「タイム・マシン/80万年後の世界へ」 ストレス解消活劇〔21〕
【原題】THE TIME MACHINE
【公開年】1960年 【制作国】亜米利加 【時間】103分
【監督】ジョージ・パル
【原作】H・G・ウェルズ
【音楽】ラッセル・ガルシア
【脚本】デヴィッド・ダンカン
【言語】イングランド語
【出演】ロッド・テイラー(ジョージ) イヴェット・ミミュー(ウィーナ) アラン・ヤング(デビッド) セバスチャン・キャボット(-) トム・ヘルモア(-) ウィット・ビセル(-) ドリス・ロイド(-)
【成分】ロマンチック パニック 恐怖 勇敢 切ない かっこいい
【特徴】タイムマシン物の古典、H・G・ウェルズの「タイムマシン」を実写映画化。一応、原作に沿った内容だが、映画制作当時の米ソ冷戦時の核戦争危機の世相が反映されている。時間旅行をするときの風景やファッションの高速変化の描写はさすがアメリカ映画界。
ただ、エロイ族の描写が原作から大きく逸脱してハリウッド好みになってしまっているため80万年未来世界の雰囲気はイマイチ感じられない。
【効能】未知の未来世界での冒険ファンタジーに心ワクワク。
【副作用】ハリウッドの想像力の無さに失望。原作ファンの中には激怒する者もいる。
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原作に沿っているのは良いのだが・・。
言うまでもなく、SFの大家H・G・ウェルズ(余談1)が19世紀末に発表した小説が原作で、タイムマシン物の始祖であり古典である。彼の作品以降、世界中で時間旅行を素材にした様々なバリエーションの作品がつくられる。
この作品は、ウェルズの曾孫が監督した2002年の作品のような派手な改編(余談2)は行われていない。概ね原作に沿った形で制作されており、タイムマシンでタイムトラベルをする場面は今みても美しい特撮である。人類滅亡を核戦争が原因としたのは原作とは異なり当時の米ソ対立と核戦争の危機を反映しているが、ウェルズの原作も社会風刺・文明批判がテーマになっているので、原作の志からは逸脱していない。
ただ、80万年後の世界はハリウッドの悪い癖か、グラマー女性が登場する冒険活劇になってしまっている。人類の末裔としてゴリラの化物のようなモーロック人は許せるとしても、エロイ人は現代人と殆ど変わらないばかりか明らかに現代英語まで話す。ヒロインとなるエロイの女性もありふれた金髪のグラマーな美女というだけである。衣装設定も手を抜いているのかと思うくらいパッとしないものだった。(余談3)もっとも、50年代から60年代前半当時のハリウッドで、68年作「2001年宇宙の旅」のようなセンスを求めるのもフェアでないかもしれない。60年代後半から70年代にかけて文化が大きく激変したのだから。
鑑賞は、できれば原作を読んでから60年作のこの映画を観て、次に2002年のリメイクを勧める。(余談4)科学考証や社会批判なら原作が優れており、原作のアイディアをベースにラブロマンスを描いたのが2002年の作品、原作の雰囲気を残しながら娯楽作品にしたこの60年公開の映画、それぞれの長所を楽しんでいただきたい。
(余談1)他に「宇宙戦争」「透明人間」「モロー博士の島」など。
「タイムマシン」は社会風刺がメインテーマで、当時脚光を浴びていたコミュニズムに傾倒していたウェルズは、イギリスの階級社会や資本家と労働者の対立などを盛り込んだ。80万年後の人類を上流階級が進化して可愛らしいエルフのようなエロイ族になり、重労働にあえぐ下層階級がモーロックというゴリラのような化物に進化していた。機械文明が崩壊した世界で支配階級だったはずのエロイ族はモーロックによって間引きされる。
この設定はあながち絵空事ではない。例えば遺伝病を回避するために遺伝子操作OKとなれば、やがて最初から遺伝的に優れた素養を持った子供しか産まなくなり、遺伝情報や遺伝操作できる裕福な家庭とそれができない階層の家庭で優性人間化と劣性人間化が進み、人類は完全に生物学的に二種に分化する。
(余談2)原作は文明批判・社会風刺の物語だが、2002年の作品は完全に恋愛ファンタジーに改編されている。
ラブロマンスのネタとしては悪くないデキだ。恋人を強盗に殺され失意の主人公はタイムマシンを作り恋人が殺される直前の過去へ戻り恋人を助けるのだが、今度は交通事故死する。恋人が死ぬという過去が何故変えられないのか、科学が発達した未来なら答えが見つかると思い未来へ旅立つ。ところが文明そのものが崩壊した遠い未来に漂着し、意外な人物から意外で盲点だった理屈と答えを聞かされる。主人公は過去の呪縛から解放され未来世界で生きる決意を固める。竹宮恵子氏が綺麗な画調で描きそうなネタだ。SFとしては不満だが。
(余談3)2002年の作品では、エロイ人がなぜ英語を話せるかの設定はなされていたが、それでも無理がある。古文を読んでら判るように、たった数百年でも言語というものは変化するものなので、8千年後や8万年後でもシンドイのに、原人から現代人までの大きな変化がある時間枠にエロイ人だけ現代人とほぼ同じというのは物理的に無理がある。
晴雨堂スタンダード評価
☆☆☆ 良
晴雨堂マニアック評価
☆☆☆ 佳作
【受賞】アカデミー賞(特殊効果賞)(1961年)
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レビューもされていましたね。
こちらも、拝読しました。
80万年後は、現実離れしているものかもしれませんが、
画面で見た限り、違和感がありました....。
なぜでしょう?
多分、その1つ。
言語の問題は、鋭いご指摘ですね。
今の世で、平安朝の言語を話している人は、いませんものね。
竹宮さんが描きそう、というところ、ニッコリです。
では☆