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ミカエル晴雨堂の晴耕雨読な映画処方箋

晴雨堂ミカエルの飄々とした晴耕雨読な映画処方箋。 体調に見合った薬膳料理があるように、 料理に合う葡萄酒があるように、日常の節目に合った映画があります。映画の話題をきっかけに多彩な生活になれば幸いです。詳しいレビューは「続きを読む」をクリックしてください。

雁屋哲、鼻血騒動の是非。 近頃の現象[一〇一〇]

美味しんぼ」原作者の雁屋哲氏 
鼻血描写に「ここまで騒ぎになるとは」


 小学館の漫画誌「週刊ビッグコミックスピリッツ」に連載中の漫画「美味しんぼ」原作者の雁屋哲氏(72)が4日、自身のブログを更新、4月28日発売号に掲載された「福島の真実編」で、東京電力福島第1原発を訪れた主人公らが原因不明の鼻血を出す描写で批判が相次いだことについて「ここまで騒ぎになるとは思わなかった」とし、この続きで「もっとはっきりとしたことを言っている」とつづっている。(スポニチアネックス)

【雑感】前の記事で指摘したように、雁屋哲氏自身は相応の覚悟を持って作品公開に踏み切っているようだ。

 彼のブログ「雁屋哲の今日もまた」には以下のように文句が並ぶ。記事タイトルは「反論は、最後の回まで,お待ち下さい」だ。一見すると丁寧な言い回しの懇願タイトルだが、本文はかなり強弁的で喧嘩腰ともとれる。

「24ではもっとはっきりとしたことを言っているので、鼻血ごときで騒いでいる人たちは、発狂するかも知れない」
「今まで私に好意的だった人も、背を向けるかも知れない」
「真実をありのままに書くことがどうして批判されなければならないのか分からない」
「真実には目をつぶり、誰かさんたちに都合の良い嘘を書けというのだろうか」
「私は真実しか書けない」
「『美味しんぼ』が気にいらなければ、そのような『心地の良い』話を読むことをおすすめする」


 相応の覚悟を持って描かれたのであれば、是非ともお言葉通りの作品を発表し、一部世間の顰蹙と批判に対処してもらいたい。


 近頃の論争は泥仕合になりやすい。かつては権力者VS庶民や加害者VS被害者など、比較的ハッキリした二元論になるので呑み込みやすかったが、今は双方ともに「大義名分」や「綺麗事」を上手く利用する。どちらが加害者だったのかが判らなくなる時がある。

 今回の場合は、雁屋哲支持派は「言論弾圧」「原発被害隠蔽」といったキーワードを掲げるだろうし、批難派は「福島県への偏見と差別」「偏見による風評」「非科学的」といったキーワードを並べる。さらに「美味しんぼ」連載当初と違って、現代ではネット社会が定着して一個人でも情報や意見を発信できるメディアを持った事で、神経を逆なでする発言などがあれば一斉攻撃できうる環境になっている。

 誰でも簡単に情報を摂取し発言できるネット社会、それに正比例して事実関係掌握の訓練もなされてほしいが、実態は事実関係掌握をナメてかかる状態のまま情報の垂れ流しとウケ売りが横行している。

 「美味しんぼ」絡みで実際に私の周りであった話だが、ある知人が「雁屋哲は戦争賛美で差別者で保守反動だ」と言ってきた。私は首を傾げた。どう見ても雁屋氏は左翼や護憲派よりのポジションで、少なくとも保守右翼とは対極の人物である。で、「美味しんぼ」のどこにそんな趣旨の箇所があるのかを質問した。彼は具体的に「〇巻の〇頁」とは指摘はできなかったが、どんなエピソードが描かれていたかを話した。
 当時「美味しんぼ」は初期の十数巻(余談1)しか持っていなかったので、わざわざ問題の巻を探し当てて購入し出典確認をした。その結果、彼の勘違いである事が判明した。(余談2)

 人は簡単にイメージに左右されて勘違いをする。曲解もする。しかも自分の都合の良い方向へ編集をしてしまう。それは故意ではなく本能的に無意識でやってしまう。だから事実関係掌握には訓練がいるのだ。上記の一例の場合、彼の主張を鵜呑みにせずにわざわざ単行本を購入するという手間暇をかけた。彼は定食屋で飯を食いながら読んだ時に受けたイメージそのままの記憶を根拠に批難を繰り出した。
 ネットでは、このような事実関係掌握をいちびった(ナメてかかった)まま世間に垂れ流してしまう怖さがある。


 雁屋哲氏の主張では、自身が取材して体験した範疇の「事実」を山岡史郎らの体験として作品に反映した事なのだが、間違っていけないのは「本人の体験」=「事実」とは限らないのだ。上記の知人のように、伝聞情報ではなく自分自身が「美味しんぼ」を読んだという実体験を根拠に批判を繰り出したのたが、確かに彼にとっては「事実」を「嘘偽りなく」私に向って主張しても、その「事実」を誤って読み取り、日頃から抱いていた雁屋哲氏への反感が作用してマイナス方向へ曲解したものを「事実」とは言えない。

 同じように、雁屋哲氏も日頃から原発に対して拒絶意識があった。かつてチェルノブイリ事故の時は、山岡史郎の口を通じて解釈のしようによってはまるでヨーロッパの農産物は全て放射能によって汚染されていると言い切っているように聞こえる発言をした。
 そういう感覚であるから、福島県の一件にしても同様の描き方をしたいだろうし、チェルノブイリでの論調を鑑みれば今回の作品はまだ福島県をはじめとする東日本に配慮した緩い内容だろう。

 雁屋哲氏の作品掲載の責任を負う「編集人」たる誌編集部は、当然ながら雁屋氏とは多少軸足をずらしている。

「鼻血や疲労感が放射線の影響によるものと断定する意図はありません」
「鼻血や疲労感は、綿密な取材に基づき、作者の表現を尊重して掲載した。取材先や作者の実体験について、医師に見解を問う展開となっている」


 喧嘩腰ともとれる雁屋氏のブログ記事は彼自身に編集権がある「雁屋哲の今日もまた」での発言なので彼の思いがストレートに出た結果だ。だが「週刊ビッグコミックスピリッツ」の編集部はさすが雑誌社の編集人だけあって、事実関係掌握についての理屈と怖さはよくご存じだ。微妙な言い回しで責任を回避している。

 ただ、同編集部は、検査で安全と証明されている食品・食材を無理解で買わない風評被害を、これまで連載で批判してきた、という趣旨の主張をしているが、もともと「美味しんぼ」は現代社会への不信感をベースに物語を展開してきた。
 「鼻血や疲労感が放射線の影響によるものと断定する意図はありません」と言い切るのは無理があるし、「検査で安全と証明」というが、同時に彼は「検査で安全と証明」されているはずの食品添加物などを露骨に有害であると山岡史郎の口を通じて批難し続けていた。したがって、編集部の言い分は説得力の無い言い訳にしか聞こえない。

 一方、雁屋哲氏を批難する一部福島県民たちの言い分も、前述してきた理由によって、私は鵜呑みにしない。どちらの言い分が正しいのか? チェルノブイリの時、放射能が原因と思われる疾病の数々が事故から数年後に隠蔽できぬほど急増した。残酷だが震災から数年後、つまりそろそろ明らかになる。
 

(余談1)自慢話に聞こえるかもしれないが、私は初期の色違い背表紙を持っている。現在は金色に統一されているが、初期は巻ごとに色違いだった。
 私が「美味しんぼ」を読まなくなったのは、これも長期連載の弊害の一つなのだが、登場人物の性格設定が変化したからだ。この作品の場合は、登場人物の幼児化である。主人公山岡史郎はもとより、社主や編集局長など人間的成長がないどころか、回が進むごとに幼くなっている。成長が観られるのは、むしろ海原雄山やヒロイン栗田ゆう子ぐらいだ。

 また山岡史郎に関わる人物の姿勢も、物語の構成上やむを得ないだろうが、不自然だ。あの海原雄山の息子である。しかも政財界の一流と知遇を得ている顔の広い人物だ。普段のだらしない山岡を知る文化部のメンバーが山岡を弄るのは解るが、それ以外の人間までナメてかかるのは奇怪だ。私なら山岡に対して畏敬の念を抱きながら接するし、不快な事を言われても恐縮してしまう。ところが、多くの人が不遜にも山岡に対して偉そうだ。
 私はあの独特の雰囲気が次第に鬱陶しくなって読むのを止めた。

(余談2)「美味しんぼ」では老舗料亭などがよく舞台になる。徒弟制度や世襲が色濃く残る業界を舞台にしただけで雁屋哲氏を非民主人間と彼は批難した訳だが、私は「相手は、業界の現状を表現しただけ、という言い訳できる余地があるので論証不足で決めつけ批難は勇み足」と注意した。

 戦争賛美については、第二次大戦初期にオーストラリアを攻撃した日本軍戦死者をオーストラリア側が丁重に葬ったエピソードを紹介した部分を曲解していた。彼は定食屋で読んだだけだが間違いない、と言っていた点を指摘して、出典確認を怠った事を厳しく叱責した。


 
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