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ミカエル晴雨堂の晴耕雨読な映画処方箋

晴雨堂ミカエルの飄々とした晴耕雨読な映画処方箋。 体調に見合った薬膳料理があるように、 料理に合う葡萄酒があるように、日常の節目に合った映画があります。映画の話題をきっかけに多彩な生活になれば幸いです。詳しいレビューは「続きを読む」をクリックしてください。

映画「鳴梁」を裵楔将軍の子孫が刑事告訴。例えれば吉良上野介の子孫が「忠臣蔵」の内容に怒って告訴するようなもの。 近頃の現象[一〇四九] 

映画「鳴梁」を刑事告訴 
“歴史歪曲、浅はかな商法”と
ペ・ソル将軍の子孫が主張


 慶州(キョンジュ)ペ氏緊急対策委員会が、映画「鳴梁」を相手取り、虚偽事実の適示による死者の名誉毀損で刑事告訴する。(Kstyle)

【雑感】日本でもし同じような事が起こるとすれば、いつも「忠臣蔵」で悪役にされる吉良上野介の子孫が一致地団結して「忠臣蔵」制作の映画会社やTV局を相手取って刑事告訴するようにモノである。
 実際、「忠臣蔵」の内容は実像からかけ離れており、吉良を著しく貶めているのは事実である。私はもっと実像に迫る吉良像を追いかけた「忠臣蔵」を観てみたいものだ。

 ただ、何度も当ブログで言及してきたが、私は法権力を使っての言論と表現の自由封じ込めには反対である。特にこの場合は数世紀も昔の人の名誉である。これが罷り通ってしまったら、もはや歴史モノは描けない。

 大河ドラマを観ていると、同じ時代を舞台にしても作品ごとに人物描写が異なることに気づく。豊臣方が主人公だと徳川家康は憎らしいほどの悪人に描かれるが、徳川方が主人公だと家康は善人になってしまう。
 滝田栄氏が主役として家康を演じた「徳川家康」では、生真面目に豊臣家への忠節を誓い、大坂夏の陣で家臣たちが豊臣家を滅亡させてしまうと癇癪を起す、今までの家康像ではあり得ない平和主義ぶり。戦国乱世では生き残れそうにない甘ちゃん家康。
 松方弘樹氏が敵役として家康を演じた「天地人」では、まるでステレオタイプの無頼の輩、形勢が悪いと卑屈に振舞い有利になると石田三成をはじめ豊臣恩顧の大名たちを恫喝しまくる。気品も知性も感じられない野卑な家康。
 徳川家は今も日本有数の名家として存続しているが、大河ドラマでイチイチ刑事告訴はおろか制作側に注文を付けるような事はしない。

 歴史を西洋に向ければ、ローマ史劇では必ずといっていいほどローマ帝国の皇帝は悪徳と暴力と贅沢三昧の爛れた享楽社会に生きる独裁者であるかのように描かれている。これはローマ軍によって祖国を追われ流浪の民族となったユダヤ人が現在の映画業界に強い発言力を持っているためと、加えてローマ帝国によってしばしば迫害されていたキリスト教徒が世界のイニシアチブを握る力を持っているからである。
 しかし全盛期のローマ皇帝は現代のアメリカ大統領のようなポジションで、大きな権力はあったが好き勝手に使える立場ではなく、常にローマ市民や現代の国会のようなポジションの元老院に気を遣っていた。
 だからといって、ローマ人の直系子孫であるイタリアがハリウッドなどを相手取って刑事告訴なんて話は聞かない。

 事実関係なんてものは立場が違うと大きく解釈が異なってしまう。現代社会でも裁判で被告人と告訴人では同じ事実でも受け取り方が違うのに、ましてや歴史となれば時の政治状況で如何様にも変わってしまう。古い時代であればあるほど誤差も大きくなる。
 時代劇はさらに「歴史的事実」を参考にしてフィクションを膨らませていくものだ。これにイチイチ異議を唱えては時代物は書けない。

 仮に慶州裵氏の意向通りの作品ができたとしても、必ず別の氏族から不服が生じる。まず裵楔将軍に敵対した人たちの子孫が真っ先に「美化している。精神的苦痛を受けた」と提訴するだろう。キリの無い話だ。

 言論には言論で対処だ。慶州裵氏は資金と人手を募って反論映画を作るべきだ。全国の慶州裵氏が団結して人材と資金を集めれば、映画一本つくるぐらいできるだろう。

(余談1)「慶州裵氏」とは何ぞや、と思うだろう。韓国は日本以上に氏族の結びつきが強い。氏族の発祥地などを指す「本貫」にこだわる。この場合は、慶州発祥の裵氏という意味で、慶州とは現在の慶尚北道の慶州市周辺である。古代朝鮮の王朝新羅の都があった所だ。発祥地と姓が同じであれば同じ祖先を持つ一族という事になる。
 因みに韓国で最も人口が多い姓は「金氏」だが、この金氏には金海・慶州・全州など様々な本貫がある。同じ本貫の氏族への帰属意識は強烈だ。

 中国では経験的に近親交配を避けるため同姓同士の婚姻は忌み嫌われている。韓国も同じで、特に「本貫」が同じだと婚姻できない。

 80年代、在日コリアンのジャーナリスト金賛汀氏が中国東北地方の延辺朝鮮族自治州を取材した際、取材先で同じ金氏の朝鮮族中国人から同姓なので「本貫は」と尋ねられ、「清州金氏です」と答えたら「一家やないか!」と歓迎されたそうだ。日本で育ったコリアンと中国で育ったコリアンが、朝鮮半島を隔てた中国で同じ朝鮮語が通じ同じ氏族の人と出会う違和感。これは朝鮮半島が抱える苦難の歴史と現状を表している。

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[ 2014/09/17 18:26 ] 日誌・・近頃の現象 | TB(0) | CM(0)
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