ミカエル晴雨堂の晴耕雨読な映画処方箋

晴雨堂ミカエルの飄々とした晴耕雨読な映画処方箋。 体調に見合った薬膳料理があるように、 料理に合う葡萄酒があるように、日常の節目に合った映画があります。映画の話題をきっかけに多彩な生活になれば幸いです。詳しいレビューは「続きを読む」をクリックしてください。

「僕を愛したふたつの国/ヨーロッパ ヨーロッパ」 絶望から脱出しよう〔38〕 

「僕を愛したふたつの国/
ヨーロッパ ヨーロッパ」 
ユダヤ人迫害モノの特異作。



現在、北米版のみ流通。
(日本語吹替および字幕なし)


【原題】HITLERJUNGE SALOMON/EUROPA EUROPA  
【公開年】1990年  【制作国】独逸 仏蘭西 波蘭  【時間】112分  
【監督】アニエスカ・ホランド
【制作】マルガレート・メネゴス アルトゥール・ブラウナー
【原作】ソロモン・ペレル
【音楽】ズビグニエフ・プレイスネル
【脚本】アニエスカ・ホランド
【言語】ドイツ語 ロシア語 一部ポーランド語 ヘブライ語
【出演】マルコ・ホーフシュナイダー(ソロモン)  ジュリー・デルピー(レニー)  アンドレ・ウィルム(ロバート)  ルネ・ホーフシュナイダー(イサク)  ハンス・ツィッシュラー(大尉)  ミシェル・グレイゼル(ソロモンの母)  デルフィーネ・フォレスト(教師)  ソロモン・ペレル(本人)    

【成分】パニック かわいい ゴージャス コミカル 不思議 恐怖 切ない 絶望的 笑える 第二次大戦 ポーランド ロシア ドイツ
     
【特徴】人たらしの才能を発揮して大戦中を生き延びたユダヤ人少年の物語、実話である。
 ナチスの迫害から逃れるためドイツを脱出、ソ連ではピオネールの優等生になって若い女教師から気に入られ、ドイツが侵攻して捕虜になるとドイツ難民を装ってドイツ兵から気に入られ部隊のマスコット的な少年兵になり、さらに上官からセレブの里親を紹介されて、なんとユダヤ人の身でありながらヒトラー・ユーゲントに入団する。
 ドイツ敗戦時はソ連軍の捕虜になって殺されかけるが生き分かれた兄と再会し助かる。まるで小説のような数奇な運命をたどって戦後も生き延び、本作ラストでは実際の本人がカメオ出演するに至る。

 ユダヤ人迫害モノといえば、人格障害を起こし血に飢えた悪の軍団ナチスによって迫害され殺されていく多くのユダヤ人や、果敢に武装グループを結成して戦闘を試みる英雄的ユダヤ人の描写が定番だが、本作は全く毛色が違う。
 主人公は自身の特技で災難をすり抜け生き延びる。それによってドイツ側もソ連側も凶暴野蛮な悪役ではなく、等身大の同じ「善良な人間」として描かれているのが特徴だ。

【効能】世渡りの要領を学べる。絶望的な困難が降りかかっても希望を失わない。
 
【副作用】主人公の小狡さに不快感。
 
下の【続きを読む】をクリックするとネタバレありの詳しいレビューが現れます。記事に直接アクセスした場合は、この行より下がネタばれになりますので注意してください。
人たらしは身を救う。

 ナチスドイツによるユダヤ人迫害モノといえば、名作TVドラマ「ホロコースト」に代表されるように、主人公たちに降りかかるナチスドイツの差別と暴力、収容所での死へ向かう過酷な生活、小銃を手に果敢にナチスへ抵抗を試みる英雄、この3要素が盛り込まれるのが基本だ。
 中にはロマン・ポランスキー監督「戦場のピアニスト」ではひたすら逃げまどい隠れながら運と人情に助けられてナチスの魔の手を掻い潜って生き延びるか弱い主人公もいる。 本作はこの「戦場のピアニスト」の上をいくしたたかな少年が主人公だ。なにしろ、ピアニストのシュピルマンはホームレスのような姿になり音楽好きのドイツ将校の温情で生かされるが、本作はその場その場で「優等生」になり切り生き延びる。数奇な体験の連続を経て大戦後も健在、しかも実話の映画化で老人となった本人がラストでカメオ出演するのだ。 

 主人公ソロモン少年はドイツのユダヤ人家庭に生まれた。ヒトラーが政権をとり主人公一家は東隣のポーランドへ逃げ、そこへナチスドイツが侵攻するとソ連へ逃げる。その頃には一家はバラバラになり、ソロモン少年は独り機転を利かせて生き延びる。まるで「わらしべ長者」のように痛快だ。

 彼は場に合わせる天才だ。たちまちソ連のピオネール(余談1)で優等生になり、ピオネールを指導する若い美人先生は少し歳下のソロモンに恋愛に近い感情を抱くようになる。彼はか弱そうでいて一途の頑張り屋に見えるところが異性や歳上男性の「母性本能」をくすぐるようだ。この特技は何度も彼の命を救う。

 やがてナチスドイツはソ連に侵攻する。あともう一息で男と女の関係になれた美人教師と離れ離れになった彼は捕虜となり、目の前で共産主義やユダヤ人の選別が行われ、引っかかった者はトラックに乗せられる光景を目にする。ソロモン少年は本能的に「死」を感じた。
 ここでも彼の機転は功を奏す。素早くピオネールの身分証を捨て、ドイツ兵に向かって堂々と「自分はドイツ人だ。難民だ」と言い張り、名前もドイツ人の有り触れた名前「ペーター」を名乗った。

 彼は古参のドイツ兵たちに好かれた。ドイツ語とロシア語が堪能な少年は占領地で重宝され臨時徴兵の兵士となる。特に同性愛者の古参兵は健気に見える少年を愛おしく感じ、のちに彼がユダヤ人である事を知っても、まるで保護者のように守った。
 しかしパトロンというべき古参兵は戦死し、絶望した彼は密かにソ連へ投降を決意、ロシア語で交渉しソ連軍陣地に向かうが、その行動が偶然にもドイツの勝利をもたらし彼は勝利に導いた立役者として喝采を浴びる。もはや部隊のアイドルかマスコットだ。

 上官の部隊長は少年の将来を考えドイツ本国のセレブな里親会に連絡し養子に送り出す。前線を離れる時、兵士たちは走って追いかけながら少年を見送ったことから、かなり好かれていた事がわかる。
 ソロモン少年はなんとユダヤ人でありながらエリートのヒトラーユーゲントに入るのだ。

 さすがに、ヒトラーユーゲントでの反ユダヤ教育は彼にとってストレスの連続だった。ドイツの少女と恋仲になっても深い関係になると割礼の部分がバレるのでプラトニックな関係に留めざるを得ない。
 町を散策すれば、ユダヤ人ゲットーから白く光る死体が大八車で運ばれる様を目撃する。警備にあたるドイツ兵と目が合う。ソロモン少年はペーターとしてヒトラーユーゲントの黒い制服とハーケンクロイツの腕章を身に着けているので安全だが緊張が襲う。

 やがてソ連軍がドイツに侵攻し、ついに敗戦、少年はソ連軍の捕虜となり、ドイツの軍服を着た少年は「俺はユダヤ人だ」と訴えるが今度は少年の特技は通用しない、危うし!という場面で生き別れた実兄が収容所のユダヤ人が着ている制服姿で声をかけ助かる。

 邦題が表すように、少年はドイツやソ連の人々に愛され生き延びた。果敢に戦った英雄や、悲惨な生活を送った被害者でもなく、非力な振りをして巧く立ち回り愛された少年の数奇な運命を表す事で、ソ連やナチスの人々を等身大の普通の庶民であることを描写しているのが特徴だ。
 「ホロコースト」では人格異常をきたしたドイツ人が多数出てくる。「戦場のピアニスト」では良心的なポーランド人やドイツ人が例外的に登場する。しかし本作に登場するロシア人やドイツ人は概ね「善良な庶民」たちなのである。

 けっこうこの演出は深い。

(余談1)ピオネール(пионе́р)はソ連のボーイスカウトのようなもの。英語のパイオニア(Pioneer 開拓者)に該当。英語のスペルを見ればピオネールはパイオニアのロシア語読みである事が判る。
 イギリスで始まったボーイスカウト運動を旧ソ連は共産党組織に転用した。同じようにナチスドイツにもヒトラーユーゲントがある。少年期に政治思想を叩き込み実践させる効果があった。



晴雨堂スタンダード評価
☆☆☆☆☆ 秀

晴雨堂スタンダード評価
☆☆☆☆ 名作


【受賞】ゴールデングローブ賞 外国語映画賞




 
 blogram投票ボタン にほんブログ村 映画ブログへ
ブログランキングに参加しています。
関連記事
スポンサーサイト
コメントの投稿













管理者にだけ表示を許可する
映画処方箋一覧
晴雨堂が独断と偏見で処方した映画作品。
下段「日誌」項目は晴雨堂の日常雑感です。
メールフォーム
晴雨堂ミカエルに直接ご意見を仰せになりたい方は、このメールフォームを利用してください。晴雨堂のメールアドレスに送信されます。

名前:
メール:
件名:
本文:

プロフィール
↓私の愛車と野営道具を入れたリュックです。

晴雨堂ミカエル

Author:晴雨堂ミカエル
 執筆者兼管理人の詳しいプロフィールは下記の「晴雨堂ミカエルのプロフ」をクリックしてください。

晴雨堂ミカエルのプロフ

FC2カウンター
2007年10月29日設置
当ブログ注目記事ランキング
当ブログで閲覧数の多い順ランキングです。
設置2013年6月13日
ブログランキング
下記のランキングにも参加しております。ご声援ありがとうございます。
  にほんブログ村 映画ブログへblogram投票ボタン
アクセスランキング
[ジャンルランキング]
映画
176位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
レビュー
77位
アクセスランキングを見る>>
タグランキング
晴雨堂の関心度が反映されています。当ブログ開設当初は「黒澤明」が一位だったのに、今は・・。
訪問者閲覧記事
最近のアクセス者が閲覧した記事を表示しています。
月別アーカイブ
ブロとも申請フォーム
リンク