の地方選の泡沫候補者の楽屋裏を眺められる。保守系ベテラン政治家のジャーナリズムへの無知がよく現れている。
閉塞感に悩まされる時に見ると、前向きでバイタリティ溢れる山内一家に希望の光を見る。
【副作用】選挙に興味のない人にはダラダラとした貧乏臭い泡沫候補者の日常に付き合わされて退屈。睡眠導入剤に利用できる。主人公に当選する気が感じられずイラつく。
下の【続きを読む】をクリックするとネタバレありの詳しいレビューが現れます。記事に直接アクセスした場合は、この行より下がネタばれになりますので注意してください。
典型的な泡沫候補者の闘い。
ドブ板と泡沫両方の選挙戦を体験する主人公。 川崎市議選に挑む主人公
山内和彦氏、通称・山さん。前作は自民党公認候補としての戦いだったが、今回は完全に党組織とは手を切った一個人の闘いである。前回は典型的な組織的ドブ板
選挙戦であり、今回は世間でいうところの典型的な泡沫候補者の闘いだ。
できれば、前作「
選挙」と今作「
選挙2」は続けて観てほしい作品だ。実は二つとも現在の日本で繰り広げられている典型的な
選挙のやり方である。前回の
選挙ではハッキリ言って山さんの主体性は殺され、自民党がつけた選挙参謀のシナリオやお膳立てに従って動かされる。山さんは「素人」ゆえ、時には選挙参謀に叱られる時もある。いわば猿回しの猿のような状態といったら言い過ぎだろうか。
そして今回は山さんの自由な意志による闘い方を展開する。しかし組織は無い。せいぜいお連れ合いさんをはじめ僅か数名の友人たちが関わる程度。掲示板に貼るポスターは山さん本人とお連れ合いさんの2人だけで回るので1日では貼り終えない。(余談1)
山さんは前回の選挙で懲りたのか、あるいは開き直ったのか、潔く清々しいほどに他陣営のような選挙活動は一切やらない。選挙事務所は設置せず、スピーカーを装備した街宣車はおろか桃太郎(余談2)すらやらない。選挙期間中はもっぱら掲示板のポスターのチェックと貼り替え、選挙用の葉書の宛名書きと投函、最終日に放射能防護服もどきの服装になってハンドマイクで辻演説をするだけ。(余談3)
残念だが今回の作品で闘う山さんは典型的な泡沫候補の姿だった。しかし、前作の自民党候補者として汗をかきながら余裕無く動き回る姿より、鷹揚として活き活きとしているように感じるのは私だけだろうか? それともまずは当選が大事で、落選ではただの負け犬の言い訳になるのか?
しかし少なくとも言える事がある。前回のがんじがらめのドブ板選挙にしろ、今回の飄々とした泡沫候補的選挙戦にしろ、そんな形にしているのは実は我々「主権者」である。
この作品を観て、他人事のように笑ったり、上から目線で選挙をくだらないモノと見くびる輩がいれば、そんな輩こそ日本の選挙をそんな形にしている張本人である事を思い知れ!
(余談1)選挙に関わったことの無い人にはくだらない事に思うかもしれないが、ポスター貼りも立派な勝負である。組織力のある政党の候補者は公示されると1・2時間以内に全ての掲示板に貼り付ける。瞬時といってもいいくらいだ。
私は市民運動出身の無所属候補者の選対に入った事があるが、政党組織の力は使わず友人知人だけで挑んでも、公示日の午前中、おそくとも当日中に貼り終える事に努めた。でないと、いつまで経っても掲示板にポスターがあがらない候補者は一部の世間からは泡沫と見なされる。当落ラインぎりぎりで戦う候補者にとっては軽い問題ではない。
(余談2)「桃太郎」とは、候補者を先頭にスタッフが行列組んで旗や拡声器を持って練り歩く。さながら猿や犬や雉を引き連れて鬼退治に行く桃太郎のように住宅地を歩き回る行為。目立つようにスタッフは揃いのTシャツやヤッケを着る事が多い。
拡声器を持つ者は候補者の名前を連呼し、候補者は道行く人に笑顔で近寄り握手する。けっこう重労働である。
(余談3)震災直後の統一地方選なので、放射能汚染の問題が叫ばれていた。山内氏は原発行政に怒りを感じ立ち上がった。
私は複数名の知人の選挙を手伝った事がある。また選挙ではないが、選挙のような運動の責任者だった事もあり、辻演説も数多くやった。
だから言えるが、山内氏は少し語調がせっかちだ。せっかく今回は選挙参謀に尻を叩かれない精神的に余裕のある選挙戦をやっているのだから、もっとゆっくりと抑揚をつけて話したほうが、声もよく通るし聴衆も聞き取りやすい。ややせっかちに話して、途中何度も途切れる間があると、頼りない印象を聞く側に与えてしまう。
私の場合、街の中心街の交差点に陣取り、信号待ちをする人たちを対象にカンペ無しで即興演説した。カンペを見ながらだと失言する事は無いが、脚本を読まされているイメージを与えてしまう。自分の意志による自分の声でスピーチの方が説得力がある。
それからダラダラ長くやってしまうと聴衆は聞いてくれない。赤信号を待つ時間内で1つの小話が終わるか終わらないくらいを目標に数種類のテーマで話をすれば、聴衆の印象に残りやすい。
晴雨堂スタンダード評価
☆☆☆☆ 優
晴雨堂マニアック評価
☆☆☆ 佳作(但し前作と合わせれば金字塔)
晴雨堂関連作品案内選挙 想田和弘監督 [DVD]
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典型的な泡沫候補者の闘い。
ドブ板と泡沫両方の選挙戦を体験する主人公。 川崎市議選に挑む主人公
山内和彦氏、通称・山さん。前作は自民党公認候補としての戦いだったが、今回は完全に党組織とは手を切った一個人の闘いである。前回は典型的な組織的ドブ板
選挙戦であり、今回は世間でいうところの典型的な泡沫候補者の闘いだ。
できれば、前作「
選挙」と今作「
選挙2」は続けて観てほしい作品だ。実は二つとも現在の日本で繰り広げられている典型的な
選挙のやり方である。前回の
選挙ではハッキリ言って山さんの主体性は殺され、自民党がつけた選挙参謀のシナリオやお膳立てに従って動かされる。山さんは「素人」ゆえ、時には選挙参謀に叱られる時もある。いわば猿回しの猿のような状態といったら言い過ぎだろうか。
そして今回は山さんの自由な意志による闘い方を展開する。しかし組織は無い。せいぜいお連れ合いさんをはじめ僅か数名の友人たちが関わる程度。掲示板に貼るポスターは山さん本人とお連れ合いさんの2人だけで回るので1日では貼り終えない。(余談1)
山さんは前回の選挙で懲りたのか、あるいは開き直ったのか、潔く清々しいほどに他陣営のような選挙活動は一切やらない。選挙事務所は設置せず、スピーカーを装備した街宣車はおろか桃太郎(余談2)すらやらない。選挙期間中はもっぱら掲示板のポスターのチェックと貼り替え、選挙用の葉書の宛名書きと投函、最終日に放射能防護服もどきの服装になってハンドマイクで辻演説をするだけ。(余談3)
残念だが今回の作品で闘う山さんは典型的な泡沫候補の姿だった。しかし、前作の自民党候補者として汗をかきながら余裕無く動き回る姿より、鷹揚として活き活きとしているように感じるのは私だけだろうか? それともまずは当選が大事で、落選ではただの負け犬の言い訳になるのか?
しかし少なくとも言える事がある。前回のがんじがらめのドブ板選挙にしろ、今回の飄々とした泡沫候補的選挙戦にしろ、そんな形にしているのは実は我々「主権者」である。
この作品を観て、他人事のように笑ったり、上から目線で選挙をくだらないモノと見くびる輩がいれば、そんな輩こそ日本の選挙をそんな形にしている張本人である事を思い知れ!
(余談1)選挙に関わったことの無い人にはくだらない事に思うかもしれないが、ポスター貼りも立派な勝負である。組織力のある政党の候補者は公示されると1・2時間以内に全ての掲示板に貼り付ける。瞬時といってもいいくらいだ。
私は市民運動出身の無所属候補者の選対に入った事があるが、政党組織の力は使わず友人知人だけで挑んでも、公示日の午前中、おそくとも当日中に貼り終える事に努めた。でないと、いつまで経っても掲示板にポスターがあがらない候補者は一部の世間からは泡沫と見なされる。当落ラインぎりぎりで戦う候補者にとっては軽い問題ではない。
(余談2)「桃太郎」とは、候補者を先頭にスタッフが行列組んで旗や拡声器を持って練り歩く。さながら猿や犬や雉を引き連れて鬼退治に行く桃太郎のように住宅地を歩き回る行為。目立つようにスタッフは揃いのTシャツやヤッケを着る事が多い。
拡声器を持つ者は候補者の名前を連呼し、候補者は道行く人に笑顔で近寄り握手する。けっこう重労働である。
(余談3)震災直後の統一地方選なので、放射能汚染の問題が叫ばれていた。山内氏は原発行政に怒りを感じ立ち上がった。
私は複数名の知人の選挙を手伝った事がある。また選挙ではないが、選挙のような運動の責任者だった事もあり、辻演説も数多くやった。
だから言えるが、山内氏は少し語調がせっかちだ。せっかく今回は選挙参謀に尻を叩かれない精神的に余裕のある選挙戦をやっているのだから、もっとゆっくりと抑揚をつけて話したほうが、声もよく通るし聴衆も聞き取りやすい。ややせっかちに話して、途中何度も途切れる間があると、頼りない印象を聞く側に与えてしまう。
私の場合、街の中心街の交差点に陣取り、信号待ちをする人たちを対象にカンペ無しで即興演説した。カンペを見ながらだと失言する事は無いが、脚本を読まされているイメージを与えてしまう。自分の意志による自分の声でスピーチの方が説得力がある。
それからダラダラ長くやってしまうと聴衆は聞いてくれない。赤信号を待つ時間内で1つの小話が終わるか終わらないくらいを目標に数種類のテーマで話をすれば、聴衆の印象に残りやすい。
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